コラム
土づくりで勝負あり?農業における土壌環境の重要性
公開日2023.12.20
更新日2023.12.20

土づくりで勝負あり?農業における土壌環境の重要性

植物は土からその生長に必要な水分と養分を吸収していますが、光や栄養が同じでも土の性質によって圃場の生産力は大きく異なります。このような土の力を地力と呼ぶことがあります。日本には、灰色低地土・黒ボク土・褐色森林土・褐色低地土などの土壌が存在しています。栽培する植物の根っこが本来備わっている能力を発揮するためには、土との相性を検討したり土の環境(地力)を整えたりすることが大切です。今回のコラムでは農業における土づくりの重要性と、基本的な考え方についてお伝えしていきたいと思います。

土の生成過程と種類

土の原料は岩石が風化して細かくなった物質に微生物が作用したり、動植物の遺骸が腐植物質となって加わったりするなどの過程を通して作られます。土の生成には浸食による風化作用と動植物の働きが関与しているわけです。その土地が積み重ねてきた歴史によって、土の性質が異なり、同じ地域でも少し移動すると全く異なる土壌環境にあるということは珍しくありません。日本に圃場では、灰色低地土・黒ボク土・グライ土・褐色森林土・褐色低地土・黄色土などが分布しています。それぞれに特徴があり、栽培に適した作物が異なります。例えば黒ボク土では土壌が深く柔らかいことが多いため、土の中で伸びていくダイコンやイモなどの根菜類が育てやすいです。灰色低地土やグライ土は地下水位が高いことから水稲やレンコンなど水気を好む作物が栽培されている傾向があります。

農業における土づくりの重要性

栽培する作物に適した養水分を維持することができるように、土壌の環境を整えることが農業における土づくりの基本です。土地の力=地力を高めると表現する方もいます。植物は太陽の光と土の中の栄養や水分を利用して生長します。そして植物は自ら移動することができず、根を張ってその場所で生長するしかありません。土壌環境がそもそも栽培する作物に適していなかったり、土のメンテナンスが不足した地力が低下していたりすれば、栽培期間中における灌水や施肥などを適切に行っても品質や収量を向上させることが難しくなります。栽培期間中は日照や気温、そして肥料などに目が向きがちですが、そもそも土の管理が適切に行われていなければ、光・水・栄養が作物に与える力は大きく低下します。

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3つの観点から土づくりを考えてみる

物理的な観点から見た土づくり

植物は生長に必要な養水分を吸収するために、土の中で根を伸長させていく必要があります。根は表面にある毛のような部分「根毛」から土中にある養水分を吸収します。多くの養水分を吸収するには根が長く広く土の中に分布していたほうが効率は良くなります。根を伸ばす際に酸素が必要になりますが、詰まった土では酸欠になり養水分を吸収する力が弱くなりますし、土がカチカチの状態では物理的に根の伸長を妨げることになります。肥料成分においては三大栄養素である窒素カリの吸収が悪くなるとされています。また固まった酸素が少ない土壌では嫌気性菌が増殖しすぎて、根腐れを引き起こす要因になるとされています。このような状態を改善するためには、耕耘作業で固まった土を掘り起こすなど、土の中に隙間を作る作業が必要となります。難しいのは単純に隙間があれば良いというわけではなく、細かい隙間と大きな隙間が適度に分布している状態が理想的です。

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生物的な観点から見た土づくり

耕耘などの作業で土を耕すだけでは、土がフカフカの状態に保たれることにはなりません。単純に隙間があれば良いというわけではなく、養水分を適度に保つ保水性&保肥性がありながら排水性も兼ね備えている状態が必要です。土中の隙間のことを「孔隙(こうげき)」と呼びますが、土の中を拡大してみると、大きな隙間「粗孔隙」と小さな隙間「毛管孔隙」があります。粗孔隙では重力に従って水は上から下に落ちていきます。一方、毛管孔隙ではその名称の通り毛細管現象により水を保持することができます。つまり粗孔隙と毛管孔隙がバランスよく生成されている土壌では、水や栄養を保つと同時に排水性にも優れているといった相反する性能を維持しているのです。

