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水稲育苗とは?苗の種類や育苗の手順を解説
公開日2021.03.06
更新日2022.01.12

水稲育苗とは?苗の種類や育苗の手順を解説

3月に入り少しずつ春を感じられる気候となってきました。この時期から稲の生産者さんは育苗の準備に入るのではないでしょうか。近年は異常気象や天候不順が影響した生育不良が報告され、強い苗づくりの重要性がフォーカスされています。今回は苗の種類や育苗の手順を解説し、おすすめの資材をご紹介していきたいと思います。稲作生産者さんをはじめこれから稲作にトライしようと検討されている方にご一読いただけると幸いです。

水稲育苗とは?

「苗半作」という言葉があるように、農作物にとって育苗時期の管理はとても重要です。良い苗を植えることが、そのあとの稲の順調な生長に与える影響が大きいことから苗づくりは「苗半作」と呼ばれています(幼いときの育て方が、後々の育ち方に関わってくる人間と同様ですね)。稲の場合、異常気象においても安定して美味しいお米を多収穫するために欠かせないのが強健な苗づくりです。

水稲育苗は露地では一日の平均気温が12℃を超える時、パイプハウスでは一日の平均気温が10℃を超える時から可能とされています。いずれも育苗箱を利用し、催芽籾を播種後もしくは加温出芽機を利用して出芽をさせた後に、育苗箱を広げる(平床育苗法)かビニールプールに並べ(プール育苗法)、被覆資材で覆うことで温度・日射量・床土水分を適度に制御することで行います。

なぜ育苗を行うのか

水田に直接種を播く直播栽培は、育苗や移植作業がないため農作業時間を削減でき、人件費もかかりません。しかし雑草が生えやすく、土壌が乾燥しすぎたり過湿状態になったりすると、出芽や苗立ちしにくいというデメリットがあります。収量は移植栽培に比べておよそ1割程度少ないというデータもあります。水稲直播面積は少しずつ増えてきていますが、地域の気候や土壌の違いにより、水の管理や雑草対策が必要になるため、技術的に難しいという点が課題として指摘されています。一方、育苗のメリットとしては、ビニールハウスなどで環境をコントロールしながら育てることができ、出芽や苗立ちを管理することが可能になるのです。

育苗のメリット
①温度や日照の急激な変化が起こりやすい春先に、トンネル被覆やビニールハウスなどを用いて環境を制御することで、未だ抵抗力がついていない水稲苗を健全に栽培できる
②生育の進んだ水稲苗を移植することで、代掻き(しろかき)後に生える雑草が育ちにくい(移植の段階で雑草よりも苗の生育が進んでいるため)
③生育を早めることで出穂が遅れることを避けることができる

水稲育苗で使う苗の種類

稚苗

稚苗は苗齢3.2齢の苗です。育苗は発芽と出芽期を30℃~32℃の暗黒下で行い、鞘葉抽出1~1.5cmのころに光に当てて緑化させます。この時は約25℃の適温環境を人工的につくります。その後、保温状態から自然の気候状態にさらすことで「硬化」させつつ生長させます。活着低温気温は12℃とされていて早期移植に適しています。もっとも高密度に播種できるため、小面積・短期間で合理的に育苗を行うことができます。

中苗

葉の数が3~4枚程度の苗で稚苗と成苗の中間の状態を指します。播種量を抑え計画的に栽培されます。気温や水温が低いため稚苗を使うと収穫が遅れてしまう地域で使われることが多いです。丈が大きいため大雨などの水害で冠水しやすい場所にも向いています。育苗期間が長いため、その分手間がかかります。活着低温気温は13℃とされています。

成苗

成苗は6~7齢まで育った成苗です。一般的に成苗は寒冷地では少なく、暖地では多い傾向があります。活着低温気温は15℃とされています。

高密度播種苗

苗箱1箱あたりの播種量を多くすることと、移植時の少量かき取り技術を組み合わせることで必要とされる苗箱数を減らすことができます。苗づくりから移植までの農作業を省力化し、育苗ハウスの面積を少なくするなど、コストを抑える栽培方法です。「苗が徒長しやすい」「移植の適期が限られている」「専用田植機が必要」というデメリットがあります。

