イチジクを加害するアザミウマ
アザミウマは、広食性が高くさまざまな農作物を加害する農業害虫の一つとして知られています。スリップスと呼ばれることもあります。植物の組織を壊しながら吸汁し、加害を受けた場所には褐変が生じます。飛翔能力は高くありませんが体長が1~2mmと小さく軽いため、圃場周辺から風で流されてくることがあります。卵から成虫になるまでのサイクルが短いため、同一系統の農薬(殺虫剤)を散布しつづけると薬剤抵抗種発生のリスクが高くなります。イチジクでは、ヒラズハナアザミウマ・ハナアザミウマ、次いでネギアザミウマの被害が多く、その他にもミカンキイロアザミウマ・ミナミキイロアザミウマ・キイロハナアザミウマ・ビワハナアザミウマ・ダイズウスイロアザミウマ・チャノキイロアザミウマなどの被害が確認されています。
アザミウマは、トマト黄化えそウイルス(TSWV)・メロン黄化えそウイルス(MYSV)・キク茎えそウイルス(CSNV)などのウイルスを媒介しますが、イチジクでは今のところアザミウマの媒介により発生したウイルス性の病気は確認されていないようです。
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イチジクの被害
アザミウマはイチジクの葉や果実の表面に寄生することは少なく、果実の内部に入り込み加害することが多いようです。そこで問題になるのは、果実の外見では状況を判断するのが難しいということです。被害を受けていないように見えても、果実を割ると食害の影響で中心内部が褐変していたり、場合によってはアザミウマの幼虫や成虫が生息していたりすることがあります。死んだアザミウマから白いカビが発生すると、果肉の腐敗を助長します。一般にアザミウマの被害は1段目から6段目の果実に多いようです。見極めができず、被害果を大量に出荷してしまうと、返品や一時出荷停止となることもあり、収入を失うばかりでなく産地の信頼性の低下につながることとなります。
イチジクは、品種にもよりますが、果実が大きくなると、果頂部に内部に通じる「目」や「へそ」と呼ばれる穴が開き始め、穴の開いた状態が一定期間続くため、ここからアザミウマが内部へ侵入します。イチジクには目の開かない品種もあり、このような品種では内部へ侵入されることはほとんどありません。現在、日本のおもな産地で生産されている桝井ドーフィン・サマーレッド・蓬莱柿(ほうらいし)などは果頂部に目が開く品種です。
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イチジク栽培におけるアザミウマ対策
アザミウマの対策は、薬散だけでは防除が難しいため、以下に紹介する方法を複合的に組み合わせて実施すると良いと思います。
薬散を実施する
殺虫剤の散布は病害虫防除暦を確認の上、希釈倍率や使用回数などの安全使用基準を順守して使用してください。農薬はラベルに作用機構分類であるRACコードが数字や英字で表示されています。殺虫剤分類という形で表示されていると思います。例えばスピノエース顆粒水和剤は「5」(スピノシン系)、モスピラン顆粒水和剤は「4A」(ネオニコチノイド系)といった具合です。具体例を挙げたこの2つは作用機構が異なりますので、ローテーション散布に向いていると判断することができます。反対にこの作用機構の同じ殺虫剤を連用すると、薬剤抵抗種の発生につながり、薬散の効果が低下するため注意が必要です。
赤色LEDを照射する
日中に赤い光を植物体へ照射するとアザミウマ類が誘引されにくくなると報告されています。これは人の目には赤色にみえる波長にたいして、アザミウマは感度が低いため、赤色に照らされた植物体を認識しにくくなるためです。アザミウマの種類によって効果は異なります。「赤色LEDによるアザミウマ類防除マニュアル」(農研機構)によれば、ミナミキイロアザミウマには効果が高く、ネギアザミウマやミカンキイロアザミウマでは効果が低いと説明されていて、植物との組み合わせによっても効果の程度が異なるとのことです。すでに圃場でのアザミウマの密度が高い場合は効果が見込めませんので、アザミウマの発生数が多くなる前に、照射させておくと効果が高くなります。活動が停滞すれば、結果として成虫同士の接触機会が減り、産卵数も少なくなる効果が期待できます。夜間に照射するとかえってアザミウマを誘引させてしまう可能性がありますので、照射は日中だけにしてください。
赤色の防虫ネットを設置する
アザミウマが認識しづらい赤色の防虫ネットを設置する方法です。目合い0.8mm程度の赤色防虫ネットを150cm以上の高さで設置することが好ましいとされています。施設栽培においてはサイド巻き上げ部分など開口部に被覆すると良いでしょう。アザミウマが発生しはじめる前に設置すると効果が高いです。太陽の紫外線の影響でネットの赤色が退色すると効果が低くなりますので、定期的な張替え作業が必要です。
反射率の高い白マルチを敷設する
