このような背景の中で、輸入原料に頼らない肥料として国内資源由来の堆肥に注目が集まっています。農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」においても「化学肥料の使用を減らし堆肥など有機資源の活用した施肥体系の確立」が謳われていることから、国や地方自治体が注視しており、様々な作物への施用が勧められています。
堆肥には、動物性の家畜ふん堆肥、もみ殻やバークなどの植物性堆肥、特殊堆肥などがありますが、この記事では、家畜ふん堆肥にスポットをあてて牛・豚・鶏といった畜種ごとの特徴やメリット・デメリットなどを解説したいと思います。
家畜ふん堆肥とは
家畜ふん堆肥とは、牛・豚・鶏などの家畜の糞尿を、微生物の働きによって分解・発酵させることで、作物に吸収されやすい形にした肥料のことです。肥料法においては堆肥は特殊肥料に分類され「各種有機物(汚泥等を除く)を堆積又は攪拌し、成熟したもの」と定義されています。
家畜ふん堆肥の成分は、畜種や副資材、作り方などによって異なりますが、化学肥料に含まれている栄養素のほか、有機物や微量のミネラルも含んでいます。即効性はありませんが、上手に使用すれば化学肥料の使用量を減らすことができる肥料源となる可能性があります。家畜ふん堆肥は化学肥料と比較して遅効性で長期的に肥効が期待できるという性質を持っています。
家畜の種類ごとの特徴
家畜ふん堆肥は、原料(どの家畜か)や副資材、製造方法などにより特徴が変わります。農林水産省の資料に家畜ふん堆肥の特徴を示した表がありましたので抜粋します。
堆肥の種類 | 堆肥化の 処理方法 |
易分解性 有機物 |
難分解性 有機物 (物理性改善) |
三大栄養素の特徴 |
---|---|---|---|---|
牛ふん堆肥 | 堆積・攪拌型 | 少ない | 多い | 有効態窒素は少なく相対的にカリが多い |
豚ぷん堆肥 | 堆積・攪拌型 | 少ない | やや多い | 有効態窒素は少なく相対的にリン酸が多い |
密閉型 | やや多い | 少ない | 有効態窒素がややあり相対的にリン酸が多い | |
鶏ふん堆肥 | 乾燥型 | やや多い | 少ない | 有効態窒素がややあり相対的にリン酸が多い |
発酵型 | 少ない | 少ない | 有効態窒素が少なく相対的にリン酸が多い |
※家畜ふん堆肥の特徴(農林水産省)より抜粋
易分解性有機物とは、土壌微生物によって容易に分解される有機物のことで、土壌に施用すると急激に分解され植物が吸収しやすい状態になります。一方、難分解性有機物は、土壌微生物によって分解されるスピードがゆっくりであるため、長期的な肥効や団粒構造の維持といった効果が期待できると考えられています。大まかな説明になりますが、牛ふん堆肥は長期的な土壌改良、鶏ふん堆肥は即効性の高い肥料として、豚ぷん堆肥には中庸な効果を求める場合の用途に向いていると言えます。栽培する作物や畑の状態によっても向いている堆肥は変わってきます。
家畜ふん堆肥のメリット
メリット① 土壌を改良する
家畜ふん堆肥の中で牛ふん堆肥は有機物が多く含まれており、優れた土壌改良剤としての効果があるとされています。有機物を分解する土壌微生物の働きにより、土壌の排水性や保水力(保肥力)などが改善し、土の物理的な膨軟化が進みます。有機物が分解される過程で発生する糊状の物質が土の粒子をくっつけることによって、土壌の団粒構造が促進されて適度な隙間が生まれ、空気の流れや水の保持に適した条件を整えられます。これらの作用から土壌が柔らかくふかふかになります。植物の根張りが良くなり、品質や増収が期待できるほか、環境ストレスや病害虫に対する耐性を高めることができます。団粒構造の土の柔らかさは根菜類が土中で成長する妨げとなりにくく、サイズの大きい作物を収穫できると考えられています。
