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バラをスリップスから守れ!
公開日2023.11.22
更新日2023.11.22

バラをスリップスから守れ!

バラの産地におけるスリップスの被害が後を絶ちません。バラは美しさを愛でるものとして市場価値が認められています。害虫の加害により本来備わっている色や形といった美のエッセンスが失われてしまえば、不良率が高くなり農業経営にとって大きなダメージとなります。スリップスは薬剤抵抗性を備えやすいという点と、花弁が何枚も重なったバラのつぼみの形状は、内部へ侵入する害虫に殺虫剤を届きにくくしているという点が、防除を難しくしています。今回のコラムではスリップスの基本的な性質やバラへの被害、そしてその対策について執筆していきたいと思います。

スリップスとは?

スリップスとは体長1mm~2mmほどの昆虫で、吸汁性の農業害虫として広く知られています。スリップス(Thrips)は英語名で、日本ではアザミウマと呼ばれることもあります。細長く小さな体形をしているため、葉や花の隙間に入り込みやすく成虫・幼虫ともに集団で新芽・新葉・花・実などを加害します。成虫は植物の内部に産卵し、孵化した幼虫は植物を加害しながら成長します。幼虫は、やがて地表に移動して土中で蛹となり成虫になるというサイクルを繰り返します。スリップスの種類や周辺の環境にもよりますが、メス成虫は1匹で100~300個もの卵を産卵するとされています。露地栽培では比較的暖かい時期の4月~11月ごろに発生しますが、施設栽培では一年を通して発生する可能性があります。とても小さいため密度が低い時期に発見するのは困難です。気候が温暖になると発育が早まる傾向があります。

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スリップスに食害されたバラの被害

スリップスは植物の表面を削るように加害します。そのため、バラの花弁が茶褐色に変色したり奇形になったりします。鑑賞を楽しむバラにおいて、花弁にシミや皺ができ美観を損なってしまうのは致命的です。咲き終わりのように花びらが傷み商品価値がなくなり良品率に影響します。特にホワイトやピンクなどの薄い色の花弁では薄茶色のシミが目立ちます。色によって誘引に差がありホワイト、イエロー、ピンク、オレンジ、レッドの順に加害されやすいようです。

ガクの間から少しでも花弁が見えるつぼみでは成虫が侵入し産卵します。ガク割れしているつぼみが狙われます。幼虫はつぼみが開く前に花弁を食害し、つぼみが咲かなくなることもあります。内部で増殖してから新しいつぼみへ移動するため、気が付かないうちに次々に被害が拡大します。

バラではヒラズハナアザミウマミカンキイロアザミウマによる被害が多い傾向があるようです。同じバラ科のイチゴもヒラズハナアザミウマミカンキイロアザミウマの被害が多いです。どちらか一方だけ発生する場合と、両方が同時に発生する場合があります。アザミウマの最盛期は6~7月ごろと、バラの収穫時期と重なることもありやっかいです。

バラ栽培ではあまり問題になっていないようですが、スリップスはウイルスを媒介することもあります。幼虫は感染した植物を吸収したときにウイルスを保有し、成虫になったスリップスが植物を吸汁した際にウイルスを媒介するため次々に圃場内の作物が感染してしまうといった間接的な被害が問題となります。

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バラ栽培におけるスリップス対策

薬剤(殺虫剤)散布

スリップスは種類によって有効な薬剤が異なりますが、体長がとても小さいため種の同定が難しいという点がやっかいです。また、バラの花の内部に卵を産み付けられてしまうと、薬剤散布を行っても殺虫剤が届きにくく、効果が低くなる傾向が見られます。スリップスは恒常的に発生するため、どうしても殺虫剤の散布回数が多くなりやすいのですが、薬剤抵抗性(殺虫剤抵抗性)が発達しやすいため同一系統の殺虫剤の連用はリスクが高くなり、積極的に薬剤散布を実施しにくいというデメリットがあります。薬剤が同一系統かどうかはIRACコードを確認してください。薬剤によっては、花びらに直接かけるとしみになる可能性があるので注意しましょう。

関連コラム:農薬散布の正しい方法と注意点|安全・安心な作物作りを目指して

不要なバラの除去

収穫適期を過ぎた花(開花バラ)や規格外で出荷できない花を除去するとスリップスが潜む場所を減らすことができます。摘花は圃場内まんべんなく実施しましょう。不要花で越冬している可能性もあるようです。残渣に生息する可能性も高いため除去した花はビニール袋に密閉してすぐに廃棄するようにしてください。既にスリップスの被害が拡大している場合には花弁の見えるつぼみは全て除去し、その後適切に防除を行えば被害を抑えられたという事例もあるようです。

