硝酸態窒素の基礎知識
●硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)とは
地球の地表付近の大気の主な成分は窒素と酸素がほとんどを占めており窒素が約80%で酸素が約20%、のこりは微小な割合のアルゴンと二酸化炭素です。このように窒素は目に見えないながらも日々触れている存在です。また窒素はアミノ酸・タンパク質・DNAやクロロフィル(葉緑素)の元となり、植物を構成する大変重要な存在です。
生物地球化学的循環のひとつである窒素循環により、大気中の窒素は微生物などで無機化されて土壌に取り込まれてアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、そして硝酸態窒素と形を変えていきます。このように窒素が化学反応により酸化したものを硝酸態窒素といいます。富栄養化の原因にもなり、あらゆる場所の土壌や水中に広く存在しています。
●硝酸態窒素が植物の成長に必要な理由
植物の成長に必要な栄養素は窒素・リン酸・カリウムです。このうち窒素は葉や茎の成長に必要な栄養素です。植物は大気中の窒素を直接吸収することができませんが、この土壌に含まれた硝酸態窒素を根から吸収することで窒素を取り込んでいます。植物はこの硝酸態窒素をため込んで蓄えておくことができます。野生の草木が肥料などを与えられることがない栄養素が少ない環境でも、枯れるどころか旺盛に育っているのはこの硝酸態窒素を取り込み、そして蓄えているためです。
硝酸態窒素が人体に与える影響
●硝酸態窒素が問題視されるようになった背景
農作物を栽培する際に、良い品質の作物を収穫することを目的とするためには自然界における窒素循環だけでは硝酸態窒素が不足してしまいますので、これを補うことができる様々な種類の肥料を使用します。これにより土の中には硝酸態窒素が潤沢になり、植物は自分を守るため硝酸態窒素が土中に有れば有るだけ根から吸収し蓄積していきます。植物は取り込んだ硝酸態窒素を光合成などの活動を通して分解しアミノ酸へと形を変えて成長していきます。使い切らない分の硝酸態窒素はそのままの形で蓄積していきます。しかし、人間でも栄養分の取りすぎが様々な病気を引き起こす要因となるのと同様に、植物も硝酸態窒素の過剰な蓄積は健全な状態ではありません。このため農作物の栽培においては適切な量を施肥することが重要になります。しかしながら市場における農作物の中には硝酸態窒素を過剰に摂取した物が流通している場合があります。このような野菜を人間が食べると、当然人体の中に硝酸態窒素が取り込まれます。この取り込まれた硝酸態窒素が人体に与える影響が懸念され、問題視されるようになってきました。
●硝酸態窒素が人体に与える影響
人間も大気中の窒素を直接取り込むことができず、動植物に含まれるたんぱく質(アミノ酸)を食事として口にすることによって間接的に窒素を体内に取り入れています。食材として使用された野菜において、成長の過程で使い切らずに蓄積されていた状態の硝酸態窒素があれば、そのまま人体に摂取されていきます。硝酸態窒素そのものは通常に摂取する程度では特に人体にとって害を及ぼすことはありません。この硝酸態窒素がヒトの体内で化学反応を起こした結果、様々な病気を引き起こすとされています。
人間が摂取した硝酸態窒素は、主に消化管から速やかに吸収されて血液に移行し、一部が唾液中に分泌され、大部分は腎臓を通じて尿中に排泄されます。
消化器官に吸収されたものが微生物により還元が行われ亜硝酸態窒素となります。これが消化器官内でたんぱく質中のアミンやアミドなどと反応して、発がん性が示唆されるニトロソアミンの生成に関与するおそれがあります。また亜硝酸態窒素が血液中のヘモグロビンと反応し、酸素運搬機能のない血色素のメトヘモグロビンを生成させます。通常1~3%程度であるメトヘモグロビン濃度が15~20%となると酸素の供給量が不十分となりチアノーゼ症状(酸素欠乏症)を呈します。さらに40%以上では頭痛・めまい・呼吸困難・意識障害などの症状が出現します。これら症状はメトヘモグロビン血症と呼ばれています。
硝酸態窒素の亜硝酸態窒素への還元は微生物によって行われますが、その繁殖・活動はpH5以下では抑制されます。このため胃液のpH値が2~3である大人では硝酸態窒素の還元がほとんど起こりませんが、胃酸の分泌が少ない乳幼児はpH5~7であるため還元反応が進みやすくなります。また乳児は酸素運搬機能のない血色素のメトヘモグロビンをヘモグロビンへ還元する還元酵素の活性が大人より低いためメトロヘモグロビン血症に罹患しやすいとされています。
もちろんこれら症状は野菜に残留した硝酸態窒素だけが原因ではなく、井戸水などの飲料水に含まれた硝酸態窒素や食品添加物として使用されている硝酸塩などが由来である場合も多々あります。野菜はビタミン・ミネラル・食物繊維などの供給源として大変重要な存在です。また多くの研究の結果において、野菜は様々な生理作用があり、ヒトの健康に非常に有益であることが明らかになってきています。このように野菜とヒトとは切っても切れない関係にあります。