メリット② 化学肥料の施肥量の低減につながる
家畜ふん堆肥に含まれる肥料成分が含まれているため上手に利用すれば、化学肥料の施肥量を減らすことができるかもしれません。農林水産省の資料「土壌管理のあり方にする意見交換会」報告書では、以下の減肥量の資料が示されていますので抜粋します。
減肥量(10aあたり)
堆肥の種類 | 窒素 | リン酸 | カリ | |
---|---|---|---|---|
非連用 | 連用 | |||
稲わら堆肥 | 1.0kg | 1.7kg | 2.0kg | 2.9kh |
牛ふん堆肥 | 2.1kg | 4.3kg | 7.0kg | 4.8kg |
豚ぷん堆肥 | 4.1kg | 8.1kg | 19.4kg | 6.9kg |
バーク堆肥 | 1.1kg | 1.9kg | 3.1kg | 1.8kg |
「家畜ふん堆肥の 30 年連用が普通作物収量と土壌理化学性に及ぼす影響」(鹿児島県農業開発総合センター)によれば、牛ふん堆肥および鶏ふん堆肥を施用した原料用サツマイモの栽培が化学肥料栽培と比べて同等以上、麦類の収量に至っては化学肥料を上回る収量を記録したと報告されています。
メリット③ 連用により肥効率が安定する
家畜ふん堆肥の肥料成分の肥効率は連用するほど高まると考えられています栃木県農業試験場によれば「牛ふん堆肥を10aあたり2t連用した結果を30年までモデル計算したところ、無機態窒素生成割合つまり堆肥の肥効率は、連用1年目で9%であったものが徐々に上昇し、連用15年程度で32%に達して安定した」と報告されています。畑の状態を確認しながら施用し続ければ、より作物の生育環境も整いやすくなり、安定して作物を栽培することができる一因となります。
メリット④ 病害を抑制する
家畜ふん堆肥の施用は、植物の根張りをよくして強い株になり病気を抑制する効果が期待できます。家畜ふん堆肥は、土壌伝染病原菌を抑制する効果を有しているとされています。家畜ふんに含まれる有機物は土壌微生物のエサになるため、微生物の多様化を引き起こします。すると拮抗作用が発生しやすく、作物に被害を引き起こす病原菌の発生を抑制するのではないかと考えられています。トマト茎葉残さと牛ふん堆肥を混合して堆肥化することで、トマト萎凋病菌をほぼ完全に死滅させることができたという研究結果もあります。ただし、発病を助長する可能性もあるので過度な期待は禁物です。一般に以下のように考えられています。
- 果菜類 ⇒ 軽減する効果が期待できる
- 葉菜類 ⇒ 必ずしも軽減されない
- 根菜類 ⇒ 直前の施用は病害虫を招きやすい
家畜ふん堆肥のデメリット
デメリット① 肥料成分の不均一性による栄養不足と過剰症
畜種や飼料、そして堆肥化の過程などの影響で、異なった成分となるため、含まれている肥料の量を正確に把握するのは難しいというのが実情です。例えば同じ牛ふん堆肥でも、副資材が籾殻かオガクズかによって連用による肥効の現れ方が異なります。籾殻にくらべてオガクズは分解が遅いため、連用による肥効の発現が遅くなるといった傾向があります。連用による肥効の発現のタイミングを見誤ると必要な栄養素の過不足が発生し、作物の生育に悪影響となることがあります。また、堆肥は土づくり資材としての印象が強く、肥効を考慮せずに施用すると栄養が過剰になります。JAちちぶでは、堆肥の大量施用はリン酸やカリウムが過剰になりやすく、土壌病害や微量要素の欠乏、生育悪化の原因になることから適正量の施用を呼びかけています。昔使っていた落ち葉や稲わらなどの植物性堆肥に比べて、現在広く使われている家畜ふん堆肥は肥料成分が多いため入れすぎてしまう傾向がみられるとのことです。
デメリット② 効果が表れるまで時間がかかる
