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トマト栽培における病害虫の種類と対策を解説
公開日2023.08.01
更新日2023.08.01

トマト栽培における病害虫の種類と対策を解説

トマト栽培の過程で発生する病害虫は、茎葉の光合成能力を低下させることで収量や品質の低下をもたらす他、薬剤散布回数が増加することで、追加の農薬コストや散布労力がかかるという懸念もあります。今回のコラムではトマト栽培で発生する12種類の病気、7種類の害虫の種類と対策を詳しく解説します。ぜひ最後までご一読いただけますと幸いです。

トマトとは

トマト(学名:Lycopersicon esculentum Mill.)はアンデス高原地帯が原産のナス科の野菜です。周年で需要があるため世界で最も栽培されている作物の一つであり、日本における令和3年の収穫量は725,200tにのぼります。果実はそのまま食べる生食用と、加工用の2種類に分けられ、後者は日本では主にジュースの原料として利用されています。糖、ペクチン質、クエン酸、アミノ酸、ビタミン類、ミネラル、リコピン、β-カロテン等の栄養素を豊富に含むため、栄養のバランスが良く、健康を維持するために優れた野菜と言われています。

トマトの病気の種類と対策

灰色かび病

果実、花、茎に灰色のかびが生じる病気です。低温期に密閉状態で多湿となるハウス内で発生しやすいです。通路マルチを行ったり、換気でハウス内の湿度を下げたり、病原箇所を取り除くことで予防できます。ロブラール水和剤、ベルクート水和剤、スミレックス水和剤、ボトキラー水和剤等の薬剤が使用できます。

葉かび病

葉裏にビロード状のかびが生じる病気です。草勢が弱い時、高温多湿や密植時に発生しやすいです。抵抗性品種を利用したり、高温多湿を避けるために換気をすることで予防できます。ゲッター水和剤、トップジンM水和剤、ジマンダイゼン水和剤、カスミンボルドー等の薬剤が使用できます。

青枯病

根が枯れることで、地上部が青枯れた状態になる病気です。発病株の茎を透明な水が入ったコップ等に浸すと白く濁るため、感染の有無を判断することができます。地温30℃以上の高温期に発生しやすいです。抵抗性品種や台木を利用する他、白マルチを使用して地温を上げないことで予防できます。残念ながら一度発生すると有効な薬剤はありません。発生した株を速やかに取り除くことが最善策です。

萎凋病

株の下部の葉から黄化し萎れ、茎の維管束が褐色になる病気です。25~28℃の高温時に発生しやすいです。抵抗性品種や台木を利用することで予防できます。

半身萎凋病

株の下部から黄化して萎れ、茎の維管束が褐色になる病気です。抵抗性品種や台木を利用する他、夏場の高温期にハウス内を耕して太陽熱消毒をすることで予防できます。

立枯病

地面付近の茎が褐色になり、根も腐る病気です。株が枯死することもあります。感染した苗を持ち込むと発生します。オーサイド水和剤やダコニール水和剤等の薬剤が使用できます。

褐色根腐病

毛細根が褐色になり脱落後、太い根も褐色化することで生育が悪くなる病気です。土壌消毒や太陽熱消毒をすることで予防できます。

疫病

葉、茎、果実に褐色の病斑ができる病気です。季節を問わず多湿時に発生しやすく、発生初期に防除しないと感染拡大の阻止は難しいです。露地栽培の場合、畝を高くして多湿を回避する他、定期的に薬剤を散布することで予防できます。ブリザード水和剤、オーソサイド水和剤、ジマンダイゼン水和剤、ダコニール1000等の薬剤が使用できます。

関連コラム:トマト疫病の基礎知識まとめ|発生時の対策と予防(防除)策とは?

トマト黄化えそ病

葉に褐色のえそ斑紋やえそ斑点を生じ、葉の先から黄化して萎れる病気です。発病株は見つけ次第抜き取り、感染拡大させないことが大切です。抵抗性品種を利用する他、ウイルスを媒介するミカンキイロアザミウマネギアザミウマ等のアザミウマ類を防除することで予防できます。

キュウリモザイクウイルス病

葉にモザイク状の病斑ができ、葉の生育が停滞する病気です。アブラムシ等により媒介されます。寒冷紗を使用してアブラムシの侵入を防いだり、発生源となるハウス周辺の雑草等を除去することで予防できます。

