ナガマドキノコバエとは?生態について
ナガマドキノコバエ(Neoempheria ferruginea)とはハエ目キノコバエ科の虫で、主に菌床シイタケ栽培で発生する農業害虫として知られています。加害幼虫は10~15mmと大型で、体色は透明な乳白色をしており菌床シイタケの表面を食害します。幼虫は菌床で孵化し体長6~10mmの成虫となります。成虫はハエというよりは蚊のような見た目をしていて、北海道~沖縄とほぼ日本全国で発生が確認されています。気温の上昇に伴い発育は活発となり、卵が孵化して成虫になるサイクルが早くなります。成虫は日の出後や日没後に活動しやすくなります。
ナガマドキノコバエによる菌床シイタケの被害
ナガマドキノコバエの幼虫は、シイタケの菌床や子実体*を加害し、収量を減少させるだけでなく、幼虫が混入すると異物混入とみなされ出荷停止に陥る可能性があります。個装パックの中で蛆虫の幼虫が見つかると不快害虫が入っているとして不良品として扱われます。幼虫はシイタケの傘の裏側に入り込むため、製品を出荷する際に丁寧に検品する必要があり、付着した幼虫を除去する作業に時間がかかります。生産性は著しく低下する上に廃棄品も発生します。また成虫は菌床から菌床へと飛び回るため、菌床で発生した病原菌を他の菌床に伝染させるというリスクも上昇します。
*子実体:菌類の菌糸が密集してできる栄養体のことで、大型のものはキノコと呼ばれます。
ナガマドキノコバエの被害が増えた原因とは?
菌床シイタケ栽培は菌床に水分を供給する必要があり、供給方法としては菌床を浸水させる浸水方式と上から散水する散水方式があります。浸水方式は20~30日に1回菌床を浸水させて水分を供給させる方法で、散水方式は1日に1~3時間程度、水を大量に散水する方法です。どちらの方式にも一長一短があるのですが、ナガマドキノコバエの防除という意味では、浸水方式のほうが優れています。それは、菌床を浸水すると幼虫が脱落し、菌床に生息していた幼虫数を減少させることができるからです。散水方式では菌床を浸水するという工程がないため防除効果が低いと考えられています。
そして最近は高品質なシイタケを栽培するために上面栽培という方法が取られているケースが多く、一般的にこの栽培方法で採用される給水方式は散水方式です。上面栽培とは、菌床の上面以外を袋掛けして、側面と底面を常に浸水させた状態で栽培する方法です。上面にだけシイタケの養分を集中させるため、従来の簡易栽培に比べて高品質のシイタケが収穫できるとされています。このような上面栽培の増加によりナガマドキノコバエの被害が増加してきたのではないかとされています。
ナガマドキノコバエの防除方法
菌床シイタケ栽培では、ナガマドキノコバエに使用可能な農薬が登録されていないため、殺虫剤を使用することができません。防除技術としては、物理的に施設の密閉度を高める方法や施設内を清潔に保つ方法、そしてLEDの光や誘引剤を用いて捕虫する方法が一般的です。
施設の密閉度を高める
ナガマドキノコバエは菌床シイタケ栽培施設周辺に生息しているパターンが多いため、まずは侵入するリスクを低下させることが大切です。出入口に網戸を設置したり、換気扇にもメッシュを取り付けたりするなど、ナガマドキノコバエの侵入を防ぐ措置を実施しましょう。
誘引剤(乳酸発酵液)を設置する
ナガマドキノコバエは菌床から発生する発酵臭に誘引されると考えられており、乳酸発酵液の臭いは、この発酵臭と近いため誘引剤として活用することができます。500mlのペットボトルに乳酸発酵液と界面活性剤を1:1で希釈した液体70mlを入れて、ペットボトル容器の側面に25×25mm程度の侵入口(3カ所程度)をカッターなどで開口します。ペットボトルの首をビニール紐などで固定して150cm程度の高さに設置します。
LED光捕虫器を設置する
黄LED・紫LED・紫外線LEDの三種類で実測すると、紫外線LED→紫LED→黄色LEDという順番で誘引される効果が高いとの研究結果があり、紫外線LEDを備えている捕虫器がナガマドキノコバエには最も効果的だと考えられています。このようなLED光を発することができるLED捕虫器を選んで設置するようにしましょう。
施設内を清潔に保つ
菌床の腐敗が進むとナガマドキノコバエの餌となりますので、シイタケの発生が終了した菌床残渣は適切に処分するようにしましょう。子実体の残渣や菌床のカスなども徹底的に除去し清潔な状態を保つことを心掛けましょう。
浸水工程を取り入れる
菌床を16時間水没させると蛹や幼虫は死亡するとされていることから、浸水工程を取り入れることでナガマドキノコバエの発生を抑制させることができると考えられています。ただし24時間以上水没させると菌糸が窒息する可能性があるため注意しましょう。また卵は死亡しないためその点にも留意しておく必要があります。
寄生バチを利用する
未だ研究段階ではありますが、ハエヒメバチ亜科に属する新種の寄生バチでナガマドキノコバエの幼虫を殺すハチの存在が確認されています。このハチはナガマドキノコバエの幼虫を見つけるとすぐに近寄り、針を突き刺して幼虫に卵を産み付けます。孵化したハチの幼虫は、ナガマドキノコバエの幼虫の体を食べて生長し成虫になるとされています。この寄生バチの生息する場所では、ナガマドキノコバエの幼虫数が激減するという報告もあるようです。
ナガマドキノコバエの防除におすすめの資材
ナガマドキノコバエの防除におすすめなのが、吸引式LED捕虫器スマートキャッチャーⅡです。525nmの緑色LED光と375nmの紫外線LEDを放ちナガマドキノコバエの成虫を誘引し、強力吸引ファンで捕虫袋に捕獲することができます。反射板により360度パノラマ状に光を放ち、光が届く面積は500㎡ですから、この面積に対して1台の設置を推奨しています。AC-100-240VのACアダブターが付属しており電源を取れる場所であれば、どこにでも設置することが可能です。モーターは小型化や軽量化を実現するフレームレスモーターを採用しており、このモーターは虫の死骸が固着して回転不良を起こすこともありません。
これ1台でナガマドキノコバエの駆除や防除ができることはありませんので、前章でご紹介した防除方法と組み合わせて複合的に防除を行うようにしましょう。
ナガマドキノコバエを防除して菌床シイタケを守りましょう
ナガマドキノコバエは使用可能な農薬が登録されておらず、いざというときでも殺虫剤を使用することができません。さらに短期間で大量に増えてしまうため、農家さんの心理的な負担も大きいかと思います。今回のご紹介したいくつかの方法を用いてナガマドキノコバエの防除にお役立ていただければ幸いです。
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コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。