コラム
難敵病害虫ミカンキイロアザミウマから作物を守れ!
公開日2023.04.28
更新日2023.04.28

難敵病害虫ミカンキイロアザミウマから作物を守れ!

作物への食害だけでなく、ウイルスを媒介し被害を広げるアザミウマは多くの種があり、日本国内では農産物に加害するアザミウマ類は40種ほど確認されているようです。薬剤抵抗性がつきやすいことと、微小な害虫で新葉や花の隙間に隠れていることなど、農薬(殺虫剤)だけでは防除が難しいという厄介な農業害虫です。今回のコラムでは、ミナミキイロアザミウマやヒラズハナアザミウマと同じくトポウイルスを媒介するミカンキイロアザミウマについて解説したいと思います。

ミカンキイロアザミウマとは?

ミカンキイロアザミウマのもともとの生息地はアメリカ西部とされ、花き類の移動に伴い1970年ごろから世界的に広がり始めました。日本国内では1990年に千葉県や埼玉県で発生が確認されると、間もなく全国各地で被害が出始めました。被害を受ける農作物は多岐にわたり、イチゴ・メロン・トマト・ナス・キュウリ・ピーマンなどの果菜類、柑橘系・イチジクなどの果樹類、シクラメン・トルコギキョウなどの花き類を加害します。

雄成虫の体長は1.0~1.2mmで体色は明るい黄色、雌成虫の体長は1.4~1.7mmで体色はミカンのような橙色(低温時に褐色化する個体が増える)です。ミナミキイロアザミウマネギアザミウマなどとよく似ており、目視で判別することは困難とされ正確に判別するには検鏡が必要です。他のアザミウマと同じように単為生殖・両性生殖を行うことができ、単為生殖で生まれるアザミウマは雄となります。

ミカンキイロアザミウマの成虫は15~30℃で1~3カ月生存します。5~10℃の低温帯において絶食耐性が高く、寄生する植物の少ない冬期でも越冬が可能とされています。高温耐性は低く45℃では60分以内で死亡すると考えられています。

ミカンキイロアザミウマの被害

幼虫・成虫は口針のような口器を叩きつけて植物組織を壊し、新芽・花・葉などの汁や組織を摂食します。密度が高くなると果実を加害しやすいという傾向があるようです。開花が始まると花に集まりやすくなりますが、これは雌成虫が産卵するときに花粉を必要するためではないかと考えられています。吸汁された箇所は萎縮したり、かすり状の斑点(白斑)が発生したり、果実が曲がるなど奇形果の原因になったりするため、加害された作物の品質は著しく低下します。加えて、植物の病気を引き起こすトマト黄化えそウイルス(TSWV)キク茎えそウイルス(CSNV)・インパチェンスえそ班ウイルス(INSV)などの病原ウイルスを媒介するため被害を食い止めないと収量を大きく減少させる原因となります。

雌の成虫は葉や花の組織内に産卵し、孵化した幼虫は新芽・新葉・花弁などを食害します。そして、落葉や土の中へ移動し蛹になり羽化後、成虫になり摂食および生殖行動を行います。蛹の間は加害しません。成虫の飛翔する能力は低いため風にあおられなければ長距離を移動することはありません。

ミカンキイロアザミウマの防除方法

既に多くの農薬(殺虫剤)に対する抵抗性を備えていることが多く、農薬に頼りすぎない複合的な防除対策が必要となります。

モニタリング(発生調査)を行う

アザミウマ類は気温が温かくなり始める春以降に発生しやすくなります。大量に増殖してからではあらゆる防除方法で効果が低くなりますので、圃場の巡回調査を実施して発生状況を確認しておく必要があります。ミカンキイロアザミウマの成虫は、青や黄に誘引されやすいため、モニタリングには青色や黄色の粘着シートを用いると良いでしょう。密度の推移や気象条件などから発生量を予測して農薬散布のタイミングを計画しておきます。

防虫ネットを設置する

施設栽培において微小な害虫であるミカンキイロアザミウマの侵入を防ぐために設置する防虫ネットの目合いは0.4~0.8mm程度の細かいものが望ましいとされています。ただし、通気性が悪くなることから高温障害や病害虫の発生リスクが高くなりますので注意が必要です。ネットの色は多くのアザミウマ類が認識できない波長とされる赤色がおすすめです。

関連コラム:防虫ネットの正しい使い方|害虫のハウスへの侵入を阻止

LED防虫資材を設置する

多くの虫は地上から低い位置を飛行するため、波長の短い光である紫外線を感じやすいと考えられています。アザミウマ類は近紫外線の350nm程度の波長の光にもっとも誘引されるとされており、この領域の波長を放つLEDを使って誘引し捕虫する方法があります。また、日中に赤色のLED光を植物に照射して、アザミウマ類が植物体の緑色が認識できなくなることで、移動を制限するという方法もあります。