圃場周辺の除草

スリップスは広食性のため付近の雑草に潜んでいます。圃場周辺の雑草からバラに寄生する可能性も高いため、せっかく農薬(殺虫剤)を適切に散布しても、あまり意味がなくなってしまいますので、周辺の雑草は除去するようにしましょう。

施設密閉高温処理

ビニールハウスなどの施設栽培における防除方法です。夏の良く晴れた日に施設を密閉して内部を高温にしてスリップスを死滅させることで密度抑制効果が期待できます。地上高で150cm付近の温度が50℃程度に達した時点ですぐに換気して温度を戻す方法です。卵や幼虫は死滅しやすいですが、成虫は飛来して逃げたのち戻ってくる可能性があります。連続して複数回実施すると効果が高いとされています。ただし、葉焼けが発生するなどバラに高温障害が生じる可能性があるため、収穫休止期間に実施することが望ましいです。

天敵農薬を活用する

スリップスへの効果が期待できる天敵農薬としてはククメリスカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、リモニカスカブリダニ、タイリクヒメハナカメムシなどがあります。ただし、ククメリスカブリダニとタイリクヒメハナカメムシは花卉類の登録がありません。放飼するまえに殺虫剤を散布しスリップスの密度を下げておく必要があります。また、散布後の放飼時期に気を付けないと天敵昆虫が死んでしまいますので注意が必要です。

反射シートを利用する

スリップスは正の走行性を持っており、太陽の光の位置を確認しながら飛行しています。白やシルバーのマルチを敷いて下面からも光を照射すると、スリップスの走行性が攪乱し活動量を低下させます。

粘着シートを利用する

スリップスは青や黄といった色に引き寄せられる習性があります。表面に粘着力のあるシートを圃場に吊り下げて防除する方法です。成虫を誘引して捕獲するだけですから、根本的な解決にはつながりにくく、粘着シートだけでスリップスを駆除するのは難しいとされています。発生の密度を把握して薬散のタイミングを計るためのモニタリング資材としての意味合いが強いです。

近紫外線カットフィルムを利用する

近紫外線を除去するフィルムをハウスに展張し、スリップスが認識している光線を遮断してバラへの誘引作用を低下させるという方法です。資材の性能によって劣化の程度は異なりますが、早いものでは1年半ほど経過すると徐々に性能低下がみられる製品もあるため、効果が持続する製品を選んだほうが良いでしょう。

赤色の光や防虫ネットを利用する

赤色の光線領域は認識することが難しいというスリップスの性質を利用した防除方法です。赤色の光を照射したり、赤色の防虫ネットを展張したりすることでバラを認識しづらくさせます。赤色の防虫ネットの場合は太陽光で退色する可能性があるため、定期的に交換をする必要があります。薬剤抵抗性の発達程度に関わらず効果が期待できるという点が大きなメリットです。

バラのスリップス対策におすすめの資材

虫ブロッカー赤|スリップス専用の赤色LED防虫灯

虫ブロッカー赤は、スリップスの誘引を防止するとされている赤色のLED光を照射します。日中に10時間程度点灯するとスリップスは植物の色を認識しづらくなります。そしてスリップスの活動量が低下しますので、バラへの加害が少なくなる、成虫の接触機会減少により幼虫が増えにくくなる、といった効果が期待できます。電源があれば接続して吊り下げるだけですから手軽にスリップス対策を実施することが可能です。100Vタイプと200Vタイプがありますので圃場の電源環境に合わせてお選びいただけます。

てるてる|乱反射型光拡散シート

てるてるは、太陽光を拡散反射するシートです。特殊な繊維構造で作られており、高い反射性能を有しています。この高反射機能により太陽の光が傾いても葉裏などの陰面に光を届けやすいというメリットがあります。下面から光が反射すると、太陽の光を背に飛行する習性を持つスリップスは光が上下から当たることで混乱します。そのため、活動量を低下させたり、成虫の接触機会を減らしたりする効果が期待できます。同じ正の走行性という性質を持つコナジラミなどについても同様の効果があります。

適切な防除でバラをスリップスから守りましょう

スリップスの発生密度を抑えるためには、農薬散布だけでは難しいので、いろいろな手法を複合的に採用しながら防除を実施する必要があります。導入コストや運用的な負担などを考慮して、現在の圃場環境にあった防除方法をお選びいただければと思います。

関連コラム:バラにつく害虫とバラの病気について

バラをスリップスから守れ!

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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