ナスに加害するアザミウマとは?
アザミウマは、アザミウマ目に属する昆虫で細長い体形をしています。農業害虫として良く知られているものは、体長が1~2mm程度と大変に小さく、新芽や花芽の隙間に入り込んで生息します(蛹は土中に生息します)。種類にもよりますがアザミウマの活動可能な温度環境は10~35℃程度、最適温度は20~30℃で「卵→幼虫→蛹→成虫」のサイクルを繰り返します。サイクルや産卵数などは種により異なります。特に乾燥と高温の条件が整うと大量に増殖します。1世代のサイクルが速いことも影響し薬害抵抗性が付きやすく、殺虫剤だけでの防除は困難だとされており、抵抗力が発達したアザミウマが多発することもあります。アザミウマの種類により有効な殺虫剤は異なりますが、体長が小さいことから同定が難しいという点もやっかいです。光のある方向に対して向かっていくという正の走行性という特徴を持っています。
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アザミウマに加害されたナスの被害
食害痕(吸汁)による被害
ナス栽培においては、ミカンキイロアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマの被害が特に多いです。ネギアザミウマ、チャノキイロアザミウマの被害も確認されています。植物体の葉っぱ・実・ヘタ・果梗などを、口針を使って植物の汁や組織を吸いとって食べます。加害を受けた場所は褐変したり、組織が破壊されひっかいたような傷になったりします。加害された葉は葉脈にそって小さな白斑ができます、被害が進むと葉の全体が褐変したり、落葉したりして光合成を阻害します。密度が低い場合、ヘタや果梗に白い斑点状の食害痕が発生する程度ですが、密度が高くなると実の皮が加害されます。ミカンキイロアザミウマとヒラズハナアザミウマでは果実への被害は少ないようです。
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ウイルスを媒介することによる被害
ナス栽培において特に問題となるのはトマト黄化えそ病を発症させるTSWV(Tomato spotted with virus)です。ウイルスに感染したアザミウマが健康なナスの株を食害することで感染します。特にミカンキイロアザミウマはTSWVを媒介する能力が高く問題となりますが、ミナミキイロアザミウマ・ヒラズハナアザミウマ・ネギアザミウマなど他の種でも媒介が報告されています。発病した株は迅速に除去しなければアザミウマの発生量に比例するように被害が拡大します。
ナスをアザミウマから守る方法
殺虫剤の散布
アザミウマは種類によって殺虫剤の活性効果が異なるため、まずは発生している種の同定が重要です。一例をあげるとネオニコチノイド系の殺虫剤は、ミカンキイロアザミウマには効果が低いことが知られています。同一系統の殺虫剤を連用すると薬剤抵抗性の発達につながるため、系統の異なった薬剤をローテーション散布するほうが良いとされています。系統の確認には製品ラベルに記載してあるIRACコードを参考にしましょう。名前が違っても成分が同じことがありますので注意してください。アファーム乳剤やディアナSCなど、アザミウマ全般に効果が期待できるとされる殺虫剤もありますが、地域によっては薬剤抵抗性を発達させた種が存在する可能性もあるため、現地での情報収集や状況確認が必要です。
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粘着トラップの活用
大量発生すると手が付けられないため、殺虫剤の散布のタイミングが大切です。黄色や青色の粘着シートを設置して発生状況を把握しましょう。モニタリングを実施して記録をしておけば、どの時点で殺虫剤を散布するのが適切かわかるようになります。粘着シートの色は、アザミウマが集まってきやすい黄色や青色のものを使うと良いでしょう。
雑草や残渣の除去
アザミウマは広食性があるため、圃場周辺の雑草や残渣などはアザミウマの住処になる可能性があります。せっかく、圃場の中でアザミウマ対策を適切に実施しても、周辺から成虫が飛来してきたり風で流されてきたりして株に寄生することがありますので、雑草や残渣は放置せずに除去しましょう。
防虫ネットの被覆
トンネルやビニールハウスへのアザミウマの侵入を防止するため、防虫ネットを被覆する方法です。アザミウマの体長はとても小さいため、目合いの小さいネットを選ぶ必要があります。0.4~0.8mm程度の目合いが推奨されていますが、これより目合いが細かいと風通しが悪くなり、温湿度が上がりすぎて病気を引き起こすリスクが高くなりますので注意が必要です。アザミウマは赤色の波長を認識しにくいという性質がありますので、赤の色がついた防虫ネットのほうが、効果が期待できます。ただしネットの色は太陽の紫外線の影響で日が経過すると退色してしまい効果が低下しますので、定期的な張替え作業が必要になります。
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紫外線カットフィルムの被覆
一般に虫は紫外線の波長を感じて集まってきます。アザミウマも同様にこの性質を持っていますので、施設栽培では紫外線カットフィルムを被覆することでアザミウマの飛来を防ぐことができます。経年劣化により紫外線の透過率は高くなりますので、赤色の防虫ネットと同様に定期的に張り替える必要があります。古い資料になりますが、平成25年度の岩手県研究センター試験研究成果書によれば、ピーマンの施設栽培において紫外線カットフィルムとスワルスキーカブリダニのみで防除効果を発現させたとの報告があがっています。ただし、ナス特有の紫色は紫外線によるものとされているため、紫外線カットフィルムの影響で色付きが悪くなる可能性があります。
