メロン栽培の基本:土づくりの4つのポイント
メロンは根の張りが浅く、酸素の要求量が多く、排水性や通気性に優れた土を好む作物です。そのため、土壌環境や潅水の影響を受けやすく、土づくりがとても重要となります。適切な土づくりや土壌管理が行われていないと、成長や品質に悪影響を及ぼす可能性が高くなります。高品質のメロンを育てるための土づくりに欠かせない4つのポイントをチェックしておきましょう。
ポイント①排水性と保水性のバランスが適切であること
メロンは過湿を嫌う一方で、乾燥にも弱いです。そのため、水はけが良いうえに、適度な保水性を保つ土壌が理想的です。水を与えた際に水がすぐに土壌に浸透し、かつ一定時間保水される状態(いわゆる団粒構造)を目指しましょう。水はけが悪いとメロンは根腐れを起こしやすく、乾燥しすぎると生育不良や果実の肥大に悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。畝の高さや土壌改良材、堆肥の施用でバランスをとるようにしましょう。
ポイント②豊富な有機物を含有していること
土壌微生物は土中の有機物を分解して増加するため、団粒構造の形成に寄与します。団粒構造の形成は大小の空隙を作ることになり、これが排水性や保水性を向上させ、土を柔らかくすると考えられています。また、土壌有機物が多いほどCEC(陽イオン交換量)が向上します。CECが高い土壌はアンモニア態窒素(NH₄⁺)などの陽イオンの栄養素を保持する力が高くなるとされています。有機物は腐葉土や堆肥などに含まれており、土づくりの際にこれらを混ぜ込むことで、通気性や排水性、保水性を向上させて、健全な根の生育を促すことができるようになります。
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ポイント③土壌のpHが適切であること
土壌のpHによって、植物の生長に必要な栄養素は溶解性が変化したり、根の働きを直接阻害したりします。栽培する作物に適切なpHを保つことで、栄養の吸収効率が良くなり、安定した品質と収量を維持することができると考えられています。以下の農林水産省の資料から抜粋した図で示されている通り、窒素・リン酸・カリといった三大栄養素や、カリウム・マグネシウムなどの中量要素、そして微量要素などの栄養分は、土壌のpHの影響を受けて根の利用度が増減するようです。
土壌診断には、化学性診断・物理性診断・微生物性診断がありますが、最も一般的で検査しやすいのがpHの診断です。検査機や簡易に測定できるキットがあり、忙しい農家さんにも導入しやすいのではないかと考えています。農大式簡易土壌診断キット「みどりくん」は、硝酸態窒素や水溶性リン酸とカリなどを、わずか5分で分析できるとのことです。
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ポイント④必要な栄養素が適量含まれていること
メロンは生育期間が長く、多くの栄養素を必要とします。特に、窒素、リン酸、カリウムの三大栄養素は、メロンの生育に欠かせません。これらの栄養素は、化成肥料や有機肥料で補給できます。ただし、過剰な施肥は、生育障害や病害虫の発生を招くため、適量を施用することが重要です。農林水産省が行っている土壌環境基礎調査によれば、近年はリン酸やカリウムが土壌に蓄積され肥満傾向となり、健全な土壌環境が損なわれていると報告されています。普通畑においては、カルシウムは6割が過剰、有効態リン酸は黒ボク土壌の1割で過剰、非黒ボク土壌の4割で過剰というのが実情です。一方、マグネシウムは8割の土壌で不足と診断されています(農地土壌の現状と課題|平成20年3月農林水産省)。特に施設栽培では、塩基類の集積やバランスの悪化が顕著です。土壌診断を行って不足している栄養素を把握した上で、適切な肥料を選んで施肥量を調整することが、健全な土づくりに繋がります。
メロン栽培の理想的な土壌と団粒構造の重要性
