コナジラミとは
成虫は、体長がおよそ1~2mm程度で、翅は白く細長い形状をしており、頭~胴体にかけては黄白色や淡黄色をしています。トマトにおいては果実や葉を加害するだけでなくトマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)を媒介させ、繁殖力が強く殺虫剤抵抗性が高いという特徴を持っているためトマト農家さんにとってはやっかいな害虫です。高温性の害虫のため施設栽培では年間を通して発生のリスクがあり成虫→卵→幼虫→蛹→成虫というサイクルをくりかえします。一般的にトマトを加害する主なコナジラミ類はオンシツコナジラミ・シルバーリーフコナジラミ・タバココナジラミです。
オンシツコナジラミ(学名Trialeurodes vaporariorum)
北アメリカより侵入したとされています。日本では1974年に広島県で初めて確認されましたが、すでにいつかの地域に広がっていたため正確な侵入時期はわかっていません。
シルバーリーフコナジラミ(学名Bemisia argentifolii|英名:Silverleaf whitefly)
アメリカから輸入したポインセチアに寄生し侵入してきたという説が有力です。タバココナジラミの1系統(タバココナジラミ バイオタイプB)として考えている研究者もいます。このシルバーリーフコナジラミ(タバココナジラミ バイオタイプB)が海外から侵入したことでトマトのすす病や黄化葉巻病の被害が増加し問題となりました。日本在来のタバココナジラミは農業上の害虫とは認識されていませんでした。
タバココナジラミ(学名Bemisia tabaci)
1889年にギリシャでタバコを加害する害虫として確認されました。日本では、2003年頃に九州地方で殺虫剤の感受性が異なる個体が発生し、解析した結果、初めてタバココナジラミとして確認されその後日本各地に急速に分布が広がっています。
シルバーリーフコナジラミよりも薬剤抵抗性が高いといわれており、タバココナジラミのなかでもバイオタイプQと呼ばれて区別されるものがとりわけトマトに悪さをします。タバココナジラミはバイオタイプ(生物学的な特徴)が異なるものが20種類以上も確認されています。
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コナジラミによるトマトの被害
すす病を発症させる
幼虫・成虫の排泄物が原因で黒いカビ(糸状菌)が生じてすす病の原因になります。コナジラミ類の幼虫や成虫はおしりから甘露と呼ばれる排出物を葉っぱに残します。これが原因でトマトの葉や果実などにカビが生じてすす病を発症させます。葉っぱの光合成が抑制され生育不良を誘発させ、果実は黒く汚れて商品価値が著しく低下します。
植物体を吸汁する
幼虫・成虫ともに葉裏に寄生して口針で葉っぱを吸汁します。これが原因で葉の葉緑素が抜けて白いカスリ状になり光合成を阻害し、樹勢を低下させます。さらに進行すると枯死します。生長点にある若い葉っぱを好み寄生します。
黄化葉巻病がまん延する
タバココナジラミはトマト黄化葉巻病ウイルスを媒介します。生長点にある若い葉が色あせてきて(緑色から黄色へ変化する)、葉巻症状になります。次に葉脈間が黄色くなり葉っぱが縮れてきます。さらに病状が進行すると節と節の間が委縮し、株全体が委縮状態となります。生育のファーストステージで発病すると、発病した株では収穫が全くできないという事態に陥る可能性もあります。新芽が被害を受けるため着果異常が発生(着果不良果が増加)します。オンシツコナジラミは着果異常を発生させないというのが現在の定説のようです。
コナジラミ類のモニタリング方法と見分け方(目安)
生長点付近の若い葉をはたき、白い成虫が飛び立てばコナジラミ類に寄生されている可能性が高いです。白い楕円形の幼虫や蛹がいないか周辺の葉裏を確認するようにしましょう。
コナジラミ類は黄色に誘引される習性があるので、黄色粘着シートをハウスの出入口などに設置すると捕獲することが可能です。見分け方(目安)については以下の表をご確認ください。
コナジラミ類の見分け方(目安)
種類 | 着色異常果 | 蛹 | 体形の特徴 |
---|---|---|---|
オンシツコナジラミ | 生じない |
コロッケ型 毛状の分泌物が多い |
上から見る左右の羽が重なり胴体が見えず三角形の形 |
シルバーリーフコナジラミ (タバココナジラミバイオタイプB) |
生じる | 流線形で先端が少し細い | 上から見ると左右の羽の隙間から胴体が少しみえ細長い |
タバココナジラミ (タバココナジラミバイオタイプQ) |
生じる | 流線形で先端少し細い | 上から見ると左右の羽の隙間から胴体が少しみえ細長い |
シルバーリーフコナジラミとタバココナジラミとの違いは形態から判別することは難しいため、正確に判断するためにはDNA鑑定が必要です。病害虫防除所か農業試験場に依頼して診断してもらうと良いでしょう。都道府県の病害虫防除所の所在地や連絡先は農林水産省のホームページより確認ができます。
農林水産省ホームページ:都道府県病害虫防除所
トマトを加害するコナジラミ類の対策
コナジラミ類は薬剤耐性や繁殖力が高いため複合的な防除対策が必要です。
モニタリング資材(黄色粘着シート)
コナジラミ類は繁殖力が高いため発生初期の対策が重要です。まずはモニタリングを行いながら発生状況を確認しておくことが大切です。モニタリング資材としては粘着シートが良いでしょう。農業で発生する飛翔害虫の多くは黄色に誘引される性質があり、コナジラミも黄色に誘引されます。粘着シートは黄色の製品を選ぶようにしてください。