赤色LEDの設置
ナスの葉っぱに赤色のLEDの光を照射させると、アザミウマの定着阻止効果があるとされています。一般に昆虫は、餌や生息場所を認識するために緑色に対しての視覚感度が高いとされておりアザミウマも同様です。植物体に赤い光を当てるとアザミウマは対象を認識しにくくなり誘引を妨害すると考えられています。誘引されにくくなると、アザミウマ同士の接触機会が減少し交尾→産卵の回数を抑えることとなります。LED光には殺虫効果はないため、大量発生した場合には効果が期待できません。また夜間に光をあてると誘引されてしまいますので、利用する時間は日中となります。
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白マルチやシルバーマルチの敷設
アザミウマは光を頼りに飛行すると考えられています。自然界では上から太陽の光が注がれていますが、白やシルバーのマルチを地表に設置して光を乱反射させることで、アザミウマは上からも下からも光を感知してしまい、活動が鈍くなります。その結果、成虫同士の交尾や産卵機会を減少させ、増殖を抑える効果が期待できます。また、アザミウマの幼虫は土の中に潜って蛹となるため、マルチの敷設は土壌への侵入を抑えるといったメリットもあります。
天敵農薬の使用
アザミウマを捕食する天敵を用いた防除方法です。農薬としての目的で用いられるものとしてスワルスキーカブリダニ・タイリクヒメハナカメムシなどがあります。人畜への毒性や残留性がなく、農薬散布回数にはカウントされません。スワルスキーカブリダニはアザミウマの幼虫を捕食します。ヒメハナカメムシは飛翔能力が高いため、自らアザミウマを探索し捕食するといった特徴があります。天敵の捕食能力には限りがありますので、アザミウマの密度が高くなった環境では効果が期待できません。殺虫剤は天敵にも影響があるため、散布のタイミングに気を付けたり天敵に影響の少ない農薬を選択するなど使い方に注意する必要があります。
露地栽培では、天敵の虫が自由に移動してしまうため効果はあまり期待できませんが、自然界に存在する天敵が住みやすいような環境を整える方法もあります。例えばヒメハナカメムシはマリーゴールドやソルゴーがあると繁殖しやすいので、これらの植物を圃場周辺に用意しておきます。栽培後は土にすき込むことで緑肥としても活用できます。
ビニールハウスの高温処理
夏にビニールハウスを20~25分ほど密閉し、気温を50℃まで上昇させてアザミウマの密度を抑制する方法です。50℃に到達した時点で直ちに換気して常温に戻せばナスへの影響は見られなかったとの報告がありますが、品種や環境により影響が異なるかもしれませんので実施に際しては十分に注意してください。栽培しない時期であれば、ナスの株の状態を気にする必要はありません。太陽熱を利用してビニールハウス内をアザミウマの致死温度にする防除を行うことができます。
ナスのアザミウマ対策におすすめの資材
虫ブロッカー赤
アザミウマの密度を高くさせないためにおすすめしたいのが、赤色LED防虫灯の虫ブロッカー赤です。日中に赤色の光を電照することで、アザミウマが植物体の緑を認識しにくくなりナスへの誘引を防止する効果が期待できます。誘引されにくくなると成虫同士の接触機会が減少するため、アザミウマの密度の上昇を抑える効果が期待できます。農薬(殺虫剤)を散布する回数を減らすことができれば、薬剤抵抗性の発達を抑えることにもつながります。電源があれば吊り下げるだけですから、簡単にアザミウマ対策を実施できます。圃場の電源に応じて100Vタイプと200Vタイプがお選びいただけます。
てるてる
次にご紹介したいのが太陽光の反射を利用して、アザミウマを攪乱させる乱反射型光拡散シートてるてるです。てるてるは特殊な繊維構造をしており、高い反射性能と赤外線遮蔽機能をもった白色シートです。てるてるを敷設すると太陽の光が乱反射して、さまざまな角度からアザミウマに光があたります。アザミウマは明るい方向に背を向ける修正があり、自然界では太陽光をたよりに行動しますが、光が多方面からあたると混乱して行動が停滞するという傾向があります。虫ブロッカー赤と同様に成虫同士の接触機会を低下させる効果が期待できます。虫ブロッカー赤と同時に使えば、上からの光では届かなかった葉裏や柱の影などにも赤色光をあてることができ、より効果的です。
アザミウマの密度を高めない対策を実施しましょう
アザミウマは一度大量発生してしまうと、あらゆる対策も効果が期待できなくなってしまいます。圃場でアザミウマを全て駆逐することはできませんが、密度が高くならないように、そして薬剤抵抗性を発達させた種を出現させないように、防除のポイントをおさえて複合的な対策が大切ですね。今回のコラムをお役立ていただければ幸いです。
参考資料:
・施設栽培ナスにおけるハウスの密閉高温処理によるミナミアザミウマの防除
(和歌山県農業試験場研究報告)
・紫外線カットフィルムが施設ピーマンの作付初期に寄生したミカンキイロアザミウマの密度に与える影響
(岩手県農業研究センター)
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。