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アーバスキュラー菌根菌とは?リン酸供給の働きと籾殻による活用法
公開日2021.01.29
更新日2021.05.08

アーバスキュラー菌根菌とは?リン酸供給の働きと籾殻による活用法

農業を営む多くの人は「菌根菌」という言葉を聞いたことがあると思います。では「VA菌根菌」「AM菌」「アーバスキュラー菌根菌」はどうでしょうか。この3つの言葉も聞いたことがある方は多くいるかと思いますが、同じものを指している同義語であると理解している方は少ないかと思います。農業をしていると土壌の上に育っている植物に目が行きがちですが、その植物を養水分的にも物理的にも支えている土壌とそこに生息している微生物に目を向けると、農業をこれまでと違った視点から考えることができるかもしれません。
今回のコラムは土壌微生物の一種であるアーバスキュラー菌根菌について考えていきましょう。

菌根菌とは

菌根菌とは菌根(ミコリザ、Mycorrhiza)を形成する糸状菌のことでカビやキノコの仲間です。菌根とは植物の根の表面や植物の根の内部に共生した状態ものを言い、外生菌根菌と内生菌根菌に分けられます。

外生菌根菌

外生菌根菌は主に樹木の根に形成されその根は見た目にも変化をし、多くはキノコを形成します。例えばマツタケはアカマツなどのマツ科樹木に共生した外生菌根菌が形成したキノコで、近縁種も含めると日本だけでなくアメリカやヨーロッパなどにも分布しています。外生菌根菌の菌糸は、植物の根の皮層細胞の間隙へ侵入し網目状構造(ハルティヒ・ネット)を形成しますが、細胞壁内へは侵入しません。

内生菌根菌

内生菌根菌は根の変化はしないので見た目では菌根菌が共生しているかどうかは判らないため、実験室レベルで根の染色処理を行い顕微鏡で観察しなければなりません。内生菌根菌の菌糸は、宿主植物の細胞壁内まで侵入しています。

野菜や作物を栽培する農家の間で言われている「菌根菌」は内生菌根菌のことを指している場合が多数かと思います。そして、この内生菌根菌はVA菌根菌、AM菌、アーバスキュラー菌根菌を指していることが殆どかと思います。

菌根菌の呼ばれ方

ここではなぜVA菌根菌、AM菌、アーバスキュラー菌根菌と様々な呼ばれ方をされているのかを説明します。まずVA菌根菌ですが、簡単にいうとこれは古い呼び方になります。菌根菌は嚢状体(ベシクル、Vesicle)と樹枝状体(アーバスキュル、Arbuscule)いう器官を根の内部に形成します。以前は嚢状体(Vesicle)と樹枝状体の両方を形成するという意味をもってアルファベットの頭文字を使って「VA菌根菌」と呼ばれていました。しかし、嚢状体を形成しない菌根菌も存在することから樹枝状体(Arbuscule)と菌根(Mycorrhiza)の頭文字を使って「AM菌」と呼ばれるようになりました。つまり、「アーバスキュラー菌根菌」はAM菌のことを指しています。このコラムではアーバスキュラー菌根菌と呼ぶことにします。

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リン酸を植物に供給する役割を担うアーバスキュラー菌根菌

アーバスキュラー菌根菌と植物の関係

アーバスキュラー菌根菌は陸上植物の約80%に共生していると言われています。本来は、植物にとって異物である菌が根から入ってくるのを防ぐために、根を硬くして菌の侵入を防いだり、侵入してきた菌を退治する抗生物質を体内で生成したりするなどの阻害行為が行われるはずですが、アーバスキュラー菌根菌は地球の歴史において植物が陸上に進出した四億三千年ほど前に植物と共生関係を作っており(証拠となるシダ類の化石が発掘されています)、今日までの長い時間において様々な植物と共生できるように進化してきたものと思われます。もともと水中で生活をしていた水生植物が陸上で生活するためには、土壌から栄養を吸い上げる根の機能が進化していないことが問題でした。このような機能不足を補うために、すでに土壌で活動をしていた菌根菌の先祖を利用し、根から栄養を吸い上げる機能を補助してもらっていたと考えられています。

お互いに利益を享受できるパートナー

ではアーバスキュラー菌根菌は植物と共生して何をしているのでしょうか。アーバスキュラー菌根菌は自身から伸ばした菌糸を使って周辺の土壌からリン酸のようなミネラルや水分を吸収し、共生した植物に供給しています。その代わりに、アーバスキュラー菌根菌は植物から光合成産物(糖分など)を受け取ります。その結果、植物はリン酸を基に生育を促進することができ、アーバスキュラー菌根菌は光合成産物を自身のエネルギー源とすることができます。この様にお互いに利益を享受できる共生関係を「相利共生」といいます。

