コラム
ビニールハウスにおける農業用フィルムの種類と特徴を解説
公開日2025.06.16
更新日2025.06.16

ビニールハウスにおける農業用フィルムの種類と特徴を解説

農業用のビニールハウスやトンネル栽培などに欠かせない存在となっているのが、さまざまな種類の農業用フィルムです。安定した収量や品質を維持するためには欠かせない資材で、日本の施設園芸の発展を支えてきました。フィルムの種類には、広く普及している農ビや、強度や耐用年数の観点から注目されているポリオレフィン系(農PO)、さらに特殊な機能を備えたものまで加えると幅広く存在します。それぞれの違いを理解することで、経営コストや作業効率に大きな違いが出ることがあります。今回のコラムでは、農ビやPOフィルムといった一般的なものから、特殊機能を持ったフィルムの特徴をまとめています。

ビニールハウスにおける農業用フィルムの役割

農業用フィルムは作物を病害虫や気象環境から守り、栽培に適した環境を整える目的で幅広く活用されています。ビニールハウスやトンネル栽培に代表されるように、フィルムを使って空間を覆うことで外気の影響を抑え、温度や湿度を調整し、ハウス内の作物を保護する役割を担っています。近年はハウス形状の多様化に合わせてフィルムの性能も進化しており、大規模施設園芸から家庭菜園レベルまで幅広く活用されています。残渣処理や通気性の確保など、細やかな工夫をすることで、より効果的な利用が期待できます。

栽培作物に適した環境を保つ

農業用フィルムは、太陽の光を利用してビニールハウス内を温め作物の成長を促進します。地温を高く保ちやすくなり、発芽や根張りなどに良い影響を与えるなどの利点もあります。栽培管理が容易になり作業効率が向上し、生育期間全体を通じて品質の良い作物を生産することにつながります。近年では、光拡散機能や防曇機能などの追加されたフィルムも多く、用途に合わせて選択の幅が広がっています。これらの技術的進歩により、気候の影響を受けにくい環境を整えやすくなり、多彩な作物の栽培にも柔軟に対応できるようになっています。

病害虫から作物を守る

ビニールハウスに用いられる被覆資材は、病害虫による被害を防ぎ、安定的な生産をもたらすという点も大きなメリットです。物理的な侵入を防止するとともに、紫外線カットなどの機能性が付加された資材を用いることで、重要な農業害虫であるアザミウマ類、コナジラミ類、アブラムシ類などの侵入を抑制する効果があるとされています。

天候不順から作物を守る

栽培中の作物を強風や大雨、霜害などから守る点でも評価されています。日照不足や低温などの天候不順を防ぐバリアとして作物を守る重要な役割があります。露地栽培に比べて外部の影響を受けにくいため、品質の向上や収量の増加につながりやすくなるとされています。

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栽培期間を拡大できる

完全な露地では栽培が難しい地域でも、適切なフィルムを選ぶことで、出荷基準に見合った品質の作物を収穫できたり、栽培期間を延ばしたりすることが可能です。季節を問わない作物の生産や、早期・晩期栽培を実現するのに役立っています。露地栽培に比べて外部の影響を受けにくく、かつ栽培期間を拡大する(周年栽培をめざす)ことができるため、品質の向上や収量の増加につながりやすくなるとされていま

被覆資材の種類

農ビ(農業用塩化ビニールフィルム)

農ビは原料に塩化ビニール樹脂を用いた柔軟性の高いフィルムです。ビニールハウス全般だけでなく、トンネル栽培や簡易的な被覆にも利用されます。可塑剤が添付されているため柔軟性があり取扱いがしやすいというメリットがあります。コストパフォーマンスが高く、多くの生産者さんが利用しています。ハウス外張りから内張り、そしてトンネル栽培まで幅広いシーンで活用できます。張り替えの頻度が比較的高いことも考慮しつつ、必要に応じて防霧性や紫外線カットなどの機能が付与された製品を選ぶことが大切です。