家畜ふん堆肥(特に牛ふん堆肥)は緩効性であるため、即効性のある化学肥料と比較して施用後に効果が現れるまで時間がかかります。堆肥に含まれる肥料成分が今年の作物栽培期間中に有効化するとは限りません。そのため、施用する適量や施用時期を見定めるのが難しいという特性があります。
デメリット③ 未熟な堆肥の臭いや害虫のリスク
完熟の家畜ふん堆肥は、発酵によって病原菌や寄生虫の卵、雑草の種子などが死滅しており、臭いもほとんどありません。未熟な家畜ふん堆肥にはこれらのリスクが存在するため注意が必要です。未熟な堆肥を施用すると、コバエやコガネムシなどの害虫を誘引することもあります。
デメリット④ ガス障害のリスク
家畜ふん堆肥が大量であったり未熟であったりした場合、土壌微生物による分解過程でアンモニアや硝酸などの有害ガスが発生・蓄積しやすくなります。これらのガスが葉の気孔から入り込むと、葉が縮んで枯れたり、黄化したりするガス障害が起こる可能性があります。アンモニアガス障害はpH7.5以上のアルカリ性土壌で発生しやすく、亜硝酸ガス障害はpH5以下の酸性土壌で起こりやすいとされています。また、高温条件下ではこれらのガス障害がさらに顕著になるため、施用時には特に注意が必要です。家畜ふん堆肥を施用する際は、土壌の状態や気温に十分気をつけるようにしてください。
デメリット⑤ 運搬や散布にかかる労力
家畜ふん堆肥は含水率が高く、費用面を考えても長距離輸送には向いていません。そのため、近くに畜産農家がない場合は原料の入手が難しいという傾向があります。また、家畜ふん堆肥は散布作業にかかる労力もデメリットのひとつです。一般的に堆肥は化学肥料のようにペレット状になっていない上に不均一で水分量が多いため、ライムソワーなどの化学肥料を散布する機械では対応できないことがほとんどです。大量に施用する場合には、マニュアスプレッダなどの専用機械が必要になることもあります。高齢化や人手不足などの理由から家畜ふん堆肥の利用を諦めたとの声もあり、堆肥の施用量を削減できるペレット堆肥のような有機材が注目を集めています。
関連コラム:牛糞堆肥のデメリットを回避する方法とは?
家畜ふん堆肥選びの基本
堆肥選びで最も重要なポイントが、完熟堆肥を見極めることです。下記にポイントをまとめたので、参考にしてみてください。
ポイント | 完熟堆肥の状態 | 未熟堆肥の状態 |
---|---|---|
におい | 土のような優しいにおい、または無臭 | 排泄物臭やアンモニア臭が残る |
水分量 | 水分が少なく、握っても手のひらにあまり付着しない | 握ると指の間から水が滴る |
形状 | ほとんど現物を認められず、均一な状態 | 現物の形状をとどめている |
色 | 黒褐色または黒色 | 黄褐色や褐色 |
温度 | 60〜70℃まで上昇し、その後徐々に低下 | 50℃以下(通気性が悪く発酵できていない)の場合は未熟堆肥の可能性が高い |
施用前に、まだ家畜ふん堆肥が未熟だということが分かった場合は、土に混ぜ込んで臭いが薄まってからの施用が望ましいです。未熟な堆肥は米ぬかを混ぜたりビニールなどをかぶせておくことで発酵を促進することができます。
栽培する作物に適した堆肥を選ぶ
家畜ふん堆肥は、畜種ごとで成分が異なります。まずは栽培する作物に適した堆肥を選びましょう。堆肥の種類と一般的に適しているとされる作物について、安芸農業センターの資料にわかりやすい表がありましたので引用します。
タイプ | 作物の栄養吸収特性 | 具体例 | 利用に適した堆肥 |
---|---|---|---|
尻上がり型 | 初期ゆっくり育ち、根や果実の肥大期から収穫期までに養分を必要とする。 | ダイコン、ニンジン、スイカ 、カボチャ等 | 高C/N比 (牛ふん堆肥) |
コンスタント型 | 一般に生育期間が長く、生育全期間にわたって養分を必要とする。 | トマト、キュウリ、ナス、ネギ等 | 中C/N比 (豚ぷん堆肥) |
