コラム
黒ボク土の特徴とは?農業利用のポイントを解説
公開日2022.12.30
更新日2022.12.30

黒ボク土の特徴とは?農業利用のポイントを解説

日本は多数の火山が存在する世界屈指の火山国*です。火山噴火により地表に降り注いだ火山灰が堆積し生成された土壌が広く分布し、古くから農地として利用されてきました。このような火山灰由来の土壌は黒ボク土といわれ、日本の農耕地の主要な部分を占めています。今回のコラムでは、野菜や果樹の耕作地として利用されている黒ボク土(火山灰土壌)の特徴やメリット・デメリットなどを解説していきたいと思います。

*日本は環太平洋火山帯に属しており、世界で確認されている活火山の10%ほどが日本にあります。

黒ボク土とは?

黒ボク土は、日本の国土の約30%に分布していて、国内の畑でいえば約47%とおよそ半分を占めている状態です。火山灰と腐植物質で構成されていて、腐植が多い影響で表層は黒色や黒褐色、下層は褐色をしているという特徴があります。土の色が黒く、手で触った感じが「ボクボク(ホクホク)」とすることから黒ボク土(黒土)と呼ばれています。ボクボクしているのは土の塊に隙間が多く軽いからです。関東ローム層が黒ボク土の土壌として有名ですね。同じ黒ボク土でも、土が生成される環境の違いにより性質が異なり6種類に分類されます。

黒ボク土の原料(母材)の火山灰は、噴火後に風に乗って移動し地表に堆積します。堆積した場所が湿潤であると植物が良く成長し、その遺骸が分解される過程で多くの腐植ができあがるとされています。日本は湿潤な環境であるため、腐植の豊かな黒ボク土が広く分布しています。

生成される環境の違いにより6種類に分類される

種類 特徴
未熟黒ボク土 経過年数が浅いためリン酸吸収係数が低い
黒ボクグライ土 地下水位の高い場所にあるため水で飽和されている
過湿で多くが水田で利用されている
多湿黒ボク土 排水性能の低い台地に分布している
過湿で主に水田で利用されている
褐色黒ボク土 森林に分布している黒ボク土、ブナの林に多い
有機物を多く含むが、色は黒くなく褐色をしている
非アロフェン黒ボク土 結晶性粘土鉱物を含んだ黒ボク土
強酸性土壌になりやすい
アロフェン質黒ボク土 良質な排水条件において火山灰の風化によって生成される
最も多く見られる黒ボク土

日本の黒ボク土の特徴

日本の黒ボク土は、世界一肥えた土地であるチェルノーゼム*に匹敵する高品質の腐植物質を豊富に含んでいます。色が黒いことが腐植物質の多さを示しています。ではチェルノーゼムと同様に肥沃な大地であるかというと、そうではありません。降雨量が多く土壌微生物が活発に活動する日本の環境**では土壌が酸性に偏りやすくなっています。

黒ボク土は、鉄やアルミニウムを豊富に含んでいます。この鉄分やアルミニウムは土壌に安定的に存在しており、酸性土壌においてリン酸と強固に結合し不可給態リン酸となります。これが原因で植物は根からリン酸を吸収しづらくなります。このように、酸性土壌では三大栄養素の一つであるリン酸の固定化が起こりやすいため、黒ボク土で農作物を栽培する場合は多めにリン酸を施用することが推奨されます。

*チェルノーゼムは、ウクライナから西シベリア南部や、北アメリカのプレーリー、アルゼンチンのパンパ、満州などに分布している土壌で、農業に適しており小麦の多くはチェルノーゼムの土で栽培されています。土壌の養分が豊富で、特にウクライナは世界のチェルノーゼムのおよそ25~30%を占めており「欧州のパンかご」や「世界の食糧庫」などと呼ばれています。チェルノーゼムが分布する地域は、春に一年草の草が生えて夏に乾燥し、秋になると植物が枯れて腐植となります。加えて雨が少ないことから土壌の栄養分が流亡しにくいという特長があります。

**雨は空気中の二酸化炭素が溶けるため酸性を示しますが、日本は降雨量が世界で3番目に多い国です。また温暖な環境の影響で土壌微生物が活発に活動します。土壌微生物の呼吸によって放出された二酸化炭素は土壌中の水に溶け込み、酸性に偏ってきます。気候と土壌微生物の関係によって日本の土壌は酸性になりやすくなっています。

黒ボク土で農業を行う場合のメリット

団粒構造が発達しやすい

日本国土のほとんどは温帯に属し、温暖湿潤な気候です。これは土の中の大小さまざまな土壌生物が活発に活動する要因の一つになります。そのため土壌の団粒構造が発達しやすいという傾向があります。団粒構造が発達すると保水性(保肥性)と透水性という相反する土壌性質が向上し、植物が根から養水分を吸収することができるようになります。通気性も良いため根が呼吸を阻害されにくく根腐れを防止します。根が伸長しやすい環境です。