主な特徴・メリット

農ビの最大のメリットは、透明度が高いため太陽光を効果的に取り込める点にあります。一般に直進光線透過率は90%程度で、農POに比べて光を通しやすいという特長があります(農POの直進光線透過率は約70~80%)。適度な保温効果が期待でき、冬場や寒冷地での栽培にも有用で、果菜類や葉物野菜など多岐にわたる作物を栽培しやすいという特長があります。また、安価で手に入るため初期導入コストが抑えられ、ハウス全体を覆う場合にも経済的な負担が小さいとされています。普及率が高く入手性にも優れており、多くの農家で扱いやすい素材として選ばれてきました。

キュウリ、ナス、ピーマン、メロンなど湿度の高い環境のほうが品質や収量に良い影響を及ぼすこと作物や、湿度が高いほうが光合成の速度が増加するトマトといった作物は、農ビが向いているという意見もあるようです(後述するPOフィルムでは湿度が下がりすぎるため)。

べたつきがあり展張時に貼りにくいといったデメリットにもなっていますが、べたつきが隙間を減らして密閉度を高めることで保温性を向上させているといった見解も示されています。

デメリット

主にPOフィルムとの比較になります。紫外線など影響を受けて白く濁るスピードが比較的早く、経年劣化によりハウス内部の光合成効率が低下します。また、破れたときに破損部分から傷が一気に広がったり、寒いと破けやすかったりするなど強度面においては劣っています。一般に耐用年数は約1~3年程度です。また、重量とべたつきがあるため、被覆作業をしにくいという点はマイナスポイントです。保温性が高いため高温に弱い作物や、高温にさらしたくない栽培ステージにおいては不向きです。

POフィルム(ポリオレフィン系フィルム)

ポリオレフィン樹脂を主原料としたフィルムで、柔軟性と耐候性を両立させた点が特長です。従来のフィルム(濃ビ)と比べると耐寒性・防塵性・引き裂き強度が高く、長い期間使用できフィルム張り替え回数が少なくなる傾向にあります。

主な特徴・メリット

POフィルムの魅力は、その優れた耐久性と軽量性にあります。フィルムそのものの強度が高く、多少の突風や物理的な衝撃にも耐えやすいといえます。薄くても破れにくく、そしてべたつかないという性質は、ハウスの展張作業時に扱いやすい点が生産者にとって大きな利点です。また紫外線劣化に強いため、農ビに比べて光線低下率が少なく透明性がより長く保たれます(ただし、農ビにも低下率が少ない防塵処理を施した製品はあります)。展張期間が長期化できる(一般に耐用年数は3~5年程度)ため、長いスパンで考えるとランニングコストを抑え、張替え作業負担を軽減する可能性があります。

デメリット

値段が高めに設定されている製品が多く、導入時にはまとまった予算が必要です。ビニールハウスの内部の熱は、遠赤外線という形で外に逃げていきますが、このような放射熱は農ビに比べて多いため、加温ハウスにおいては重油代が増加します。また、紫外線からの劣化を抑えるためPOフィルムに含まれている耐候剤は、うどんこ病の防除に使用される硫黄性農薬や塩素系農薬に弱く、早期劣化を引き起こすという点もマイナス面です。

特殊フィルム(機能性フィルム)の種類

近年は、目的や栽培環境に応じて選択するための特殊フィルムも多数開発されていて、防霧や遮光、抗菌など多彩な機能を備えたフィルムがあるため、栽培条件に応じて複数の選択肢から選べる自由度が高い点も特徴です。これらの特殊フィルムを上手に活用することで、作物の品質・収量向上だけでなく、省エネや病害リスクの低減が期待できます。いずれの特殊フィルムにも共通するのは、目的に合わせた機能が付加されている点です。高品質な製品ほど耐候グレードが上がりますが、高価格帯になることが多いので、導入の際は必要な機能とのバランスを見極めることが大切です。

また、長期間使用していると加工が劣化する場合があるため、定期的にフィルム表面の性能をチェックする必要があるでしょう。状況に応じて張り替えを検討することで、常に最適な光環境を維持できます。

