地球上における二酸化炭素の重要性
二酸化炭素(CO₂)は、地球上のすべての生命活動を支える欠かせない要素のひとつです。植物は大気中のCO₂を利用して光合成を行い、体内に炭素を蓄積します。草食動物はその植物を食べて炭素を取り込み、肉食動物は草食動物を捕食することで炭素を得ます。私たち人間のような雑食動物も、植物や動物を食べることで炭素を体内に取り込み、生命活動を維持しています。炭素は体を構成する基本的な生産エネルギー源であり、地球上の生態系循環において極めて重要な役割を果たしています。
もし植物がCO₂を吸収して光合成を行ってくれなければ、炭素は供給されず、草食動物も肉食動物も存在できません。まさに炭素は、すべての生命の源といえるのではないでしょうか。
かつて、約5億年前の地球では大気中の二酸化炭素濃度が約4,000ppmに達しており、植物は活発に光合成を行い、豊かな地球環境を築いていました。しかし、植物の繁栄に伴ってCO₂は吸収され続け、約7,000年前にはその濃度が1,000ppmを下回りました。もしそのまま減少が続いていたなら、今日のような植物生産は維持できなかった可能性もあります。
現在の大気中のCO₂濃度は約420ppmとされており、光合成を行う植物にとっては十分とはいえない薄い濃度です。したがって、ハウス栽培や施設園芸の現場では、CO₂施用により濃度を最適化し、光合成の促進や収量の向上を図ることが重要になっています。
ビニールハウス栽培における二酸化炭素の重要性
ビニールハウス栽培では、ハウス内の二酸化炭素濃度(CO₂濃度)を大気中よりも高めに制御することで、作物の光合成を効果的に促進することができます。植物が光合成を行うためには、光・水・二酸化炭素の3要素が欠かせません。特にハウスは構造上、外気との入れ替えが制限されるため、二酸化炭素不足に陥りやすく、生育の停滞や収量低下を招くことがあります。
多くの施設園芸の研究では、ハウス内CO₂濃度を750〜1500ppm程度に維持することで、トマトやイチゴなどの主要作物の光合成効率や収量アップに顕著な効果があると報告されています。こうした成果を得るためには、濃度センサーによる定期測定や、CO₂供給システムの導入による効率的な管理が重要です。
ただし、単にCO₂濃度を高めればよいわけではありません。温度・湿度・換気とのバランスをとりながら、環境制御を行う必要があります。二酸化炭素が過剰になると、葉の老化促進や生育障害を引き起こすことがあり、特に作物の種類や生育段階に応じたきめ細やかな制御が求められます。
二酸化炭素施用による光合成促進と収量向上
植物は、光エネルギーを利用して葉で糖をつくり、その糖を茎や根、果実など体のさまざまな部分に送り、生長や実の形成に役立てています。これが生育と収量の基礎となる光合成であり、外部から二酸化炭素(CO₂)を供給することで効率的に進みます。ビニールハウス内でCO₂を適切に施用すると、光合成の効率が大きく高まり、果実の肥大化、品質向上、そして収穫量(収量)の増加につながります。これは、施設園芸やハウス栽培における生産性向上のための重要な環境制御技術のひとつです。
実際に、佐賀県農業試験研究センターによる「イチゴ『さがほのか』のCO₂施用による増収と経済性」の試験結果では、二酸化炭素濃度を800ppmに維持した場合、通常の400ppmと比較して商品果収量が約25%増加し、収益が1アールあたり約8.7万円向上したと報告されています。また、熊本県農業研究センターによる研究では、トマト促成栽培において、ハウス内の炭酸ガス濃度を外の空気と同じ400 ppmに保つ「ゼロ濃度差施用」と、換気窓の開閉に合わせて400~600 ppmの範囲で調整する「換気窓連動施用」の2つの方法を用いたところ、ハウス内濃度を400〜600ppmに自動制御することで、無施用区に比べて可販果収量や可販果数率が上昇したと報告されています。さらに、空洞果や小果の発生率が低下し、果実品質の安定化にもつながることが示されています。