種類 本葉 育苗日数
稚苗 2~3枚 15~20日
中苗 3~4枚 20~30日
成苗 4枚以上 30日以上

 

水稲育苗の手順(例)

Step1.種子消毒

  1. 水洗い:籾を水で洗って水になじませます。
  2. 塩水選(えんすいせん):発芽から生育初期に必要な栄養素が胚乳に詰まっている重い籾殻(状態の良い種籾)を選別します。発芽が揃いやすく、また「ばか苗病」「いもち病」「もみ枯細菌病」にかかっている籾を回避するという意味もあります。塩水に籾を沈め、浮いた籾を捨て、沈んだ籾を取り出します(塩水を切ってください)。病気にかかった籾を捨てておかないと幼苗期や出穂期などに発病し圃場全体に感染が広がることがあります。
    塩水の塩分濃度(比重)はうるち米が1.13、もち米が1.08です。比重は比重計でチェックするか、新鮮な生卵を浮かべてその程度でも確認ができます。頭を出して浮かぶ程度であれば1.13、底に立つ程度であれば1.08です。この塩分濃度の塩水を作るには、うるち米が10ℓに2.1~2.5kg、もち米が10ℓに1.3~1.5㎏の塩を溶かすのが目安です。消毒済の種子を使用する場合、この塩水選を行うと農薬が流され効果が低下しますので留意してください。
  3. 水洗い:発芽障害の発生を抑えるため、よく水で洗って塩分を落とします。
  4. 薬液の作成:種籾と同じ量の希釈液を作ります。薬液は「テクリードCフロアブル」や「スミチオン乳剤」を使用します。この時極端に低温の水を使用しないように注意しましょう。
  5. 種子の消毒:希釈液に24時間浸漬(しんし)します。途中で1~2回全体をよく混ぜましょう。その後、水洗いはしません。播種の際に使用する育苗箱は、密植で高温にさらされ病害が発生しやすいため種子の消毒は重要な工程です。
  6. 乾燥:1~2日間、風で乾燥させます。
  7. 浸種:数日間、必要な水分を吸収させます。これは発芽を阻害する物質を除去し発芽不良を減少させることと、種子の吸水速度の違いから起こる発芽の不揃いを防ぐことを目的として行います。浸種開始後2日間は水は換えずに1回目の水交換後は、2~3日おきに水を交換します。水温は11~12℃、日数は7~9日程度が適正とされています。水温が10℃未満になると発芽不良が発生しやすくなります。浸種期間の後半は温度があがりやすく雑菌が増えますので注意してください。適正に浸種を行わないと催芽に時間がかかったり、出芽がそろわなかったりしますので、重要なステップになります。
    次のステップでも使用する循環式催芽機は適正温度を維持することができシャワーにより常時酸素が入りますので種籾の酸欠を防ぎます。ただし導入費用が高額です。温度調節機能がついている凍結防止用ヒーターなどを活用し、水槽の水をポンプで循環すれば機材費コストを抑えることができます。さらに簡易な方法としてはビニールハウス内に水槽を設けて行うこともでできますが、水温変動を防ぐために断熱材や日よけで対策を行ったり種籾の天地返しをこまめに行うなど、手間暇かけて作業する必要があります。