メロン栽培に最適な土壌は、水はけと水持ちのバランスが良く、通気性に優れ、豊富な栄養素を含んでいる土壌です。このような土壌環境を整えるために重要なのが「団粒構造」です。団粒構造とは、土壌中の微細な粒子が集まって形成される小さな塊(団粒)が、バランス良く分布している土壌の状態を指します。団粒は、大小様々なサイズで存在し、その間に適度な空隙を作り出します。これらは、土壌の物理性や微生物性にも関係する要素でもあります。土壌微生物はエサとなる有機物を食べると、糊のような粘着性のある物質を排出し、これが土をくっつける役割を担うことで、大小さまざまなサイズの土の塊が出来上がるため、団粒構造を形成しやすくなるとされています。団粒構造のメリットや作り方も併せて見ていきましょう。
団粒構造のメリット
団粒構造が発達した土壌は、メロン栽培に次のようなメリットをもたらします。
●水はけと保水力のバランスを保てる
団粒構造の間には均一ではない適度な隙間(空隙)ができるため、排水性と保水性のバランスが良くなると考えられています。適切な水分量を保持するために非常に重要です。
●通気性を上げる
団粒構造内の隙間は、空気の通り道となります。酸素が供給されることで、根の呼吸が活発になって養分吸収が促進されます。また、土壌中の微生物の活動も活発化し、有機物の分解が促進されて土壌が豊かになります。
●根張りの促進
団粒構造の土壌は柔らかく、根が簡単に伸長できる空間もあるため根張りがよくなります。根が健全に発達すれば、養分や水分を効率的に吸収できるため、メロンの健全な生育が期待できるでしょう。
● 病害虫が発生しにくい
団粒構造の土壌中では多様な微生物が活発に活動しています。そのため生態系のバランスも取れており、病害菌の異常繁殖を防ぐことにつながり、連作障害も発生しづらいといわれています。
団粒構造の作り方
団粒構造を作るには、次の方法があります。
詳しくは、団粒構造とは? 植物が良く育つ土壌に必要な要素と土の作り方を参考にしてみてください。これらの方法をとりつつ、次でお話するよう適切な土壌改良方法を採用することで、メロン栽培に最適な環境を整えることができるかもしれません。
メロン栽培における具体的な土づくりと土壌改良方法
糖度の高いメロン栽培には土づくりが欠かせません。具体的な土壌改良方法について詳しく解説していきます。
水はけと保水性を兼ね備えた土壌にする耕起
メロンに適した状態にするには、30cm以上の耕起により土壌に空気を通し、排水性を維持することが重要です。腐葉土や堆肥・緑肥などの有機物を投入することで、土壌微生物の活動を促進し保水力と通気性を向上させてあげましょう。堆肥は必ず完熟したもの(完熟堆肥)を使用するようにしてください。また、パーライトやバーミキュライトなどの土壌改良材を活用するのも排水性と通気性の改善に効果的です。
うね立ては水はけを改善します。うね間240~280cm(うね面150cm、通路幅70~100cm)、うね高15~20cmを目安にうね立てしましょう。特に排水性の悪い土壌では高めのうねが有効です。土壌が乾きすぎてしまう場合には、藁などでマルチングをし、水分蒸発を抑制してあげましょう。これらの方法を適切に組み合わせることで、メロンの生育に最適な土壌環境に近づくことができます。
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土壌のpHの調整方法
土づくりにおいてpHを適正にすることは非常に重要です。農作物が栄養分の吸収をスムーズに行うためには、pHが適切な範囲内であることが必要になるからです。地力増進基本指針(農林水産省)によれば、普通畑の適当なpHは6.0以上6.5以下(石灰質土壌では6.0以上8.0以下)と示されています。メロンの生育に適した土壌もpHは6.0~6.5の弱酸性が良いとする考えが一般的です。この値以上であったり以下であったりした場合は、適切な土壌改良材を施用してpHを調整してあげましょう。
土壌pH | 状態 | 対策 | 使用上の注意点 |
---|---|---|---|
6.0未満 | 酸性より | 苦土石灰、炭酸カルシウム | 一度に大量施用せず、徐々に調整する |
6.0~6.5 | 最適 | - | - |
6.5以上 | アルカリ性より | ピートモス、硫黄華 | 急激なpH低下を避けるため、少量ずつ施用 |
日本は雨が多いことから(雨は弱酸性)、農地も酸性に傾く傾向が強いです。石灰の施用過多や地下水のpHがアルカリ性に傾いているなど、地域や環境により特性がありますので、土づくりを実施する前にpHを測定することをおすすめします。JAの分析センターでは1か月程度で土壌診断を行ってくれます。また、分析センターの診断より正確性は落ちますが、市販のpH測定器を用いて簡単に測定することもできます。
