コラム
農地の塩類集積を防いで農作物を守れ!
公開日2022.09.07
更新日2022.09.07

農地の塩類集積を防いで農作物を守れ!

適切に温湿度管理や水管理、また施肥をしているにもかかわらず、生育が思わしくないことはないでしょうか。もしかすると施肥した(または今まで施肥していた)栄養塩類が地表面に集積し、植物に悪さをしていることが原因かもしれません。この障害は主に施設栽培で発生しやすい障害で、土壌改良を行わないと継続して引き起こる可能性が高くなります。今回のコラムでは、土壌の塩類集積の原因と対策について詳しくお伝えしていきたいと思います。

塩類集積とは?

塩類集積(えんるいしゅうせき)とは、土の中で地下水に溶けているリン酸塩や硝酸塩といった栄養塩類が蒸発により上方へ移動し、地表面に集積する現象のことです。一般に露地栽培では、地表面の塩類は雨水により流されるのですが、施設栽培では被覆により降雨の影響を受けないため土壌の肥料成分(塩類)が流亡しにくいため、塩類集積が起こりやすくなっています。施設栽培は、施肥量自体が多いことも原因の一つになっているようです。特に休耕期は潅水作業を行わなくなり、地表面から下降する水が少なくなります。また被覆資材の影響で外気の温度より内部の温度が高くなるため土壌の水分蒸発がより進み、毛管作用で地下水が地表面に上昇します。地下水位が低い場合には毛管現象が発生しにくく、塩類集積が発生するリスクは低下します。

塩類集積が原因で起こる症状

塩類集積による直接的な障害(塩害)

肥料成分が土壌の表面に溜まり過ぎて、土壌の塩類濃度が高くなると、根っこの細胞膜の内側より外側の塩分濃度が高くなります。濃度を整えようとする作用が働き、濃度の薄い方から濃い方へ水とが移動しようとするため、根っこは水分を吸収することが難しくなります。浸透圧の作用により逆に水分が抜けていってしまうのではないかと考えられています。

結果、根は栄養分や水分を吸収することができなくなります。水分吸収機能の低下により、樹勢が悪く、適当な潅水を行っているにもかかわらず高温時には葉が萎れます。葉色は濃く生育が遅れ、果実は色付きが悪くなり肥大しません。塩類濃度の目安にはECが用いられますが、以下の表の通り、農作物によって塩類耐性は異なります。

各農作物における適正土壌ECと塩類耐性の違い

EC(mS/cm) 品目 塩類耐性
0.4~0.8 イチゴ・タマネギ・キク・カーネーションなど 弱い
0.8~1.5 ネギ・ナス・トウガラシ・ブドウなど 普通
1.5~ トマト・ダイコン・アスパラガスなど 強い

塩類集積が原因で起こるガスによる障害

ガス障害の症状
ガスは気孔から植物体内へ侵入し、細胞の酸素を奪うため葉っぱが黒ずみ衰えて萎みます。また葉っぱに不規則な斑点が生じたり、黄化したりします。2つのガス障害は症状が似ていますが、被覆ビニールについた水滴のpHを測定することにより、アルカリ性であればアンモニアガス障害、酸性であれば亜硝酸ガス障害の可能性が高いと判断の目安にすることができます。

ガスが発生する原因
一般に土壌のアンモニア態窒素は、2つの微生物の働きにより植物が吸収しやすい硝酸態窒素に変化するとされています。その過程は、以下のようになっています。

1.アンモニア態窒素を亜硝酸態窒素に変化させる(アンモニア硝化菌の作用)
2.亜硝酸態窒素を硝酸態窒素に変化させる(亜硝酸硝化菌の作用)

このような作用が塩類集積や土壌消毒などが原因で、上手に機能しなくなるとガス障害が発生するリスクが上昇します。クロルピクリンや蒸気などで土壌消毒を行うと、消毒の影響を受けて硝化菌も少なくなります。そして土壌のpHの影響を受けて2つの障害が発生します。

A)アンモニアガス障害
1.土壌pHがアルカリ性に傾き、アンモニア硝化菌の活動が停滞
2.アンモニア態窒素の分解が遅れ、土壌にアンモニアが蓄積される
3.施設内の温度が急激に上昇した場合にアンモニアガスが発生する

B) 亜硝酸ガス障害
1.土壌pHが酸性に傾き、亜硝酸硝化菌の活動が停滞
2.亜硝酸態窒素の分解が遅れ、土壌に亜硝酸が蓄積される
3.施設内の温度が急激に上昇した場合に亜硝酸ガスが発生する