植物と共生したアーバスキュラー菌根菌は胞子を作ります。胞子は共生するのに適当な植物の根が存在すると新たに共生関係を結び、再び胞子を作ることを繰り返し増殖していきます。共生に適当な植物の根が存在せず共生関係を結べないときは胞子のまま休眠状態になります。これはアーバスキュラー菌根菌が「絶対共生」の糸状菌であり、植物と共生できないと胞子が作れず増殖できない性質を持っているからです。このように、植物にとっては有用微生物であり、アーバルキュラー菌根菌にとっては有用植物であるというわけです。

リン酸が多すぎるとアーバスキュラー菌根菌は活動できない

アーバスキュラー菌根菌はどの様な土壌条件下でも活動できるわけではなく、土壌中にリン酸養分が少ないときに活動します。植物はリン酸が不足するとストリゴラクトンという物質を分泌します。ストリゴラクトンを認知したアーバスキュラー菌根菌はリポキチンオリゴサッカライドという物質を分泌し、お互いに存在を認識しあって共生関係が完成します。つまり、リン酸養分の過剰な土壌環境では植物がストリゴラクトン分泌というシグナルを発信しないので、アーバスキュラー菌根菌は植物を認識することができず共生関係を結ぶことができないのです。

土壌にリン酸を施肥しすぎると、植物はストリゴラクトンを分泌しなくなり、アーバスキュラー菌根菌との共生関係を結べなくなるため、土壌中に必要なリン酸があるにも関わらず、効率的に吸収することが難しくなってしまいます。リン酸肥料が上手くいかないという場合は、施肥量が多すぎてアーバスキュラー菌根菌が活動できない土壌環境になってしまっているのかもしれません。

次の章ではアーバスキュラー菌根菌はどの様な農作物と共生することができ、どの様にして農作物に有効効果を与えているかを説明していきます。

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アーバスキュラー菌根菌の活用方法

菌根菌と共生できる植物とできない植物

前述した様にアーバスキュラー菌根菌は陸上植物の約80%に共生すると言われています。これはアーバスキュラー菌根菌の宿主特異性が低いことに由来します。宿主特異性とは生物同士の共生関係が特定の生物同士のみでしか起こらないことを言います。アーバスキュラー菌根菌は様々な植物と共生できますが、例えばアブラナ科やアカザ科とは共生関係を結ぶことはできません。アブラナ科の代表的な農作物はキャベツ、ダイコン、ハクサイ、コマツナなどで、アカザ科の代表的な農作物はホウレンソウ、テンサイ、ビートなどです。
宿主特異性の低いアーバスキュラー菌根菌は殆どの農作物と共生することができますが、一部の農作物にはアーバスキュラー菌根菌共生による生育促進は期待できないので注意が必要です。

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アーバスキュラー菌根菌の使用方法とリン酸の関係

ではアーバスキュラー菌根菌を利用するためにはどうしたら良いのでしょうか。アーバスキュラー菌根菌にも多くの種類が存在しており今日までに少なくとも数百種以上が確認されています。元々どこにでも生息している菌類なので土着のアーバスキュラー菌根菌を利用する方法がありますが、生育促進効果をあまり期待できない種類のアーバスキュラー菌根菌も含まれているので、効率よく共生させるためには資材化された菌根菌を利用することが推奨されます。インターネットで検索してみるといくつかの企業から様々な菌根菌資材が販売されており、対象となる農作物が記載されている場合もあります。この場合、メーカーはその農作物に効果の高いアーバスキュラー菌根菌を選定しているので、アーバスキュラー菌根菌を導入するならばこの様な資材を利用することが良いかと思います。菌根菌資材を利用する場合は播種時の育苗土に混入させる方法或いは定植時に植穴に施用する方法が効果的で、資材施用量も減らせるので経済的に安価で利用することができます。苗が生長していく段階でしっかり共生させることがその後の生育にも効果が表れ易くなります。

しかし、前述したようにリン酸養分が多いとアーバスキュラー菌根菌は活動しません。ではどの位のリン酸量が目安かというと、指標などはなく詳しいことは判っていませんが、土壌診断を通じて土壌中のリン酸量を把握し、リン酸の肥沃度を少し低くすることがアーバスキュラー菌根菌を有効に利用する方法の一つと言われています。

最近は自然栽培や有機栽培など化学肥料に頼らない農業を実践する農家が増えてきました。この様な農地は土壌中のリン酸量が少ない状態が考えられるため、アーバスキュラー菌根菌の力を発揮し易い土壌環境の一つと考えられます。

