- ビニールハウスが高温化するメカニズム
- 高温がもたらす作物への影響とリスク
- 作業者の熱中症対策:健康リスクを避けるポイント
- 基本の高温対策:換気・遮光
- 気化冷却の活用:ミストシステム・パッド&ファン
- 機能性被覆材・断熱素材でハウスの熱を抑える
- 冷房設備・ヒートポンプ導入のポイント
- 井戸水やチラーを活用した局所冷却
- 小規模ビニールハウスのための低コスト対策
- 環境制御システムの導入:自動化で最適温度をキープ
- 複数の対策を組み合わせるメリット:費用対効果を高める
- 収穫後の鮮度維持にも冷却は欠かせない:プレハブ冷蔵庫の活用
- 対策実施時に押さえておきたい補助金・助成金制度
- ビニールハウスの温度を下げる空動扇/空動扇SOLAR
- 最適な冷却方法の選択でビニールハウス栽培を成功させよう
ビニールハウスが高温化するメカニズム
ビニールハウス内では、太陽光や地面からの放射熱がこもりやすく、高温化が避けられません。
ビニールハウスはビニールが透明なため外部の熱や日射を内部に取り込みやすく、閉鎖的な環境のため一度こもった熱が逃げにくい構造になっています。外からの日射量が多いほどハウス内の温度は上昇し、真夏の日中には外気温よりもさらに高温になることが少なくありません。こうした高温環境は作物の生育に大きな負担を与えるため、適切な対策を講じないと収量や品質を悪化させる恐れがあります。
また、高温状態が続くと土壌や資材に蓄えられた熱が夜間でもハウス内に残り、作物が充分に休む時間を確保できなくなることも問題です。作業者にとっても、長時間の作業が続けば熱中症のリスクが高まる要因となります。このように、ハウス内の高温化はあらゆる面で影響を及ぼすため、早期に対策を検討する必要があります。
高温がもたらす作物への影響とリスク
高温下では作物が生理障害を起こしやすくなり、収量や品質の低下を引き起こします。
ハウス内の温度が過度に上がると、作物は光合成や蒸散などの生理機能が円滑に行えなくなります。結果として花落ちや着果不良といった問題が発生し、新芽の展開や果実の肥大がスムーズに進まなくなります。さらに、高温ストレスによって養分の吸収効率が下がることもあり、収量全体が悪化するリスクが高まります。
また、多くの作物は生育適温を超えると品質面にも悪影響が出ます。果実が変色したり、硬度や糖度が十分に上がらないなど、商品価値の低下につながるケースも少なくありません。こうした状況は経営面にも大きく影響するため、ハウス内温度の管理は極めて重要な要素となります。
トマト・キュウリ・イチゴなど主要作物への具体的影響
トマトでは高温環境が続くと受粉がうまくいかず、花が落ちて着果しないことがあります(着果不良)。さらに、生理障害によって裂果や先端の小形化といった症状が出やすくなります。キュウリは果実が曲がりやすくなり、商品価値に影響が出るケースが多く報告されています。
イチゴは花芽形成に高温が悪影響を及ぼすため、果実の大きさや甘みの低下が目立つことがあります。これらの主要作物は特に高温障害が出やすいため、適切な換気や遮光、あるいは気化冷却などの対策を行い、作物に合った環境を保つことが大切です。
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作業者の熱中症対策:健康リスクを避けるポイント
ビニールハウス内では気温・湿度が上昇しやすく、作業者が熱中症にかかるリスクが高まります。
夏季のハウス内では気温だけでなく、湿度も高くなる傾向があります。湿度が高いと汗が蒸発しにくいため、体温調節がうまくいかず熱中症を発症するリスクが上がります。作業者にとっては水分・塩分の補給やこまめな休憩を徹底することが重要です。
また、ハウス内の気温管理を行うことで、作業者の負担を軽減できます。適切な換気やミストシステムの利用などで室温を下げ、健康リスクを回避しましょう。衣類の選び方や作業時間の工夫など、複合的な対策を講じることで、快適かつ安全な作業環境を確保することが可能になります。