防塵フィルム

ハウスの表面に付着するホコリは太陽の光を遮り、植物の光合成効率を低下させ作物の品質や収量に悪影響を及ぼします。防塵フィルムはホコリが付きにくく、雨や散水によりホコリが流れやすい加工がフィルムに施されています。

防霧フィルム

朝夕や降雨時にハウス内部に生じやすい霧やもやを抑制する加工が施されているのが特徴です。霧やもやは光を遮ってしまうため、防霧フィルムを利用することで十分な光透過性を確保できます。また過剰な湿度で発生を抑えて病害を抑制する効果も期待できます。

防滴フィルム

ビニールハウスの内外の温度差により結露が発生すると水滴となって内部に落ちてきます。結露水は同じ場所に落ちる傾向があり、水滴が葉や果実に落ち続けて湿った状態が続くと病気や腐敗の原因となります。また水滴は光線の透過量を減少させて光合成に悪影響を与えます。防滴フィルムは結露した水分が流れやすい加工が施されており、水滴の発生を抑制します。

遮光・遮熱フィルム

一般に表面は白色で太陽の強い日差しを反射します。夏場の過度な熱や光量を調整し、ハウス内の温度上昇を抑制するため、作業小屋や格納庫、キノコ栽培などに適しています。省エネルギー効果も期待でき、冷房設備を使用するハウスでは電力消費の削減に貢献する場合があります。

赤外線反射フィルム

物体を加熱する性質を持つ赤外線の量を減らして、ビニールハウス内部の作物や地表の温度上昇を抑えるフィルムです。高温環境から作物を守るために活用されます。夏場の過度な熱を抑制することで、高温障害を防ぎ作物の品質を安定させる効果が期待できます。特に高温に弱い作物や病害虫の発生を抑えたい場合に有効です。遮光率や遮熱率は製品により異なるため、作物の光合成に必要な光量との兼ね合いを考慮して選択します。

植物は、太陽光の中でも可視光した利用することができないとされていますが、南極の藻類が赤外線で光合成するとする研究があったり、発芽したての植物が正常に育ちにくかったりするなどの意見もあります。赤外線をカットするとどの程度作物に影響があるか、現在のところはっきりしていませんので、導入時は慎重に判断したほうが良いかもしれません。

紫外線(近紫外線)カットフィルム

紫外線を透過しないフィルム(UVカットフィルム)を被覆したビニールハウスでは、病害虫の発生が抑制されることが知られています。紫外線がカットされた環境下では、灰カビ病や菌核病の菌糸が生育しにくくなります。また、紫外線領域を感知するアザミウマ類、コナジラミ類、アブラムシ類の侵入を抑制する効果があるとされ防除策にもなります。ただし、紫外線を利用して活動しているとされる花粉媒介用のミツバチに影響が出る可能性があったり、果実の着色に影響がでたりすることがあるため、栽培品種によっては注意が必要です。

散乱光フィルム

太陽の光を散乱させることで、ハウス内の日当たりの差による生育の誤差を調整します。また、急激な温度変化を和らげたり、葉焼けや果実焼けを防止したりするなどの効果が期待できます。

まとめ・総括

農業用フィルムは作物の品質や収量を左右する重要な資材です。用途や特徴を理解し、最適なフィルム選定と適切なメンテナンスを行うことで、より効率的に農作業を行うことができるようになるかもしれません。今後も新しい素材や技術が登場していくと考えられますが、どんなに先進的なフィルムであっても適切に使わなければ十分な効果は得られません。まずは基本的な知識をしっかりと理解し、地域や作物に合わせたフィルムを選び、定期的に点検を行うことが成功のカギとなります。

参考資料:
ビニールハウスの環境制御(宮城県農業センター)
光に対する昆虫の反応とその利用技術(農研機構)
害虫の光応答メカニズムの解明及び高度利用技術の開発(農林水産省)

ビニールハウスにおける農業用フィルムの種類と特徴を解説

コラム著者

セイコーステラ 代表取締役  武藤 俊平

株式会社セイコーステラ 代表取締役。農家さんのお困りごとに関するコラムを定期的に配信しています。取り上げて欲しいテーマやトピックがありましたら、お知らせください。

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