コラム
農薬が効かなくなる?害虫や病原菌の薬剤抵抗性について解説
公開日2023.04.14
更新日2023.04.14

農薬が効かなくなる?害虫や病原菌の薬剤抵抗性について解説

農作物の収量を安定的に確保するためには、病害虫の被害を抑えなければなりません。防除を実施する方法として殺虫剤や殺菌剤といった農薬の使用があります。ところが近年、農薬を使用しても防除効果が得られにくい害虫や病原菌が増えてきています。この現象は、限定した地域で発生しているわけではなく世界各国の農業でみられていますが、薬剤抵抗性種の出現は生産者にとって大きな問題です。

害虫や病原菌の農薬に対する抵抗性とは?

農薬は、種類によって殺虫や殺菌するための作用機構が異なります。同じ作用機構の農薬を連続して施用すると、その作用機構に耐性をもった種が発生しやすくなると考えられています。殺虫成分を解毒したり薬剤の作用点を変異させたりするなど、薬剤抵抗性をもった害虫や病原菌が発生します。その割合が増え始めると、農薬を散布しても殺虫や殺菌の効果が得られなくなります。抵抗性のある虫や微生物の出現は、農作物の被害拡大を食い止めることが難しくなり、収量が減少する大きな要因となります。薬剤抵抗性種が増えてきた原因の一つとして、栽培方法や防除技術が広く整ってきたことが影響しているとされています。

薬剤抵抗性のある害虫や、植物への寄生性が変化した病原菌は、従来のものと同一の種に属しており遺伝子型が異なる変種と判断するまでには至らず、バイオタイプと呼ばれています。例えば、タバココナジラミには薬剤抵抗性に優れたバイオタイプBやバイオタイプQなどの分類があります。

なぜ農薬は害虫や病原菌に効果を有するのか?

殺虫剤や殺菌剤といわれる農薬は、どのようにして害虫や病気を予防しているのでしょうか。農薬の作用機構にはいくつかの種類があり、害虫や病原菌の種類によって効き方が異なります。

害虫

害虫に効果的とされる農薬(殺虫剤)はおおまかに神経系阻害・呼吸系阻害・発育系阻害にわけられます。

神経系阻害

虫は神経を通じて電気信号を送り活動をしていますが、この神経に麻痺・遮断・攪乱などを起こす殺虫剤です。有機リン系・ピレスロイド系・ネオニコチノイド系がこれにあたります。

呼吸系阻害

虫は肺がなく気門という穴から空気を取り入れて、気管で酸素と二酸化炭素を交換して呼吸しています。そして取り入れた酸素をエネルギーに変えますが、このエネルギーを合成する過程を阻害するのが呼吸系阻害の殺虫剤です。ピロール系の殺虫剤がこれにあたります。

発育系阻害

害虫の中には発育に伴い数回の脱皮を行う幼虫がいます。脱皮するときには新しい皮膚を生成する必要がありますが、この生成を阻害する殺虫剤です。

病原菌

作物の病気は、糸状菌(カビ)や細菌(バクテリア)によって引き起こされるものと、ウイルスが原因によるものがあります。現在のところ、ウイルスに有効として農薬に登録されているものはないようです。病原菌の生存には核酸・アミノ酸・タンパク質・脂質などが必要でこれらを合成しながら活動をしています。殺菌剤は合成を阻害することで、病原菌の成長や生存を妨げたり、感染や発病のために必要な増殖や感染の機能を失わせたりします。

農薬抵抗性を発達させないポイント

同じ作用機構を持つ薬剤の連用を避ける

農薬の作用機構が同じ薬剤を連用すると、薬剤抵抗性をもった害虫や病原菌が発生しやすくなることがわかっていますので、このような事態を避けるために作用機構の異なる薬剤をローテーションして使用することが重要です。農薬企業の国際的な組織CropLife Internationalが作成しているRACコードで薬剤の作用機構の系統を確認することができます。殺虫剤にはIRACコード、殺菌剤にはFRACコードがありますので、それぞれ参考にしてみてください。最近は、農薬のラベルにコード自体が記載されている製品も増えてきているようです。殺虫剤や殺菌剤以外では除草剤の作用機構を示すHRACコードもあります。

農薬以外の防除方法を準備する

農薬だけで害虫を防除しようとすると、薬剤抵抗性種が発生するばかりでなく、農業作業者にとっての負担が大きくなります。そのため近年はIPM(総合的有害生物管理)といった考え方を取り入れ、防除対策を計画しておくことが一般的です。これは、農薬を使った化学的な防除方法だけでなく、耕種的防除(例:抵抗性のある品種を栽培する)、物理的防除(例:粘着シートや防虫ネットを設置する)、生物的防除(例:天敵昆虫を利用する)といった防除方法を複合的に採用し管理する手法です。

関連コラム:IPM(総合的病害虫・雑草管理)とは?農業におけるIPMの方法メリットを解説

薬剤抵抗性を発達させない防除資材

【アザミウマを防除するLED灯|虫ブロッカ―赤

LEDの光でアザミウマの動きを抑制する防除資材です。赤色のLED光を照射するとアザミウマは植物の緑色を判別することが困難となり、作物へ誘引や定着を防止することができます。交尾の機会や雌幼虫の産卵数が減少し、次世代の幼虫の数を減らすことでアザミウマの拡大を防止する効果が期待できます。アザミウマは薬剤抵抗性がつきやすい害虫とされていますが、赤色LED光による防除は抵抗性を発達させることがないため、継続的に実施できる防除方法です。

【ヨトウムシ・夜蛾を防除するLED灯|虫ブロッカ―黄緑・緑

LEDの光で害虫に昼間と勘違いさせて、活動量を低下させる防除資材です。ヨトウムシや夜蛾類の成虫は、天敵の捕食から逃れるために日中は活動を控えて、日が落ちると動き出す習性があります。夜間に緑色のLED光を照射させることで害虫に昼間と勘違いさせて活動量を低下させます。成虫の交尾や産卵といった活動を抑制しますので、害虫数の増加を抑える効果が期待できます。虫ブロッカ―赤と同様に、薬剤抵抗性を発達させることがありません。

農薬の抵抗性種を発生させない防除計画の作成を

健全な農業経営を実施するためには、作物の収穫量や品質を安定的にする必要がありますので、殺虫剤や殺菌剤といった農薬を用いる方法は、現在のところ標準的な栽培方法ではないでしょうか。しかし、農薬に頼りすぎると、薬剤耐性が発達した種の発生リスクや農作業従事者の散布作業負担が大きくなりますので、農薬に依存しすぎない複合的な防除計画を策定し実施していく必要があります。

関連コラム:農薬を使わない害虫対策|有機栽培と物理的防除

農薬が効かなくなる?害虫や病原菌の薬剤抵抗性について解説

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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