先行逃げ切り型 | 一般に生育期間が短く、生育初期から養分を必要とする。 | ホウレンソウ、レタス、ジャガイモ等 | 低C/N比 (鶏ふん堆肥) |
土壌微生物は有機物を分解する過程で酸素や窒素を使うためC/N比の高い堆肥を施用すると作物や窒素欠乏(窒素飢餓)になってしまう可能性がありますので注意してください。
堆肥の成分を調べる
地産の堆肥を購入する場合は、堆肥マップを参照にすると良いかもしれません。地域ごとの堆肥の供給・流通・利用状況を可視化した地図やデータベースで、主に農業や地域資源循環を促進する目的で、行政機関や研究機関、民間団体などによって作成・公開されています。自作の堆肥の成分を調べたい方は、農業試験場やJA全農などで分析を受け付けていますのでご活用ください。
家畜ふん堆肥の施用量や肥効率について
家畜ふん堆肥には、腐植の元となる有機物としての効果と、肥料成分としての効果が期待でき、主に有機物としての働きが高いのは牛ふん堆肥、主に肥料成分としての働きが高いのは、豚ふん堆肥や鶏ふん堆肥です。岡山県の資料に栽培作物による施用量の目安を示した表がありましたので抜粋します。あくまでも目安であり、土壌の養分状態が悪化しないことを保証するものではなく、適宜、土壌診断によって養分状態を確認することを必要です。
栽培作物による家畜ふん堆肥施用量の目安(10aあたり)(岡山県の資料より引用)
作物 | 牛ふん堆肥 | 豚ふん堆肥・鶏ふん堆肥 |
---|---|---|
水稲 | 0.5~2.0t | 0.1~0.5t |
普通作 | 1.0~2.0t | 0.1~0.5t |
野菜・花き | 1.0~3.0t | 0.1~1.0t |
果樹 | 0.5~2.0t | - |
飼料作 | 3.0~4.0t | 0.5~3.0t |
茶 | 1.0~2.0t | 0.3~1.0t |
それぞれの堆肥の肥効率(福島県施肥基準より引用)
種類 | 全窒素 | リン酸 | カリ |
---|---|---|---|
牛ふん堆肥 | 30% | 60% | 90% |
豚ふん堆肥 | 50% | 60% | 90% |
鶏ふん堆肥 | 70% | 70% | 90% |
※肥効率とは堆肥に含まれる肥料養分のうち1年間で植物に吸収される状態になる割合
牛ふん堆肥は肥料としての効き目(肥効)が最もゆっくりで、植物に吸収されるまでに時間がかかります。そのため、毎年同じ量を与え続けると、土の中に窒素が蓄積しすぎて窒素過多になる可能性があり、注意が必要です。
牛ふん堆肥を例に施用量を考えてみます。例えば、作物の栽培に必要な元肥の窒素成分が10アールあたり15kgだとします。牛ふん堆肥の窒素利用率はおおよそ30%なので、1年目は以下のように50kgの窒素成分が入った牛ふん堆肥を施用することで、ちょうど15kgの窒素が供給されます。
50kg × 30% = 15.0kg
残りの35kg分(50kg – 15kg)の堆肥中の窒素は土に残り、翌年以降にゆっくり効いてきます。これも同様に30%が植物に利用されるとすると、2年目には次のように約10.5kgが作物に使われる計算になります。
35kg × 30% = 10.5kg
2年目も窒素15kgが必要だとすると、残りの不足分4.5kg(15kg – 10.5kg)を補うために、新たに牛ふん堆肥を追加で施用する必要があります。
15kg × 30% = 4.5kg
つまり、2年目以降は窒素成分が 15kg/10a含まれる牛ふん堆肥を施用するのが適切になります。土壌環境や施用作物によって適量は異なりますので、あくまでの事例の一つとしてお考えください。
牛ふん堆肥施用量 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1年目 | 50kg | 15.0kg | 10.5kg | 7.5kg | 5.2kg | 3.6kg |
