コラム
品質や収量が向上する?緑肥としてのひまわりについて解説
公開日2023.08.14
更新日2023.08.14

品質や収量が向上する?緑肥としてのひまわりについて解説

一般の方にとってひまわりは、夏の太陽の下で元気に咲く景観用の花というイメージが強いかと思いますが、農業においては育った植物をそのまま土壌にすき込み肥料とする緑肥作物としても知られています。今回のコラムでは緑肥としてのひまわりの基本的な特長や使い方、そして後作作物の収量や品質を向上させる理由について解説をしたいと思います。

緑肥としてのひまわりの特長とメリット

ひまわりは、土壌深くまで根を張る習性(深根性)を備えているため、保水性や浸水性の向上といった土の物理性の改善に役立つという特長があります。また、生長のスピードは速く葉が太陽の光をさえぎることとなり、他の雑草の生長を抑えるという効果が期待できます。ひまわりの根から分泌される根酸は、土壌の難溶性リン酸を溶解します。さらに、ひまわりをすき込むことでリン酸は後作植物の吸収しやすい状態に変化すると考えられています。ひまわりだけが持つ特長ではありませんが、緑肥は同種または近隣作物の連続栽培による生育不良(連作障害)を防止したり、有害な線虫の密度を低下させ植物の病気を防止したりする効果が期待できます。

関連コラム:緑肥とは?緑肥の種類と使い方を詳しく解説

ひまわりが後作作物の品質・収量を向上させる理由

リン酸吸収を助ける菌根菌と共生しやすい

ひまわりの根は、アーバスキュラー菌根菌と共生しやすい性質を持っています。アーバスキュラー菌根菌の菌糸は直径0.01mm程度と、植物の根の最も細い部分(直径1mm程度)よりもさらに細いため、土壌のわずかな隙間にあるリン酸を吸収することができると考えられています。もともとリン酸は植物が吸収しにくい栄養素ですが、アーバスキュラー菌根菌と共生した植物の根はリン酸の吸収域を広げることとなります。菌根菌は独自で栄養を吸収することができず、植物と共生してリン酸吸収を助ける代わりに、植物から栄養(光合成産物)をもらって増殖します。ひまわりを緑肥としてすきこむとアーバスキュラー菌根菌の密度が高くなり、作物の根にも菌根菌が付着しやすくなりリン酸吸収を助けます。

関連コラム:アーバスキュラー菌根菌とは?リン酸供給の働きと籾殻による活用法

根の伸長を阻害する硬盤層を破砕する

農業機械の加重や偏った化学肥料の施肥などによって、地表から30cm程度の土の中に硬盤層といわれる固い部分が形成されることがあり、これは根の伸長を阻害します。ひまわりは太い根が真っすぐ下に伸びる直根性を備えており、硬盤層に根を侵入させることができると考えられています。すき込み後の根は、腐敗したり枯死したりして硬盤層に隙間が残ることで、硬盤層を破砕する効果が期待できます。

土壌微生物によって団粒構造が促進される

ひまわりだけに特化した性質ではありませんが、緑肥植物をすき込むと土壌に有機物が補給されることとなります。この有機物は土壌微生物の餌になるため、微生物の働きが促進されます。有機物は植物の根が吸収しやすい形へとゆっくりと分解されるとともに、微生物が活発になることで、土壌の団粒構造が促進されるというメリットがあります。

関連コラム:団粒構造とは? 植物が良く育つ土壌に必要な要素と土の作り方

緑肥としてのひまわりの使い方

ひまわりの品種や土壌環境、そしてどのような後作作物を育てるかによって使い方は異なりますが、ここでは一般的な使い方について紹介をしたいと思います。ひまわりの播種量は10aあたり1~2kg程度です。緑肥用のひまわりの種を使い、条蒔きやバラ蒔きを行った後に覆土・鎮圧を行います。種蒔きから45~60日程度で開花(日の平均温度の合計が900℃を超えると開花する)します。ひまわりの草丈が適当な大きさになったら、すき込みます。トラクターなどで、立木のまますきこむ方法が一般的ですが、5cm程度に裁断してすき込む方法や、裁断したものを乾燥させてからすき込む方法があります。1回のすき込みでは残渣が目立ちやすいため、約1~2週間経過したらもう一度すき込むと残渣が目立たなくなり、すき込みを繰り返すほど緑肥の腐熟が促進され効果が高くなるとされています。緑肥の腐熟期間としては、すき込み後20~30日程度を見ておきましょう。開花後は茎が硬くなりやすく、種子をこぼすと雑草化しやすいため、その前にすきこむほうが良いです。ひまわりは吸収力の強い作物ですから、ひまわり用の肥料は必要ないでしょう。

緑肥としてひまわりを使う時の注意点

土壌環境と日当たりに気を付ける

排水性が著しく悪い土壌では生育不良となる恐れがあり、排水性能の劣った土壌では暗渠明渠を設置するなどの対策を実施する必要があります。先に雑草が生長してしまうと、反対に雑草がひまわりの生長を抑えてしまいますので注意してください。条間が狭すぎることも良くありません。隣同士のひまわりの影の影響で徒長しやすくなります。

適度な腐熟期間を設ける

腐熟期間を3~4週間程度設けないと、後作作物に発芽不良や生育障害が発生するリスクが高くなります。

リン酸吸収については効果が得られない場合がある

既に可給態リン酸が十分に存在している土壌では、アーバスキュラー菌根菌自体が増えにくい(菌根菌の存在意義がない)ため、効果は薄いと考えられます。リン酸の吸収向上を狙った緑肥施用の場合、可能であれば土壌診断を実施して土壌にあるリン酸の状況を把握しておいたほうが良いかもしれません。

関連コラム:適量のリン酸施肥のために把握すべき可給態リン酸とは?

おすすめの菌根菌資材|キンコンバッキー

自然環境下においてアーバスキュラー菌根菌が共生する作物を探すのは難しくはありませんが、農地では一種類の作物が栽培されるケースが多いことから、アブラナ科などの非共生作物を栽培し続けると、菌根菌の密度が非常に低くなっている可能性があります。キンコンバッキーにはアーバスキュラー菌根菌が含まれており、施用することで植物の根に共生して作物のリン酸吸収を助ける効果が期待できます。潅水時に使用できる水に希釈するタイプのため手軽に導入することが可能です。

緑肥を活用した農業を見直してみてはいかがでしょうか

リン酸が近い将来に枯渇すると資源だと報道されている影響や、政治的背景から価格が高騰しています。価格高騰を受けて、古くから知られている緑肥が見直されています。化学物質の使用に偏りすぎると土壌の物理性や生物性が失われてしまうため、土づくりにおいてはもう少し有機的な手法を活用することも視野にいれても良いのかもしれません。ひまわり以外にもソルガム(ソルゴー)やヘアリーベッチなど品質や収量を向上させる効果のある緑肥がありますので、圃場の環境や栽培作物に合わせてこれらの緑肥を活用してみてはいかがでしょうか。

参考資料:
植物(緑肥)の機能を利用したリン酸施肥の削減
(農林水産省農林水産技術会議)
・緑肥の導入などによる有用微生物の増殖とリン酸施肥の削減
(農研機構 中央農業総合研究センター)

品質や収量が向上する?緑肥としてのひまわりについて解説

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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