コラム
トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説
公開日2024.07.11
更新日2024.07.11

トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説

トマトの実を健全に成長させるためには、花を適切に受粉させる必要があり、現在はホルモン処理・マルハナバチ・バイブレーターやブロワー(振動受粉)などの手法が採用されています。平成30年と少し古い資料ではありますが、園芸用施設の設置等の状況(農林水産省)によるとトマトの施設栽培におけるマルハナバチの利用割合は、栽培面積の4割ほどです。

従来、ヨーロッパ原産のセイヨウオオマルハナバチが使われていましたが、2006年に特定外来生物に指定され、以降、在来種であるクロマルハナバチへの転換が進められています。今回のコラムではトマトの花を受粉させるマルハナバチにスポットを当てて執筆したいと思います。

トマトの受粉を手助けするマルハナバチ

トマトは風で揺らいで花粉が落ちたり、ハナバチが訪花したりして受粉しますが、風が吹かずハナバチも外からやってきにくいビニールハウス内では受粉が難しくなります。そこでホルモン処理や振動受粉などの方法に加えて、農業資材としてマルハナバチを利用します。他の作物の施設栽培ではミツバチを利用することがありますが、トマトの花は蜜なく花粉が少ないためか、ミツバチの活動は停滞しやすいと考えらえており、主にマルハナバチが利用されています。マルハナバチは学習能力と飛翔能力が高く、施設栽培における受粉活動に適しています。もともと寒冷な地域に生息していたため、毛が多く寒さに強いという特徴があります。一方、暑さには弱いため、高温や高湿度の環境下では活動が低下します。マルハナバチは、トマトの雄しべにぶら下がり、胸の筋肉を振動させて花粉を落とします。このような受粉方法は「振動受粉」と言われ、マルハナバチだけができる受粉方法だとされています。大きめの体に大量の毛が生えているため、たくさんの花粉が体に付着し、一度で多くの花粉を運ぶことができます。幼虫を育てるための食料は、花粉と花の蜜であるため、巣に持ち帰るために活発に受粉活動を行います。

マルハナバチの種類

現在、国内には外来のマルハナバチを含めて16種が生息していますが、施設栽培で利用されているのはセイヨウオオマルハナバチとクロマルハナバチです。日本の農業においては1990年代からヨーロッパ原産のセイヨウオオマルハナバチの利用が始まり、トマトやナスの栽培に用いられてきましたが、2006年に特定外来生物に指定され、取り扱いに際して許可申請が必要になりました。ビニールハウスの開口部へのネットの展張や、出入口を二重構造にするなどの義務があり、違反すると罰則や罰金が科せられる可能性があります。2017年に農林水産省や環境省が「セイヨウオオマルハナバチの代替種の利用方針」を策定し、代替種への変換を進めています。北海道や沖縄県では、クロマルハナバチは在来種ではないことから指定外来種(北海道)、産業外来種(沖縄県)にそれぞれ指定されており利用に制限があります。

セイヨウマルハナバチ

初めて家畜化されたマルハナハチです。1980年代にオランダやベルギーなどにおいて飼育法が確立されました。トマトの受粉作業の効率化に大きく貢献したと考えられています。世界で使用されているマルハナバチのおよそ8割がセイヨウマルハナバチです。1996年に北海道で分布がひろがり、エサの競合や巣の乗っ取りなどによる在来種のエゾオオマルハナバチの減少が確認されたことから2006年に特定外来生物に指定され、「生業の維持」を目的として環境大臣の許可を受けた場合を除き、飼育等が禁止されています。

クロマルハナバチ

本州・四国・九州の在来種で、北海道や沖縄県には元々は生息していません。セイヨウマルハナバチと比較すると「花粉要求量が多い」「UVカットフィルムの下では活動が抑制される場合がある」といった特徴があります。セイヨウマルハナバチの代替種として利用されています。農業資材としては1999年から利用され始め、「マルハナバチのいろは」(農林水産省)によれば、現在では出荷量(コロニー量)のおよそ半分はクロマルハナバチとなっています(もう半分はセイヨウマルハナバチです)。

エゾマルハナバチ

北海道原産のマルハナバチです。北海道ではセイヨウマルハナバチだけでなくクロマルハナバチも、生物の多様性の保全等に関する条例(北海道)で指定外来種に指定されており、利用に制限があります。そのため原産種のエゾマルハナバチの飼育法確立のための研究が進められています。

