コラム
イチゴをチップバーンから守れ!
公開日2022.08.10
更新日2022.08.10

イチゴをチップバーンから守れ!

チップバーンは、カルシウム不足によって引き起こされ製品価値と収量を低下させるやっかいな生理障害です。イチゴにおいては品種によって発生リスクが異なるなど、発生要因は完全には解明されてはいませんが、今回のコラムでは施設栽培におけるイチゴのチップバーンについて詳しく解説していきたいと思います。

チップバーンとは?

チップバーンとは、イチゴの新しい葉の葉縁(ようえん)や萼片(がくへん)の先端部分が焼けたように褐変し枯死する生理障害です。葉に異常が発生しますが、病害虫が原因で発生する現象ではなくカルシウムの欠乏症状です。イチゴ以外では、トマトやレタスの葉などにも発生し、主にカルシウム欠乏により発生リスクが高くなるとされています。細胞分裂の盛んな新葉の葉先で発生しやすくなります。

チップバーンが発生すると引き起こされるデメリット

苗の増殖期間においては、子苗やランナーの先端で発症し病状が進行すると枯死してしまうため、苗が不足する原因になります。本圃では葉の面積が減少することにより生育不良を招きます。イチゴの房の部分となる萼片にチップバーンが生じると萼焼果となり果実がきれいでも著しく製品価値が低下します。萼片焼けの症状が重たい場合は、花床が発達できず不受精果になることもあり収量減少に直結します。

チップバーンが発生する原因は?

チップバーンが発生する原因はカルシウムが不足しているということです。カルシウムは細胞分裂に必要な栄養であるため、不足すると細胞壁や細胞膜の維持ができなくなり壊死を誘発するとされています。根から吸収されたカルシウムは、水分の通り道でもある導管を通り植物の体内を移動しますが、移動方向が一方通行であることと、移動が遅いため細胞分裂の活発な葉の先端に供給されにくいという特徴があります。単純にカルシウムの施肥量が不足しているということでしたら、解決策はわかりやすいのですが、実は植物の葉へのカルシウムが欠乏する理由はそう簡単ではありません。カルシウムが不足する理由は以下に記載するとおり様々です。

根の生育状態が良くない

カルシウムは、吸水に伴って根から吸収される栄養素であるため、根の健康状態により吸収作用が大きく影響を受けます。土壌乾燥により根が傷んでいたり、根の発育量が不十分であったりすると、当然ですが土壌に十分なカルシウムが存在していても吸収不良となります。水分過多により根腐れを起こしている可能性もあります。また土壌中のアンモニア態窒素の量が多いと根が痛みやすいとされていますので、施肥のタイミングや量には注意が必要です。

土壌の塩基バランスが崩れている

一般に理想的な塩基バランスは、カルシウム(石灰)・マグネシウム(苦土)・カリウムが5:2:1とされています。このバランスが崩れると拮抗作用により吸収されにくい栄養素が発生するとされ、マグネシウムとカリウムが多い場合にカルシウムの吸収が抑制されやすくなります。これらの栄養素を過剰に施肥した場合に発生しやすくなります。

また、硝酸態窒素が多い土壌ではpHが酸性に傾き鉄、マンガン、アルミなどが溶け出しやすくなるため、カルシウムとの拮抗作用発生リスクが高まります。あるいはアンモニア態窒素の量が多すぎると、同じ陽イオンの性質をもつカルシウムの吸収を抑制しますので注意しましょう。いずれにおいても土壌が窒素過多にならないようにすると良いでしょう。

圃場が高温多湿環境になっている

周辺環境が高温になると植物の生長速度が速くなりますが、生長が速すぎるとカルシウムの供給が追い付かず細胞壁の強度が弱い状態で、新しい葉が形成されます。細胞壁の脆弱な葉縁や萼片は傷みやすくチップバーンの発生リスクを上昇させます。また高温環境で湿度が上昇すると葉の気孔が閉じてしまい、蒸散作用が低下すると同時に二酸化炭素の吸収性能も低下するため、光合成活動をスムーズに行うことができません。この影響により植物の細胞にダメージを与える活性酸素が蓄積されたり、根から栄養を吸い上げる活動量が低下したりすることで葉が枯死すると考えられています。

関連コラム:ビニールハウスの換気方法|作物に最適な環境を目指して

イチゴのチップバーンを防ぐ方法

単純にカルシウムの量が足りない場合は追肥を行いましょう。カルシウムの施肥量が足りている場合は、カルシウムの吸収が抑制されない環境づくりをする必要があります。一般に施設栽培においては、カルシウムが土壌から不足する可能性は低く、塩基バランスが崩れることにより発生することが多いようです。