Step2.催芽・播種

  1. 催芽:催芽器を使用し30~32℃前後に加温して催芽させます。よく観察し鳩胸(ハトムネ)の状態になったら催芽は完了です。浸種兼用で循環式催芽機を利用すると種籾の芯まで均一に熱が伝わり発芽の揃いが良くなります(このときは褐条病防止のため食酢を併用)。温水ではなく蒸気で種籾を蒸らして催芽する蒸気式催芽機を使う方法は現在最も多くの農家さんが行っています。もみ袋に種子を入れすぎたり天地がえしやほぐしを怠ると失敗しやすくなるので注意してください。風呂場で浴槽にお湯を張り保温する方法もありますが、温度差ができやすく一定の温度が確保しにくいためおすすめはできません。
  2. 播種:土入れが完了した育苗箱に種子を蒔いていきます。専用の機械を使用し、播種量に注意しながら種子が重ならないように均一に蒔くことが大切です。育苗に適している培土は腐植を適度に含んだ保水性や排水性の優れた土(pHは5程度)が良く、粒度3~5mmで0.5mm以下の細かい土が50%を超えない状態が最適といわれています。市販されている専用の土は肥料バランスが調整されていますが、自ら調整して作る場合には窒素・リン酸・カリウムを1箱あたり1~2g(寒冷地ほど多め)を目安にすると良いでしょう。
    育苗箱は田植機にそのままセットできるサイズのものを選んでください。育苗箱に残っている土に病原菌が付着している可能性がありますので、良く洗浄し可能であれば播種前に消毒しておくと良いでしょう。

Step3.出芽・緑化・硬化

  1. 出芽:育苗器の温度を30~32℃にし、2~3日かけて出芽させます。
  2. 緑化:出芽長が1cmになったらハウス等に移動します。シルバーポリや不織布をかけて、出芽したての白い苗に、2~3日かけて弱い光だけ通して緑化させます。太陽光を当てて緑色にしていく工程ですが直射日光などの強い光を当てると障害により緑化しなくなるため徐々に光をあて自然の環境に順応させる必要があります。急激な温度変化にも弱いため、適切な温度管理(昼間20~25℃、夜間15~20℃)が求められます。反対に光を当てすぎないと白色のまま徒長してしまいます。
    水分状態はこまめに確認し、水やりを行います。細かいシャワー状の水をかけて苗が倒れないようにしてください。晴れた風の強い日は乾きやすいので確認作業を怠らないことと、夕方には土がかわくように水やりの時間に注意することがポイントです。5cm程度に湛水できるプールで育苗する場合は乾燥のリスクは低くなりますが、徒長しやすいので肥料や温度を気を付けるようにしましょう。
  3. 硬化:草丈が3cm~10cmになったら覆いをとり、よく日に当てて硬化させます。苗を外部の環境になじませていく作業です。

進歩してきた水稲育苗技術

プール育苗技術とは

昭和52年に群馬県農場試験場でビニールプールを使った露地での育苗方式を実用化したのが始まりと言われています。省力化につながるだけでなく、病害虫の発生を抑えられるため広く普及しています。それ以前の慣行栽培では、露地の土壌に直接播種したり、育苗箱を苗代田に移動させていましたが、非常に手間と労力がかかっていました。

育苗技術の種類

プール育苗(ハウス)

ハウス内にビニール等で簡易なプールを作成し、育苗箱を並べて湛水(たんすい)の状態にして育苗する方法です。プールに湛水してからは散水の必要がないため省力化になります。メリットは生育が揃う根張りの良い苗になること、湛水することでカビや細菌による病害・ムレ苗が発生しにくいこと、プール状になっているため液体肥料で追肥しやすいことなどが挙げられます。一方、デメリットは夜間にも水で根元が保温されるため苗の丈が伸びすぎることです。

プール育苗(露地)

ハウスが雪で倒壊してしまったり、新規にハウスを建てる経費がない場合は、露地でもプール育苗が可能です。用水の水を有効活用できるというメリットもあります。農家さんによっては「露地のプール育苗のほうが徒長しにくい」という声もあるようです。ハウスでは少し肌寒いなと思った時に親心でハウスを閉めると、苗を徒長させてしまうことがありますが、露地のプール育苗ではそういうケースがなく、少し厳しい環境で苗が育つためだと考えられています。

水稲育苗における失敗しやすいポイントと対策

【失敗 その1】苗が焼ける

水稲の苗は30分間高温に当てられただけでも焼けてしまいます。多くは朝曇ってたから大丈夫だと思い被覆資材をはがさずに外出し、その間に日が差してしまい慌てて戻った時には手遅れというパターンです。閉め切ったハウスの中は50℃以上になり、苗床の温度もかなり上昇します。

