コラム
圃場の地力、落ちてませんか?土づくりに必要な完熟堆肥とは
公開日2022.10.21
更新日2022.10.21

圃場の地力、落ちてませんか?土づくりに必要な完熟堆肥とは

圃場への堆肥の施用は、土壌の地力を維持するために必要な材料の一つです。しかし十分に堆肥化していない未熟堆肥を圃場の土づくりに使うと、栽培している農作物に悪い影響を与えてしまうことになりかねません。今回のコラムでは、土壌の地力を維持させるために必要な完熟堆肥について詳しく解説していきたいと思います。

そもそも堆肥とは?

有機物が好気性微生物の活動により分解され、成分が安定するまで熟成したものをいいます。原料となる有機物には、稲・藁・籾殻といった植物質のもの、牛・馬・豚・鳥などの糞(家畜糞)といった動物質のもの、食品残渣のものなどがあります。一般に農家さんの土作りにおいては、家畜糞堆肥が広く利用されています。

完熟堆肥とは?

完熟堆肥とは、有機物の分解・発酵が十分に行われた堆肥のことです。堆肥を熟成させる役割を担うのは空気(酸素)の存在する条件で活動する好気性微生物です。堆肥作りにおいては、切り返しにより空気を送り込むことで微生物の活動が活発になり、有機質を分解します。分解されやすい有機物(易分解性有機物)の分解が概ね終わり、分解されにくい有機物無機物残った水分の混合物となった時点が完熟堆肥と呼べる状態です。微生物の活動により発せられる熱で、病原菌や雑草の種子を死滅させることができます。また有害物質や悪臭の原因となる物質を分解させます。完熟堆肥という言葉のイメージで、有機物が完全に分解されたものと思いがちですが、それは無機物の化学肥料と同じですから、そのような状態の堆肥があったとして、土に施用しても地力の維持にはつながりません。

完熟堆肥のメリット

土壌の地力が低下しにくい

完熟堆肥を施用した土壌では微生物が完熟堆肥(有機物)を分解し活動します。堆肥は地力窒素として長期間土壌中に蓄積する特徴がありますが、土壌微生物によって時間をかけて分解され窒素の肥効も少しずつ現れてきます。一方で、堆肥をあまりに多く施用しすぎてしますと地力窒素が高まり過ぎて長年に渡って窒素過多の傾向が現れてしまいます。未熟堆肥と完熟堆肥を比較すると完熟堆肥の方が土壌微生物による分解が早くするメリットがあります。バランスを見ながら施用することで物理性、化学性、生物性を改善することができるので、化学肥料では得られない様々なメリットがあります。

改善すること 期待できる効果
物理性の改善  微生物の働きで団粒構造化が促進され、土壌の通気性や排水性が向上する
化学性の改善  CEC(陽イオン交換量)値が高くなり、土の中にある養分が流出するのを防ぐ
生物性の改善 作物に有益な菌や微生物が増殖することで、作物に有害な菌が少くなり病害の発生を減少させる

豊富な腐植物質

腐植物質がなぜ地力維持や向上につながるかというと、腐植物質に含まれる腐植酸(フミン酸)には発芽や根の伸長に好影響をもたらす効果があり、フルボ酸には発根促進や生育促進の効果があるからです。化学肥料だけの施肥に頼ると有機物が不足することによって地力を維持する効果がある腐植物質が減ってしまうことになります。

関連コラム:地力とは?|地力を上げる方法を解説

品質が安定している

堆肥を完熟にする大切な目的の一つは、易分解性有機物をあらかじめ分解し少なくしておくことです。易分解性有機物が多く残っていると、それらをエサとする微生物の活動が促進され、土壌の酸素不足・有害なガスの発生・土の温度上昇による水分蒸発などが起こります。これらは微生物の急激な活動量の上昇に起因しており、易分解性有機物を少なくしておけば、残りの有機物を分解する微生物の活動は落ち着いて、堆肥の品質も安定します。

未熟堆肥を使用するデメリット

堆肥化の途中で乾燥が進むと、一部が分解されずに堆肥中に残ります。これらが多量に残存していると、土壌の異常還元・ガス障害・害虫発生などの原因となります。

生育障害が発生する

未熟堆肥には易分解性有機物が多く含まれているため、土壌の微生物がこの有機物を分解する働きをします。その際に微生物が土壌中の酸素や窒素を多量に利用するため、作物が酸欠状態に陥ったり窒素飢餓を引き起こしたりして、生育障害の原因となると考えられています。