関連コラム:団粒構造とは? 植物が良く育つ土壌に必要な要素と土の作り方

CECが高い

一般に、黒ボク土のCEC(陽イオン交換量)は他の土壌に比べて高く20~40meq程度です。土壌中に存在するカルシウム(石灰)・マグネシウム(苦土)・カリウムといった陽イオンを吸着・保持する性質に優れています。

耕作しやすい

黒ボク土は間隙率が高く、土が硬くないため耕作しやすいという特長があります。土がホクホクしているため耕耘時のトラクターの刃が摩耗しにくく、刃の交換頻度が少なくなります。

黒ボク土で農業を行うときのデメリット

作物がリン酸欠乏に陥りやすい

酸性に傾きやすい日本の土壌では、火山灰由来の鉄やアルミニウムがリン酸と結合しやすくなり不可給態リン酸(難溶性リン酸)が増えるため、リン酸の施肥量に対して肥料の効果が出にくいという傾向があります。窒素カリと並び三大栄養素の一つであるリン酸は、開花や根の伸長に影響しますので、これが不足することは収穫量の減少に直結します。

関連コラム:適量のリン酸施肥のために把握すべき可給態リン酸とは?

リン酸の肥料代が農業経営を圧迫する

近年の世界情勢も影響してリン酸肥料は高額な肥料になってしまいました。リン鉱物の産地は特定の地域に偏っていて、現在確認されている埋蔵量は、モロッコ・西サハラ・中国だけで世界の3分の2の量があります。当然に日本も輸入に頼っていることから、世界各国の力関係の変化に政治判断を誤ると、とたんに肥料が高騰し農業経営を圧迫することとなります。

リン酸が過剰に蓄積されているかも?

高度成長期には三大栄養素を含んだ肥料の価格が、農作物の価格に対して安くなったり、肥料投入についての補助金が出たりするなど、化学肥料が大量に投入されてきました。このような土壌では、リン酸が過剰に蓄積されている可能性があり、鉄・銅・マグネシウム・亜鉛などの微量要素の欠乏症状を誘発するとされています。しかし「土壌に豊富なリン酸が残っているかも」という点に着目すれば、リン酸の施肥量を減らしながら品質や収量を落とさない栽培ができるわけですから、デメリットとまではいえないかもしれません。土壌中のリン酸含有量については、まずは土壌診断をすることが推奨されます。

黒ボク土で農業を行うときの留意点

土壌pHの管理を行う

消石灰苦土石灰など石灰資材投入により、土壌のpHをアルカリ性へ傾けることで、リン酸と結びつきやすい鉄やアルミニウムの溶出を防止し、不可給態リン酸の増加を防ぐ方法です。しかし、黒ボク土に相当する火山灰土壌には粘土鉱物アロフェンを含むアロフェン質土壌と、含まない非アロフェン質土壌があり、リン酸の難溶化に差異があります。土壌の酸性改善とリン酸の肥効については因果関係が明らかではないという研究もあり例外なく改善されるとはいいきれません。

関連コラム:土壌EC・土壌pHとは?その測定方法と適正値について

く溶性リン酸を施用する

水に溶ける水溶性のリン酸は速効性があるという特長がありますが、土壌で活性化した鉄やアルミニウムと結合しやすくリン酸の固定化につながります。黒ボク土のようにリン酸固定の力が強い土壌では、植物の根から分泌される酸によりゆっくりと溶け出すく溶性のリン酸を施用すると固定化が起こりにくく良いとされています。

黒ボク土で農業を行う際のおすすめ資材

インドネシア産バットグアノ|リンサングアノ

黒ボク土のリン酸施肥におすすめなのがインドネシア産バットグアノリンサングアノです。リンサングアノは黒ボク土においてリン酸固定を予防する効果が期待できます。その理由は、含まれているリン酸はク溶性であること、そして同時に腐植酸が含まれていることです。ク溶性リン酸は土の中にある鉄やアルミニウムと結合しにくい(固定化しにくい)という特長があります。また腐植酸は鉄やアルミニウムと結合しやすく(または結合して存在している)ため、土壌中のリン酸が作物の根から吸収しやすい状態を保ってくれるという作用があります。したがって、リンサングアノは土壌でのリン酸の固定化がおこりにくく、作物に対する適当な肥効が期待できます。

黒ボク土の特徴を把握した農業経営を

日本には母材が火山灰である黒ボク土が広く分布しています。本章でお伝えした通り黒ボク土は他の土壌には見られないリン酸固定や特徴が確認できました。黒ボク土で農業を行う際には、これらの特徴を把握して土壌の管理を行う必要がありそうです。今回のコラムを生産者の皆様にお役立ていただければ幸いです。

黒ボク土の特徴とは?農業利用のポイントを解説

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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