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基本の高温対策:換気・遮光
まずは基本の換気や遮光対策で、ビニールハウス内の気温上昇を抑えることが重要です。
高温対策を考えるうえで、最も手軽かつ効果的とされるのが換気と遮光です。換気を適切に行うことで、ハウス内の熱が外に逃げやすくなり、蒸気や湿気も排出されます。遮光を行うことで、強い日射の負荷が少なくなり、作物が高温障害を受けにくくなるメリットがあります。
また、換気や遮光の方法は、ハウスの構造や栽培する作物の種類によっても変化します。換気扇を取り入れる、遮光ネットの選択を工夫するなど、ハウスの規模や予算に合わせて最適な方法を組み合わせましょう。
大きな窓や扉の確保とこまめな開閉
効率的な換気を実現するためには、ハウスに設置できる限り大きな窓や扉を確保し、自然換気を最大限に利用することが大切です。風の通り道を確保することで、ハウス内部に滞留する熱が抜けやすくなります。こまめに換気できるよう、朝夕の温度変化や天候を見ながら扉を開閉するのがポイントです。
最近では入り口だけでなく、サイドや天井部分を開閉できるタイプのビニールハウスも存在します。こうした可動部を活用すれば温度コントロールの自由度が高まり、暑い日中でもある程度の作業が可能になります。
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遮光ネット・遮光塗料・遮光剤の正しい使い分け
遮光対策は作物の光合成を妨げない程度に行う必要があり、遮光率が高すぎると作物の生育が遅れてしまうことがあります。遮光ネットは取り外しが容易で、必要に応じて調整ができる点が魅力です。遮光塗料や遮光剤は一度塗布すると長期間効果が持続するため、長期的な高温期において活躍します。
ただし、塗料の場合は塗布したあとに剥がす手間やコストがかかるため、季節や栽培期間に合わせて選択しましょう。遮光手段を適切に組み合わせることで、過剰な高温を防ぎつつ、作物に十分な太陽光を与えることが可能になります。
気化冷却の活用:ミストシステム・パッド&ファン
水の蒸発を利用してハウス内を効率的に冷やす方法は、高温期に有効です。
気化冷却とは、水が蒸発するときに奪う熱を利用して、空気の温度を下げる仕組みです。ミストシステムは微細な霧を散布することで空気中に水分を行き渡らせ、蒸発による一時的な冷却効果を得ることができます。適度な湿度管理も行えるため、乾燥を嫌う作物にとってメリットが大きい方法です。
パッド&ファンは、湿ったパッドを通過する外気をファンで吸い込み、気化冷却によってハウス内に涼しい空気を送り込むシステムです。換気や空気循環と組み合わせることで、一層効果的にハウス内の温度を抑えられます。ただし、水資源や設備コストが必要になるため、導入前に十分な検討が必要となります。
機能性被覆材・断熱素材でハウスの熱を抑える
被覆材や断熱材の性能が向上し、外部の熱を遮断しながら適度な採光を確保できます。
近年のビニール素材は、紫外線や赤外線をカットしながらも可視光線を効率的に取り入れられる高機能タイプが登場しています。これにより、ハウス内への日射をある程度抑えつつ、作物に必要な光を確保できるため、成長と温度管理の両立が図りやすくなりました。
さらに、断熱素材を利用することで外気との熱交換を抑え、高温期の温度上昇を抑制する効果も期待できます。ハウス骨組みとの組み合わせや貼り方によって遮熱効果は変わるため、専門家に相談しながら最適な組み合わせを見つけることがポイントです。
冷房設備・ヒートポンプ導入のポイント
本格的な冷却設備導入を検討するときに、導入コストやランニングコストを見極めることが重要です。
換気や遮光などの基本的な対策に加え、冷房設備の導入を検討するケースも増えています。家庭用エアコンを転用したり、業務用の大容量エアコンを設置することで、急激な気温上昇を抑え、作物の生育に適した温度帯を維持することが可能になります。ただし、機器の設置に加えて電気代がかさむことも考慮しなければなりません。
