コラム
適量のリン酸施肥のために把握すべき可給態リン酸とは?
公開日2022.12.20
更新日2022.12.20

適量のリン酸施肥のために把握すべき可給態リン酸とは?

リン酸は土壌における肥効のメカニズムが複雑であるため、適正な量を施肥することが難しい肥料です。土の種類によっては強く土壌に固定化されてしまい、作物が根から吸収できない状態(不可給態リン酸)になるという農業生産者にとってはやっかいな性質を持っています。作物を順調に生育するためには、根から吸収可能な状態のリン酸(可給態リン酸)が土壌にどれぐらい含まれているかを知ることが重要になります。

可給態リン酸とは?

土の中にあるリン化合物のうち、作物が根から吸収することが可能なリン化合物のことです。可給態リン酸の計測方法により算出された値(mg/100g)は、土壌の中にある利用可能なリン酸の含量を示します。リン酸は土の中の鉄・アルミニウム・カルシウムなどと結合し、結びつきの強さにより作物の根がリン酸を吸収することを難しくさせます。鉄・アルミニウム・カルシウムの順番にリン酸と結合する力が強く、特に鉄型やアルミニウム型のリン酸は不可給態のリン酸となります。

おおまかに土壌のリン酸は有機態リン酸と無機態リン酸に大別されます。有機体リン酸の一部は微生物の活動により無機化が促進されます。無機態リン酸が鉄型・アルミニウム型・カルシウム型に区分されています。

土壌で不可給態リン酸ができるメカニズム

世界では地表の1%にも満たない火山灰土ですが、日本の地表のおよそ25%は火山灰土です。日本の畑の約半分は火山灰の風化により生成される黒ボク土で、鉄やアルミニウムを豊富に含んでいます。そして、その土は年間に1718mmと世界第3位の降雨量がある影響で酸性に傾いています。酸性土壌では鉄やアルミニウムが土に溶けだしリン酸と強固に結びついてしまい不可給態のリン酸となります。

一方、土壌がアルカリ性に傾く(pHの値が高くなる)と溶け出す鉄やアルミニウムが減ると同時にリン酸はカルシウムと結合し、植物の根から分泌される根酸により溶けるク溶性のリン酸に変化し、栄養分として吸収しやすくなります。

日本の火山灰土壌は、世界一肥沃な土「チェルノーゼム」に匹敵する高品質の腐植物質を多く含んでいるのですが、酸性土壌に傾きやすい影響でリン酸が固定化してしまうというデメリットが生じています。

可給態リン酸の測定方法

トルオーグ法、ブレイ2法、オルセン法の3種類があります。これらの方法は、同じ土壌環境でもそれぞれ大きく異なる結果がでることがあります。最もメジャーな方法はトルオーグ法で、トルオーグ液を利用し、土壌から抽出した水溶液(pH3.0調整の硫酸養液)をモリブデン青法により発色させ、分光光度計で計測します。植物の根から分泌される有機酸類を推定し、土を処理したときに溶けだすリン酸を測定しています。一般に土100gあたり30mg以上が標準的な施肥量であり作物は順調に生長すると考えられています。

トルオーグ法は、県やJAなどでも採用されており、土壌診断としての情報の蓄積が多いため、分析結果をもとに土壌の状態を判断しやすい方法と言われています。一方、測定日当日に劇物試薬を含む試薬液を調整する必要があったり、測定作業が煩雑な分光光度計を操作する必要があったりするなど、農業生産者が気軽に行える検査方法ではないかもしれません。

可給態リン酸は過剰気味?

全国的に可給態リン酸は蓄積傾向にあるとされています。少し古い資料になりますが、1994~1998年に実施された土壌環境基礎調査によると、施設園芸では黒ボク土壌・非黒ボク土壌ともに土壌中の可給態リン酸(有効態リン酸)の量が改善目標値を超えているという傾向が見られます。

 

 

 

1994~1998年の全国調査による畑土壌における可給態リン酸量

  黒ボク土 非黒ボク土
普通畑 施設園芸 普通畑 施設園芸
実測値 48mg/100g 143mg/100g 97mg/100g 229mg/100g
改善目標値 100mg/100g 100mg/100g 75mg/100g 75mg/100g