薬液(農薬)の散布
オンシツコナジラミ・シルバーリーフコナジラミ(タバココナジラミ バイオタイプB)・タバココナジラミ(タバココナジラミ バイオタイプQ)などの種類によって薬剤耐性が異なると考えられています。シルバーリーフコナジラミ(タバココナジラミ バイオタイプB)は、オンシツコナジラミに有効であった多くの殺虫剤に耐性をもっていたため、新しい薬剤が開発されましたが、タバココナジラミ バイオタイプQはさらに薬剤耐性に優れており、効果の高いものを選択する必要があります。ただし強い薬剤を繰り返し散布すると薬剤耐性が強くなり、効果が低下する恐れがありますので、なるべく同じ薬剤を続けて散布せずにローテーションしながら使用するようにしてください。コナジラミ類は葉裏に寄生しているため葉裏にしっかりとかかるように散布することが大切です。黄色のシートに殺虫剤が含まれていて、シートに接触した雌成虫が生んだ卵は殺虫成分により孵化が阻害されるという製品もあるようです。
防虫ネット
一般的に目合い0.4mm以下の防虫ネットが良いといわれています。コナジラミ類はとても小さな害虫のため、完全に侵入を防ぐことは難しいとされています。おおむねの侵入率は1mm約50%、0.6mm約40%、0.4mm約15%です。侵入率の低い0.4mm以下のネットは防除効果が高いのですが、通気性が悪くなることでビニールハウス内の温度が高くなり、高温障害などを誘発するリスクがあります。温湿度を確認して換気管理を行う必要があります。
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近紫外線カットフィルム
コナジラミは350nm~400nmの波長に正の走行性を示します。ビニールハウスに近紫外線(200nm~400nm)カットフィルムを展張することで、昼行性の特徴を持つコナジラミ類の活動を抑制することができます。近紫外線除去の効果は3年程度の製品が多いようです。活動が抑制され繁殖も起こりにくくなります。
LED捕虫器
害虫が好むLEDの光でコナジラミ類を捕虫します。
蒸し込み処理
蒸し込み処理はトマト栽培終了後に施す処理です。ビニールハウスを密閉して蒸し込みコナジラミ類を死滅させる方法です。農作物の株を抜き取ってから蒸し込むと温度が上がりやすくなります。このとき、根も極力除去します。根を除去することで、コナジラミを死滅させつつトマト青枯病菌や立枯病菌の生存率も減らす効果を得ることができます。抜き取った株はハウス内に積んでおくと温度が上がりきらないので必ずハウスの外に持ち出してください。ハウス内の雑草も必ず除去しましょう。
ビニールハウスを密閉し40℃以上の状態を7~10日以上維持するように管理してください。夏場に蒸し込みを行う場合はビニールハウス内が70℃以上になることがありますので、高温による障害が出やすい機材類は持ち出すか、持ち出せない場合は天窓か側窓を少しあけて温度調節を行いましょう。
圃場周辺の雑草除去
コナジラミ類はハウスの中だけではなく、ハウス周辺の雑草にも生息しています。定植までに除草してコナジラミが住みにくい環境を整えることが大切です。増殖する原因となる雑草類は徹底的に除去しましょう。
捕食性天敵
タバコカスミカメ
カメムシ目カスミカメムシ科の昆虫です。体長は3~3.5mmほどで薄緑色をしています。捕食性が高く、コナジラミ類の防除に役立ちます。以前は生物農薬として登録がされておらず、自然に生息しているものをおびき寄せて使用することしかできないため、防除に利用可能な数を捕獲することは困難でしたが、2021年5月に農薬登録されたことにより、購入が可能になりました。タバコカスミカメはコナジラミが多発している間は、主にコナジラミを捕食しますが、コナジラミの数が減ってくるとトマトの茎や葉柄などを吸汁する性質があるため注意が必要です。ピーマン・シシトウなどを加害することがありますので、使用する際には周辺農家さんの栽培作物を確認しながら導入する必要があります。
オンシツツヤコバチ
昆虫網膜翅目ツヤコバチ科に属するオンシツコナジラミの天敵昆虫です。成虫になる前はオンシツコナジラミの幼虫の卵に寄生します。寄生された幼虫は10日前後で黒色に変化するため、葉裏を覗いて観察することができます。成虫はコナジラミの体液を吸汁し1雌あたり200匹程度のオンシツコナジラミを殺します。
※コナジラミ類を捕食する天敵で有名なスワルスキーカブリダニとリモニカスカブリダニのカブリダニ類は花粉などを餌として増殖しコナジラミ類を捕食しますが、トマトの表面を覆っているトライコームからにじみ出る物質がカブリダニ類の死亡率を高めるため、トマトでの利用には向かないと考えられています。
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コナジラミ類の加害から圃場を守り品質の良いトマトを育てましょう
個体数が増えると手をつけられなくなってしまうコナジラミ類。早めの対策と複合的な防除施策を行うことが大切ですね。今回のコラムを皆様の圃場のトマトづくりにお役立ていただければ幸いです。
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コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。