現状において野菜に残留した硝酸態窒素が主要因で健康被害を引き起こすおそれがあるとはされていませんが、現在我が国で生産されている野菜、特に葉菜類の硝酸態窒素の濃度は比較的高い傾向にあり、ヒトにとって硝酸態窒素は摂取する必要はないため、野菜中の硝酸態窒素の濃度を低く抑えることは、より安心であることは間違いありません。
農作物に含まれる硝酸態窒素を減らす主な方法
では安心安全な農作物を作るため、硝酸態窒素を減らすにはどのような栽培方法を取入れれば良いのでしょうか。人間でも活動する代謝量よりも食事などによる摂取エネルギーの方が大きければ太ってしまいます。言い換えると摂取エネルギーよりも大きな代謝量があればダイエットすることができます。植物でも同様のことが言えるのではないのでしょうか。
①硝酸態窒素の過剰吸収を抑える
植物は成長するためそして飢餓状態でも組織を維持するために根から吸収できる最大限の硝酸態窒素を取入れようとします。これを抑制することがまず先に考えられますが、これはもちろん収量や品質を落とさないということが大前提となります。したがって、生育に必要な量は確保し、かつできるだけ少ない量の窒素肥料を施用することが重要となります。この点に注意し植物が栄養を摂りすぎないようにします。
どのような種類の肥料でも最終的には硝酸態窒素となり植物の根から吸収されます。即効性の化学肥料よりも緩効性肥料の方が緩やかに吸収されるので、植物が過剰に硝酸態窒素を吸収するのを防ぐことができます。有機肥料は土中で微生物分解などが行われながら根から吸収される硝酸態窒素に形をゆっくり変えていくので過剰な吸収を抑制することができます。
また、収穫時における土壌中の肥料成分をできるだけ少なくするために追肥はなるべく控え、追肥の必要性が高い状況のときはなるべく早く施肥するといった処置が求められます。
これらの取り組みは農作物の安心安全もありながら施肥量の減少につながり、環境負荷低減にも貢献するのではないでしょうか。
②硝酸態窒素の還元スピードをあげる
植物は光合成において硝酸態窒素を還元しますが、光が強いほど硝酸還元酵素が活性化されます。つまり根から吸収し蓄積されている硝酸態窒素をよりたくさん消費することになります。このため残留する硝酸態窒素を減らすことができることになります。
具体的に光合成を活発化させるには、施設園芸において被覆資材の透明度を保つ、遮光は最低限度に抑えるなどとし、収穫作業に関しては曇天の翌日は避け、できれば晴天が続いた日の午後に収穫すると残留硝酸態窒素を抑制することができます。
③モーターフォグを用いたリフレッシュの葉面散布・潅水
硝酸態窒素が過剰になった植物は葉の色が濃い緑色になります。また栄養過剰なため徒長気味になります。こうなると病害虫に対して弱くなったり、花芽分化が遅れて収量が下がったりと望まない状態になります。
そこでお勧めするのがモーターフォグ(小型電動噴霧器)による葉体活性要素リフレッシュの葉面散布です。リフレッシュは秋田県八沢木でのみ産出するモンモリロナイト粘土(軟質多孔性高度珪化珪酸塩白土)です。植物の健康管理や品質向上などを積極的に支援する環境保全型資材です。リフレッシュは土壌中の過剰な窒素を吸着し、葉に含まれる未消化窒素を吸い出す働きをします。こうして葉を軟弱にしたり節間を徒長させたりする余分な窒素が無くなるため、植物は健全な生育に近づきます。また未消化窒素を求めて集まる害虫や病気に取りつかれるすきが少なくなります。
リフレッシュは砂状の製品であるため、水を張ったタンクに投入し時間をおいて成分が染み出してきた状態でその水を使用します。この水を小型電動噴霧器モーターフォグを使用して葉面散布を行います。また、この水を潅水に使用します。これらにより窒素過多症(垂れ下がって元気のない濃緑色の葉)を緩和し光合成を活発にさせて、花卉類では花色が良くなり、果菜類では実の肥大や濃度が増して食味が向上します。また、土壌水分を浄化し有害ガスを吸着・分解するので有効微生物が活性化し、弱った根や葉を元気に育てます。
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バランスの良い食事を心がける
一般消費者は過剰な摂取をしない限りは硝酸態窒素を過度に恐れる必要はありません。先に述べたとおり野菜は重要な栄養源です。通常の範囲においては栄養のバランスを考えた食事を摂ることを心がけるようにすることの方が重要です。ただし、乳幼児においては水および葉菜類(ホウレンソウなどの葉物野菜)の品質には気を付けた方がよいでしょう。生産者は肥料の量を制限することによるコストダウンや、環境負荷の低減を目指すことができるため適切な量の窒素肥料の施肥を行っていくと良いでしょう。