塩類集積の対策

土壌中の水溶性塩類の総量を示すEC(Electrical Conductivity|電気伝導度)は塩類濃度の目安となります。数値が高いほど栄養成分が多いことになります。1.0mS/cm(ミリジーメンス)を超えている土壌は塩類障害が発生しやすいとされ、除塩対策を実施する必要があるかもしれません。適正ECは農作物によって異なっており、トマトやアスパラガスなど高い場合は1.5以上、イチゴやスイカなど低い場合は0.4以下となっています。

水で洗い流す(散水除塩)

休耕期にビニールなどの被覆資材を剥がし、雨水を利用して表土に蓄積された塩類を洗い流します。積雪地域では雪を積もらせて雪解け水を利用するところもあるようです。ガラスハウスなど対応が難しい場合は、スプリンクラーなどで潅水することになります。この方法は一般に多くの圃場で活用されていますが、対処療法なので根本的な解決にはなりません。露地栽培での本格的な散水除塩の方法としては、圃場の周辺を畔で囲み、湛水して水を地下に浸透させる方法です。塩類を含んだ水の再上昇を防ぐために地下150~200cm程度の位置に暗渠排水設備を設置するなど、手間やコストがかかります。散水除塩では、圃場から流れ出た塩類が河川や地下水などに流れ、環境汚染問題になることがあるため、注意が必要だとされています。

クリーニングクロップ(緑肥)を利用する

塩分に対しての耐性が高く、土の栄養分が旺盛なイネ科のソルゴー(ソルガム)やトウモロコシ、マメ科のクロタラリアなどの緑肥を利用して土壌中の余分な塩類を除去する方法です。刈り取った緑肥は、土に還したほうが良いという見解と、圃場の外に持ち出したほうが良いという見解があります。前者の考え方は、吸収した余分な塩類は緑肥が体内でタンパク質に変化させ、土に戻すことで有機物の補給になるというもので、後者はそうではないとする考え方のようです。育てる品目や土の条件によって違うのかもしれません。

関連コラム:緑肥とは?緑肥の種類と使い方を詳しく解説

腐植酸資材を投入する

塩類障害は腐植物質の少ない土壌や砂質土壌で起こりやすいと考えられています。腐植酸を投入することで、土壌の緩衝能(CEC)が高まり、塩類障害の悪化を防いだり遅らせたりするとされています。腐植物質を施用する場合の注意点としては、腐植質でもニトロフミン酸や腐植酸苦土肥料などは塩(えん)が含まれるので、塩類集積対策には逆効果です。

関連コラム:腐植酸を肥料(堆肥)として用いる効果とは?土壌改良で品質向上を

深耕・天地返しを行う

塩類濃度の衝撃を和らげるために、地上から30cmまでの土と深さ30~60cmまでの土を入れ替えます。バックホーなどの特殊機械を用意する必要があります。地層の違いにより土壌環境が変化する場合があるため慎重に進めると良いでしょう。手間と労力がかかりますので農地面積が広い場合は現実的な方法ではないかもしれませんが、地表から除去した土壌表層を地力の弱い圃場へ還元する方法もあるようです。

塩類耐性の高い農産物を生産する

トマト・ダイコン・アスパラガスなど塩類耐性の高い農作物を栽培する方法です。

塩類集積対策におすすめの資材

地力の素カナディアンフミンは、フミン酸やフルボ酸を高濃度に濃縮した腐植酸質の土壌改良資材です。腐植酸は、土壌の有害な成分を吸着・結合する緩衝能(CEC)が高まるとされ、塩類による障害の悪化を和らげたり遅らせたりするとされています。土壌中の陽イオンの栄養素(カリウム・カルシウム・マグネシウム・アンモニウムなど)を吸着する土壌コロイドは、粘土鉱物と腐植が結合してできており、腐植資材の投入は、この土壌コロイドの形成に寄与し、その影響で緩衝能が高まっていると考えることができるかもしれません。

地力の素の解説動画はこちら

塩類集積を防いで地力のある土作りを

栄養過多な人間が不健康になってしまうように、農地においても過剰な施肥は地力を下げ、そこで育つ農作物に悪影響を与えます。普段は見えない土壌環境ですが、地上環境と同じように植物の生育との関係性が大きいですから、温湿度管理や水管理に加えてpHやECなどもデータを蓄積しながら管理していくことが重要になってきますね。今回のコラムを皆様の圃場の塩類集積対策にお役立ていただければ幸いです。

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コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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