このような土の構造を団粒構造といいますが、この団粒構造を作り出すためには、耕耘だけでは不十分で腐植物質や微生物の働きが関わっています。団粒構造が発達すると容積あたりの質量は小さくなり、根の伸長しやすい状態になります。団粒構造の表面は好気性の微生物が住み着き、内部では嫌気性の微生物が住み着くとされ、土壌における微生物の良いバランスが維持されやすいと考えられています。土壌には細菌・糸状菌・放射菌など多種多様の微生物が存在し、その数は1gあたり100万とも1000万ともいわれています。それぞれの土壌微生物は一定の均衡を保つことで、特定の種の異常増殖が起こらないようになっています。ところが農薬や化学肥料の使い過ぎなどが原因で土の中の土壌微生物バランスが崩れると、特定の種が増えすぎて作物の根に悪い影響を与えると考えられています。

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化学的な観点から見た土づくり

窒素リン酸カリなどの三大栄養素や、その他、作物の生長に必要な中量要素、微量要素などの成分は土壌の化学的な状態によって、栄養素が根から吸収しにくい状態に変化したり、反対に成分が溶け出しすぎてダメージを与えたりすることがあります。土に栄養素が保持されやすい状態かどうかも化学的な影響を受けます。良く知られているのは、酸性やアルカリ性の物差しとなるpHや、陽イオンの栄養素を吸着する能力を示すCEC、栄養分濃度と強い相関性を示す土壌ECなどがあります。化学的な環境が悪いと、必要な肥料が効きにくくなったり、反対に不必要な栄養を吸収しすぎて過剰症を引き起こしたりするといった事象が発生します。

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3つ観点から考える土づくりの方法

農業における土づくりでは、土壌の物理性・生物性・化学性という3つの観点から考える必要があります。相互に相関性があるため、はっきりと分けることは難しいのですが少しわかりやすくするため分類をしてみました。水はけの悪い土壌では、生物性や化学性の改良を実施しようとしても効果が低くなる傾向があります。最初は物理的な土壌環境の一つである排水環境を改善することが重要だとされています。

物理的な視点からの土づくり対策

暗渠排水設備

灰色低地土やグライ土など地下水位が高い圃場では、排水性能が低い傾向があります。排水性向上の有効な手段としては、穴の開いたドレーン管を地中に埋設したり排水桝を設けたりするなどの暗渠工事が必要な場合があります。雨が降った後には余分な水分が素早く排水されるようになり、作物の生育環境が向上します。ドレーン管を埋設する溝を掘るには、農業機械が必要となります。

耕耘作業

カチカチに固まった土を砕いてかき混ぜ、孔隙率を高めます。一般的なロータリーの耕耘の深さは15~20cm程度です。地力増進法によれば、望ましい作土の深さは25cmとされているため、この水準を目指した土づくりを実施する場合には、深耕プラウ・深耕ロータリー・サブソイラ・プラソイラなどの機械を使って深く耕す必要があります。深耕すると肥料の成分が薄まるので、必要な施肥量が増えることになるため、栽培する作物に応じた対応が必要となります。

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土壌改良資材

土の中の孔隙率を向上させたり、通気性や水分保持力を増大させたりする土壌改良資材としてパーライトバーミキュライトがあります。多孔質のため空気や水を保持する能力に優れています。配合量が多すぎると土が軽くなり、苗が倒れやすくなるので混和量には留意する必要があります。

関連コラム:土壌改良資材の基礎知識|より良い土づくりを目指して

緑肥

新鮮な植物そのものを肥料としてすき込む方法です。作土に有機物が供給され、微生物の活動が活発になります。動物質堆肥よりも分解されやすいという特徴があります。種子の状態で移動させることができるため、動物質堆肥に比べて運搬しやすいというメリットがあります。