pHが低い(酸性に傾いている)場合は、陽イオンである水素イオン(H⁺)が増えることで、他の陽イオンの栄養素が土壌に保持されず流亡しやすくなったり、酸性の影響でマンガン・鉄・銅・亜鉛・ホウ素などが溶けやすくなり、過剰症を引き起こしたりするリスクが高くなります。一方、pHが高い(アルカリ性に傾いている)場合にはカリウム・マグネシウム・鉄・ホウ素などの欠乏症が発生します。メロンの果実は成熟するにつれて、果実にマグネシウムが移行することが知られており、充実期に多量のマグネシウムを必要とします。
pHの調整で難しいのは、同じpHでも土の種類や腐植含量によって、石灰資材投入後のpH上昇度が異なるという点です。土壌ごとにアルカリを加えた場合のpHの上昇曲線を算出し施用する方法もありますが、専門性が高く手間がかかります。そこで、簡便法として、アレニウス表により石灰質資材の施用量を求める方法があります。アレニウス表は土壌を改良するために良く用いられる表です。この表はpH・土性・腐植含量の3つから施用する石灰質肥料量が示されています。
石灰質資材の施用量に関係する土性の調べ方については、分析センターで診断してもらったほうが正確な判断ができますが、現場で簡易に調べる方法として、触った感触と土を少量の水でこねて土性を判定する方法が全農のホームページに紹介されていました。2mmのふるいに通した感想土壌10gに水3mlを加えて棒状にして、どの程度まで伸びるか確認します。棒の状態によっておおまかに土性を判断することが可能です。腐植含量については、簡便法がないようで、土壌診断が必要になります。
状態 | 土性 | 透水性 | 保肥力 | 養分含量 |
---|---|---|---|---|
棒にならない | 砂土 | 良い | 小さい | 少ない |
鉛筆ぐらいの太さになる | 壌土 | 普通 | 普通 | 普通 |
こよりのように細長くなる | 埴土 | 悪い | 大きい | 多い |
pH調整は急激な変化を避け、1~2年かけて徐々に行うようにしてください。土壌改良材を施用する際は、十分に土壌と混ぜ合わせ、定期的にpHを測定して変化を確認しながら進めましょう。矯正後は施用耕起後7~10日後に再度、pHを測定し確認することが望ましいとされています。石灰質資材の過剰使用は、マンガン(Mn)・鉄(Fe)・亜鉛(Zn)など一部の微量要素の吸収を阻害したり、団粒構造を破壊したりする可能性があると考えられています。
メロンの土づくりに使う堆肥の種類と選び方
メロン栽培に堆肥を用いることで、土壌の物理性や生物性を改善し、健全な生育を促すことができます。しかし、その堆肥には様々な種類があり、それぞれ特性が異なります。土壌状態や品種、栽培時期に応じて選択できるよう、まずは種類と特性を理解しましょう。代表的な堆肥とその特徴は下記のとおりです。堆肥は、分解および発酵が十分に行われている完熟堆肥を投入するようにしてください。
種類 | 特徴 |
---|---|
牛糞堆肥 | リン酸、カリウムが豊富で、土壌の保水性を高める効果が高い。 |
豚糞堆肥 | 窒素分が多く、植物の生育を促進する効果が高い。 |
鶏糞堆肥 | 窒素、リン酸、カリウムのバランスが良い。速効性がある。 |
油かす | 窒素分が多く、ゆっくりと効果が持続する。 |
魚粉 | リン酸が豊富で、即効性がある。 |
骨粉 | リン酸、カルシウムが豊富で、土壌の酸度調整にも効果がある。 |
神奈川県はメロンの一大産地ではないのですが、神奈川県作物別施肥基準(P.80)によれば、10aあたりの堆肥の施用基準は以下の通りとなっています。用いられる堆肥の種類と施用量は地域により差異が大きいという点は、お含みおきください。
作物名 | おがくず 混合畜 ふん堆肥 |
畜ふん堆肥 | 乾燥畜ふん | |||
---|---|---|---|---|---|---|
牛ふん | 豚・鶏 | 牛ふん | 豚・鶏 | |||
水稲 | 乾田 | 0.5~1t | 0.5~1t | 0.5t | 0.5t | – |
半湿田 | 0.5t | 0.5t | 0.3t | 0.3t | – | |
普通作 畑 | 1t | 1t | 0.5t | 0.5t | 0.3t | |
