「稲の根張り」とは?根張りが重要である理由を解説!
稲の育苗をする際にとても重要なのが「根張り」です。この根張りが良いと、稲は健康に生育する上、収量や品質も向上させることができます。まずは、稲の根張りの重要性について解説していきます。
稲の根張りの重要性
植物の根は、植物の体を支えるだけでなく、土壌から水分や養分を吸収する役割を担っています。そのため、稲の根張りは「生育」「収量」「品質」に大きな影響を与えます。稲作で根張りを良好な状態にすることは、健全な生育と高品質・高収量の米を得るために不可欠なのです。
根張りがもたらす影響
根張りが良いと、以下のような効果が期待できます。
養分吸収効率の向上 | 根の表面積が広がることで、土壌中の窒素、リン酸、カリウムなどの三大栄養素や、カルシウム、マグネシウム、硫黄といった中量要素、そしてマンガンやモリブデンなどの微量要素を効率的に吸収できるようになります。 |
水分の吸収力向上 | 発達した根系は土壌深くまで水を探せるようになるため、乾燥ストレスにも強くなります。 |
倒伏抵抗力の強化 | しっかりと根を張ることで風雨による倒伏を防ぐことができ、安定した生育を維持することができます。 |
病害虫への抵抗力向上 | 健全な根は病原菌や害虫の侵入を防ぐため、病気にかかりにくくなります。根張りが良いということは、単に栄養が吸収しやすくなり、環境に強くなるだけではありません。広く張られた根があることで、土壌内に存在する微生物と有機物の分解や栄養の循環が促され、より肥沃な土壌が維持できる傾向が強くなるようです。根の周辺では根の分泌物や抜け落ちた根毛などの有機物があり、この有機物をエサにした土壌微生物が増殖すると考えられています。根は健全に生長しやすくなり、稲は恒常的に多くの栄養を取り込むことができるようになります。そのため、結果的に、生育はもちろん、収量や品質を上げることができるのです。 |
根張りを構成する要素
稲の根は、いわゆる「ひげ根」の形をしており、地下に広く根を張ることで効率よく水分を吸い上げています。そんな稲の根は、大きく分けて「seminal root(主根・種子根)」と「crown root(不定根・冠根)」、そしてそこから小さく伸びる「lateral root(側根)」から構成されています。各根の特徴は次の通りです。
主根(種子根) | 発芽と同時に種子から伸びる根を種子根といい、初期生育を支えます。側根で得た養水分を茎へと運びます。 |
不定根(冠根) | 稲が生育する過程で、地際部の茎から発生する根で、養分や水分の吸収を主に担います。 |
側根 | 冠根から発生する細い根で、養分や水分の吸収を補助します。側根の数を増やし、大きくすることができれば、より養水分を多く吸収できます。これらの根がバランス良く発達することで、稲の根張りがよくなり、健全な生育や高収量・高品質を実現しやすくなると考えることができます。稲作においては、これらの根の働きを理解し、生育段階に応じた適切な管理を行うことが重要です。 |
根張りと収量・品質の関係
稲の根張りは、収量と品質に直接影響します。根張りが良い稲は、養分吸収が活発になるため登熟が良好に進みます。その結果、充実した米粒が多くなって収量が増加し、品質も向上する傾向にあります。一方、根張りが悪い稲は、養分吸収が不足して登熟不良や未熟粒の発生につながるため、収量や品質は低下してしまう恐れがあります。そのため、稲作農家は、根張りを促進するために土壌管理や潅水管理などに留意して栽培を行っています。また、近年では、根の生育を促進する効果のある資材も開発されており、これらの活用も進んでいます。稲の根張りを向上させることは、収量と品質の向上に直結する重要な課題であり、今後も様々な研究や技術開発が進められていくでしょう。
稲の根張りが悪くなる育苗6選!改善方法についても解説!
