コラム
ブロッコリー栽培におけるヨトウムシとの闘い
公開日2024.02.01
更新日2024.02.01

ブロッコリー栽培におけるヨトウムシとの闘い

農林水産省が2026年よりブロッコリーを野菜生産出荷安定法における指定野菜に追加する方針であると発表しました。指定野菜になると作物の市場価格が下がった場合に、収入が補填されるといったメリットがあります(指定する産地で生産するなどの条件があります)。品種や作型を上手く活用することで周年栽培ができるブロッコリーですが、気温が温かくなってくると農家さんの頭を悩ますのが作物の葉を食い散らかすヨトウムシ(ヨトウガ)の被害です。今回のコラムではブロッコリー栽培におけるヨトウムシの被害とその対策についてお伝えしていきたいと思います。

ブロッコリーを食害するヨトウムシとは

ヨトウムシは体長20~40mm程度のイモムシで、緑色や褐色をしています。チョウ目ヤガ科に属するヨトウガの幼虫です。非常に高い広食性があるため多くの野菜で被害が報告されています。日中は土の中や株元で身を潜めて、夜になると活動を開始することから夜盗虫と表現されます。日が出ているうちは、天敵である鳥に捕獲される恐れがあるため、暗くなってから動き始めるのです。

ヨトウムシの成虫は、葉裏に数十~数百の卵を塊で産み付けます。雌成虫1匹あたり2,000~3,000個を産卵するといわれています。卵の形は饅頭のような白色をしておりサイズは0.6mm程度です。孵化後、幼虫は集団で行動し、老齢幼虫になるにつれて別々の場所に移動して葉を食い散らかします。その後、土のなかで蛹となり再び成虫となって圃場にあらわれます。成虫は4km以上の飛翔能力があるとされ、圃場の外から飛来してきます。台風など強風の影響で流れてくる可能性もあり、突発的に発生することがあります。

関東から南の温暖な地域で越冬できるとされていますが、施設栽培の広がりにより被害が増えていると考えられます。ブロッコリーの農業害虫として主に問題となるのは、ヨトウガ・ハスモンヨトウ・シロイチモジヨトウなどです。

一般的な露地栽培におけるヨトウムシ(ヨトウガ)の生態

季節 ヨトウムシ(ヨトウガ)の生態
4月~5月 越冬した蛹が羽化して産卵する
5月~6月 孵化した幼虫が葉を加害する
7月 土の中で蛹になる
8月~10月 蛹が羽化して産卵する
9月~11月 孵化した幼虫が葉を加害する
12月 土の中で蛹になる

※シロイチモジヨトウやハスモンヨトウはヨトウムシに比べて発生数が多いとされる

ヨトウムシから食害されたブロッコリーの被害

若年幼虫が加害した場所はかすり状に白くなります。老齢幼虫になるにつれて食害の量が増えて、ブロッコリーの葉がボロボロになるまで食い散らかします。ヨトウムシは「夜盗虫」と書くように夜に活動が活発になりますので、葉が食い荒らされているにもかかわらず、日中アオムシが見つからない場合は、土の中に隠れているヨトウムシに加害されている可能性が高いです。ブロッコリーの花蕾を大きくするためには、外葉がしっかりと育つことが重要だとされていますが、葉がスカスカになってしまうと、光合成を行ってエネルギーを生み出すことができず収量を大きく減少させる原因になります。葉脈のみを残して食害された株は、光合成が阻害され株の生長が鈍くなり場合によっては枯死します。防除の対策が遅れて、ヨトウムシが多発すると花蕾も食べられて売り物にならなくなったり、花蕾の中に侵入したものが市場に出回ってしまったりして評判を落とすこととなります。

関連コラム:ヨトウムシの被害から作物を守るには?予防や駆除におすすめの設備

ヨトウムシからブロッコリーを守るための対策

ヨトウムシの防除方法にはいろいろな選択肢がありますが、基本は発生量や推移を把握し記録しておくことです。圃場での状態(モニタリング)に加えて、各地域の行政機関が発表している病害虫情報をこまめにチェックしておくと良いでしょう。また複数の方法を組みあわせた害虫対策を立てておいたほうが、柔軟性が生まれて突発的な事象にも対応しやすくなります。

フェロモントラップ

ヨトウガの雄成虫は雌成虫が発するフェロモンに引き寄せられて接触することで産卵機会を増やしています。化学的に合成した性フェロモンを放出して、粘着シートや捕獲箱に捕獲したり、ヨトウガの交信を攪乱したりして交尾の機会を減らす方法です。粘着型・ドーム型などの製品が販売されています。