【対策】
苗の気持ちになって、被覆資材の下にも温度計を置きましょう。普段からいつもの位置にある温度計と苗付近の温度計の2つを比較して「この天気なら苗床は何℃くらいになる」と想定しておくことが大切です。どうしてもハウスに行けない時間ができる場合はハウスを少し開けて外出しましょう。出芽は遅れますが、焼けることは防ぐことができます。

【失敗 その2】苗床の凸凹による生育ムラの発生

苗床が凸凹だと、苗の一部が水をかぶっていたり、乾燥が原因で高温になり焼けたりして、苗により環境が異なってしまうため生育ムラが発生します。

【対策】
均し棒等を使用して徹底的に平らにしましょう。

【失敗 その3】潅水(水管理)に関するトラブル

育苗箱一枚の箱の中でさえ傾きがあることで水のかかり方が変わります。その結果、生育ムラができる原因となります。

【対策】
手潅水で多めに水を与えましょう
。一回の潅水でハウスを数周する場合は一周ごとにホースを向ける方向を変えることでまんべんなく苗に水がかかるようにすることもポイントです。手間はかかりますが確実な方法です。

【失敗 その4】換気に関するトラブル

換気をしすぎたり、換気を忘れることで生育不良が発生します。

【対策】
稲の育苗期間における適温については多くの知見があります。国内の水稲9品種の発芽最適温度は30~35℃、最低温度は10~13℃、最高限界温度は42~44℃と報告されています。また出芽~苗立までの期間最適温度は25~30℃、最低温度は12~13℃、最高限界温度は35℃などと報告されていますのでご参考にしてください。換気はハウス外とハウス内の温度が同じになる朝一番の遅くとも7時までに行います。また夕方はハウスがまだ暖かい3時頃には閉めましょう。そうすれば温度変化が少なくてすむので苗に負担がかかりません。なおハウスを開ける際は風上側のサイドは少なく、風下側のサイドは多く開けます。両サイドを多くあけてしまうと風上側のほうが冷たい風が当たりやすいので生育が遅れてしまいます。

時期 最低限界温度 最適温度 最高限界温度
発芽 10~13℃ 30~35℃ 42~44℃
出芽~苗立 12~13℃ 25~30℃ 35℃

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空動扇はビニールハウス内の温度に応じて空動扇の温度調節器に内蔵された形状記憶スプリングが膨張または収縮するしくみにより、内部の換気弁が自動で開閉するシンプルな構造です。弁の開閉の程度により換気する空気量が決まり、弁が閉じた状態では換気は停止します。温度調節は0℃~40℃の範囲で設定ができ、育てる作物にとって適切な温度を設定することができます。電力不要で動作するため維持費が発生しないというのもポイントが高いですね。

天窓換気装置・妻面換気装置・循環扇などの換気設備は、高額なものが多く、電力が必要のため電気配線を新たに引き込む場合は資材コストが余計にかかります。空動扇は無動力で現在あるビニールハウスに簡単に設置ができ、導入後のメンテナンスもほとんど必要がありません。

換気を円滑に行い温度を適切に保つことで作物の樹勢が良くなります。ハウスを適切な環境で保持するのは大変な作業ですが、空動扇は設定温度に応じて自動で換気をしてくれますので、農作物をダメにしてしまうことが少なくなります。ビニールハウスのサイド巻上部分から新しい空気が入り、天頂部から排出される風の通り道ができるため、ハウス全体を換気し、同時に二酸化炭素を取り込むことで作物の生育環境を整えます。温度および湿度の上昇を抑え、夏場に問題となる農作業中の熱中症の予防にもつながります。設置場所が天頂部のため農作業の邪魔になりません。

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コラム著者

満岡 雄

2012年に玉川大学農学部生物資源学科を卒業。種苗会社を経てセイコーエコロジアの技術営業として活動中。全国の生産者の皆様から日々勉強させていただき農作業に役立つ資材&情報&コラムを発信しています。好きなことは食べること、植物栽培、アコースティックギター。Xを更新していますのでぜひご覧ください。

 

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