コラム
LEDで虫除けが出来る?|昆虫と光の不思議な関係
公開日2020.08.28
更新日2023.06.08

LEDで虫除けが出来る?|昆虫と光の不思議な関係

日没後、街路灯の明かりが点灯しだすと虫が集まってきます。しかし、よく観ると集まりやすい街路灯とそうでもない街路灯があるようです。農業分野では昆虫と光の不思議な関係に関心が高まっています。現在では光環境を人工的に操作し昆虫の侵入を阻止したり、繁殖機会を奪うことで増殖を抑えたりする技術開発が進んでいるようです。このような技術を利用した防除法を「光防除」といいます。今回は光の中でもLEDの光を使った虫除けに関して詳しく記載していきたいと思います。

LEDによる虫除けに注目がされる理由

農業をしていると必ず頭をかかえる問題の一つが“害虫”ではないでしょうか。農作物にとりついて、葉や根を食い荒らし、農作物の収量や品質を低下させ、時にはウイルス病の媒介といった被害を起こす害虫は嫌われる存在です。多くの場合、殺虫剤や農薬を散布することで害虫を駆除することになりますが同じ種類の薬剤を複数回使用していると害虫が薬剤耐性を持ち、効果が落ちてくることがあります。

LEDの光による虫除けが注目されている理由は、耐性がつかないこと、そして薬剤コストがかからないこと、環境にも優しいことが理由です。また最近ではIPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫管理)への関心の高まりによって、注目されている点も理由の一つかと思います。

照明や電灯など光に虫が集まる原因

昆虫の光受容体(光を刺激として受容する感覚器は単眼と複眼のほか、脳による直接受容があるといわれています。このうち人間の目に当たる視覚器官としては複眼が相当します。複眼は数百~数千個の6角形をした目が整然と並んだ集合体で、球面状に発達しています。頭を動かさなくても広い視野が得られるのが特徴といわれています。

●昆虫の光に対する反応

昆虫の光に対する反応で知られているのは、夏の夜に蛾(ヤガ)などが街燈に群がる様子が知られています。この光に集まったり避けたりする習性を「走光性」といい、古くから誘蛾灯などに利用されてきました。

また昆虫は太陽や月の明かりを基準に飛翔する種類がいます。遠距離からくる光は平行線のように見えるので一定の角度を保って飛翔していれば直線的に飛ぶことが出来るのですが、街路灯を月と間違えた蛾は光源までの距離が近いので街路灯を中心とした放射状のラインに対し一定の角度で飛ぼうします。街路灯の周りをぐるぐるまわり、どんどん半径が小さくなる飛び方をする結果、集まってくるように見えるようです。

昆虫の光に対する反応は「走光性」以外にも「明順応」や「日周リズム」、生殖にかかわる「光周性」・遺伝情報を破壊する「障害」・紫外線情報を遮断することによる「視覚遮断」・太陽光を地面から反射させて上下を混乱させる「光背反応」などが知られています。この反応の分類は研究が進むとさらに細分化され新しい反応が追加される可能性があります。

●昆虫の光に対する具体的な反応

・誘引:「正の走光性」
光源に向かってくる性質を利用した防除方法で古くから利用されてきました。たいまつでおびき寄せ、焼き殺すことが行われていたようです。現在では昆虫によって好む波長や強度が異なることがわかってきました。

・忌避:「負の走光性」
光源から遠ざかったり、明るい光を避ける性質を利用した防除です。良く知られているのはゴキブリで、明るい場所に放つと、暗い場所(物陰)に入ろうとします。この性質を利用し昆虫が苦手な光を照射して圃場への侵入を防ぐことが期待できます。

・視覚細胞内の色素顆粒を光の強弱に応じ移動させることによりおこる反応:「暗・明順応」
夜行性の蛾は、夜間や暗闇に順応した状態(暗順応)で目に光を当てると、猫の目のように光る現象が見られます。そのまま数分光を当て続けると、昼間の目の状態(明順応)に順応します、昼間と勘違いした個体は飛翔をやめたり、産卵行動を中止することが知られています。

・日周リズム
脳や中枢神経にある体内時計(生物時計)は、昼夜の明暗サイクルによって順応しているそうです。この性質を利用して夜間に光を照射することによって生物時計の攪乱を計り、飛翔や求愛行動の活動タイミングを乱すことが期待できます。

・光周性
植物にも短日・長日があるように、昆虫にも日の長さと温度で季節を認識し活動を決定していると考えられています。長日から短日をきっかけとして越冬準備に入ろうとする昆虫に夜間、光照射を一定期間行うと休眠誘導が起こらず越冬しないまま冬を迎えてしまうため、防除できることが期待できます。

