今回のコラムでは、厳寒期イチゴ栽培のサポートの一つである葉面散布について解説したいと思います。
厳寒期のイチゴ栽培のポイント
厳寒期は凡そ12月~2月の頃を指しており、イチゴの生育が緩慢になる時期となっています。促成栽培における厳寒期は、9月頃に定植したイチゴの生育ステージは頂果房から第二果房に切り替わる時期、あるいはその果房の収穫を行っている時期となっています。9月に定植する最も大きな理由に「クリスマス需要とお正月需要を見据えていること」が挙げられます。イチゴは果実を実らせることにとても多くのエネルギーを必要としており、また、お正月が終わるころは厳寒期中で最も低温となる期間です。ただでさえクリスマスとお正月で疲れ切っているイチゴにとって1~2月は元気が空っぽになっている時期と理解できます。そして、この時期実際に発生する現象が“中休み”です。
中休みとは「頂果房の着果負担による第二果房の遅れによって一時的に収穫量が減少する現象」のことをいいます。中休み現象の対策はいくつかありますが、多くのイチゴ農家が複数の対策を実施しています。慣行栽培的に最も多く採用されている中休み対策は“電照”です。日長時間を長くして葉の矮化(わいか)を抑制し光合成を促す目的があり、中休み対策として効果的とされています。その他の中休み対策には炭酸ガスの施用、暖房やウォーターカーテンなどを利用した温度管理、アミノ酸や微量要素の補給を目的とした葉面散布などが挙げられます。次章では、イチゴの葉面散布について解説したいと思います。
イチゴに対する葉面散布の効果
そもそも厳寒期のイチゴの根量は少なくなっているといわれています。また、中休みに入ってしまったイチゴの収穫量は全くのゼロというわけではなく、少なからず果実を実らせます。当然、イチゴは果実を実らせることに対してエネルギーや栄養分を必要としているため、光合成で賄えない分を自らの根量を減らしてでも果実に配分します。つまり、イチゴに元気を出させるための措置としては、減少してしまっている根からの養分吸収を期待するよりも葉からの養分吸収を期待した方が効率的と考えることができます。
下記にイチゴに対する葉面散布の効果について説明します。
樹勢の回復
イチゴに対する葉面散布の効果はいくつか知られています。最も期待できる葉面散布の効果は樹勢の回復です。そもそも葉からの養分吸収を促しているので最もダイレクトに効果が現れやすいことが理解できると思います。樹勢が回復することで日射を受けやすくなるため光合成効率が良くなり、中休みを抑制して着花数、着果数、収穫量へと有効効果が連鎖していきます。
チップバーンの抑制効果
葉面散布剤によってはミネラル(鉱物)を豊富に含んだものがあり、そのなかでもカルシウムを含有した葉面散布剤では“チップバーン”の抑制が期待できます。チップバーンはカルシウム欠乏症にあたり、イチゴの新葉、花芽、クラウンなどに影響を与え、壊死や発育不良の症状が発現します。あるいは軽症の場合でも萼(がく)に障害が発現するので果実品質が下がってしまいます。カルシウムは植物体内で移動性の低い栄養素であり、カルシウムの不足した土壌の場合、根に留まってしまい葉への転流量が減少します。厳寒期における葉面散布でのカルシウム施用はチップバーンに対してとても理にかなった対策だといえます。
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葉が硬くなる
葉面散布剤の種類にもよりますがマグネシウム、カルシウム、鉄、マンガン、銅、ホウ素、ケイ酸などを含んだ葉面散布剤はイチゴの葉を硬くする効果が期待できます。これらの金属系栄養素は植物細胞やそれに関わる器官に作用することが要因として挙げられます。葉が硬くなることによってイチゴ株が強くなりうどんこ病や灰色かび病などに対する耐病性が上がることが期待できます。
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葉面散布のタイミング
イチゴ栽培における葉面散布のタイミングについて、厳密にどのタイミングで施用すると最も効果的であるかは定められていません。イチゴの元気がないタイミングを見計らって散布しますが栽培者の感覚に委ねられることが殆どで、時期としては12~2月頃の厳寒期が多いようです。捉え方を変えると、3月に入り日長時間が長くなって暖かくなってくるとイチゴの生育が旺盛になってきます。葉の展開の早まりに伴って果房の上がる日数間隔も短くなってきます。つまり、果実の収穫作業が増え出荷・調整作業も増えてくるため葉面散布に割く時間が取れなくなってくることが栽培現場で発生しています。また4月になってくるとさらに収穫量が増えて、農薬散布作業すら定期的に行えなくなってきます。このような状況下において多くの農家の考え方は、「5月の収穫終了まで逃げ切る」であって、葉面散布はおろか農薬散布もできないほど忙しくなっています。ちなみに「逃げ切る」の意味は、主にアザミウマとハダニ及びうどんこ病からの被害を対象としていることが多いです。加えて、生育の観点からしても葉面散布剤による樹勢回復や栄養補給の優先順位が下がってきていることもまた実際です。
イチゴ栽培に適した葉面散布剤の種類