2年目 | 15kg | – | 4.5kg | 3.2kg | 2.2kg | 1.6kg |
3年目 | 15kg | – | – | 4.5kg | 3.2kg | 2.2kg |
4年目 | 15kg | – | – | – | 4.5kg | 3.2kg |
5年目 | 15kg | – | – | – | – | 4.5kg |
植物が吸収できる状態の窒素量 | 15.0kg | 15.0kg | 15.1kg | 15.1kg | 15.1kg |
家畜ふん堆肥を施用する際の注意点
① 肥料は必ず適量を守る
肥料過多は、窒素過多による葉の過剰成長や果実の品質の悪化、土壌pHのバランス崩壊や土壌ECの上昇、虫の誘引など様々な問題を引き起こします。施用時に適量を守るのはもちろんですが、家畜ふん堆肥(特に牛ふん堆肥)は緩効性のため、毎年同じ量を連用すると栄養素が過剰になってしまう可能性があります。家畜ふん堆肥を継続して施用する際には、土壌分析を定期的に行うことをおすすめします。
② 石灰との併用は不可
家畜ふん堆肥は、石灰との同時使用は避けるようにしてください。堆肥に含まれている肥料成分がガス化して揮散したり肥料成分が化学反応により失われたりということがあるためです。石灰と家畜ふん堆肥をどちらも使いたい場合は、石灰を撒いてから、夏場で1週間、春秋で10〜14日の間隔を空けて施肥するようにしてください。
堆肥を代替するおすすめの資材 地力の素 カナディアンフミン
家畜ふん堆肥を上手に利用できれば、化学肥料に頼りすぎて発生する多くのデメリットを解消することができます。しかし、輸送や散布の労力の問題は依然として残ります。そこでおすすめなのがフミン酸とフルボ酸が高濃度に濃縮された有機質土壌改良材 地力の素 カナディアンフミン です。カナディアンフミンは、細粒タイプ・粗粒タイプ・ペレットタイプがあります。
粗粒タイプと細粒タイプは20kgで堆肥1tと同等の腐植を含有しているため、堆肥を十分に確保できない場合や、散布作業が負担になっている場合に適しています。堆肥と併用することで、土壌微生物を活発にしたり、発酵時間を促進・短縮し、においを抑えたりする効果もあるため、未熟な堆肥のリスクも下げることができます。ペレットタイプは牛ふん堆肥を含んでいるため、堆肥を投入しなくても土づくりをすることができます。撒きやすい形状で、家畜ふん堆肥の量を削減でき、運搬や散布の労力を大幅に減らすことができるでしょう。様々な作物に適しているので、化学肥料だけに頼らない栽培をしたい方はぜひ参考にしてみてください。
家畜ふん堆肥についてよくあるFAQ
最後に、家畜ふん堆肥について、よくある質問とその回答をまとめました。
Q1:化学肥料と比べて収穫量や使い勝手に違いはありますか?
A:化学肥料と家畜ふん堆肥は、それぞれ特徴が異なります。
化学肥料は即効性が高く、必要な栄養素をピンポイントで供給できるため、短期的な収穫量を最大化したい場合に適しています。また、ペレット状などで機械での散布も可能で作業負荷が軽いのも魅力です。しかし、使いすぎると有機物や腐植物質が少なくなり、土壌微生物の働きが弱くなることで土壌の劣化につながる可能性があります。一方、家畜ふん堆肥は肥効が穏やかで持続性があり、土壌改良効果も期待できますが、肥効が現れるまでに時間がかかります。また、不均一で粘り気のある土のような形状なため、汎用的な農機具での散布が難しく作業負荷が高くなってしまいやすいというデメリットもあります。堆肥はマニュアスプレッダーという専用の機械があれば、機械散布が可能ですがイニシャルコストが高いという点がデメリットです。
Q2:堆肥の臭いや虫の対策はどうすればよいですか?