アンモニアガス障害が発生する

未熟堆肥に多量に含まれるタンパク質・尿素・尿酸などを微生物が分解すると、その産物としてアンモニアができて、アンモニア濃度の増加によりpHが高くなります。pHが8.5を超えるとアンモニアガスとなり、ガスは作物の気孔から体内に侵入し細胞の酸素を奪ってしまいます。作物の葉が白化したり黒ずんで萎凋したりして、場合によっては株が枯死にいたることがあります。

亜硝酸ガス障害が発生する

原料に含まれる易分解性有機物の大半が分解されると、分解作用はゆるやかになるため、温度上昇がなくなり、土は高温から中温へ移行します。活動が抑制されていた中温性の菌である硝化菌が活発化し始め、この菌の働きによりアンモニアが硝酸に酸化しますが、土が酸性に傾いている場合、硝酸菌の作用がスムーズに行われず亜硝酸が土壌中にたまります。土のpHが5.0以下になるなど酸性化したり、周辺環境の影響で土の温度が上昇したりすると亜硝酸がガス化して作物の気孔から内部に入り葉が白化したり黒ずんだりして障害を与えます。

害虫の幼虫が根を食害する

未熟堆肥が発する臭いにコガネムシなどの害虫が引き寄せられ、害虫の幼虫が土の中で産卵し、作物の根が食害を受けるなどの被害が発生します。

適当な完熟堆肥とは?

完熟堆肥は、アンモニア臭などの刺激臭がほとんどありません。さらに詳しい見分け方としてはアルミホイルに一つかみの堆肥に水を加えたものを広げて火であたためて臭いを確認すると良いとされています。含まれている成分としては、全国農業協同組合中央会が家畜糞堆肥推奨基準を示していますので以下に記載します。

基準項目 基準値
有機物 乾物あたり60%以上
C/N比 30以下
全窒素 乾物あたり1%以上
リン酸 乾物あたり1%以上
カリ 乾物あたり1%以上
水分 現物70%以下
EC 現物5mS/cm以下
ヒ素 50mg/kg以下
カドミウム 5mg/kg以下
水銀 2mg/kg以下
亜鉛 1,800mg/kg以下
600mg/kg以下

完熟堆肥という言葉には、厳密な定義はありません。また堆肥は特殊肥料のため、いろいろな原料が用いられています。土壌環境や使用目的により適切な堆肥の条件は異なりますので、堆肥の商品を購入する際には原料や成分、そして見た目の状態をよく確認して判断することが大切です。肥料取締法で原料や主な肥料成分の表示が義務付けられています。

家畜糞堆肥の代替におすすめの資材|地力の素

家畜糞堆肥は化学肥料に比べると肥料の濃度が低いため、土に大量に投入しなければならず、大きな労力が必要なことから敬遠されがちです。そこでご紹介したいのが、牛糞堆肥と腐植物質を含有している土壌改良資材地力の素|ペレットタイプです。2~3袋(1袋15kg)で堆肥1トン分と同等の効果が期待でき、家畜糞堆肥の施肥作業を大幅に効率化します。粒度が均一ですから、ブロードキャスターといった汎用的な肥料散布機で作業を進めることができます。

地力の素 ペレットタイプにはフミン酸などの腐植酸が含まれています。腐植酸には発根を促進し根量を増加させ、根の活着力や活性能力を高めます。加えてキレート作用により土の中で難溶性化合物に変化したリン酸微量要素を作物が吸収させやすい形に変化させます。これらの作用により作物の土壌にある養分を補給する力が高まり、自己免疫力や光合成能力が向上すると考えられています。

地力の素の解説動画はこちら

関連コラム:堆肥による土づくりが省力化できる?ペレット堆肥のすすめ

リン酸と石灰も補給できる完熟堆肥|リンサングアノ

リンサングアノは数百年前のコウモリの死骸や糞が堆積し化石化したものを原料にした特殊肥料です。フミン酸含量も高く、また粒形なので土壌物理性を改善する役割も期待できます。リン酸は土壌にゆっくり溶けるく溶性なので長期間リン酸を効かせて栽培した農家さまにお勧めします。野菜は3~5袋/反、果樹は2~6袋/反が使用の目安です。地力の素とあわせてご検討頂ければと思います。

適切な完熟堆肥で地力維持と健全な作物を

堆肥施用の失敗の原因は、未熟堆肥を使ったことによるものが多いようです。地力を維持し健全な作物を育てようとして実施した堆肥の施用が、かえって作物に悪影響を及ぼすようでは元も子もなくなってしまいます。作物や土壌環境に適した完熟堆肥を活用し健全な作物を育ててください。今回のコラムをお役立ていただければ幸いです。

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コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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