これらのデータは、二酸化炭素施用が作物の光合成を促進し、生産効率を向上させる技術であることを示しています。
ハウス内の二酸化炭素変動と施用タイミング
ハウス内の二酸化炭素の変動
ビニールハウスは、高い密閉性を維持できる一方で、外気の流入が制限されるため、ハウス内の二酸化炭素濃度(CO₂濃度)が低下しやすい環境です。一般に、夜間から朝方にかけては、植物や土壌の呼吸によってCO₂濃度がやや上昇しますが、日の出とともに光合成が活発化すると、濃度は急速に低下します。その後、気温上昇に伴って換気を行うと、ハウス内のCO₂濃度は外気とほぼ同じ約300ppm前後まで下がります。一方、曇天時や冬季などで換気が制限される場合は、CO₂が消費される一方となり、100ppm程度まで低下することもあります。
このような二酸化炭素不足が続くと、光合成の抑制によって生育の鈍化や収量の減少、品質の低下が生じます。したがって、ハウス内環境の制御には、濃度センサーによる定期的な測定と施用タイミングの最適化が欠かせません。
施用のタイミング
二酸化炭素の施用方法は換気の有無によって大きく変わります。光合成が行われる時間帯にCO₂を補うことが重要であり、濃度が下がり始める日の出直後から施用を開始するのが一般的です。ただし、室温の上昇により換気を行うと、CO₂が外部へ逃げてしまうため、その際は施用を弱めるか、一時的に停止するようにします。一方、曇りの日や、晴天でも気温が低く換気の必要がないときは、日中でも二酸化炭素施用を行うことで光合成促進効果が得られるとされています。
冬期のハウスでは、気温管理のために換気窓を閉め切ることが多く、CO₂が外部から補給されにくくなります。日射量が十分にあるときには植物の光合成が盛んに行われており、CO₂施用によって濃度を補うことが非常に効果的です。適切なタイミングでCO₂を供給することで、ハウス内の濃度を安定的に維持し、光合成効率の向上と収量アップを実現できます。
CO₂施用を急に中断すると、植物の生育が一時的に低下することがあるため、施用を終了する際は段階的に施用量を減らすのが望ましいと考えられています。このように、施用のタイミングと強度の調整は、CO₂濃度管理の中核であり、スマート農業システムや自動制御装置を導入することで、より安定した環境制御が可能になります。
主な二酸化炭素発生装置の種類
ビニールハウス栽培において、二酸化炭素施用を行うための発生装置(CO₂供給装置)には、さまざまな方式があります。使用する燃料や構造、導入コスト、メンテナンス性によって特徴が異なり、目的や規模に応じて最適なタイプを選ぶことが重要です。大きく分類すると、燃焼式と液化炭酸ガス(ボンベ)式の2つの方式があります。
燃焼式(灯油・プロパンガス)
燃焼式は、灯油やプロパンガス(LPG)を燃やしてCO₂を発生させる方式で、ハウス内へ直接供給します。暖房効果を兼ねられる点が大きなメリットで、特に冬季の施設園芸において効率的です。
灯油燃焼式
灯油を燃焼してCO₂を供給する方法は、導入コストが低く大規模導入にも適するため、寒冷地のビニールハウスで多く採用されています。燃焼による熱を有効利用できる一方で、不完全燃焼防止や排ガス管理などの定期的なメンテナンスが欠かせません。正しく運用すれば、安定した二酸化炭素濃度の維持と光合成促進が可能です。
プロパンガス燃焼式
プロパンガス(LPG)燃焼式は、臭気が少なく燃焼効率が高いのが特徴で、作物への悪影響が少ないクリーンなCO₂供給方法として評価されています。ただし、灯油式に比べて燃料コストが高めとなる傾向があり、ランニングコストを事前に十分試算することが重要です。
