コラム
アザミウマ類からイチゴを守れ!
公開日2022.02.04
更新日2022.02.06

アザミウマ類からイチゴを守れ!

世界中に生息している害虫のアザミウマ類。果実を変色させてしまったり、ウイルスを媒介させほ場に病気をまん延させてしまったりと、作物を栽培されている農家さんにとっては、とてもやっかいな害虫です。1年中発生する可能性があるアザミウマ類の性質と対策についてイチゴ栽培にスポットを当ててご紹介していきたいと思います。

イチゴに被害を及ぼすアザミウマ類とは

体長1~2mm程度の大変小さな昆虫です。幼虫と成虫ともに新芽・花・果実などを吸汁し加害します。英語名で「スリップス(Thrips)」とも呼ばれています。一般的にイチゴ栽培で被害をもたらすのはヒラズハナアザミウマミカンキイロアザミウマミナミキイロアザミウマなどのアザミウマ類です。ヒラズハナアザミウマは日本在来の害虫、ミカンキイロアザミウマとミナミキイロアザミウマは海外からの侵入害虫であると考えられています。ビニールハウスなどの温室では年間を通じて産卵し世代交代を繰り返します。

25℃における世代・成虫生存期間・産卵数

種類 1世代 成虫生存期間 産卵数(1雌)
ヒラズハナアザミウマ 約10日 約50日 約500個
ミカンキイロアザミウマ 約12日 約45日 約200~300個
ミナミキイロアザミウマ 約14日 約30日 約100個

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アザミウマ類によるイチゴの被害

イチゴの施設栽培においては、成虫は花に寄生することが多く、花弁(花びら)などの組織内に多くの卵を産み付けます。ふ化した幼虫(蛆虫)は花粉を食料にして成長します。その後、ある時期になると土の上に移動して土の中で蛹になり、成虫になると再び地上に表れて花に寄生します。またイチゴ果実の痩果(そうか)やヘタ(ガク)の周辺に寄生し果皮(果実の表面)を吸汁するため、黒ずみ茶色っぽい色(褐変色)になったり、着色不良が生じたりして被害果は商品価値が著しく低下します。特に肥大化する前の若い果実を加害します。

アザミウマ類が増加する時期は3~10月頃で「高温」「乾燥」という条件が揃うと発生リスクが高まります。とくにビニールハウスでは、冬が終わって春に向かう時期は最大限の注意が必要です。イチゴを加害するアザミウマ類は果皮や葉などを吸汁しますが主となるエサは花粉です。
露地においても同様に3月~10月頃にかけて活動が活発になる害虫で、エサが少なくなりはじめる10月~11月に、開花したイチゴの花の花粉を求めてビニールハウス内に侵入してくるケースもあるようです。

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アザミウマ類のモニタリング方法と見分け方(目安)

アザミウマの種類によって特徴や薬剤耐性が異なりますので、ほ場でのアザミウマ類の対策においては種類を特定させることが大変重要です。正確な診断をするためには顕微鏡が必要ですが、簡易的には肉眼やルーペなどで確認することができます。雄か雌か、または季節によって色や体長が異なりますので、中でも体長の大きな個体を対象にして調べるようにしてください。まず花ごとに袋をかぶせてから、袋を数回はたいてアザミウマを採取します。採取したアザミウマを粘着テープなどに固定しルーペ(20倍程度の倍率が良い)などで確認します。色とサイズでどの種類のアザミウマか判断します。アザミウマを完全にほ場から駆除することはハードルが高いと思いますので、目安として10%以上の花にアザミウマが寄生している場合は対策が必要とお考えください。花を100個確認し10個以上にアザミウマが寄生していれば何かしらの対応をします。

イチゴが被害を受けやすいアザミウマ類の見分け方(目安)

種類
(雌成虫)
体長
(雌成虫)
その他の特徴
ヒラズハナアザミウマ 淡褐色~黒褐色
(雄成虫は黄色)
1.3~1.7mm 幼虫は橙黄色
ミカンキイロアザミウマ 橙黄色
(冬:橙黄色~褐色)
1.4~1.7mm 幼虫は橙黄色
ミナミキイロアザミウマ 橙黄色 1.2~1.4mm 成虫の背中に縦線

アザミウマ類による被害の対策

モニタリング資材を設置

青色の粘着トラップを設置しモニタリングを行います。アザミウマ類の種類により誘引されやすい色が異なり、粘着シートには白色・青色・黄色などがありますが、ヒラズハナアザミウマ・ミカンキイロアザミウマ・ミナミキイロアザミウマはともに、青色の波長に誘引されます。春から秋にかけて周辺の雑草地で増殖し侵入してきますので、侵入状況をモニタリングして早期把握を心掛けます。大量に発生してからでは薬剤での防除が有効に作用しませんので、モニタリングを行いながら発生しているアザミウマの種類を把握し早めに対策を行うようにしましょう。最近ではLEDの光を利用しアザミウマ類を捕虫するモニタリング資材も登場しています。