ヒートポンプは熱を移動させる仕組みを利用した省エネ性の高い設備で、冷房だけでなく暖房としても活用できます。長期的なランニングコストを抑えたい場合や、大規模なハウスで一年を通じて環境制御を行いたい場合に魅力的な選択肢になります。
規模別に見るエアコン・地中熱ヒートポンプのメリット
小規模なビニールハウスであれば比較的安価なエアコンを導入し、手軽に温度管理を行うのが一般的です。設置が容易なうえ、耐久年数が長くなった製品も多いので、初期投資を抑えたい方に適しています。冷暖房を同時に賄える機種もあるため、通年利用を考える場合にも利点があります。
一方で、大規模ハウスでは地中熱などの再生エネルギーを利用したヒートポンプ方式も注目されています。熱源を地中から得ることでエネルギー消費を抑え、持続的な冷却・加温が可能になるのが強みです。ただし、導入コストが高めであるため、補助金制度の活用を含めて検討することが重要です。
井戸水やチラーを活用した局所冷却
低温の水資源を利用することで、特定エリアを冷却して効率的に温度を管理できます。
地下水や井戸水の温度は地上より低いことが多く(日本の多くの地域で約17℃前後)、これを利用してハウス内の一部を冷やす方法が存在します。ポタリと呼ばれる点滴方式など、パイプを這わせて所定の場所に冷水を流すことで、特定エリアだけ温度を下げられるため導入コストも比較的抑えられます。
チラーと組み合わせればハウス内の空気を部分的に冷却することも可能です。全体的な空調システムに比べて初期投資を抑えられる反面、作物全体をカバーしきれない場合もあるので、作付け面積や栽培計画に合わせて導入を検討するとよいでしょう。
小規模ビニールハウスのための低コスト対策
大掛かりな設備投資が難しい場合でも、工夫次第で高温対策は実施可能です。
小規模なビニールハウスでも、高温を放置してしまうと作物のダメージは大きくなります。しかし、大規模システムの導入が難しいというケースも多いでしょう。そのようなときは、低コストで実行できる換気・遮光対策や、資材の工夫を活用することで、ある程度の温度上昇を抑えることが可能です。
特徴的な方法として、反射材を使った床面の温度対策や、自然換気を最大化するハウス構造の工夫なども挙げられます。必要最低限の投資で最大限の効果を狙うには、現場の状況を見極めながら複数の対策を組み合わせることが重要になります。
白いセルトレイや簡易ファンの活用術
白いセルトレイは光を反射しやすく、地表やトレイ自体の温度上昇を抑えることが期待できます。特に発芽や苗の育成段階では、温度上昇が抑えられることで成長が安定しやすくなり、初期生育でのロスを減らす効果があります。
また、簡易ファンを使ってハウス内の風通しを良くする方法も有効です。電源不要の空動扇/空動扇SOLARなど低コストの商品を利用すれば、長時間運転することなく自然換気の補助ができます。こうした小さな工夫の積み重ねが大きな温度低減につながります。
環境制御システムの導入:自動化で最適温度をキープ
換気や冷却装置の作動を自動管理することで、常に安定したハウス内環境を維持できます。
最近はコンピュータ制御でハウス内の温度や湿度、二酸化炭素濃度などを自動管理するシステムが普及しつつあります。センサーで計測した情報をもとに換気扇やミスト、遮光装置などをオン・オフ制御するため、常に適切なタイミングで環境調整ができます。
特に、温度変化が激しい季節や作物によって適温帯がシビアに決まっている場合には大きな効果を発揮します。初期導入コストがかかりますが、労力削減と高品質な作物生産の両立を目指す場合、長期的に見れば費用対効果が高いと言えるでしょう。
複数の対策を組み合わせるメリット:費用対効果を高める
様々な方法を組み合わせることで、投資コストを競争力のある水準に抑えつつ高い効果を得られます。
ビニールハウスの冷却対策は、単一の方法だけでは不十分な場合が多いのが実情です。換気、遮光、気化冷却、被覆材の選定、冷房設備などを適切に組み合わせ、ハウスの特性や栽培作物に合わせた全体的な設計を行うことが重要です。
