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カルシウム欠乏症とは?その原因と予防方法を解説します
公開日2024.01.05
更新日2024.01.05

カルシウム欠乏症とは?その原因と予防方法を解説します

植物の健全な生育に必要な栄養素は、窒素・リン酸・カリといった三大栄養素を含め17種類知られています。三大栄養素の次に多く必要とされている栄養素にカルシウム(Ca)があります。カルシウムは、もっとも生長が盛んな部分からの要求度が高く、新葉や新芽そして果実などで必要とされますが、カルシウムの難移動性という性質のため、土壌中に割と多量に含まれていても欠乏症が発生することがあります。今回のコラムでは、他の栄養素とは少し違った傾向があるカルシウムの特徴とカルシウム欠乏症を引き起こさないための対策についてご紹介したいと思います。

カルシウムの作用と特徴

植物の中で多くのカルシウムが存在しているのは細胞壁だとされています。細胞壁の主成分はセルロースですが、カルシウムペクチンという多糖類と結合して、細胞壁の骨格であるセルロースの繊維同士を固定し細胞壁を強化しています。細胞壁は細胞を形作る組織のため、これが柔らかく不安定となると細胞が変形したり崩壊したりして、組織が壊死することとなります。また、細胞壁は病害虫から植物を守る役割があるため、カルシウム不足がない植物は、病気や害虫に対する抵抗性や、高温・乾燥・塩類集積など環境ストレスへの耐性が高くなり被害が抑制されることが知られています。

カルシウムは根から吸収された水が移動する道管では確認できますが、葉などで作られた栄養素が移動する師管では確認できていません。したがって窒素リン酸カリなどの栄養素とは違い、師管を通じて足りない部分への移動ができない栄養素だと考えられています。。カルシウムは単純に水の流れに従い移動しますので、各部位への供給量は水分と同じように蒸散量に比例します。つまりカルシウムの移動は一方通行で再利用や再分配が行われないため、常に吸収する必要があるということです。生長の旺盛な新芽や果実などでは新しい細胞壁を構成するために多くのカルシウムを必要としますが、これらの部位では蒸散量が少ないため供給されにくく、カルシウム欠乏症は発生しやすい傾向があります。

カルシウム欠乏症による植物の症状

生長が活発な新芽や若葉、根の先端、肥大する果実では細胞分裂が活性化しているため、細胞壁を構成するカルシウムの必要量は多くなります。カルシウムが不足すると細胞壁の構成が不十分となり、葉(特に葉先などの生長点付近)が黄化したり枯れたりするなど、組織が壊死する症状が発生します。果菜類の果実や、根菜類の塊茎・塊根といった作物可食部に症状があらわれ、直接的に収量が低下します。

作物 欠乏症状
トマト・ピーマン 尻腐れ症
イチゴ・ハクサイ チップバーン
キュウリ 落下傘葉
キャベツ・チンゲンサイ・ハクサイ 芯腐れ症
メロン 発酵果
リンゴ ビターピット(苦痘病)
カーネーション・キク 先端葉の枯死

特にカルシウムを必要とする植物は、果菜類ではイチゴ・トマト・ナス・ピーマン、葉菜類ではコマツナ・タマネギ・ネギ・ハクサイ・レタス、根菜類ではカブ・ジャガイモ・ダイコン・ニンジンなどがあり、これらの作物はカルシウム欠乏症を発症するリスクが高いとされています。

植物にカルシウム欠乏症が起こる原因

土壌の塩類濃度が高い

土壌ECが高くなっている土壌では、塩類集積による濃度障害が発生しやすくなります。原因やメカニズムがはっきりとしていないのですが、傾向として土の中に十分なカルシウムが存在していても根から吸収されずに欠乏症が発症することが多いようです。

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カリウムやマグネシウムの過多による吸収阻害

カルシウムは、植物に必要な他の栄養素であるカリウムやマグネシウムと同じ陽イオンの栄養素です。土の粘土の表面はマイナス電荷を帯びており、ここに陽イオンの栄養素が吸着されて土壌に保持されます。その保持される大きさは陽イオン交換量(CEC)で表されますが、CECの大きさにより吸着できる栄養素の数が決まっており、場所の取り合いになるためカリウムやマグネシウムなどの他の陽イオンの栄養素が多くなると、カルシウムの吸着できる場所が少なくなり土壌に保持されにくくなります。そして、土の中のカルシウムが雨や灌水などで流失してしまうことで、根からの吸収も少なくなると考えられています。地力増進法基本方針においては、カルシウム:マグネシウム:カリウムの比率は、(65~70):(20~25):(2~10)が適当だとされています。比率は少し異なりますが5:2:1が覚えやすい値として良く知られています。

アンモニア態窒素の過剰施用

カリウムやマグネシウムと同様にアンモニア態窒素も陽イオンの栄養素です。アンモニア態窒素の施用量が多いと、カルシウムは土の中で保持されにくくなり、結果として根からも吸収できなくなると考えられています。