トマトモザイクウイルス病

葉にモザイク状の病斑ができ、葉が奇形になることで生育が停滞する病気です。アブラムシ等により媒介されます。発病株は見つけ次第抜き取り、感染拡大させないことが大切です。抵抗性品種を利用する他、穂木や台木にも抵抗性品種を持つものを利用したり、アブラムシの防除や土壌消毒をしたりすることで予防できます。

トマト黄化葉巻病

コナジラミによってウイルスが媒介され、新葉が黄化して葉が巻く症状が現れ、葉が縮れて生育が停滞する病気です。コナジラミの侵入を防ぐために0.4mm以下の目合いの防虫ネットをハウスに張り、循環扇等でハウス内温度を下げ、黄色粘着シートで捕虫することで予防できます。

トマトの害虫の種類と対策

ハスモンヨトウ

幼虫が茎葉、果実を食害します。寒冷紗や防虫ネットを使用してハウスへの侵入を防止し、LED捕虫器を使用して対策します。アタブロン乳剤、ノーモルト乳剤、マッチ乳剤等の薬剤が使用できます。

関連コラム:ヨトウムシ類からトマトを守れ!予防や駆除の方法をご紹介

アザミウマ類(スリップス)

トマトの花に寄生して黄化えそウイルスを媒介します。寒冷紗や防虫ネットを使用してハウスへの侵入を防止したり、ハウス周辺の雑草等を除去して対策します。アーデント水和剤、ベストガード水和剤等の薬剤が使用できます。

関連コラム:アザミウマ類からトマトやミニトマトを守れ!

アブラムシ類

6月~10月頃に発生します。防虫ネットを展張してハウス内への侵入を防止し、殺虫剤の散布で対策します。スミチオン乳剤、オルトラン水和剤等の薬剤が使用できます。

ネコブセンチュウ

根にコブを形成し、根の活動を低下させます。抵抗性品種を利用する他、土壌消毒が効果的です。クロルピクリン、テロン、D-D剤等の薬剤が使用できます。

ハモグリバエ

幼虫が葉に潜り込み、線状に食害します。寒冷紗や防虫ネットを使用してハウスへの侵入を防止し、ハウス周辺の雑草等を除去して対策します。天敵昆虫として寄生バチも利用できます。ダントツ水和剤、カスケード乳剤、オルトラン水和剤等の薬剤が使用できます。

コナジラミ

オンシツコナジラミとタバココナジラミがトマト黄化葉巻病を媒介します。防虫ネットを使用してハウスへの侵入を防止し、黄色粘着シートで捕殺したり、LED捕虫器を使用したりして対策します。オンシツコナジラミにはアグロスリン乳剤、ジプロム乳剤、アドマイヤ―水和剤、トレボン乳剤等が、タバココナジラミにはベストガード水和剤等の薬剤が使用できます。

関連コラム:コナジラミ類からトマトを守れ!|コナジラミによる被害と対策を紹介

トマトサビダニ

葉につくことで、茎葉が褐色になる他果実がさび状になります。薬剤散布が基本です。イオウフロアブル等の薬剤が使用できます。

トマトの病害虫防除の方法|薬剤を使用する

薬剤散布は病害虫から大切なトマトを守る目的で実施しますが、適切な方法で実施しないと防除効果が低くなってしまいます。防除効果が低いと、散布回数が増え、農薬コストがアップし、それに伴い身体的労力も増加します。

ポイント1)
病害虫の発生場所にしっかりと薬液が届くように散布します。特に葉裏は薬液がかかりにくいため注意が必要です。

ポイント2)
耐性菌が発生する場合があるため、同じ成分の薬剤を連用しないことが大切です。また現地でどの薬剤が効きにくくなっているのか、行政やJA等の指導機関で情報収集することをおすすめします。

トマトの病害虫防除の方法|薬剤以外で対策する

換気

トマトの湿度は65%~85%が適していると言われています。多湿は灰色かび病、葉かび病、疫病などの病害が発生しやすくなりますので、施設栽培の場合は天窓や換気扇等を活用しながら適切に湿度管理を行うことが大切です。

関連コラム:ビニールハウスの換気方法|作物に最適な環境を目指して

除草

圃場周辺に生えた雑草は害虫の発生源になります。除草をすることで施設への害虫の侵入(飛び込み)を防止することができます。

防虫ネット

0.4mm以下の目合いの防虫ネットをハウスの天窓、入口、側窓等の開口部に張ることで主にコナジラミによる黄化葉巻病を予防できます。その他、ハスモンヨトウハモグリバエアザミウマ類の侵入を防止し、殺虫剤散布の削減が期待できます。