籾殻燻炭を利用したアーバスキュラー菌根菌の活用方法

アーバスキュラー菌根菌と炭の相性が良いことが知られるようになったのは、ここ数十年のことです。樹木や竹などの植物は炭化することによって多孔質になり、その孔にアーバスキュラー菌根菌が住み着くことができます。一般的に炭はアルカリ性を示します。糸状菌は土壌pHが低い(酸性)と多くなる傾向にあり、高い(アルカリ性)と少なくなる傾向にあります。しかし、糸状菌であるアーバスキュラー菌根菌は炭のアルカリ性環境にも住み着くことができます。これは他の糸状菌の餌となる有機物が炭には含まれていないからで、植物からの光合成産物を頼りに活動しているアーバスキュラー菌根菌にとってはアルカリ性環境の炭であっても好適な生息環境となるからです。

農地で炭を調達する場合は、籾殻を燻炭にして利用することが推奨できます。日本の多くの農業地帯には水田があります。稲刈りが終わった後に稲わらは飼料として或いは粉砕して水田や畑に鋤き込んだりするなど有効利用される機会が多いですが、籾殻はケイ酸質を含むことから飼料には向かず、鋤き込んでも分解に時間がかかり土壌環境のコントロールを難しくするなどの理由から廃棄されるほど余っているのが農業地域の現状です。しかし、燻炭化することで籾殻の分解は早まり保水性や通気性が改善され尚且つアーバスキュラー菌根菌の効果によって生育促進が期待できます。

籾殻の処理に困っている農家は一度籾殻燻炭を農地に施用することを検討してみてはいかがでしょうか。

おすすめの籾殻連続燻炭化装置「スミちゃん

1.商品特徴

スミちゃんは籾殻を連続で燻炭化することができる装置です。お米の脱穀によって生じた籾殻を450℃~550℃程度のやや高温で燃焼して燻炭化させます。10時間稼働させることで生の籾殻約2,500L~3,500Lから約800~1,000Lの籾殻燻炭を生産することができます(A-A型の場合)。できた籾殻燻炭は露地栽培やハウス栽培の土壌環境を改善したり、畜産におけるニオイや虫の発生を抑止したりする資材として活用できます。スミちゃんで出来た籾殻燻炭を販売している方もいらっしゃいます。

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2.スミちゃんがおすすめの理由は?

良質な籾殻炭ができる

通常、籾殻を燻炭にする場合、燻製時に臭いが強くなったり煙が多く出たりします。そして籾殻の形のまま燻炭になりますが、タール分という油分が多く残ってしまいます。タール分が多いと農作物の生育に悪影響を及ぼすといわれています。ドラム缶やスチール製の燻炭器などで作る籾殻燻炭は、籾殻を400℃以下の低温で長時間かけてじっくりと燻して炭化させますが、スミちゃんの場合はやや高温の450~550℃程度で燃焼させ籾殻炭として取り出しますのでタール分もほとんどない良質な籾殻炭ができます。

手間をかけずに短い時間で安全に炭化できる

スミちゃんは連続して自動で焼成できるため「籾殻を混ぜ返す」「水をかけて冷やす」「熱が冷めるのを待つ」といった手間がかかりません。燃焼部から排出された籾殻炭は、冷却スクリューコンベア(オプション)で冷やされて完成しますので、安全性も高く安心してお使いいただけます。

野焼きは原則禁止

廃棄物(籾殻)の野外での焼却については、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、いわゆる廃棄物処理法で原則禁止とされていますが、全国各地で籾殻を野焼きした際に発生する煙と臭いによる苦情や消防への通報が後を絶ちません。スミちゃんであれば稼働音が静かで、燃焼部の特殊な構造により煙と臭いがほとんど出ないため、近隣に住宅があっても気にせず運転ができ、火災の心配もありません。安心して籾殻燻炭を生産することができます。

アーバスキュラー菌根菌資材「キンコンバッキー

キンコンバッキーに含まれるアーバスキュラー菌根菌はグロムスであり、数ある菌根菌の中でも特に植物に対する有効効果が高いとされています。アーバスキュラー菌根菌は植物の根に共生して、植物へのリン酸吸収を改善します。2000倍に希釈して植物に株元に施用し、ポット苗ならば50-100mlを、直播栽培ならば1反あたり60-70Lを施用します。およそ2週間~1ヵ月で植物の根に共生がはじまり、徐々にその効果を発揮します。効果は根の伸長、耐乾燥性、果重増加などが挙げられます。

 

農業の可能性を広げるアーバスキュラー菌根菌


アーバスキュラー菌根菌は政令指定土壌改良資材にも指定されています。リン酸の過剰施肥は水質汚染の原因となっているという研究もあるため、地域資源である籾殻を燻炭にして農地に施用すれば、アーバスキュラー菌根菌をより効率的に利用することができ、リン酸の施用量も減らせるかもしれません。持続可能な農業の可能性もますます広がります。

アーバスキュラー菌根菌とは?リン酸供給の働きと籾殻による活用法

コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の実践を始める。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

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