液化炭酸ガス(ボンベ)式
液化炭酸ガス式は、高圧ガスボンベからチューブを通して株元へ直接CO₂を供給する方式です。燃焼を伴わないため、一酸化炭素などの不純ガスが発生せず、作物への影響が最も少ない安全な方法といえます。さらに、熱の発生がないため、夏季や高温期でも安定してCO₂施用を行えます。濃度制御が精密で、作物の生育段階ごとの調整も容易です。一方で、ガスボンベ交換や購入コストが高く、ランニングコストがかさむ点は課題です。そのため、経営規模や使用頻度に応じた費用対効果の検討が不可欠です。
農林水産省の報告(「トマト栽培における液化炭酸ガスの効果的な施用方法」)によれば、トマト(品種:冠美・CF桃太郎ヨーク)では、CO₂施用により無施用区と比較して増収率が128〜151%に達したとされています。この結果は、CO₂施用の効果と、精密な環境制御による収量アップの可能性を明確に示しています。
ビニールハウスの換気をより効果的に|空動扇&空動扇SOLAR
作物の品質や収量を保つためには、二酸化炭素施用だけでなく「適切な換気」も欠かせません。過度な密閉は温度や湿度の上昇を招き、結果的に光合成効率を下げてしまうこともあります。そんな場面で役立つのが、電力を使わず自然の力で換気を促す「空動扇」です。自然風によってベンチレーターが回転し、ハウス内のこもった熱気や湿気を排出。ソーラーパネルを搭載した「空動扇 SOLAR」タイプなら、日中の無風時でも太陽光でベンチレーターを自動回転させ、電源いらずで快適な環境維持をサポートします。手動で窓を開けたり閉めたりする手間も少なく、温度上昇や湿度ムラの軽減にもつながります。ビニールハウスの環境管理をより効率的にしたい方は、一度導入を検討してみてはいかがでしょうか。
曇天時の日射不足を補うLED|ハレルヤ
二酸化炭素を十分に施用しても曇天や日射不足の時期には日射量が足りず、光合成が抑制されるリスクがあります。こうした場面で力を発揮するのが、高 PPFD を実現する植物育成用 LED「ハレルヤ」 です。補光をしながら 二酸化炭素の施用を行えば、昼間の光合成を最大化し、特に曇天や梅雨期など、太陽光が安定しづらい期間でも作物の成長を維持しやすくなります。曇りの日や冬場の日照不足の時期でも、ハウス内に十分な光を届けることができるため、光合成の働きを補うことができます。「ハレルヤ」は高出力LEDを採用しており、光合成に有効な波長域をしっかりとカバー。高いPPFD(光合成有効光量子束密度)を実現しています。防水仕様で耐久性にも優れ、ハウス内の湿気や薬剤散布の影響を受けにくい設計になっています。コンセント式で取り付けも簡単なため、既存のハウスにも後付けしやすい点が魅力です。
二酸化炭素施用を活用して品質と収量の向上を
ビニールハウス栽培では、二酸化炭素施用によって光合成を促し、作物の品質と収量を高めることができます。ただし、濃度を上げるだけでなく、光や温度、湿度、換気とのバランスを取ることが大切です。環境全体を整えることで、作物は本来の力を発揮し、安定した生育と収穫が期待できます。二酸化炭素施用を上手に取り入れ、より健全で効率的な栽培を目指しましょう。
参考文献:
・イチゴ「さがほのか」の CO2 施用による増収と経済性(佐賀県農業試験研究センター)
・トマト栽培における液化炭酸ガスの効果的な施用方法(農林水産省)
・トマト促成栽培における換気窓連動による2レベル調節型の炭酸ガス施用は冬春期の可販果収量および可販果数率を増加させる傾向がある(熊本県農業研究センター研究報告)
コラム著者
セイコーステラ 代表取締役 武藤 俊平
株式会社セイコーステラ 代表取締役。農家さんのお困りごとに関するコラムを定期的に配信しています。取り上げて欲しいテーマやトピックがありましたら、お知らせください。