稲の根張りが悪くなっている理由は、育苗方法にあるかもしれません。ここでは、最新の研究の結果も織り交ぜながら、適切な育苗方法について解説しています。今行っている育苗方法を、見直すための参考にしてみてください。
1.水を多く与えすぎている
水稲の育苗において、水を多く与えすぎると根張りが悪くなるというのは、農業の経験則として広く知られています。その理由は土壌中が酸素不足になることと根を伸ばす必要がなくなるという2点にあります。
土壌中が酸素不足になる
根は呼吸するために、土の中にある酸素を利用していますが、土壌中の水分が多すぎると、土壌中の空気が追い出されて酸素濃度は低下します。稲は通気組織が発達しているため、茎や葉から取り入れた酸素を根へ送りやすいという性質がありますが、稲の根も酸素が多くある環境を好む傾向があります。酸素不足の状態では根の呼吸が阻害されてしまうため、生育に必要なエネルギーが十分に得られなくなります。その結果、根の伸長は抑制されてしまい、根張りが悪くなってしまうのです。
根を伸ばす必要がなくなる
根は水を求めて伸びるという性質があります。土壌水分が常に豊富な状態では、根は水を求めて深くまで伸びる必要がなくなり、結果として根張りが浅くなってしまいます。浅い根張りでは、乾燥に弱く、養分の吸収効率も悪いため、生育不良や収量低下につながる可能性があります。
【改善方法】
水の与えすぎは根の生育にとってマイナスになってしまいます。潅水は非常に重要で、品種や育苗環境によって適切な量を適切な間隔で与えてあげる必要があります。ここでは、水の与えすぎを防ぐために、目安となる量と時間、水はけが悪い場合の対処法についてお話します。
適切な灌水量と灌水間隔を守る
適切な灌水量や灌水間隔を守るというのはとても重要です。しかし、育苗期の稲に必要な水量は、生育ステージや気温、湿度によって異なります。灌水間隔は土壌の乾燥状態を見て判断し、土壌表面が白く乾いてきたら灌水するようにしてください。以下に紹介する方法は、あくまでも一般的な目安であり、品種や育苗環境によって適切な灌水量や灌水間隔は異なるため、注意が必要です。圃場の環境や品種に合わせて、適切な灌水管理を行いましょう。
播種~発芽まで | 播種前の育苗土は湿らせておくだけで、土が乾きすぎない場合には潅水の必要はありません。潅水する場合は午前中に実施するようにしましょう。夕方に潅水すると水の温度が低下し発芽に悪影響を与えることになります。育苗箱に水が浸ってしまうと、土の表面に膜を作ってしまい発芽を阻害する可能性があるため、潅水の目安は育苗箱の底が濡れる程度と考えるのが良いとされています。 |
発芽~緑化まで | 発芽から緑化までの期間の水の与えすぎは、徒長や根の生長不良が発生し定植後に活着しにくいなどの不具合が発生しやすくなりますので注意してください。毎朝、土の乾燥状態を確認してから実施するようにしましょう。状態を確認せずに毎日潅水するのは良くありません。 |
緑化~硬化まで | この段階では稲が育ってきているため、発芽~緑化までのステージに比べて多くの水を必要とします。朝、潅水を実施しても天候が良く土が乾燥してしまう場合には日中の追加潅水も検討してみてください。硬化の段階に入ると苗は丈夫になってきていますので、土が少し湿っている状態でも生育不良が発生しにくいと考えられています。 |
適切な育苗土(床土)を使用する
稲の育苗に適した土の条件は、pH5.0前後で排水性や保水性に優れており、腐植が適度に含まれているものです。菌やカビに汚染されていないことも大切な要素の一つです。潅水した水が過度に保持される場合は根腐れを起こしたり、菌に汚染されている場合は病気を発症したり大切な育苗ステージで不具合が生じます。pHが5.5以上では立枯病が発症しやすくなります。自然土を使用する場合は、このような条件をクリアーしている土壌である必要があります。畑の土は菌が多く存在している可能性が高いため育苗土としては適切ではありません。砂と粘土が混ざり合った壌土や植壌土が適しているとされています。水田土は熔成りんやケイカルの施肥によりアルカリ性に傾いていることがあるため注意が必要です。