アザミウマ類など小さい虫は重力を感じることができないため、太陽の光を背中で受けることで地上の方向を確認していると考えられています。白マルチを畝間や周辺に敷設すると、太陽の光が反射して、アザミウマに上からも下からも光があたり上下を認識できなくなります。これによりアザミウマの活動を停滞させる効果が期待できます。シルバーマルチも効果的ですが、光が反射しすぎて眩しく作業者の負担となることがありますので、白マルチがおすすめです。
圃場周辺の雑草を除去する
アザミウマは広食性が高いため、圃場の周辺に生えている雑草にも生息している可能性が高いです。栽培を始める前に雑草の除去を行い、アザミウマが住みやすい環境を排除しておくと良いでしょう。ただし、アザミウマが大量発生したときに草刈りを行うとアザミウマの大移動が起こるリスクがあるため、草刈りは大量発生する前に行うようにしてください。
粘着トラップを設置する
黄色や青色の粘着トラップを圃場内に設置して誘殺する方法です。アザミウマは黄や青の色に誘引されやすいという特徴を持っています。粘着トラップを圃場内に設置しておけば、発生数や発生しやすい場所を把握することができ、モニタリングツールとしても役立ちます。
果頂部分にテープを貼る
イチジクのアザミウマによる被害は主に果頂部の「目」からの侵入により発生しています。「イチジク果口のテープ貼付によるアザミウマ類の防除」(愛知県農業総合試験場)によれば、被害の多い1段目から6段目の果実の「目」に不織布サージカルテープを貼ることで高い防除効果が期待できることが報告されています。テープを貼った部分は色づきが悪くなるため、収穫の10~14日前にはテープを取り除き、実全体の色づきを良くさせる必要があります。10a(1反)あたり67時間程度の労働時間と12,000円ほどの経費が発生するとのことです。
透明のフィルムで袋掛けを行う
「イチジク果実への袋掛けによるスリップス被害と腐敗果発生の防止」(農研機構 福岡農総試豊前・果樹チーム)によれば、果実の横径が20mm前後の幼果に通気性のある透明のポリプロピレン製の袋をかぶせることで、品質を落とさずにスリップス(アザミウマ)被害を軽減したとの報告があります。アザミウマの被害が大きい1~6段目の果実を袋掛けするとして10a(1反)あたり70時間程度の労働時間と90,000円ほどの経費が発生するとのことです。また出荷時は袋内の湿度が上昇し腐敗果が発生する場合があるため、袋を外して出荷する必要があるとしています。
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イチジク栽培におけるおすすめのアザミウマ対策資材1
虫ブロッカー赤|アザミウマ専用の赤色LED防虫灯
アザミウマ類の忌避効果が高いとされる赤色LEDを照射させ、圃場におけるアザミウマの密度を抑えます。赤色の光に照射された植物体の緑をアザミウマは認識することが難しくなり、樹体への誘引を防止します。成虫同士の接触機会を減らす効果も期待できますので、産卵数が増えにくいという傾向があります。農薬(殺虫剤)のように抵抗種を発生されることはありませんので、継続して利用し続けることが可能です。圃場の電源環境に応じて100Vタイプと200Vタイプをご用意しています。電源をつないでひっかけるだけで使用できますので、気軽に導入することができます。IP67準拠の防水性能を備えているため、施設栽培だけでなく露地栽培でもご使用いただけます。
イチジク栽培におけるおすすめのアザミウマ対策資材2
てるてる|乱反射型光拡散シート
てるてるは、光の乱反射機能に優れた農業用のマルチシートです。樹体の間に敷設すると太陽の光を乱反射させて、アザミウマに対して下から光を照射させます。正の走光性を持つアザミウマは、太陽の光とてるてるの反射光により上下から光をうけるため向かうべき方向がわからなくなり、活動が抑制されます。てるてるは特殊な繊維構造により光の拡散反射機能を備えており、日中に太陽の照射角度が変わっても光を反射させやすく、また人の目に入る光も分散させるという特徴があります。イチジク栽培では、果実の着色を促進したり色ムラを抑制したりする効果も期待できます。虫ブロッカー赤と同時に利用すれば、アザミウマが認識できない赤色の光を下からも照射することとなり、より効果の高いアザミウマ対策を実施することが可能です。
複合的な防除方法を利用してイチジクをアザミウマから守りましょう
アザミウマは薬剤抵抗性がつきやすいため、薬散だけに頼らず、今回ご紹介したような方法を複合的に組み合わせて実施すると良いとされています。やり方によっては、作業者の負担となる薬散の回数を減らすことができるかもしれません。イチジクは、初期投資が少なく、ジャムや加工品としても人気があるため需要が高く収益が安定しやすいというメリットがあります。今回のコラムをご活用いただきイチジクの栽培にお役立ていただけましたら幸いです。
参考資料:
・赤色LEDによるアザミウマ類防除マニュアル(農研機構)
・イチジク果口のテープ貼付によるアザミウマ類の防除(愛知県農業総合試験場)
・イチジク果実への袋掛けによるスリップス被害と腐敗果発生の防止(農研機構 福岡農総試豊前・果樹チーム)