マルハナバチを使用するメリット

受粉作業を省力化できる

施設栽培において、ハチを使用しない場合には、振動処理やホルモン処理による受粉作業を行わなければなりません。振動処理の場合、バイブレーターやブロアーで花に振動を与えて受粉させる作業が発生します。ホルモン処理をする際にはマスクやゴーグルをつけたうえに、重たい噴霧器を肩にかけて作業します。花のひとつひとつに噴霧したり、生長点には液がかからないように気を付けたりするなど、体力と気力が必要な作業です。巣箱のメンテナンスやエサを与えることといった作業はありますが、マルハナバチを上手に活用できれば受粉作業を省力化することができます。

品質が良くなり、収量が増える

ホルモン処理は、トマトの種を形成するゼリー質の部分が未発達となり空洞果の発生を助長する可能性が示唆されています。マルハナバチによる受粉は、トマトの着果が安定する上に、空洞果の発生を抑制し、重量が重く、形は大きくなるため収量が増えるという意見があります。またホルモン処理により着果させたトマトよりも糖度が高く、ビタミンCが多いという研究結果もあるようです。有機JAS法において、ホルモン処理剤の使用は認められていないため、消費者ニーズが高まっており高単価で販売できる有機農産物として登録をしたい場合にはマルハナバチの活用は欠かせません。

セイヨウオオマルハナバチと同じように働く

クロマルハナバチが利用され始めた当時は、訪花性が劣るという生産者さんの意見もあったようですが、現在ではいくつかの研究で、セイヨウマルハナバチとの差異はないことが示されています。「在来種マルハナバチへの切替に必用な利用技術情報の収集と普及」(農林水産技術会議事務局)では、活動時間・活動個体数・花粉運搬量において有意差は認められなかったと報告されています。また、「農業技術から見たポリネーションの応用研究 施設トマトでのマルハナバチの利用」(浅田 真一・北 宜裕)によれば、着果率・空洞果の発生率・果実の重量などには大きな違いは見られなかったという結果が示されています。

マルハナバチを使用するときのポイント

巣箱についての注意点

巣箱の数が多すぎるとエサが不足して、ハチの数が減少する原因となります。一般に大玉トマトは15aにつき1箱、中玉トマトは10~15aにつき1箱、ミニトマトは10aにつき1箱を目安に設置すると良いとされています。自然の中でハチは雨風や直射日光の影響を受けやすい場所に巣を作りません。巣の中の温度や湿度を適切に管理することが難しくなってしまうためです。巣箱は雨風が防げて直射日光が長時間当たらない場所に設置するようにしましょう。巣が長時間強い太陽の光にさらされるとマルハナバチは蒸し焼きになって死滅してしまうことがあります。35℃以上になると、環境によっては巣の蜜の成分が溶けて幼虫が捨てられてしまうことがあります。

マルハナバチは記憶する能力に長けていますが、ビニールハウス内は景色が似て場所が覚えにくいため、高さを出して設置したり、ハチが記憶しやすい青色を掲示したりするなど工夫をすると帰巣しやすくなるようです。巣箱の前は一定の間隔をあけてハチが出入りしやすいようにしましょう。

施設の開口部にはネットを展張する

セイヨウマルハナバチは特定外来生物に指定されているため、利用する場合にはビニールハウスなどの施設の開口部にネットの展張が義務付けられています。在来種であっても自然の生態系への影響を考えて、ネットの被覆が推奨されています。マルハナバチはわずかな隙間でも施設外に逃げてしまいます。ネットの種類は、目がずれないラッセル織や縦横の糸が熱で融着されたネットなどで、目合いは4㎜以下が良いとされています。出入口はもちろんのこと、妻面や天窓そして換気扇などにもネットを被覆するようにしましょう。

紫外線カットフィルムの影響を受けやすい

紫外線カットの影響を受けて巣箱に戻れないマルハナバチは死んでしまいます。マルハナバチの種類やフィルムの紫外線透過率によって影響が異なるため、マルハナバチの販売業者に確認するようにしましょう。セイヨウマルハナバチのほうが光を感知する領域が広く、クロマルハナバチに比べて影響を受けにくいと考えられています。紫外線カットの割合が70%程度までは活動できるのではないかとされていますが、詳しくはメーカーに問い合わせて確認してください。