A:家畜ふん堆肥は、適切に管理しないと臭いや虫が発生することがあります。
臭い対策としては、完熟堆肥を選ぶこと、施用量を適切に調整すること、土壌に深くすき込むことなどが有効です。また、米ぬかやもみ殻くん炭などを混ぜたり、ここでご紹介したカナディアンフミンを使うことでも臭いを軽減できます。虫対策としては、散布前の堆肥はシートや防虫ネットで覆えば虫の侵入を防ぐことができます。堆肥置き場を清潔に保つことも重要です。また、未熟な堆肥の場合は、発酵促進剤で高温環境を作り出すことも有効な手段です。発生した虫には、1~2日程度天日干しして堆肥の温度を60度以上にすれば死滅します。
Q3:家畜ふん堆肥は自分で作れますか?
A:家畜ふん堆肥は、自分で作ることも可能です。材料となる家畜のふん、落ち葉、わらなどを混ぜ合わせ、定期的に切り返し、水分調整を行いながら発酵させます。
発酵期間は数ヶ月から1年程度かかる場合もあり、温度管理や水分調整が重要です。また、十分に発酵させないと未熟な堆肥となり、臭いや虫の発生、作物への悪影響などの問題が生じる可能性があります。そのため、初心者の方は、市販の完熟堆肥を使用することをおすすめします。
Q4:家畜ふん堆肥は連作障害に効果がありますか?
A:はい、家畜ふん堆肥は連作障害対策として非常に効果的で、実際に大豆の連作障害を牛ふん堆肥の施用で改善した事例もあります。
家畜ふん堆肥を施用すれば土壌中の微生物バランスが整い、豊富な栄養素が土壌の栄養バランスを回復させ、作物の健全な成長を促します。異なる種類の堆肥を組み合わせれば、さらに多様な微生物が供給されて土壌の生物多様性が豊かになるでしょう。土壌の物理的性質の改善や水はけ、通気性の向上にも役立ちます。
Q5:家畜ふん以外の有機質肥料には何がありますか?
A:下記のような堆肥がいくつかあります。
● 油かす:植物由来の肥料で、窒素を含み、土壌の微生物活動を活発にします。
● 魚粉:魚の加工副産物で、窒素やリン酸が豊富で、作物の成長を促進します。
● 骨粉:骨を粉砕したもので、リン酸が多く含まれ、根の成長を助けます。
● 米ぬか:米の加工過程で得られる副産物で、栄養価が高く、土壌改良にも役立ちます。
● コンポスト: 生ごみや落ち葉を堆肥化したもので、家庭でも手軽に作ることができる環境に優しい肥料です。
● 緑肥作物:レンゲソウやヘアリーベッチなどの植物を栽培し、土にすき込むことで土壌改良効果が期待できます。
これらの有機質肥料は、化学肥料と比べて肥効が穏やかで持続性があり、土壌環境の改善効果も期待できます。有効な栄養素を含むものを組み合わせるなどでさらに効果を高めることもできるでしょう。
まとめ
この記事では、家畜ふん堆肥の牛・豚・鶏の種類ごとの特徴やメリット・デメリット、選び方や使い方、注意するポイントについて詳しく解説しました。家畜ふん堆肥は、化学肥料に比べてコストが低く、土壌改良効果も高い持続可能な農業に欠かせない資材です。一方、家畜ふん堆肥には未熟な堆肥のリスクや散布など作業負担が大きいなどのメリットもあります。しかし、ここでご紹介したカナディアンフミンやその他の対策を講じれば、それらのデメリットも解消に繋がるはずです。強く高品質な作物の栽培の参考にしていただければ幸いです。
参考資料
・家畜ふん堆肥の30年連用が普通作物収量と土壌理化学性に及ぼす影響(鹿児島県農業開発総合センター)
・牛糞堆肥の肥効率は連用により32%まで高まり安定する(栃木県農業試験場)
・家畜ふん堆肥中リン酸の性質と肥効(新潟県)
・肥料低減事例集(茨城県農業総合センター)
・家畜ふん堆肥の種類(農林水産省)
・「土壌管理のあり方にする意見交換会」報告書(農林水産省)
コラム著者
セイコーステラ 代表取締役 武藤 俊平
株式会社セイコーステラ 代表取締役。農家さんのお困りごとに関するコラムを定期的に配信しています。取り上げて欲しいテーマやトピックがありましたら、お知らせください。