育苗土としての要件を満たす土が準備できない場合は、市販の育苗土を利用する方法もあります。排水性と保水性の相反する性能を保持する団粒構造をもった育苗土も販売されています。人工倍土は高温処理済されており菌やカビに汚染されていないため、病気発症のリスクを抑えることができます。ただし、種籾や水などから病原菌が侵入するとすぐに蔓延するため、早期発見および早期対応ができるような育苗管理を実施する必要があります。
育苗箱の底に穴を開ける
育苗箱の底に穴を開けることで、過剰な水分が排出されやすくなります。穴はドリルやキリなどの工具を使用して5mm程度の大きさで開けていきますが、その数は育苗箱の大きさや排水性の良さによって調整する必要があります。穴を開けすぎると、土が流出してしまう可能性もありますので注意してください。
根張りシートを利用する
育苗箱の底に敷設するシートで保水力を備えており、底面で水分を貯水しています。水が不足する部分には水を供給し、水分過多の場合は水を吸収してくれます。苗箱の穴から出てきた根が箱に絡むのを防止する効果も期待できるようです。播種時の潅水量を多めにするだけで、栽培方法を大きく変える必要がないというのもメリットです。
2.潅水の時間が適切ではない
潅水時間帯の管理も、稲の根張りに影響を与える重要な要素の一つです。特に、夕方以降の潅水は「地温の低下」や「根の呼吸阻害」を招きやすく、根の生育を妨げてしまう可能性があります。
地温の低下
夕方以降の潅水は土壌中の水分が蒸発しづらく、地温の低下を招いてしまいます。地温が15℃以下になると根の生育は著しく低下します。東北農業研究センターによると12.5度よりも下回ってしまうと根の伸長が止まってしまうとされています。根の生育が阻害されてしまえば当然根張りも悪くなってしまいます。
根の呼吸阻害
根の温度と呼吸速度は強い相関を示すことから、地温の低下は生育に必要なエネルギーが十分に得られなくなり、根の伸長が抑制されることになります。夜間は太陽が沈んでいる影響で、地温が上がりにくく根の呼吸速度が低下したり、水があまり蒸発せずに土の中の水分が多いため酸素が不足したりして、稲の苗の根の呼吸を阻害する要因となります。夜の間も植物は呼吸活動を行っており、呼吸が停滞することによる、生長へのダメージは非常に大きいものになってしまいます。地温の低下は、根の健全な生育で最も避けなければならないことの1つなのです。
【改善方法】
適切な時間帯に潅水することが重要だということが分かりました。下記では時間帯や注意事項について解説します。
午前中に潅水する
稲の苗は、午前中に潅水することがおすすめです。日中は太陽光によって地温が上昇し、植物の活動が活発になります。そのため、午前中に潅水を行うことで、根の効率よい生育をサポートすることができるのです。また、午前中に潅水してしまえば、土壌中の水分も蒸発しやすくなるため、夜間の地温低下を抑制することが可能です。
夕方以降の潅水は避ける
夕方以降は、上記の理由から潅水は避けるべきです。千葉県の農林水産部担い手支援課でも、15時以降の潅水は根張りが悪くなるため行わないようにと呼びかけています。しかし、気温が上がって1日に2回潅水したいなど、場合によってはどうしても夕方以降に潅水を行わなければならないということもあるでしょう。そのような時は必要最小限の量にとどめ、地温の低下を最小限に抑えるようにしてください。また、潅水後は、ハウスやトンネルの換気を十分に行い、土壌中の水分を蒸発させやすくすることで、地温の低下を抑制することができます。ただし、夜間の換気は、冷害のリスクを高める可能性があるため、注意が必要です。
3.地温が低温になっている