・障害
近紫外線は強い殺菌作用を示すことがわかっています。細胞内にある遺伝情報を破損することにより正常な発達を妨げることで殺菌効果を発揮します。農業分野では収穫後の殺菌処理などで期待されています。

・視覚遮断
昆虫が見て物体を認識している光成分を遮断することにより物の認識が出来なくなるといわれています。例えば窓ガラスに近紫外線カットフィルムを張っておくと、夜間に室内で灯りをつけても虫からは明かりが見えないため、虫が寄ってこないことが期待できます。

・光背反応
トンボは飛びたつときに空からの光を背中で受けることにより上下の姿勢を保つといわれています。地面に高割合で光を反射するシートを置き、この上でトンボを飛翔させようとすると、上下の感覚がマヒし正しい姿勢で飛び立てなくなるようです。

●昆虫の複眼の秘密

昆虫の複眼は3種類の視細胞(光受容細胞)から構成されているようです。この視細胞は特に紫外線・青・緑に反応することが知られています。ちなみにミツバチの場合、見ている領域は250nm~650nmといわれ(人間は380nm~800nm)、人間が見ることが出来ない紫外線領域(250nm~380nm)をみているようです。テレビなどで昆虫の物の見え方(花を見たらどう見えるか)の映像を紫外線透過フィルターを使って白黒で表示することがありますが、昆虫はこの領域もカラーで見ていると考えられています。

近年は発光ダイオード(light emitting diode: LED)の性能が飛躍的に向上しています。紫外線領域から赤外線領域までの生産が可能となり、特定の周波数で狭帯域(±20nm位)のLED発光レーザーが使えるようになってきてからいっそう研究が進んでいます。

以上のように、昆虫は光に対してさまざまな反応を示すことが分かってきています。さらに昆虫は完全変態するものしないもの、その一生の時期、生理状態(空腹時・満腹時、日周リズムなど)によっても反応する波長、光の強弱があることも分かってきているようです。

光防除の実用化

昆虫の光応答反応を利用した防除技術の分類を、(独)農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域 昆虫相互作用研究ユニット 霜田政美先生が分かりやすく公開されていますので引用させていただきました。

昆虫の光に対する反応と害虫防除への利用
光を利用した害虫防除のための手引き

●光防除の実用について

光応答反応の種類 防除機器・資材 主な作用時期 光源
1)誘引 電撃殺虫器 夜間 LED/蛍光灯/電球
色彩版トラップ 昼間 太陽光反射
2)忌避 色彩版トラップ 昼間 太陽光反射
赤色ネット 太陽光透過
3)明順応 黄色ランプ 夜間 LED/蛍光灯/電球
4)日周リズム
5)光周性 発表時点では無 夜間 LED/蛍光灯/電球
6)障害 光殺虫器 全日 紫外線ライト等
7)視覚遮断 紫外線カットフィルム 昼間 太陽光透過
8)光背反応 高反射マルチ 昼間 太陽光反射

光源:原文では「人工光照射」となっていますが「LED/蛍光灯/電球」に変えてあります

●光防除技術の実用化でわかってきたこと

・誘引
誘引でもっとも知られているのは、誘蛾灯ではないでしょうか。24時間営業のコンビニは夜行性の虫が集まりやすい環境ですので、電撃装置を備えた殺虫器(捕虫器)が設置されているのをよく見かけます。夜行性のほとんどの昆虫は近紫外線に集まる傾向があるといわれ、光源に近紫外線を多量に含むブラックライトを使った製品が市場で多く見受けられます。約360nm~390nm付近の波長が有効と考えられています。なお、お茶やかんきつ類の重要害虫チャノキイロアザミウマは緑の520nmの波長の誘引性が近紫外線よりも高いという報告もあるそうです。

一方、昼行性の昆虫に対する防除では、光照射より太陽光を反射する色彩版トラップが有効という研究もあります。昆虫により好みの波長が異なるため、その昆虫に適合した色彩版トラップを選ぶと効果的です。最近では害虫を捕殺するために誘引するのではなく、天敵を集めるための技術開発も行われています。

・忌避
忌避については、まだよくわからないことが多いようです。誘引行動を起こす光との組み合わせによる混色で忌避行動が起こっていると予測されています。ミカンキジラミに黄色と青色の粘着トラップを仕掛けどちらに多く集まるかを実験したところ、黄色に多く集まったとのことです。青色の450nmの波長が含まれると誘引が抑えられると考えられます。