化学合成農薬

アザミウマの種類によって効果のある農薬が異なりますので、種類の見極めが重要です。花弁(花びら)の組織内に産みつけられた卵や、土壌中の蛹には農薬がかかりにくいため十分な効果が見込めない可能性があります。同一系統成分の農薬を連続して使用すると、アザミウマの農薬に対する耐性が向上(感受性が低下)するため、同一系統成分の農薬の連続使用は避けてローテーションしながら薬剤散布を行うようにしてください。地域のJAなどが発信している防除基準なども参考にすると良いでしょう。薬液はイチゴ栽培にとって有益な虫にも悪い影響を与えてしまう可能性があります。アザミウマ類を天敵とするタイリクヒメハナカメムシやスワルスキーカブリダニに影響がないか、また、受粉昆虫のミツバチ・マルハナバチなどへの影響日数を調べてから防除を行うようにしましょう。

雑草の除去

アザミウマ類は餌となる対象植物が多岐にわたるため、ハウス周辺の雑草が発生源となっている可能性も十分に考えられます。雑草の除草が不十分だと、薬剤を散布してもハウス周辺から次々と侵入してきてしまい効果が見込めません。雑草は極力除去すればアザミウマ対策として十分な効果を発揮します。
また、アザミウマは土の中に潜んでいることもあります。可能であれば、太陽熱土壌消毒やクロルピクリンを行って土壌中の蛹を防除すると良いでしょう。

防虫ネット

目合い1mm以下(0.4mm程度が良い)の防虫ネットをハウスの出入口や両サイドに設置しハウス内への侵入を防ぎます。アザミウマは大変小さいので目合いが細かくてもネットをすり抜けてしまうことがありますが、目合いが細かすぎると通気性が低下し施設内の温湿度が高くなる可能性があるので注意が必要です。防虫ネットは、特に赤色ネットの効果が高いとされています。アザミウマ類は主に360nm前後の波長を可視光として認識し行動しているため、620nm以上である赤色の波長は認識することができず、赤色のネットを使用することでアザミウマ類には黒い幕があるように感知され侵入を防ぎやすくなります。紫外線の透過を抑制しビニールハウスに展張すると日中のアザミウマ類の侵入を防ぐことができる近紫外線カットフィルムというものもあるようです。

アザミウマ類の対策におすすめのLED防虫灯

虫ブロッカー赤

数百品目を超える植物に深刻な被害を与えるアザミウマ。殺虫剤の耐性を獲得して化学的防除が困難になってきました。虫ブロッカー赤アザミウマ対策ができる赤色LED防虫灯です。赤色LEDはアザミウマの抵抗性を発達させず密度を低下させることに貢献します。

虫ブロッカー赤の設置目安(1機あたり)の推奨ピッチは10m~20m(短いほど効果あり)。赤色LED(ピーク波長657nm)を日中に十数時間程度(日の出1時間前~日の入り1時間後までの点灯を推奨します)照射するとアザミウマの成虫は植物体の緑色の識別が困難になり、ハウスへの誘引を防止すると考えられています。その他、殺虫剤の散布回数減・散布労力減といった効果も期待できます。

赤色LED光の拡散反射によるアザミウマ類の抑制

赤色LED光の照射がアザミウマ類の行動抑制に効果的であることがわかっていますが、圃場にまんべんなく照射することでより高い行動抑制効果を得ることが期待できます。「てるてる」に照射された光は拡散的に反射するため、通常光の届きにくい影になりがちな葉裏や花弁の裏にまで赤色LED光を当てることができます。アザミウマ類を観察すると逃げるように雄蕊の下や花弁の裏に逃げていきます。このようなアザミウマに対して赤色LED光を照射すると逃げ場所がなくなってしまい吸汁活動や交尾・産卵にまで影響を及ぼすので、徐々に個体数が減っていくことが期待できます。

アザミウマを理解してより良いイチゴ作りを

アザミウマ類は体長がとても小さく増殖スピードが早いことから防除のハードルが高い害虫です。薬剤耐性がつきやすい害虫のため化学合成農薬のみに頼った防除は有効性が低いという評価が近年では専らです。色々な方法を組み合わせて複合的な対策を行ってください。今回のコラムが皆様のお役に立つならば幸いです。

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コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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