稲の根は、温度にとても敏感です。地温が低すぎる場合には根の細胞分裂や伸長の抑制や水分吸収率の低下といった問題が起こってしまい、根の成長を著しく阻害してしまいます。
根の細胞分裂や伸長の抑制
低温環境下では、根の細胞分裂や伸長が抑制されてしまいます。東北農業研究センターによると、12.5度よりも下回ると根の伸長が止まると報告されています。地温が低温だと健全に生育することができず、細く弱々しい根になってしまうのです。
水分吸収率の低下
土壌が低温になれば、根の呼吸速度が低下するため土壌中の水分吸収も悪くなります。そのため、根の生育に必要な水分が不足しがちになります。
【改善方法】
育苗期の低温はその後の生育にも悪影響を及ぼします。育苗期に低温に遭った稲は、分けつ数が少なくなり、生育が遅れてしまうことがあるのです。また、低温によって根張りが悪くなると、活着が悪くなり、初期生育が遅れてしまうこともあります。一般的に、稲の根の生育適温は20~30℃と言われています。最低でも、地温が15℃以下になることがないよう、下記のような対策を行うことをおすすめします。
保温資材を活用する
育苗ハウスやトンネルに保温資材を使用してマルチングすれば、地温の低下を防げます。保温資材には、ビニールや不織布など、様々な種類があるため、育苗時期や地域の気候条件に合わせて選びましょう。例えば、寒冷地では、二重ビニールや厚手の不織布など、保温効果の高い資材を使用する必要があります。また、白化現象を予防するため透光性を有しているものが良いとされています。保温資材を使用する場合は、日中は太陽光を取り込み、夜間は熱を逃がさないように、適切に管理するようにしてください。
苗床の設置場所に注意する
苗床の設置場所は、日当たりが良く、風通しの良い場所がベストです。日当たりの良い場所では太陽光によって地温が上昇しやすくなり、風通しの良い場所では土壌中の水分が蒸発しやすくなります。どちらも地温の低下を抑制することができるため、根張りの良い稲の生育に効果的です。ただし、風が強すぎる場所は、苗が乾燥してしまう可能性があるため、注意が必要です。
育苗ハウスの閉める時間帯に注意する
低温の環境では、晴天時に育苗のハウスやトンネルを閉じる時間帯を少し早めにして地温低下を防ぐ方法です。
4.温度が高すぎる
苗は気温が高いほど生育速度が速くなりますが、温度が高すぎると徒長を招き充実度が低下しやすく、見た目は良くても根張りが悪いという傾向があります。その理由は、根にストレスがかかる、病原菌が発生しやすいといった2点が挙げられます。
根にストレスがかかる
気温が高ければ土の温度も高くなります。土壌が高温になりすぎると、稲の根に高温や乾燥によるストレスがかかることで、根の細胞の損傷が起こることがあり、根の発達や生理機能を阻害します。一般的に、地温が35℃を超えると根の生育は著しく低下し、40℃を超えると根が枯死してしまう可能性があるとされています。
病原菌が発生しやすい
土壌が高温になると、土壌中の病原菌の活動が活発になりやすいと考えられています。稲は苗立枯病や青枯病が問題となることが多いですが、苗立枯病の発育適温は30℃~40℃、青枯病の発育適温は35℃~37℃とされており、高温度の環境下では発症のリスクが高くなるようです。
【改善方法】
新潟県の調査によると32℃までが稲の苗の生育適温とされており、一般的には20〜30℃で管理されています。育苗期に高温に遭った稲は、葉が黄化したり、生育が抑制されたりすることがあります。地温の上昇を抑えるための対策は下記の通りです。
遮光資材を活用する
育苗ハウスやトンネルに遮光資材を使用することで、地温の上昇を抑えることができます。遮光資材には、寒冷紗や遮光ネットなど様々な種類があるため、育苗時期や地域の気候条件に合わせて選ぶと良いでしょう。例えば、温暖地では、遮光率の高い資材を使用する必要があります。遮光資材は、日中の気温や日射量に合わせて、適切に管理するようにしてください。
