コラム
防蛾灯を利用したヤガ(夜蛾)対策、効果のほどは?
公開日2023.07.24
更新日2023.07.24

防蛾灯を利用したヤガ(夜蛾)対策、効果のほどは?

農作物を加害するヤガ(夜蛾)類の対策として、農薬散布が積極的に行われ防除効果を上げてきましたが、ヤガ(夜蛾)類は殺虫剤に対して抵抗性を獲得しやすく、農薬の開発に並走する形で現れる抵抗性種の出現が問題となっています。現在は天敵を利用した生物農薬や、フェロモントラップなど殺虫剤以外の様々な防除対策が試されています。今回のコラムでは、その中でも害虫の光の習性を利用した防蛾灯について詳しく解説していきたいと思います。

ヤガ(夜蛾)の特徴と生態

ヤガ(夜蛾)類は蛾の一種で、名前が示す通り夜行性です。日中活動すると鳥などに捕食されやすくなるため、一定の明るさがあると複眼が明反応をして活動を停止する習性があり、太陽の光が出ている間は木と同化してじっとしています。日本には1300種を超える種類が生息しており、約1割が害虫として記録されています。生長ステージによって、幼虫(芋虫)→蛹→成虫と形態を変化させます。一般に幼虫は草葉や花を摂食し、成虫は果樹や果菜類の実を摂食します。林野を生息地帯としており、夕方から活動を開始して周辺の圃場に侵入し、果樹や果菜類の実を摂食したり、産卵したりして日が空けるまでに林野に帰っていきます。夜間の温度が高いほど、活動が活発になる傾向があり、10℃以下の環境ではほとんど活動しなくなります。

ヤガ(夜蛾)による被害

農業において被害が大きいヤガ(夜蛾)として、オオタガコガハスモンヨトウ・メイガ・ヨトウガ(ヨトウムシ)などが良く知られていますね。被害は夜の温度が高くなりやすい晩春から初秋にかけて多くなる傾向があります。栽培作物とヤガ(夜蛾)の種類によりますが、幼虫・成虫ともに農作物を加害します。

幼虫による被害

ヤガ(夜蛾)の幼虫は食欲が旺盛で作物の葉や花を加害します。葉が加害されると光合成が行えなくなり生長が停滞する原因となります。葉や花、それ自体が商品である場合には、価値が著しく低下します。

成虫による被害

ヤガ(夜蛾)の成虫は果樹や果菜類の実を加害します。とがった口で刺し傷を作り、果実などを吸汁します。加害された場所は雑菌が入りこんで柔らかくなり、やがて腐敗します。

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防蛾灯の効果のメカニズム

ヤガ類は、天敵からの捕食を逃れるために夜の間に飛来し、接触・交尾・産卵などを行います。日中は太陽の光を複眼で感知して活動を停止しています。圃場で日暮れから明け方までに黄色系や緑系の光を点灯すると、ヤガ(夜蛾)はずっと昼間だと勘違いして動かなくなります。防蛾灯は、オオタガコガ・ヨトウガ・メイガなど夜行性のチョウ目に対して効果が期待できます。同じガの仲間でもアブラナ科の作物を加害するコナガやモンシロチョウ(加害するのは幼虫)に対しての効果はありません。

多くのチョウ目昆虫の複眼は、特定の光の波長に対して高い感度を持っています。可視光線の中で最も感度が高い波長については、500~540nm(人の視覚では緑色)とする説と、580nm付近(人の視覚では黄色)とする説の二つがありますが、現在のところ黄色のほうがヤガの密度を低下させる効果は高いという説を支持する人のほうが多いようです。

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防蛾灯を使用する際の注意点

作物の生長に悪影響を及ぼす場合がある

栽培している作物が長日植物や短日植物の場合には、防蛾灯の電照が作物の生長に悪影響を及ぼす可能性があります。植物のフィトクロム吸収域は、550nm~720nmとされています。設置に際しては作物と光の関係に注意しなければなりません。

ヤガ(夜蛾)の密度が高いと効果が期待できない

防蛾灯に殺虫力はありませんので、既に害虫の密度が高くなっている場合には効果が期待できません。発生数が多くなる前に設置しておく必要があります。密度が高くなってしまった場合には薬剤散布による害虫防除を実施するほうが効果的です。

光が届かないと効果が期待できない

作物が密植されていたり、防蛾灯の設置数がすくなかったりするなど、防蛾灯の光が届かない部分が多いと、ヤガ(夜蛾)類は明反応を示さず活動して効果が見られない場合があります。

光の種類によっては害虫を引き寄せる可能性がある

防蛾灯の光の種類によっては、コガネムシなど正の走行性の特徴をもった害虫を引き寄せる可能性があります。紫外線(380nm以下の波長)の量が少ないタイプの防蛾灯を使用すると良いでしょう。

関連コラム:コガネムシの対策方法を詳しく解説|初動対応が大切

防蛾灯を利用するメリット

防蛾灯を上手に活用できればヤガ(夜蛾)の密度が増えにくい効果が期待できるため、薬剤散布の労力や時間を軽減することが可能です。殺虫剤の散布はタイミングが難しいのですが、防蛾灯はタイマーをセットすれば、シーズンがおわるまで手がかかることがないため、農作業の労力を軽減することとなります。ヤガ(夜蛾)による作物の被害が減れば収穫率は向上し、収益アップにつながります。

おすすめの資材|防蛾灯 虫ブロッカ―黄緑・緑

虫ブロッカ―黄緑・緑は、露地栽培施設園芸におけるヤガ(夜蛾)の被害を軽減するLED防蛾灯(LED防虫灯)です。太陽の光が届きにくくなる夕方から早朝にかけて、LEDの光を照射することでヤガ(夜蛾)の行動を抑制し密度を低下させ、繁殖を抑える効果が期待できます。LED防蛾灯による防除は、ヤガ(夜蛾)の習性を利用したものであるため、薬剤抵抗性が発達した種を出現させるリスクを低くする効果が期待できます。またLED光は、紫外線領域の波長がカットされていて正の走行性を持つ害虫を引き寄せにくいといった特長があります。LEDは消費電力が少なくランニングコストを抑えます。100Vタイプと200Vタイプがありますので圃場の電源環境に関わらず、設置しやすいというメリットもあります。

防蛾灯を利用して効果的に夜蛾を防除しましょう

栽培作物の光に対する習性を確認する必要はありますが、防蛾灯をうまく活用できれば、ヤガ(夜蛾)類に対して抑制効果が期待できそうですね。薬剤散布の労力や時間を節約できるという大きなメリットもあります。防蛾灯が適切な防除対策かどうかは栽培作物や圃場の環境にもよりますので、まずは試験的に狭い範囲に設置しても良いのかもしれません。今回のコラムをヤガ(夜蛾)対策にお役立ていただければ幸いです。

関連コラム:桃畑のヤガ対策を省力化?防蛾灯を利用した害虫対策

参考資料:
黄色高圧ナトリウムランプによる大規模露地圃場のヤガ類被害防止法
(九州病害虫研究会報)
点滅緑色光によるオオタバコガとヨトウガの活動抑制と複眼分光感度
(日本応用動物昆虫学会 )

防蛾灯を利用したヤガ(夜蛾)対策、効果のほどは?

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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