高温多湿にならないように環境制御する

施設栽培においては、施設内が高温になりやすいため対策として、遮光カーテンを設置したり、遮光剤を被覆資材に塗布したりするなどの対策が必要になります。細霧冷房やヒートポンプエアコンなどで温度を下げることもできますが、これらの施設は初期設置費用やランニングコストが高額になりますので、経営上の費用対効果や収支バランスを見て導入を検討する必要があります。

土壌の塩基バランスに気を付けて土作りを行う

塩基バランスが崩れた土壌では拮抗作用が発生しやすくなりますので、土作りの際に留意しておく必要があります。栽培期間中の土壌改良は難しいのですが、生育を始める前の段階であれば土壌分析を行いましょう。塩基バランスはCEC(陽イオン交換量)で示すことができ、この値によりカルシウム(石灰)・マグネシウム(苦土)・カリウムの割合を計算することが可能です。

根からの吸収が難しい場合には葉面散布を行う

土壌環境の改善がすぐに出来ない場合は定期的に葉面散布を行いましょう。ただし土壌環境の抜本的な改善には至っていないことに留意しておきましょう。散布には塩化カルシウム液や硝酸カルシウム液を利用する方法もありますが、葉の汚れや葉焼けなどの濃度障害のリスクが高いためおすすめできません。水溶性の石灰を含む肥料でキレートカルシウムを含むものが良いとされています。葉面散布は即効性に優れている一方、薬害が出やすいため注意が必要です。特にチップバーンが発生している新芽のほうが薬の影響を受けやすいため、肥料の取扱説明欄に記載してある使い方を理解して、規定以上の濃度で散布することがないようにしてください。

関連コラム:イチゴ栽培で葉面散布をするべき理由とは?|効果と対策を徹底解説

イチゴの育苗ステージで根張りを良くする資材を活用する

育苗ステージで根量が増えたり根張りが改善させたりする資材を投入する方法です。特に育苗期の根張りが、定植~収穫にかけての株の生長に影響を与えます。根に共生し栄養吸収を助けるアーバスキュラー菌根菌を含んだ資材や、イチゴの育苗に必要な肥料成分が入ったイチゴ専用培土などがあります。

関連コラム:アーバスキュラー菌根菌とは?リン酸供給の働きと籾殻による活用法

イチゴのチップバーン対策におすすめの資材

農業用ナノバブル植物活性水|根活&ナノバブル水製造装置

根活には肉眼では見えない小さな気泡「ナノバブル」が含まれています。この泡はマイナス電荷を帯びているためプラス電荷を帯びている栄養素(カリウム・カルシウム・マグネシウム・鉄・ナトリウムなど)を引き寄せることができます。ナノバブルは植物の細胞より小さいため、根は効率良く小さな気泡を吸収することができ、同時に引き寄せた栄養素も取りこまれると考えられています。この根活を育苗ステージから使い続けると、根張りが良く根量が多くなりますので、生長した株は土壌の栄養素を収集しやすくなるという訳です。

関連コラム:ナノバブルをいちご栽培に取り入れるメリットとは?

イチゴの育苗と根張りに役立つ資材|キンコンバッキー

キンコンバッキーはアーバスキュラー菌根菌を含んだ資材です。イチゴ栽培では育苗~定植までの期間に施用することで根張りを良くし、収穫期には果重増加による収量増加などの効果を期待できます。
ランナー切り離し後の苗の充実期間にキンコンバッキーを施用します。キンコンバッキーを2000倍に希釈して株あたり50-100mlを施用するとおよそ1ヵ月程で根に共生します。共生後はアーバスキュラー菌根菌のリン酸吸収能による細根の増加によって根張りが向上します。冬期までの根量は厳寒期のイチゴの生育や収量に大きな影響を与え、また本コラムの取り上げたカルシウム欠乏にも少ない根量は影響を与えます。イチゴの根張りに課題のある方はキンコンバッキーを試してみてください。

イチゴの生育環境を整えてチップバーンを防止しましょう

イチゴのチップバーンの発生はカルシウム不足という比較的単純な理由なのですが、カルシウム不足が発生する要因は複雑です。まずは温湿度や土壌などの状況を良く見極めて対策を講じる必要があるかと思います。今回のコラムを圃場の大切な作物をチップバーンから守るためにお役立ていただけましたら幸いです。

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コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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