葉面散布剤として利用できる肥料は数えきれないほど販売されているのが現状です。栄養素の種類、それら栄養素の含有量と配合割合、原材料がなにに由来した肥料なのか、このような違いをもった製品が数多く出回っています。これらの製品のなかには農薬散布のときに併用できるものや液肥としても利用できるものがあり、農家にとって扱いやすい製品が多いようです。
以下では原材料別の葉面散布剤の種類について紹介したいと思います。
海藻系
海藻由来の葉面散布剤の特徴は、アミノ酸とミネラルを豊富に含有していることです。アミノ酸はアルギン酸、ラミナリン、マンニット、フコイダンなど海藻特有の栄養素を含んでいます。モリブデン、銅、ニッケルなどの微量要素も含有しており、一度に多くの栄養素を施用できることは海藻系資材の長所といえます。
魚系
魚由来の葉面散布剤は魚特有の臭いが気になりますが、これは製法の一つである“発酵”によるものです。海藻系葉面散布剤と同様にアミノ酸とミネラルを含有しており、特に微量要素ではモリブデン、亜鉛、ホウ素、マンガンなどが含有されていることが特徴的です。また、製造方法によっては窒素、リン酸、カリウムの含有量が僅かな製品もあり、継続施用による窒素過多を抑制できる製品も販売されています。イチゴに対しては、生育が旺盛になる春頃などに施用すると果実の品質向上が期待できます。
腐植系
腐植物質であるフミン酸を含有した製品が多く販売されています。フミン酸は土壌有機物に含まれる物質で、圃場では主に堆肥として施用されて植物の生育を補助しています。近年は十分な量の堆肥を施用する農家が減少してきており、その代用として腐植系の資材が用いられています。フミン酸の特徴の一つに、リン酸とアルミニウムの結合を抑制する効果が挙げられます。酸性化する農地にとってフミン酸は大きな役割を果たしているといえます。
鉱物系
鉱物由来の葉面散布剤はケイ酸、鉄、カルシウム、マグネシウムなど主に金属系栄養素を含有しています。これらの栄養素は植物細胞の構造や構成に関与しており、植物は樹勢回復やそれに起因する耐病性向上や葉が硬くなるなどの有効効果が期待できます。イチゴに対しては、定植後から厳寒期の間に施用するとうどんこ病や灰色かび病の抑制に大きな期待ができます。
イチゴ栽培に有効的な葉面散布剤の紹介①
海藻のエキス
原料のノルウェーで採取された「アスコフィルム・ノドサム(学名:Ascophyllum nodosum)」は自然環境豊かな北大西洋海流域に繁茂する海藻で、河川から流入した豊富な栄養分を蓄積しているという特徴があります。加工し製造した粉末は水にサッと溶けるため、灌水・潅注・葉面散布の際に簡単に混用することができます。農薬と混用することができることも大きなメリットです。追加の散布作業が必要ありません。アルギン酸・ラミナリン・マンニット・フコイダンなどの多糖類、各種ミネラル・ビタミン・アミノ酸・微量要素などの60種類以上の栄養素や植物ホルモンの作用により、植物の生育改善や品質向上の効果が期待できます。
イチゴ栽培に有効的な葉面散布剤の紹介②
天然アミノ酸入り複合肥料|オルガミン
オルガミンは天然アミノ酸入り複合肥料(液体肥料)です。最近話題のバイオスティミュラント資材にも登録されています。魚をまるごと糖蜜と一緒に発酵させて作っています。化学処理をせずに天然発酵によって分解された約18種類のアミノ酸が含まれた液肥です。さらに植物が必要とする微量要素も加えられています。窒素・リン・カリがほとんど含まれていないため、作物の生育ステージを問わず安心して使用することができます。1,000倍に希釈し農薬と混合で葉面散布剤として利用できます。アミノ酸は植物への吸収が早く、速効性が高いです。低温・高温・霜・乾燥・日照不足・長雨・病害虫などの障害が発生した際の回復や、植物抵抗力の増加の効果が見込めます。
主にブドウとモモで大好評の剤ですが、イチゴにも使用できます。イチゴ農家さまのオルガミンファンもおり葉の立ちや糖度アップなど様々な好影響を得ることができます。
葉面散布で厳寒期を乗り越えよう
今回のコラムではイチゴの葉面散布について詳しく解説しました。コラム中でも述べさせていただきましたが、葉面散布剤は多種多様に溢れています。しかし少なくとも、葉面散布剤がなにに由来して製造されているのかを把握することで、イチゴに対する有効性を分別できると思います。また、イチゴは栽培期間の長い野菜です。伴って収穫期間も長く、そのため栄養分をたくさん消費して、寒い時期も経過します。このような場合、葉面散布剤のような肥料を補助的に追加していくことは、品質向上や収量増加に大きな影響を与えます。
今回のコラムが皆様のお役に立つならば幸いです。
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コラム著者
小島 英幹
2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の研究に着手する。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。
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