換気管理を徹底する
換気も高温対策では非常に効果的です。育苗ハウスやトンネルの換気を十分に行い、地温の上昇を抑えましょう。換気は日中の気温が上昇し始めたら行い、気温が低下する夕方には止めることで乾燥のし過ぎや冷害のリスクを回避できます。換気を行う際には、ハウスやトンネルの両側の窓を開け、風通しを良くしてください。ただし、風が強すぎる場合は、苗が乾燥してしまう可能性があるため、注意が必要です。
水分の供給量に気を付ける
地温が高温になると、土壌中の水分が蒸発しやすくなり、乾燥ストレスを受けやすくなります。乾燥ストレスを防ぐためには、こまめな潅水が必要ですが、過剰に潅水しすぎても根腐れの原因になってしまいます。土壌の乾燥状態を見て、適切な量の水を供給するようにしてください。
5.育苗土の量が多すぎる
育苗土は、健康な稲の苗を育てるためにはとても重要です。しかし、育苗土の量が多すぎると、根張りが悪くなることがあります。その理由には、土壌の乾燥の遅延、土壌中の酸素不足の2つがあります。
土壌の乾燥の遅延
育苗土が多ければその分土に含まれる水分量も多いため、土壌の乾燥は遅くなります。乾燥が遅くなるということは一見良いことのように思いますが、根は水を求めることで深く広く張るようになります。そのため、まったく乾燥しないというのも根張りの観点ではあまり良いことではないのです。
土壌中の酸素不足
育苗土が多すぎると、土壌中に多くの水分を含むことで酸素不足が起こりやすくなります。前述のように、稲の根は酸素を必要とする好気呼吸によってエネルギーを得て生育します。土壌中の酸素濃度が低下すると根の呼吸が阻害されてしまうため、生育に必要なエネルギーが十分に得られなくなってしまいます。その結果、根の伸長が抑制され、根張りが悪くなってしまうのです。
【改善方法】
育苗土は、多すぎると乾燥しづらくなり、土壌の酸素不足を引き起こします。しかし、少なすぎても今度はすぐに乾燥してしまって適切な稲の苗の育成ができなくなってしまいます。育苗土の適切な量について、下記で確認してください。
育苗箱の8分目程度を目安にする
育苗土の量は、育苗箱の8分目程度が目安です。
品種や育苗環境に合わせて調整する
育苗土の量は、品種や育苗環境に合わせて調整する必要があります。例えば、直播栽培では、育苗箱に播種する種子の量が多いため、育苗土の量を多めにする必要があります。また、寒冷地では、地温を確保するために、育苗土の量を多めにすることがあります。
6.育苗土の肥料分が多すぎる
育苗土の肥料分が多すぎると、根張りが悪くなることがあります。これには、土壌中の塩類濃度が高い、根が養分を求めて深く伸びなくなることが関係しています。
土壌中の塩類濃度が高い
根は、土壌中の水分を吸収することで、養分を吸収します。しかし、土壌中の塩類濃度が高くなると、根の水分吸収が阻害されてしまうため、養分を吸収することができなくなってしまいます。その結果、根の生育が抑制され、根張りが悪くなるのです。
根が養分を求めて深く伸びなくなる
根は、養分を求めて深く広く伸びる性質があります。しかし、肥料が豊富だった場合は根を伸ばす必要がないため、根張りが浅くなってしまいます。
【改善方法】
対策適切な肥料分の管理
育苗土の肥料は、適切な量であることが重要です。適切な量は土質や施肥により大きく変わります。NPK(窒素・リン酸・カリ)は元肥として必要ですが、過剰な施用は生育障害や濃度障害の発現を助長する可能性があるため注意が必要です。施肥量の必要な目安として、土壌中に残っている栄養分の指標となる土壌EC(ms/m)があり、稲の生育には0.8~1.5ms/mが適当とされていますので、簡易的な測定方法ではありますが、このような数値を参考にしてみるのも良いかもしれません。土質により栄養の吸収のされ方は異なりますので、適切な肥料の量かどうかは、実際に育苗しつつ、生育状況を見ながら調整することをおすすめします。下記でそのポイントをまとめましたので、確認してみてください。
