コラム
イチゴを生理障害から守れ!施設栽培における管理術
公開日2021.08.30
更新日2022.06.08

イチゴを生理障害から守れ!施設栽培における管理術

ビニールハウス施設などを用いたイチゴのハウス栽培は、ちいさな圃場面積で収益を上げることが可能とされており、平成28年の少し古いデータになりますが、農林水産省によると3,863haもの面積でイチゴの施設栽培が行われています。品種改良も県単位で行われブランド化に成功、トマト栽培と並び新規参入しやすい作物として人気があります。

イチゴ栽培は土耕よりも高設で液肥管理を行う栽培方法を選択される方が増えてきました。イチゴは日が長くなると生長が促進する性質があり、この時期に高温・多湿にさらされるとストレスを受け健全に生育できなくなったり、病気にかかり易くなったりするようです。

イチゴの生理障害とは?

皆さんが普段口にしているイチゴのルーツは、地球の北部に位置するオランダです。そのためイチゴが生育するための適温は17~20℃と、やや冷涼の気候を好み夏の暑さには弱いといわれています(イチゴの光合成の速度は10~20℃が最速)。イチゴにとって適切な「日射・土壌・潅水・施肥・温湿度」などの環境のバランスが崩れると、イチゴの生体内の物質が作用して引き起る障害いわゆる「生理障害」が発生するリスクが高くなります。

ざっくりした例ですが、人間が食事をした後に血中糖分が上昇し、ホルモンの一つのインスリンが働き血糖値の上昇を穏やかにし糖尿病になるのを抑えているように、イチゴの生長の仕組みでも根から吸収した肥料分や微量要素と葉で合成したでんぷん類を利用し、各組織を構成する細胞などを再生産していきます。一種の化学工場が稼働しているようなものです。イチゴのこのような活動が化学反応だと仮定すると、最適に合成処理できる環境を逸脱すると反応速度が遅くなったり、反応出来なくなることが予測され、一般的にはこのことを「生理障害」と呼んでいるようです。

生理障害に似ている栄養障害

同じような障害に「栄養障害」があります。これは肥料そのものの成分が不足して、根から吸収できない状態です(根が十分に機能していない状態や、栄養を上手く利用できない状態となっている)。これらの「生理障害」や「栄養障害」は結果として、葉っぱや茎の異常をきたし、最終的に成果物である果実の商品価値を下げる結果となるため、「果実障害」として現れます。

「生理障害」と「栄養障害」は、イチゴの生体内の物質が作用して引き起る障害や、肥料分の過不足が原因で起きる障害として知られよく似ています。適切に肥料管理がされている水耕栽培では主に日照不足や高温障害からくる「生理障害」が多いのではないかと思います。この障害が発生すると植物の生長に必要なアミノ酸や糖類が適正に合成されなくなり、葉や茎が不健康になり免疫系も弱り、病気にかかり易くなったり害虫をひきつけやすくなったりします。

植物どうしは情報交換をしているといわれ、特に知られているのは香り成分です。花の香りや、葉をちぎったときの香りを使い受粉のチャンスを交換したり、食害にあったと連絡したりするそうです。共生関係にある動物(特に昆虫が多いかと思います)も香を利用していて、「生理障害」や「栄養障害」が発生したイチゴは害虫が認識しやすい香りを出しているかもしれません。

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イチゴの生理障害の種類と症状

日射不足

着果や実を大きくするためには、たくさんのエネルギーが必要です。そのためには光合成を活性化する必要があり、曇天続きだと光合成が上手く行えずエネルギーを作り出すことができません。冬の日照時間が長い栃木県がイチゴ生産量全国1位になっているのは、このような現象が実証されていると考えることができるのではないでしょうか。光合成が行われないと土壌中の未消化チッソが増加し、免疫力が低下することで植物が弱り、病害虫に罹患しやすくなります。日照時間が不足する地域では、人工的に明かりを点灯し不足を補っています。

土壌の水分(潅水)不足

当然のことですが、光合成を行うには上記の太陽の光に加えて水も必要です。イチゴは果実のおよそ90%は水分であるため、そもそも水が不足すると果実を肥大させることができません。

栄養素のかたより

栄養素の過不足により発生する障害です。窒素・リン酸・カリ等の多量要素や各種微量要素の欠乏・過剰などによりイチゴの生長作用を阻害するさまざまな症状が発生します。欠乏症については、チッソ・リン・マグネシウムといった植物の内部で移動しやすい栄養素は下の葉から、カルシウム・鉄・マンガン・ホウ素といった移動しにくい要素は上の葉から症状が発症します。