薬散に注意する

農薬はマルハナバチに大きな悪影響を与えるリスクが高いため、可能な限り導入前に薬散を済ませ、どうしても散布する場合は、薬散を実施する前に巣箱の入口を閉じて箱をビニールハウスの外(日陰や室内などの涼しい場所)に移動させるようにしてください。殺虫剤だけでなく殺菌剤や殺ダニ剤からも悪い影響を受ける可能性があります。薬散の影響日数を調べて、巣箱は影響日数を過ぎてから再投入するようにしましょう。濃度や散布量によって影響がことなる場合がありますので十分に注意してください。隣地からの農薬のドリフト(飛散)で影響を受ける場合もあります。お隣の農家さんと良くコミュニケーションを図り協力体制を築くことが大切です。

トマトの花粉生成に注意する(≒温度管理に注意する)

マルハナバチは花に花粉がないと訪花活動を行いません。花粉の有無に関係なく、着果することができるホルモン処理が定着した圃場では、マルハナバチに切り替えると花粉量が少なく、マルハナバチの働きが停滞するかもしれません。ハチの活動性だけでなく、トマトの花の花粉生成にも注意を払う必要があります。一般にトマトの栽培適温は15℃~30℃とされています。この温度から大きく外れると、花粉が出にくくなりマルハナバチの訪花活動が停滞します。マルハナバチの活動に適した温度は10℃~30℃とトマトの栽培適温に近いので、温度管理には注意しましょう。また、トマトから花粉がないとマルハナバチのエサがなくなってしまうため、その際は専用の代替エサを用意する必要があります。

使用後は殺処分

せっかく働いてもらったハチに申し訳ない気がしますが、高温期にはビニール袋に入れて日光に当てる、高温期以外は熱湯を巣箱に注ぐなど適切に処理を行うようにしましょう。クロマルハナバチは在来種であっても異なる地域の集団とは違った遺伝子を持っていることで、人工的に増殖させたハチを放出させると遺伝的なかく乱を招くおそれがあると環境省や農林水産省が指摘しています。ハナバチの種類にかかわらず適当な対応が求められています。

マルハナバチを使用するビニールハウスの温湿度管理におすすめの資材

空動扇/空動扇SOLAR|ビニールハウス向け温度調節換気扇

トマトの施設栽培で、トマトの花粉形成やマルハナバチが活動しやすい環境を整えるための温度管理におすすめしたいのが空動扇/空動扇ソーラーです。風や太陽の光のエネルギーを利用してベンチレーターが回転し換気しますので、ビニールハウスの天長部にコンパスカッターで穴をあけて設置するだけで、自動的に熱だまりを排出してくれます。内蔵されている形状記憶スプリングが温度変化に応じて伸縮して換気弁が開閉する仕組みで、設定温度になると自動で換気作業が行われます。開閉温度はおおまかですが0~40℃の間で調節ができます。一度、設定してしまえば、暑い中に換気作業に追われることなく、時間を省力化することが可能です。

トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説(イメージ)
左:空動扇|右:空動扇SOLAR
トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説(イメージ)
空動扇は自然風でベンチレーターを回転させることでハウス内の熱気を排出します。
トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説(イメージ)
空動扇SOLARは自然風に加えて太陽光発電のエネルギーでベンチレーターを回転させるため、無風の日でも換気能力が失われません。
トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説(イメージ)
空動扇SOLARはを設置する場合は、ソーラーユニット単体を回さないようにお願いいたします。故障や部品欠落の原因となります。
トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説(イメージ)
ビニールハウスの上部に設置することで、熱気と湿度を排気します。
トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説(イメージ)
パイプ取付部分の直径は約25mmと約40mmです。25mm側を補助パイプへ、40mm側を母屋パイプに固定します。
トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説(イメージ)
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トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説(イメージ)
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トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説(イメージ)
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トマトとマルハナバチの関係を理解して品質の良いトマトを育てましょう

マルハナバチを上手に活用するためには、トマトという植物の特徴だけでなく、マルハナバチの性質やトマトとの花との関係性をよく理解している必要がありそうです。自然相手の作業になりますので、近隣ですでに導入されている農家さんや養蜂家の意見も聞きながらマルハナバチの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。今回のコラムをお役立ていただければ幸いです。

参考資料:
マルハナバチのいろは(農林水産省)
農業技術から見たポリネーションの応用研究 施設トマトでのマルハナバチの利用(浅田 真一・北 宜裕)
在来種マルハナバチへの切替に必用な利用技術情報の収集と普及(農林水産技術会議事務局)

トマトの受粉に欠かせないマルハナバチの働きについて解説

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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