関連コラム:緑肥とは?緑肥の種類と使い方を詳しく解説

生物的な視点からの土づくり対策

自然の土壌には多種多様の生物が生息しています。圃場においては、一つの作物を連続して作ったり、化学肥料や農薬などを使いすぎたりするため、本来のバランスが崩れて障害が起こりやすくなります。生物の均衡が崩れたことにより、特定のセンチュウが増殖して収量低下や品質不良を引き起こす被害はその典型的な例です。化学肥料は植物が根から吸収しやすい状態になっているため即効性というメリットがある一方、土壌微生物の餌にはならないため土の中に存在する微生物が少なくなります。

関連コラム:センチュウ(線虫)とは?作物への被害の特徴と予防・駆除方法

堆肥や有機質肥料

家畜糞堆肥や有機質肥料には窒素リン酸カリといった三大栄養素に加えて有機物が含まれています。化学肥料の栄養素はそのまま植物に吸収されますが、堆肥や有機質肥料は有機物を土壌微生物が分解して植物が吸収できる状態になります。餌がたくさんあるため微生物の働きが活発になること、分解に時間がかかる影響で肥効が持続しやすいこと、分解の際に微生物が分泌する粘性物質の影響で土壌が団粒構造になりやすいこと、などのメリットがあります。

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腐植物質資材

動植物の遺骸が分解され、化学的な反応を経て生成されると考えられている物質です。難分解性の有機物です。つまり堆肥に比べて肥効がさらに持続しやすいという特徴があります。分解されやすい有機物がなくなると土壌微生物の餌になるという傾向があるようで、腐植物質の豊富な土壌では土壌微生物の活動が停滞しにくくなります。これは地力のある環境の条件の一つです。腐植物質は長い年月をかけて生成されるため、毎年、栽培を繰り返す一般的な圃場では腐植物質が失われやすい条件が整っています。腐植物質が含まれている資材を土づくりの際に用いると、地力が持続しやすい土壌となります。

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化学肥料の使いすぎに気を付ける

化学肥料のメリットは、肥料成分が既に植物が吸収しやすい状態となっており、肥効に即効性があるという点です。一方、土壌微生物の餌になる有機物が含まれていないため、微生物の活動が停滞します。この状態が続くと土壌微生物から排出される粘性物質が少なくなり、団粒構造が形成されにくく、保水性能や排水性能が低下する要因となります。土壌の中は様々な生物が「食う・食われる」の関係でバランスを保っていますが、一部の微生物の活動の停滞はこのバランスを崩し、特定の生物が増えすぎることがあります。例えばセンチュウによる作物の障害は、特定のセンチュウが増えたことが原因で起こっているとされています。

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殺菌剤の使い方に気を付ける

作物に悪さをする土壌中の微生物の密度を低下させるために、クロルピクリンやダゾメットといった土壌くん蒸消毒を使用することがあります。この際、作物に悪い作用をする土壌微生物と、良い作用を及ぼす土壌微生物の両方を殺菌します。例えば、殺菌剤の影響で硝酸化生菌が死滅してしまうと、土壌中にある窒素が硝酸態に変化せず、土の中に蓄積してしまうことがあります。そのため、殺菌剤を使った後は、再び土の中の微生物の活動がバランス良く活動できるように土壌環境を整えることが重要です。

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化学的な視点からの土づくり対策

pHを改善する資材

植物は土の中にある栄養を根から吸収しますが、土壌が酸性またはアルカリ性に偏りすぎると上手く吸収できなくなることがあります。雨はもともと弱酸性のため日本の土壌は酸性に傾きやすい状態で、ユーラシア大陸から飛んでくる黄砂がアルカリ性で日本の土壌は中和されますが、それでも酸性よりの土壌が多くなっています。酸性よりの土壌ではカルシウムやマグネシウムが溶脱しやすくなったり、酸性の影響で溶け出したアルミニウムがリン酸と強く結合し根から吸収しにくい状態となったりします。アルカリ分が含まれている石灰資材を土に混和させてやると酸性土壌が改善します。草木灰籾殻燻炭なども水に溶けるとアルカリ性を示すため、酸性に偏った土壌を改善する効果が期待できます。

