pFとは?
植物の根が土壌にある水分を吸い上げる吸引力に抵抗して、土が水分を保持しようとする力(水分張力)を表す値です。pFは土壌の水分量や水分率を示す値ではなく、雨や灌水などで土壌に水分が浸み込んでいった際における水分状態を表しています。砂質土壌と粘土質土壌では保水力が異なるように、土の質や状態によって同じ量の水を与えても、根が水分を同じように吸収できるとは限りません。論理上はpFが同じ計測値であれば、どのような土壌でも水分張力は一定になりますので、水分量や水分率よりもpFのほうが作物の生長に密接な値と言えるかもしれません。
pF値は高いほど水分張力が強い状態で、このような土壌環境では植物の根が土の水分を吸収するために強い力が必要になります。一般に作物が土から水分(養水分)を取り込みやすいのはpF 1.5~2.5(または3.0)とされています。この範囲内であれば土には根が吸収することができる有効水分が保持されていると考えることができます。栽培作物や土壌特性によって違いはあるものの、値がpF1.5より小さい土壌では、過湿状態となっており根腐れなどを引き起こす原因となります。一方、pF2.5(または3.0)よりも大きくなると土が乾燥しすぎている状態のため、水分不足により萎れてしまうなど生育不良が発生しやすいとされています。
pF | 根が陥りやすい状態 | 作物のリスク |
---|---|---|
0~1.5 | 過湿 | 根腐れ |
1.5~2.5(3.0) | 適当 | ― |
2.5(3.0)~ | 過乾 | 生育障害 |
土壌水分計を用いたpFの測定方法
土のpFを測定する方法としては、一般にテンシオメーターやpFメーターといった土壌水分計を使用します。土壌水分計は、センサー部分を土壌に埋設させて、土壌水分の状態を計測することができる測定器です。土の水分張力が弱ければ、土壌水分計の先端についている多数の穴があいた素焼きのカップ(ポーラスカップ)から水が入ってきます。つまり、根から水が吸収されやすい状態になっています。水分張力が強ければ素焼きのカップから水が出ていく(≒根から水が吸収されにくい)状態になっていると判断しpF値が表示されます。pF値を利用することのメリットは、土壌の特徴や構造などが異なっても作物の根が水分を補給するのに必要な力を統一的に把握できるという点にあります。
有効水分を保ちやすい土壌と、そうでない土壌の違い
ところで有効水分を保持しやすい土壌と、保持しにくい土壌の違いはどこから生まれるのでしょうか。当然に有効水分を保持しにくい土壌は、灌水の回数が増えて農作業の負担が大きくなることとなり、効率的とはいえません。一般に、粗い径の土壌粒子が多く含まれる圃場では土中の隙間が大きくなり、隙間が大きい土壌は、排水性や通気性には優れていますが表面張力が弱いため水分を保持する力が弱く下に流れていってしまいます。反対に細かい径の土壌粒子が多く含まれる土壌は、土中の隙間が小さくなるため表面張力が強くなり、水分を保持することができますが、排水性や通気性が悪くなります。
土壌の状態 | 排水性 | 通気性 | 保水性 |
---|---|---|---|
粗い径の土壌粒子が多い | 〇 | 〇 | × |
細かい径の土壌粒子が多い | × | × | 〇 |
土壌は、雨や灌水などにより土に水分が浸み込むと重力により下に抜けていきます。前述の通り土の中の小さな隙間があると表面張力により水が保持されます。土壌の中が小さな隙間ばかりだと水は保持されやすくなりますが、この保持力が強すぎると根が水を吸収しにくくなります。また、根の生長に必要な空気の居場所がなくなります。作物の根にとって良い土壌とは、適度な水分張力により水が保持される隙間と、空気が存在することができ排水性にも優れた大きな隙間の両方の機能を併せ持っているようです。このような状態は正に土の団粒構造が形成された土壌の特徴であり、pFを適正に保持するためには土づくりが重要だということがお分かりいただけるかと思います。
適正なpFを保持しやすい土壌を作るには?
適切なpF値を維持できると、灌水の効果をより発揮しやすいことになりますが、このような環境を整えるにはどのようにしたらいいのでしょうか。一般に土壌の性質を決めるものは、物理性・化学性・生物性の3つです。これらは独立した性質ではなく相互に作用しあっているため、土壌の性能を向上させるには総合的な対策が必要になります。適切な土づくりが、適正なpFを保持する土壌へとつながりますが、土づくりはかなり奥が深いため、ここで代表的なものを数例提示しておきたいと思います。
排水状態を改善する
水田からの転換地など水はけが悪い圃場では、地下水位を低下させ土壌中の通気性を向上させる必要があります。暗渠工事を実施して排水する路を作ります。地下に土管や桝などを設置する本格的な暗渠工事はコストが高くなるため、費用を抑えることができる弾丸暗渠工事や竪穴暗渠工事などが実施しやすいかもしれません。
カチカチの土を改善する
密度の高い硬い土壌では、根の伸長が阻害されるため、水分を吸収できる範囲がせまくなってしまいます。硬い土層がある場合や土壌が硬化している場合には、トレンチャー・深耕ローターリー・サブソイラーなどを使って粉砕し、有効土壌範囲(根が伸長できる範囲)を広げる必要があります。
関連コラム:困った!土壌がカチカチに|粘土質土壌の改良方法
団粒構造を促進する
土壌の団粒構造を促進したり、維持したりするためには土壌微生物の働きが必要です。堆肥など有機物を施用する、緑肥をすきこむ、土壌改良資材を利用するなどを実施して土壌の生物性を改善させる必要があります。
pFを改善するためのおすすめの資材|地力の素
地力の素は腐植物質を高濃度に凝縮した腐植酸質土壌改良剤です。農作物の栽培過程で消費されて失われた腐植物質を補給し土壌の団粒構造形成を促進させます。団粒構造が形成されると保水性と排水性といった異なる性質を兼ね備えた土壌となるため、植物の根が生長しやすい環境となります。また、堆肥成分が含まれているため、堆肥の投入量を半分にできたり(粗粒タイプ・細粒タイプ)や、投入が不要になったり(ペレットタイプ)して土づくりを省力化することが可能です。
適正なpFの維持には適切な土づくりから
土壌はその隙間に水や空気を保持させています。植物が根から水分を健全に吸収するためには、水と空気の両方が必要です。土中の隙間が大きすぎると空気は保持されますが水は保持されにくくなります。反対に隙間が小さすぎると水は保持されますが、空気が足りません。異なる両方の機能を持ち合わせた土壌は、適正なpFが保たれやすく作物の根が順調に生長することに寄与します。それだけに土壌環境を整えるための土づくりが重要というわけですね。
関連コラム:
・土壌の三相分布とは|土づくりと土壌物理性について解説!!
・土壌改良のチェックポイント|野菜栽培に適した土づくり
参考資料:
・土壌水分管理技術について
(広島県立総合技術研究所 農業技術センター)
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。