米ぬかトラップ

フェロモントラップは幼虫には効果が期待できません。かわりに米ぬかを使ったトラップがあります。ヨトウムシの幼虫は米ぬかを食べると消化することができず、おなかを壊して死んでしまいます。小皿程度の深さに器を用意して(ペットボトルの上部をカットして作ると便利)、そこへ米ぬかを入れます。土と同じ高さになるように穴を掘って容器をセットします。雨で米ぬかが薄まると効果が弱くなりますので雨よけのカバーがあるといいですね。場合によっては、他の虫が集まってしまうことがありますので注意してください。

農薬(殺虫剤)散布

ヨトウムシは、老齢になるほど薬剤が効きにくくなったり、花蕾の中へ侵入してしまったりするため、若齢幼虫のうちに散布する点がポイントです。同一系統の殺虫剤の散布は薬剤抵抗性を発達させるリスクがあるのでローテーション散布を行うと良いでしょう。また、ヨトウムシへの薬剤連用には問題がなくても、コナガなど他の害虫には抵抗性発達のリスクが高い薬剤などもありますので、駆除を実施する際にはその点についても留意しておく必要があります。

関連コラム:農薬散布の正しい方法と注意点|安全・安心な作物作りを目指して

防蛾灯

夜行性のヨトウガ(ヨトウムシの成虫)は明るい場所で、活動量が著しく低下するという性質があります。ヨトウガが日中に活動しないのは、太陽の光が出ている場所では天敵である鳥に見つかりやすいからだと考えられています。防蛾灯を使用して日没から緑色や黄色の光を照射させると、ヨトウムシの成虫は昼間と勘違いして活動しにくくなります。ヨトウガにとってはずっと昼間の状態が続いているようなもので、交尾や産卵の機会を減らす効果が期待できます。光源は、従来ナトリウムランプや蛍光灯が使われていましたが、今はランニングコストの安いLEDタイプが出てきています。

関連コラム:防蛾灯を利用したヤガ(夜蛾)対策、効果のほどは?

テデトール(手で取る)

もっとも原始的ですが、もっとも手軽な方法(手で取る)です。卵を産み付けられた葉や幼虫を手を使って除去する方法です。孵化した後の幼齢幼虫は葉裏に群生しているので早期発見・早期対応が重要です。デメリットは発生が多発すると作業が追いつかないことです。

防虫ネットを被覆する

ネットや寒冷紗などを使って夜間のヨトウガの侵入を防ぐ方法です。圃場への侵入を防ぎブロッコリーの株へ産卵させないようにします。

関連コラム:防虫ネットの正しい使い方|害虫のハウスへの侵入を阻止

ヨトウムシ対策におすすめの資材|虫ブロッカー黄色・緑

ブロッコリーをヨトウムシから守るためにご紹介したい資材の一つが虫ブロッカー黄緑・虫ブロッカー緑です。夜行性であるヨトウガの性質を利用した防除方法です。黄緑や緑の光を夜間に照射することで、ヨトウムシの成虫であるヨトウガは昼間だと勘違いをして、天敵から身を守るために活動が停滞します。光に殺虫効果はありませんが、雌成虫と雄成虫との接触機会が減少し産卵を抑制する効果が期待できます。防水仕様のため施設栽培だけでなく露地栽培でも導入することが可能です。光源はLEDですから一度導入してしまえばランニングコストは安く抑えられます。ただし、大量に発生してしまった後では効果が低下しますので、そうなるまえに電照をスタートさせる必要があります。ヨトウムシだけでなく、コナガ・タバコガ・メイガといったチョウ目ヤガ科に属する害虫にも効果が期待できます。

ヨトウムシの密度を抑えてブロッコリー栽培を成功させましょう

ヨトウムシの食欲は旺盛で大量に発生させてしまうと手に終えなくなくなります。葉への食害はブロッコリーの光合成を停滞させ、花蕾の生長を抑制します。品質の良いブロッコリーを収穫できるように、シーズンがスタートする前に防除の方法を検討し、適切な計画を立てておくことが大切ですね。今回のコラムをお役立ていただければ幸いです。

関連コラム:ハスモンヨトウとは?生態と防除に適したタイミング、対策方法

参考資料:
ヨトウムシ類の発生生態と防除
(兵庫県立農林水産技術総合センター)
ハスモンヨトウの耐寒性と越冬に関する研究
(農業研究センター)

ブロッコリー栽培におけるヨトウムシとの闘い

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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