関連コラム:籾殻燻炭の基礎知識と作り方に関して解説

CECを改善する資材

CEC(Cation Exchange Capacity)とは陽イオンの栄養を保持する能力を示す値です。CECの高い土壌では、カルシウム・マグネシウム・カリウムなどの陽イオンの栄養素が流失されにくくなります。一般に、バーミキュライトやモンモリロナイトといった鉱物を原料とした資材や、フルボ酸やフミン酸などの腐植物質資材はCECが高く、これらを含んだ資材を土に施用することで、カルシウム・マグネシウム・カリウムといった陽イオンの栄養素を保持する能力を向上させることができます。

関連コラム:フルボ酸とは?腐植成分がもたらす植物と土壌への効果

土壌ECを改善する

肥料成分がたまりすぎると、土壌表面の塩類濃度が高くなることがあります。地下水に溶けているリン酸塩や硝酸塩などの栄養塩類が蒸発により上ってくるためです。露地栽培では雨の影響で流されていくことが多いのですが、施設栽培では雨水が侵入しにくいため塩類集積が起こりやすくなります。塩類濃度の目安となるのがEC(Electric Conductivity=電気伝導度)です。ECが高すぎると濃度障害が発生したり、浸透圧の影響で水分を吸収できなくなったりするといった障害が発生します。クリーニングクロップとして知られるソルゴーやギニアグラスなどの緑肥を活用して、余分な塩類を除去する方法があります。休閑期に塩類濃度が高くなってしまった圃場で、緑肥に余分な塩類を吸収させて圃場外へ持ち出すことが可能です。

関連コラム:緑肥とは?緑肥の種類と使い方を詳しく解説

農業の土づくりにおすすめの資材

高純度フルボ酸含有100%有機質土壌改良材|地力の素

地力の素フルボ酸やフミン酸といった腐植物質が含まれた土壌を改善する資材です。腐植物質土壌微生物の餌となり団粒構造化を促進したり、CECが高いため陽イオンを保持する能力を高めたりする効果が期待できます。特におすすめしているのがペレットタイプで、牛ふん堆肥が含まれているため堆肥を投入せずとも2~3袋で堆肥1tと同等の効果が見込めます。動物質堆肥は移動や施肥に労力がかかりますが、ペレットタイプはブロードキャスターなどの農薬散布機での散布も可能ですから、農作業を省力化させることもできます。

地力の素の解説動画はこちら

インドネシア産バットグアノ|リンサングアノ

コウモリの排泄物や遺骸が数百年の時間をかけて完全発酵した特殊肥料で、リン酸と腐植酸を豊富に含んでいます。リンサングアノに含まれているリン酸は、根から分泌される根酸で溶けやすいク溶性リン酸のため、植物が吸収しやすいという特長があります。リン酸の肥効を聞かせながら腐植酸による団粒構造化の促進や陽イオンの栄養素の保持力向上といった効果が期待できます。さらに石灰成分も4割ほど含んでいるため酸性土壌に傾いた土壌を補正する効果も見込める優れものです。

まずはできることから土づくりを実践してみましょう

農業における土づくりは大変に奥深いため、今回お伝えした内容はほんの一部です。また物理的、生物的、化学的といった立ち位置を変えるだけでも、土づくりの考え方が変わりますが相互に関係性をもって作用しているという点もあり、とても複雑です。全部を一時に改善するのは難しいと思いますので、圃場において気になっている点や比較的手軽に導入できそうな対策から実施してみるのが良いのかもしれません。有料ですがJAなどで土壌診断を依頼することもできます。今回のコラムをお役立ていただけましたら幸いです。

参考資料:
土壌中における腐植物質の蓄積機構
(農業環境技術研究所)

土づくりで勝負あり?農業における土壌環境の重要性

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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