組み合わせによっては相乗効果が生まれ、単独使用時よりも温度を大幅に下げることが可能になります。また、設備ごとの稼働率や寿命を延ばすことにもつながるため、長期的に見て費用対効果が高まるメリットがあります。
収穫後の鮮度維持にも冷却は欠かせない:プレハブ冷蔵庫の活用
ハウス内の温度管理だけでなく、収穫後の温度管理を徹底することで、出荷時の品質を保ちます。
高温期に収穫した作物は、熱の影響で鮮度低下が早まる場合があります。せっかくハウス内で適温を維持しても、収穫後の一時保管で温度管理を怠ると、出荷時に品質が下がってしまう原因となります。そこで役立つのがプレハブ冷蔵庫や簡易冷蔵装置です。
プレハブ冷蔵庫を設置しておけば、収穫直後に冷却して作物温度を素早く下げられるため、鮮度が長持ちします。市場や消費者に高品質な作物を届けるためにも、収穫後の冷却体制を整えることは、ビニールハウス栽培において欠かせないポイントです。
対策実施時に押さえておきたい補助金・助成金制度
設備投資コストを軽減するためにも、助成金制度の情報を把握し活用することが大切です。
高機能な被覆材や冷房設備、自動制御システムなどは、導入コストが高額になる傾向があります。しかし、国や自治体によっては農業者向けの補助金・助成制度が運用されており、導入費用の一部を支援してもらえるケースがあります。各種制度を活用することで、初期投資の負担を大きく軽減できるでしょう。
申請に当たっては詳細な書類や見積もりが必要となる場合があるため、事前に十分な準備を整えることが重要です。補助金には公募期間や予算枠が定められている場合もあるので、情報収集をこまめに行い、タイミングを逃さないようにしましょう。
まずは購入を考えている設備のチラシを持参し最寄りの市区町村の営農部門に相談してみてはいかがでしょうか。
ビニールハウスの温度を下げる空動扇/空動扇SOLAR
簡易的な方法でビニールハウスの温度を下げることができる資材が空動扇/空動扇SOLARです。冷房設備やヒートポンプのように設定温度まで大幅に温度を下げることはできませんが、空動扇は10坪あたりに1台、空動扇SOLARは15坪あたりに1台を設置することで、ビニールハウス内の熱気を外部へ排出し、ハウス内の温度を下げる効果(外気温に近づける効果)が期待できます。実際の導入者様の声では、設置していないハウスと比較して3℃~8℃程度下がったという声をいただいています。ビニールハウスへ後付けが可能ですので、急いで暑さ対策をしたい方にもおすすめです。導入費用が低コストで電気代もいっさいかからない点もメリットです。全国各地の生産者様に導入が増えている空動扇をぜひご検討ください。
最適な冷却方法の選択でビニールハウス栽培を成功させよう
複数の対策や設備をうまく使い分けながら、高温期のリスクを最小限に抑えて収量アップを目指しましょう。
ビニールハウス栽培での高温対策は、換気や遮光などの基本的な方法から、気化冷却、ヒートポンプ、被覆材の活用など多岐にわたります。ハウスの規模や栽培する作物の特性、予算や労力などを総合的に考慮することで、最適な冷却方法を選択できます。
特に夏場の過度な高温は作物の品質と収量だけでなく、作業者の健康にも直接影響を与えるため、対策が後手に回ると大きなリスクを伴います。今回紹介したさまざまな対策を上手に組み合わせることで、高温期を乗り越え、安定した生産と持続的な農業経営を実現しましょう。
参考資料:
・3 トマト – 1 現在の気候変動影響と適応策 – 栃木県
・果菜類(キュウリ) 〇高温による被害と産地毎の取組事例
・小規模施設園芸における簡易設置型パッドアンドファンシステムの利用法
・ハウス暖冷房に地中熱ヒートポンプの導入をお考えの皆様へ
コラム著者
満岡 雄
玉川大学農学部を卒業。セイコーエコロジアの技術営業として活動中。全国の生産者の皆様から日々勉強させていただき農作業に役立つ資材&情報&コラムを発信しています。好きなことは植物栽培。Xで業界情報をpostしておりますのでぜひご覧ください。