このような傾向が発生している要因は、化学肥料の進歩により窒素・リン酸・カリといった三大栄養素を含んだ便利な肥料が登場したことにより、これらを利用する生産者が増えたこと、そして、リン酸は三大栄養素とされ、花や実の生長を促進する働きを持っている重要な栄養で、不足すると花の数が減少し、開花や結実が遅れるという生育不良を引き起こす可能性が高くなるため、生産者としてはリン酸を減肥するという対応に舵を切りにくいこと、などがあげられるでしょう。また、リン酸の過剰施肥による生育障害は他の栄養素の過剰施肥にくらべて発生しにくいという点も大きいのかもしれません。

現在は、近年の世界的な肥料価格高騰により農業経営を圧迫することから適正な量のリン酸利用が求められています。土壌診断を継続的に実施し適切な量のリン酸を施肥することの重要性が高くなっているといえます。

可給態リン酸が過剰なときの対策

リン酸吸収係数(土壌にリン酸を固定する力)の高い火山灰土でも可給態リン酸の値が改善目標値を超えている土壌が多いようです。前述のとおり施設園芸においてこの傾向が強くなっています。対策としては単純にリン酸を減肥するということになろうかと思いますが、普通畑や施設園芸においては、減肥の具体的なガイドラインはないというのが現状です(水稲作の減肥指針はあります)。いずれにしても土壌診断を実施し、可給態リン酸の現況を把握してからでないと対策ができません。

関連コラム:地力を評価するために必要なリン酸吸収係数とは?

参考資料:
土壌の可給態リン酸評価法
(農林水産省)
土づくりの現状と課題
(農林水産省)
・農地土壌環境の変化
(農林水産省)

可給態リン酸が不足しているときの対策

酸性土壌の土壌改良を行う

土に含まれる鉄やアルミニウムは、酸性土壌において溶け出してリン酸と固定化するため、土壌のpHを酸性に傾きすぎないように土壌改良を行います。土壌の種類や栽培する作物によって適正な値は異なります。

関連コラム:酸性土壌で大丈夫?酸性度の高い土壌のデメリットと改良方法について

堆肥などの有機物を施用する

有機物は土の中のリン酸を取り囲み、鉄やアルミニウムと結合しないような役割を担っていると考えられています。

関連コラム:圃場の地力、落ちてませんか?土づくりに必要な完熟堆肥とは

ク溶性リン酸肥料を利用する

リン酸吸収係数が高い土壌では、施肥量を増やしても可給態リン酸が増えない場合があります。その際はリン酸固定の起こりにくいク溶性のリン酸肥料を施肥すると良いとされています。

可給態リン酸が不足しているときのおすすめ資材

インドネシア産バットグアノ|リンサングアノ

有機質のリン酸と腐植酸を豊富に含有した特殊肥料です。リンサングアノに含まれているリン酸はク溶性のため土壌での固定化が起こりにくく、肥効が長く続きます。そして腐植酸はアルミニウムやカルシウムを保持するため、リン酸固定を軽減するとされています。また腐植酸には、pHを一定に保とうとする働きであるpH緩衝性能があるため、土壌を酸性に傾きにくくするという働きも期待できます。

 

 

高純度フルボ酸含有100%有機質土壌改良材|地力の素

リン酸が土壌に十分にあることがわかった場合には、リン酸が含まれておらず腐植酸が豊富に含まれた地力の素がおすすめです。腐植酸がアルミニウムやカルシウムを保持し、リン酸固定を防止します。

地力の素の解説動画はこちら

土壌の可給態リン酸を把握し適切な土壌管理を

土の中には、肥効が期待できるリン酸と、肥効が期待できないリン酸があり、リン酸の過剰な蓄積や不足を防ぐためには、土壌の可給態リン酸やリン酸吸収係数などを計測し管理することが大切ですね。定期的に実施する土壌診断の結果を参考に、肥料や土壌改良資材を適切に投入することが品質や収量の向上につながるのかもしれません。今回のコラムを皆さんのほ場の土作りにお役立ていただければ幸いです。

適量のリン酸施肥のために把握すべき可給態リン酸とは?

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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