・明順応
ナシやモモなどの果実の害虫であるヤガ類の対策で黄色蛍光灯が実用化されたことで、現在では夜行性の蛾に対する光防除が普及しています。黄色蛍光灯は成虫の飛来を防ぐのと同時に産卵行動を抑制する効果が見られます。ハスモンヨトウやオオタバコガの防除にも威力を発揮しています。広範囲のカバーを必要とする露地栽培では高圧ナトリウムランプが使われています。最近ではLEDの高出力・高効率のランプが開発され順次切り替わっているようです。

・日周リズム
明順応と同じような反応に見えますが、明順応を利用した防除方法は短時間(数分~30分程度)で光照射を行い「即効的に」効果を期待するのに対し、日周リズムを活用した防除方法は、夕方の光照射でわざと日没時間を錯覚させ、通常であれば日没時に開始する求愛活動開始時間を夜半にずらし、求愛活動を攪乱させて交尾チャンスをなくしてしまうことです。体内時計をリセットするには緑色が効果的という報告もあり、どのタイミングで照射すればよいか研究が進んでいるそうです(ちなみにブルーライトを浴び続けると、人でも睡眠障害が発生することがあります)。

・光周性
植物では、短日・長日の研究が進んでいます。昆虫も影響を受けていると考えられていますが、防除としてはまだ有効な方法は見つかっていないようです。

・障害
生物が地上に出現できるようになったのは、オゾン層の発達により紫外線の大半が地表に届かなくなったからといわれています。古くから紫外線の殺菌能力は知られていて、遺伝情報に障害を与え正常な発達・成長が阻害されることから殺菌や滅菌処理に使われてきました。最近では近紫外線以外の光でも成長の阻害が認められるものも見つかり研究がすすめられています。

防虫効果が期待できるLED設備

虫ブロッカ―黄緑・虫ブロッカ―緑

農薬での対策が難しく数百種以上の作物に深刻な被害をもたらす夜行性のチョウ目害虫。「虫ブロッカ―黄緑・虫ブロッカ―緑」は露地・ビニールハウス向けのLED防虫灯です。LEDの光がチョウ目害虫の行動を抑制し拡散を防止します。害虫の生息密度を低下させ、繁殖を一世代で止めることで果実・野菜・花の被害が減少します。また薬剤散布のコストや労力削減、天敵昆虫のコスト削減に貢献します。

虫ブロッカー赤

数百品目を超える植物に深刻な被害を与えるアザミウマ。殺虫剤の耐性を獲得して化学的防除が困難になってきました。虫ブロッカー赤アザミウマ対策ができる赤色LED防虫灯です。赤色LEDはアザミウマの抵抗性を発達させず密度を低下させることに貢献します。

虫ブロッカー赤の設置目安(1機あたり)の推奨ピッチは10m~20m(短いほど効果あり)。赤色LED(ピーク波長657nm)を日中に十数時間程度(日の出1時間前~日の入り1時間後までの点灯を推奨します)照射するとアザミウマの成虫は植物体の緑色の識別が困難になり、ハウスへの誘引を防止すると考えられています。その他、殺虫剤の散布回数減・散布労力減といった効果も期待できます。

てるてる

てるてる」はLED光を利用した虫除けの補助ができる拡散型光反射シートです。従来は太陽光を拡散反射させてアザミウマやコナジラミなどの昼行性飛翔害虫の忌避を促進しますが、虫ブロッカー赤の赤色LED光と合わせて使用することで太陽光+赤色LED光のダブル効果で害虫忌避を期待できます。
イチゴやナスなどの果菜類、ブドウやモモなどの果樹では害虫忌避にくわえて、色付促進効果や色ムラ抑制効果が期待できます。「てるてる」は露地栽培でも施設栽培でも使用できるので、是非一度試してみてはいかがでしょうか。

誘虫効果が期待できるLED設備

スマートキャッチャー

吸引式LED捕虫器(スマートキャッチャー)はビニールハウス向けのLED捕虫器です。農作物被害の原因となるコナジラミ類・アザミウマ類・キノコバエ類・ハモグリバエ類・ヤガ類などの飛翔害虫をLEDの光で誘引し、強力吸引ファンで専用捕虫袋に捕獲します。推奨設置数は10a(1000㎡)あたり2台ですので手軽に導入ができます。

昆虫の生態を知って適切な虫除けの方法にトライ

今回は虫除けに関して、詳しく記載してきました。今後も害虫の生態が解明され適切な虫除けの方法が開発されることを期待していきたいですね。すでに開発されているLEDを用いた虫よけの製品にトライしてみてはいかがでしょうか。

関連コラム:IPM(総合的病害虫・雑草管理)とは?農業におけるIPMの方法メリットを解説

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コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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