野菜 | 露地 | 1t/作 | 1t/作 | 0.5~1t/作 | 0.5~1t | 0.5~1t |
施設 | 2t/作 | 2t/作 | 1~2t | – | – | |
花き | 露地 | 1~2t | 1~2t | 0.5~1t | 0.5~1t | 0.3~0.5t |
施設 | 2~4t | 2~3t | 1~2t | – | – | |
果樹 | ミカン | 1~2t | 1~2t | 0.5~1t | 0.5~1t | 0.3~0.5t |
落葉樹 | 1~2t | 1~2t | 0.5~1t | 0.5~1t | 0.3~0.5t |
過剰な堆肥の施用は、リン酸やカリが過剰になりやすく、土壌病害が出たり収量が低下したりするリスクが上がります。可能であれば、定期的に土壌分析を行い、不足している成分を補うように施肥していきましょう。
土壌改良材の活用法
土壌改良材は、土壌の物理性や化学性を改善するために用いられる資材です。メロン栽培では、以下のような土壌改良材が活用されます。
土壌改良資材の種類 | 期待できる効果 | 注意点 |
---|---|---|
バークたい肥 | 土壌の膨軟化 | 多量に施用すると、土壌が乾燥しやすくなり、過度に乾燥すると、水を吸収しにくくなる |
腐植酸質資材 | 土壌の保肥力の改善 | - |
ゼオライト | - | |
木炭 | 土壌の透水性の改善 | 地表面に露出すると風雨などにより流出することがある |
バーミキュライト | ||
パーライト | 土壌の保水性の改善 | |
VA菌根菌資材 | 土壌のりん酸供給能の改善 | 有効態りん酸の含有量の高い場合、効果が得られない |
メロン栽培の土づくりにおすすめの資材|地力の素 カナディアンフミン
メロンの土づくりにおすすめしたいのが、腐植酸を高純度で含有している地力の素 カナディアンフミンです。地力の素には、土壌微生物の繁殖や団粒構造化に寄与すると考えらえている腐植酸を含んでおり、CEC(陽イオン交換量)も高いため、土づくりに際に施用することで、メロンの栽培に適した土壌を形成させる効果が期待できます。粗粒と細粒は20kgで堆肥1tと同等の腐植を含有しており、堆肥を確保しづらい方にお勧めです。またペレットタイプは牛ふん堆肥を含んでいるため、堆肥の投入が不要となっており、粒度が均一でブロードキャスターなどの散布機を用いることもできます。細粒と粗粒はペレットに比べてCEC(陽イオン効果量)が高く、陽イオンの栄養素を土壌に保持させたい場合におすすめです。
メロン栽培の育苗時におすすめの資材|キンコンバッキー
土づくりとは少し話がそれますが、育苗時におすすめしたいのが、植物の根に共生しリン酸の吸収を助ける菌根菌資材キンコンバッキーです。菌根菌は根に共生すると、植物の根よりもさらに細い菌糸を土壌の中で伸ばします。そして土の中にあるリン酸を吸収し植物に供給します。育苗時の潅水やドブ漬けなどにより、メロンの根に菌根菌を共生させます。リン酸吸収だけでなく、耐乾燥性が向上し環境ストレスにも強くなることもわかっています。可給態リン酸が少ない土壌でも、収量がおちずに品質の高いメロンを栽培できる効果が期待できます。
高品質のメロン栽培は土づくりから
今回は品質の優れたメロンを栽培するために重要な土づくりについて、解説しました。メロンに適しているのは、排水性と保水性のバランスがよく、適切なpHで、有機物や必要な栄養素をしっかり含んでいる土です。さらに団粒構造が発達している土壌の場合、根張りも良くなり病気にもかかりにくく、品質の高いメロンになりやすくなります。これらの条件を満たしていない場合、健全なメロンを栽培するためには土壌改良が必要になります。土壌改良剤は正しいタイミングに適切な種類を適量与えることが重要です。今回のコラムを参考に、土壌管理を行ってみてはいかがでしょうか。
参考資料:
・土壌有機物と農業生産との関係についての総説(松﨑 守夫)
・農地土壌の現状と課題 (農林水産省)
・園芸土壌のリン酸過剰がもたらす弊害とその対策(後藤 逸男)
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コラム著者
セイコーエコロジア編集部
農家さんのお困りごとに関するコラムを定期的に配信しています。取り上げて欲しいテーマやトピックがありましたら、お知らせください。