肥料分が多すぎない育苗土を選ぶ
育苗土を選ぶ際には、肥料分の量を確認し、肥料分が多すぎない育苗土を選びます。一般的に、販売されている育苗培土は0.5~0.8ms/mが多いようです。適当な育苗土を用意することができれば、根張りが良くなるだけでなく、徒長を抑える効果も期待できます。
肥料を追加する場合は、少量ずつ、生育状況を見ながら行う
肥料分の少ない育苗土を選んで稲苗の生育があまり良くない場合は、追肥(生育状況に合わせて追加する肥料)をしてあげましょう。追肥する場合は、少量ずつ、生育状況を見ながら行い、くれぐれも肥料が多くなりすぎないように注意してください。
元肥と追肥を適切に組み合わせる
元肥(あらかじめ混ぜておく肥料)と追肥を適切に組み合わせることで、苗の生育に必要な養分をバランス良く供給することができます。元肥や追肥の量は、育苗土の種類や肥料の種類によって異なるため、確認しながら行うようにしてください。
稲の根張りや生育について教えてくれる場所も!
ここまで、稲の根張りの重要性や具体的な改善方法についてお話してきました。これらの対策を適切に講じれば、稲の根張りを改善し、健康な苗を育成することができるかもしれません。こちらの農林水産省のペーパーでは、環境による適切な温度や肥料についての記載がされていますので、参考にしてみてください。稲の根張りは様々な要因によって影響を受けるため、生育状況をよく観察して管理することが重要です。地域の農業試験場や普及センターなどでは、管理方法の相談を受け付けており、実践的なアドバイスがもらえることもあります。お悩みがなかなか解決されないという方は、ご利用を考えてみてはいかがでしょうか
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稲の根張りを助けるおすすめの資材|キンコンバッキー
キンコンバッキーは、有用土壌微生物であるアーバスキュラー菌根菌が含まれた資材です。菌根菌は植物の根に共生し、根よりもさらに細い菌糸を伸ばすことで、土壌中のリン酸や水分を植物に供給することが知られています。キンコンバッキーを利用することで、根張りの良い健全な苗を育てる効果が期待でき、定植後の活着が良好になります。20,000propagules/g以上の高濃度でアーバスキュラー菌根菌を含有しているため、他の菌根菌資材に比べて根に共生しやすいという特長があります。使用方法は苗の発芽後、極力早めに希釈水を散水するだけです。散水量は、育苗マットから水が出る程度が目安です。リン酸が多すぎる土壌ではあまり効果が期待できませんのでご注意ください。
対策次第で稲の根張りは改善できる!
今回は、稲の根張りが悪くなる育苗方法と、正しい育苗管理の方法について解説しました。根張りが良い苗は、活着が良く、初期生育が旺盛で、病害虫にも強いという特徴があります。稲は生育初期の「苗」の段階で健全に育つ環境を整えてあげることが、その後の生育を左右するため、育苗段階での適切な管理が重要です。しかし、稲の根張りには、水の与える量やタイミング、適切な地温や育苗土の量、肥料など、いくつもの要因が関係しています。
「どれが原因か分からない」という方は、まずは一つずつ試してみることをおすすめします。稲の根張りは、その後の生育や収量・品質に大きく影響していきます。ぜひこだわって取り組んでいきましょう!
参考資料:
・土壌の温度と作物の生育(山田一郎・森脇勉・長谷川浩|京都大学農学部作物学研究室)
・水稲稚苗育苗の施肥法について(三宅信・小川昭夫・大村裕顕)
・健苗の育成と苗の高付加価値化(小田雅行|大阪府立大学院生命環境科学研究科)
コラム著者
セイコーエコロジア編集部
農家さんのお困りごとに関するコラムを定期的に配信しています。取り上げて欲しいテーマやトピックがありましたら、お知らせください。