水分不足で土壌が乾いている

カルシウムは水と同様に道管と通じて植物の体内を移動します。そのため、土壌が乾燥していると吸収量が少なくなり欠乏症を引き起こすリスクが高くなります。夏の高温時に発生しやすいといえます。根が不健康で吸収する力が弱っていたりすると余計に症状が重たくなります。

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カルシウム欠乏症を予防するための対策

カルシウム成分が含まれた資材の葉面散布

植物には葉面からも栄養素を吸収する機能があるため、直接葉にカルシウム液肥(液体肥料)を噴霧して栄養を補給させます。根が弱っていたり、土からの補給では間に合わなかったりする場合に有効な方法です。ただし、希釈倍率を間違えたり太陽の光が強く当たりすぎると濃度障害を引き起こすリスクがあり注意が必要です。またカルシウムは植物内で移動しにくいという性質があり散布された葉にしか効果が期待できません。そのため株の葉全体にまんべんなく散布したり、持続的に散布作業を行ったりする必要があり手間がかかります。

関連コラム:葉面散布のやり方とは?メリットと効果的なタイミングを解説

使う窒素肥料の成分に気を付ける

作物にはイネやブルーベリーのようにアンモニア態窒素を好む(吸収する)作物と、その他多くの作物のように硝酸態窒素を好む(吸収する)作物があります。アンモニア態窒素カルシウムと同じ陽イオンの栄養素のため拮抗作用がおこり、土の中で席の取り合いとなります。では、硝酸態窒素を好む作物を育てる場合は、硝酸態窒素だけを与えれば良いかというと、硝酸態窒素は陰イオンのため土壌から流亡しやすいというデメリットがあります。土壌の状態や育てる作物の特性によって使う窒素肥料の成分がどのようになっているのか見極めて使用する必要があります。

pHの管理に気を付ける

カルシウムに限ったことではありませんが、pHが適正な値でないと土壌に栄養素があっても根から養分を吸収することが難しくなります。例えば酸性に傾いた土壌では、陽イオンの栄養素が流失しやすくなったり、マンガン(Mn)・鉄(Fe)・銅(Cu)・亜鉛(Zn)・ホウ素(B)などの金属系の栄養素が余計に溶け出して過剰症を引き起こしたりすることがあります。カルシウムの場合は、酸性に傾きすぎてもアルカリ性に傾きすぎてもダメで、根から吸収しにくい状態となります。雨が多く土壌微生物の働きが活発な日本では土壌が酸性に傾きやすい傾向があり、その場合は石灰資材を用いて土壌を補正する必要があります。ただし、石灰資材を過剰に使って土壌がアルカリ性に傾きすぎるとリン酸・鉄・マンガン・ホウ素などが吸収しにくくなり別の生理障害を引き起こすリスクが高くなるので注意しましょう。

関連コラム:土壌EC・土壌pHとは?その測定方法と適正値について

土壌が乾燥しないように注意する

カルシウムは土の中から根を通じて植物の体内に吸収されますので、土が乾燥してしまうと、カルシウムを補給することができなくなります。適切な量を灌水することはもちろんですが、敷き藁やマルチなど土壌の乾燥防止を実施するのも一つの対策です。

カルシウム欠乏症対策におすすめの資材|リンサングアノ

リンサングアノリン酸と腐植酸を含んだ特殊肥料です。コウモリの排泄物や遺骸が数百年の時間をかけて発酵し凝縮されたもので、石灰(カルシウム)成分がおよそ4割含まれているため土壌が酸性に傾いているときにおすすめの資材です。一般に腐植酸はCECを高くすることができるため、陽イオンの石灰成分が流出しにくくなるというメリットが期待できます。牛糞堆肥などの動物質堆肥を準備するのは労力がかかりますが、リンサングアノはほとんど臭いがなく粒形状で取扱いがしやすいため、比較的簡単に導入することが可能です。

カルシウム欠乏症対策におすすめの資材|モーターフォグ

モーターフォグ葉面散布に最適な小型電動動力噴霧器です。葉面散布は根からの栄養補給が間に合わないときに実施する手法ですが、カルシウムは葉から移動ができませんので、葉にまんべんなく、そして定期的に散布する必要があります。動噴などを用いて散布するのは労力がかかり、農作業者の負担となります。モーターフォグは特殊なノズルで薬液をとても細かく散布することができるため、少量の薬液を葉面に均一に噴霧することが可能です。動噴に比べ軽量で取扱いしやすく、定期的な作業でも負担になりにくいという特徴があります。

カルシウム欠乏症を防いで植物を健全に育てましょう

カルシウムは植物体内において難移動性という性質がある影響で、欠乏症対策として単純に量を増やせば良いというわけではない対策が難しい栄養素です。栽培する作物の特徴やご自身の圃場の土壌環境を把握して、適切な対策を実施する必要があります。今回のコラムをカルシウム欠乏症対策にお役立ていただければ幸いです。

カルシウム欠乏症とは?その原因と予防方法を解説します

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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