  栄養素 欠乏症状 過剰症状
多量要素 チッソ 葉の黄化、茎の赤色化 葉のチップバーン、花房の伸長不足による壊死
リン 葉の濃緑化、新葉の成長抑制、ネクロシス(壊死) 亜鉛欠乏、鉄欠乏、マグネシウム欠乏などの症状を引き起こす
カリウム 葉脈全体が黒化、花房の褐変 葉のチップバーン、古葉の葉脈間のネクロシス(壊死)
カルシウム 新芽のチップバーン
マグネシウム 葉脈の間のネクロシス(壊死)
微量要素 ホウ素 新葉の葉脈の間のクロロシス(黄化・白化) 古葉の黒色化、葉脈間のネクロシス(壊死)
亜鉛 葉の淡色化、葉脈の赤紫化
新葉の葉脈の間のクロロシス(黄化・白化)  
ニッケル 新葉の葉脈間のネクロシス

温度・湿度のかたより

温度

気温が5℃より低くなると花粉や雌ずいの活性が低下し、イチゴは休眠状態になり生育が悪くなります。20~25℃が適温です。温度上昇による弊害としては、25℃以上では花芽形成が阻害され、30℃以上では飽和点に達し光合成の速度が低下し生育が抑制され、35℃以上では果実に奇形が発生します。ビニールハウスでは温度が高くなるため多発するリスクがあります。

湿度

乾燥しすぎると二酸化炭素の取り込み口を閉じてしまい、上手く光合成活動が行えないという状態になります。株の間の通気性が悪く、湿度がこもった環境で果実を生育させると、発酵果になることがあります。潅水と換気の管理は重要です。発酵果は夜間の低温・日照不足・高湿度で発生が多くなるようです。上記の対策に加え、「玉だし」という作業が対策になります。玉だしとは、茂ったイチゴ株の中に埋もれた果実を通路側にだしてやることをいいます。「あまおう」をはじめ九州地方でよく行われる作業で、これは関東地方と植え付け方が異なるからです。玉だしをすると果実の日当たりを良くし風通しが良くなるため、湿度対策ともいえます。

  生育環境 症状 対策
日照・温度・湿度・等 短日時期(12月~1月) つの出し果、果実の先端からつの状の突起物が出る 日照不足により根に必要な養分が足りなくなる株疲れが影響、電照及び頂果房の摘果
低温障害及び、高温障害 色むら果、果実の色が薄くなる 温度管理(夜2℃以下、昼間28℃以上にしない)
高温障害(37度以上) 葉っぱの脱水症状、奇形果ができやすい

換気を十分に行う

 

日照不足・湿度が高い 発酵果、果実が発酵して色がぬけていく 玉だし反射マルチ・条間を広げる、換気を行う
短日初期・肥料過多(10月頃) 乱形果・変形果、成長が良すぎて肥料が効きすぎる 定植苗を大苗にしない、腋果房分化時期に液肥濃度を下げる。花房の連続出蕾により、バランスを保つ

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イチゴの生理障害の発生原因

肥料あたり

多くのイチゴ農家さんが、初秋頃から苗を定植される時期かと思います。定植する苗が大苗で活着が良すぎ、株の栄養条件が良すぎる時期に、花芽の生長が良すぎると実の形が崩れたものが多くできることがあります。この傾向は第2花房に多く発生する傾向があるといわれ、高地で育苗された夜冷苗より通常のポット苗の方が発生しやすいといわれています。

急激に温度があがる

イチゴは夜間5℃以上、日中25℃以下の温度を好みます。急激な温度上昇は人間の熱中症と同じような現象が起こり、37℃以上の高温にさらされると柔らかい葉っぱから水分が急速に失われ、枯れる原因となります。25℃以上の温度になると光合成の効率が悪くなるといわれ、根の活動に必要な養分が確保できなくなり成り疲れや株疲れの現象が発生します。

収量が急速に減少したりして、第2花房で減少したかと思えば、第3花房で勢いが回復し、つの出し果ばかりということになります。この現象は、日照不足で光合成の効率が落ちた時も現れます。