関連コラム:LEDで虫除けが出来る?|昆虫と光の不思議な関係

反射資材を設置する

アザミウマ類は太陽光に対して一定の角度を保ちながら移動する性質を持っていますので、反射資材で太陽の光を拡散させてミカンキイロアザミウマの移動を攪乱する方法です。白色や銀色などのマルチ資材を圃場の周囲や圃場内に設置することで、アザミウマ類の移動を制限します。畝面をマルチ資材で被覆すれば、幼虫が蛹化するときに土の中に潜ることを妨げるという効果も期待できます。

除草を徹底する

広食性害虫であるミカンキイロアザミウマは圃場の残渣や周辺の雑草にも生息していることが多く見受けられます。残渣や雑草を放置せずに適切に処理をすることが大切です。除草を怠ってしまうと、農薬を栽培作物に散布しても残渣や圃場周辺の雑草から発生したアザミウマ類が次々に侵入してくることがあります。

適切な農薬(殺虫剤)をムラなく散布する

ミカンキイロアザミウマには、有機リン系やIGR系の薬剤は有効性が高く、ネオニコチノイド系、ピレスロイド系の殺虫剤は効果が低いとされています。ただし地域によって有効性や抵抗性にはブレがありますので、地域の防除暦を参考にしたり病害虫防除所などの指導を受けたりするなど慎重に薬剤を選択する必要があります。薬剤抵抗性がつきやすいため系統の異なる薬剤をローテーション散布するようにしてください。系統の確認はIRACコードを参考にすると良いでしょう。花や葉の隙間に隠れていますので、ムラなく散布することを心がけてください。

アザミウマ類はサイズが微小のため同定が難しい害虫です。育てている作物につきやすいアザミウマを調べたり、行政が発信している病害虫の発生情報などを参考にしたりして、アザミウマの種類を判断し適切な農薬を選ぶ方法が一般的です。正確に同定するためにはプレパラート標本を作製して観察するなど専門的な作業が必要なため、病害虫防除所や植物防疫所に依頼しなければなりません。

関連コラム:農薬散布の正しい方法と注意点|安全・安心な作物作りを目指して

収穫後の蒸しこみ処理

蛹の期間は土中にいるため、地上部にいるミカンキイロアザミウマを農薬で防除しても、羽化した成虫が再び現れることがあります。そのため収穫後の土の中に残存している蛹を死滅させる必要があります。栽培作物の株元を切り取った後に、透明フィルムで土の表面を覆い太陽熱を用いたり、密閉したビニールハウスの蒸しこみ熱を用いたりして死滅処理を行います。目安としては40℃を超える期間が10日以上続くようにすると殺虫効果が期待できるとされています。

天敵を利用する

施設栽培ではスワルスキーカブリダニ・リモニカスカブリダニ・タイリクヒメカメムシなどが生物農薬として登録されています。土着天敵としては、マリーゴールドやオクラに生息するナミヒメカメムシ、ゴマに生息するタバコカスミカメなどがおり、このような作物を作付けすると保護利用することも可能になるとされています。天敵を殺してしまう殺虫剤の利用は、影響日数を確認して実施する必要があります。

関連コラム:IPM(総合的病害虫・雑草管理)とは?農業におけるIPMの方法メリットを解説

ミカンキイロアザミウマの防除におすすめの資材

スマートキャッチャー

ミカンキイロアザミウマが誘引される波長のLED光を照射して、強力なファンで捕虫袋に捕獲します。反射板により360℃パノラマ放射でまんべんなく光を放ち害虫を誘引します。アザミウマ類だけでなくコナジラミ類・コバエ類・夜蛾類など飛翔害虫を捕虫する効果が期待できます。推奨設置台数は400~500㎡に1台のため、費用の負担も少ないというメリットもあります。

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ミカンキイロアザミウマから作物を守ろう

ミカンキイロアザミウマをはじめとしてアザミウマ類は難防除害虫です。農薬は不必要というわけではありませんが、殺虫剤に頼りすぎてしまうと薬剤抵抗性がついてしまい、さらに防除を困難にしてしまう可能性があります。ミカンキイロアザミウマの防除を実施する際には、複合的な対策を導入し農薬散布の回数が増えすぎないように注意する必要がありそうです。農薬回数の低減は農業従事者の負担を減らすことにもつながりますので、今回のコラムをお役立ていただければ幸いです。

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コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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