関連コラム:防虫ネットの正しい使い方|害虫のハウスへの侵入を阻止

粘着シート

農薬を散布するタイミングを知るための農業資材です。黄色や青色があります。主にコナジラミ類とアザミウマ類を捕虫するために使用します。比較的安価に入手できることがメリットです。多数設置すれば発生数の抑制が期待できます。

LED捕虫器

害虫が特定の波長の光に誘引される性質を利用し、誘引したところを電撃で殺虫したりネットに捕虫する装置です。LEDのため消費電力が低くランニングコストがかからないことがメリットです。

天敵昆虫

コナジラミの卵や幼虫を捕食する天敵昆虫としてタバコカスミカメが挙げられます。天敵昆虫は適切な使い方をすることでかなりの効果が期待できる農業資材です。実際にタバコカスミカメの効果としては農薬散布回数を20%以上削減できたという事例もあるようです。デメリットは導入コストが比較的高価である点と、地域によっては使い方がまだ確立されていないことです。天敵の導入時期や天敵温存植物の導入方法等が課題のようです。

LED防虫灯

特定の波長の光を照射することで害虫の行動を抑制することが可能になる防虫灯です。アザミウマ類の場合、赤色の660nmのLEDを照射すると植物体の緑色の識別が困難になり、ハウスへの誘引を防止すると考えられています。またハスモンヨトウの成虫は黄緑色の578nmや緑色の535nmのLEDを照射すると活動量が低下します。

関連コラム:LEDで虫除けが出来る?|昆虫と光の不思議な関係

微生物農薬

灰色かび病と葉かび病の対策としてバチルス・ズブチリス、オンシツコナジラミの対策としてボーベリア・バッシアーナ剤といった微生物農薬があります。微生物農薬の散布回数の制限がないため、耐性菌の発生により使用できる薬剤が少ない時に活躍します。

おすすめの病害虫対策製品

スマートキャッチャーⅡ

ビニールハウス専用の吸引式LED捕虫器です。害虫がある特定の波長の光に誘引される生態を利用しています。525nmの緑色LED光と375nmの紫外線LEDに誘引された害虫を強力吸引ファンで捕虫袋へ捕獲することができます。捕獲できる害虫の種類はハモグリバエアザミウマ類、コナジラミ類、ヨトウガ、ハスモンヨトウ、キノコバエ類、ハモグリバエ類です。害虫が発生する前から設置することで、害虫の大量発生を抑制する効果が期待できます。

虫ブロッカー赤

アザミウマ専用のLED防虫灯です。657nmの波長の赤色光がアザミウマ類の視覚を遮り、作物への被害を軽減、薬剤散布回数の減少、ビニールハウス内外に設置することでアザミウマ類の誘引を防止するという3つの効果が期待できます。虫ブロッカー赤薬剤抵抗性を発達させることなくアザミウマ類の密度低下に貢献します。農薬散布だけに頼らない、新たな対策として注目されています。

 

静電噴口

静電気の力で通常の動噴では届きづらい葉裏への薬液付着量を増加させるツールです。静電噴口を使うことで約30%の農薬使用量の削減も期待できます。トマト栽培へ導入実績があります。用途に合わせた5種類をラインナップしておりますので、圃場環境に合わせてお使いいただけます。

動画はこちら:【検証】静電噴口の約30%の農薬使用量削減効果は本当?!

病害虫対策を行い美味しいトマトを収穫しよう

トマトの病害虫は様々な方法でトマトの株に到達しようとしますが、その到達ルートを遮断することで予防をすることができます。その結果、殺虫剤による防除回数が減り、作業が省力化します。ぜひ本コラムに記載した複数の方法を組み合わせて対策してみてください。本コラムがお役に立てますと幸いです。

関連コラム:
・トマトをビニールハウスで栽培する方法|メリットをご紹介
・トマトを生理障害から守れ!障害の種類と対策について

トマト栽培における病害虫の種類と対策を解説

コラム著者

満岡 雄

2012年に玉川大学農学部生物資源学科を卒業。種苗会社を経てセイコーエコロジアの技術営業として活動中。全国の生産者の皆様から日々勉強させていただき農作業に役立つ資材&情報&コラムを発信しています。好きなことは食べること、植物栽培、アコースティックギター。Twitterを更新していますのでぜひご覧ください。

 

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