過度な乾燥や過湿

イチゴは、比較的低温で湿潤な環境を好む植物です、光合成では水分を必要とします。実を熟させるとき、根は水分と肥料分を活発に取り込みます。この時肥料過多(特に窒素成分)で水不足の環境では、チップバーン(葉先枯症)が発生することがあります。アンモニア態窒素の過剰摂取が原因として考えられ、比較的気温が高い時期に発生し2番果の蕾ができるころ、条件が整うと出やすいといわれています。加湿の状態で、換気が悪い状態は果実を発酵させることになり商品価値を下げます。

イチゴの生理障害対策

イチゴの生理障害対策は、以下の5点に集約されます。また、品種によって注意点が微妙に異なります。ほとんどの場合各県ごとにブランドを持ちその生育の特性が調べられているようです。特性を理解し栽培してください。

  1. 適切な日射量を確保する
  2. 高温・高湿度環境を作らない
  3. 土壌中の栄養素バランスを大切にする
  4. 過度に農薬や化学肥料に頼ることはやめる
  5. 作物を健康的に育てる(耐性を強くする)

生理障害に起因する病害

「生理障害」が発生するということは、イチゴが不健康な状態にあるということです。人間でも同じですが不健康な状態は、いろいろな病害や害虫の被害を受けやすくなります。本章ではイチゴが受けやすい病害を紹介します。

灰色かび病

カビの一種である糸状菌により引き起こされます。ガク・果柄・葉柄などが侵され、灰色や褐色に変色し、症状が進行すると軟化して果実全体がカビに覆われます。

うどんこ病

葉っぱや実にうどんこを振りかけたような白い斑点が発生します。実に発生すると商品としての価値がなくなります。

萎黄病

糸状菌の一つでイチゴの根から感染します。暑い夏日が続くなど土壌温度が25~30℃になるような高温期や、有機物が未熟である土壌で発生しやすいと考えられています。発病すると新しい葉が黄緑化して、褐変して枯死します。

炭疽病

糸状菌の一つで葉・葉柄・ランナーなどに黒色の点が発生します。黒い病斑が確認できないこともあるようです。病斑が拡大すると枯死します。

輪斑病

育苗ステージの葉・葉柄・ランナーなどに紫赤色の点が発生します。病気が進行すると病斑が輪斑状になり、枯死します。

イチゴ栽培に多数の実績あり!!おすすめの農業資材

イチゴ栽培を成功させるためには様々な工夫が必要です。本章ではイチゴ栽培において多数の農家さんより実績があったとの声をいただいた、おすすめの農業資材を紹介したいと思います。

アグリランプ(イチゴ向け)

近日発売予定のアグリランプ(イチゴ向け)。価格は1球あたり3,080円(税込・送料込)です。お問い合わせをお待ちしております。

モーターフォグ

いちご栽培に人気のある小型電動噴霧器です。モーター式なので動作音が静かで細かい霧状の薬液をビニールハウスに噴霧することでいちごの体調を整える効果があります。

使い方のポイントはこまめに少量散布すること。次に記載するリフレッシュの上澄み液を週に1~2回、1,000㎡あたり4~5Lを散布します。葉っぱの状態が良くなり、いちごの体調を健康に保つ(病害虫に強いなど)ことが期待できます。

★モーターフォグの使い方のコツに関してはこちらをご覧ください
『モーターフォグの使い方とコツとは? 上手く葉面散布するポイントと注意点』

虫ブロッカー赤

数百品目を超える植物に深刻な被害を与えるアザミウマ。殺虫剤の耐性を獲得して化学的防除が困難になってきました。虫ブロッカー赤アザミウマ対策ができる赤色LED防虫灯です。赤色LEDはアザミウマの抵抗性を発達させず密度を低下させることに貢献します。

虫ブロッカー赤の設置目安(1機あたり)の推奨ピッチは10m~20m(短いほど効果あり)。赤色LED(ピーク波長657nm)を日中に十数時間程度(日の出1時間前~日の入り1時間後までの点灯を推奨します)照射するとアザミウマの成虫は植物体の緑色の識別が困難になり、ハウスへの誘引を防止すると考えられています。その他、殺虫剤の散布回数減・散布労力減といった効果も期待できます。

イチゴの生理障害を発生させない圃場作りを

イチゴの生育に適しない環境を放置するとイチゴは不健康になっていき、さまざまな障害が発生したり、病害虫の被害を受けやすくなったりしてしまいます。発生する症状は多種多様で対策が大変かと思いますが、適切な管理のもと健康な株を育てるために今回のコラムをお役立ていただければ幸いです。

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コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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