ビニールハウス栽培の基礎知識
野菜の栽培は、育てる野菜が育つ条件や特性を理解することが大切です。そしてその条件にあった気象・土壌・肥料を人工的にコントロールできれば、上手に栽培することが可能だといえます。そのような発想で行われる農業はガラスハウスやビニールハウスを利用した施設園芸ですね。その中でもビニールハウスを利用した栽培法はもっともメジャーで多く行われている農業です。
ビニールハウスの原型は、油紙を使ったトンネル栽培ではないでしょうか、太陽光の熱を集め作物の促進を目的とし、大正時代に高知県で始まり主に北上して伝わりました。農業用のビニールが低コストで普及するまで広く使われていました。農業用ビニールは油紙に比べ耐久性に優れ透過性も高いので急速に広がり、費用対効果が高いことから常設型の温室ビニールハウスとなり現在の大型設備となりました。
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ビニールハウス栽培の主な方法
ビニールハウスを利用した栽培は土耕栽培・水耕栽培などがあり、この栽培方法に温度管理ができる機能を加えたものがあります。
土耕栽培
土耕栽培は、トンネルハウス栽培の発展形でしょうか。地温や気温を確保し植物の育成促進を狙った栽培方法です。露地栽培と同様に土に肥料や土壌改良資材などを混ぜ環境を整え行います。露地栽培での経験を取り込みやすく、気温や地温の調節し出荷時期の調整が可能になれば、露地物が出回る前の高値の季節に出荷可能で高収益が期待できます。また、初心者にとっても、露地でどのような作物が育ちやすいのかがわかっていれば、作物の選定も容易だと思います。
水耕栽培
水耕栽培は、管理栽培をより進めた形の栽培方法になります。栽培ベンチやユニットを導入し土を使用せずに水と肥料で作物を育てます。水や肥料は灌水チューブを使い、根に直接供給できるように流れを作ります。主に土には2つの役割があり、植物の自立を支持することと、肥料を供給することです。水耕栽培はこの土の2つの役割を別の方法に置き換えた栽培方式です。
水耕栽培では土に肥料を混ぜるかわりに水へ直接肥料を混ぜて供給します。投入前・投入後の差分と育成状況の紐付ができれば、育成計画が容易になります。与える肥料を直接コントロールしますので、成長スピードを制御することが可能です。植物の固定(根の固定)には発泡パネルなどを使います。
ビニールハウス内で栽培しやすい作物
ビニールハウスは外界とハウス内の農地を、ビニールシートで遮断することにより、外部気象環境の影響を抑え、内部環境変化を穏やかにすることができます。気温・地温の制御がしやすく、出荷時期を早めたり遅くしたりします。加温設備などの導入を行うと通年を通じ、育成環境の維持が可能になります。
野菜類は、種まきから収穫までの期間が3か月から4か月ぐらいのものが多いのですが、施設を利用して栽培すれば、種苗時期をずらすことで、通年出荷可能になることが期待できます。
通年を通し需要が高い農産物
葉菜類 | 小松菜、アスパラガス、ネギ、ホウレンソウ、レタス、ニラ、春菊 など |
果菜類 | キュウリ、ナス、トマト、イチゴ など |
ビニールハウス栽培のメリット・デメリット
ビニールハウスは、トンネルハウスに比べ大型の設備になっています。外部環境と遮断された環境によりできることのメリットと、その状態を維持するためにはそれなりの費用がかかるというデメリットがあります。それぞれ見ていきたいと思います。
メリット
天候の影響を受けにくい
ビニールハウスでは、栽培環境を外部気象環境とできるだけ切り離すことを目的にしています。風雨などの自然現象の影響を排除し、気温変動を小さくすることができます。これにより、年間を通じ作物を栽培することが可能になります。
病害虫のリスクを軽減できる
外部環境と切り離すことを目的としている構造のため、結果として病害虫の侵入を防ぐ機能も持ち合わせています。より侵入率を下げるために出入り口を2重構造にしたり、防虫ネットで隙間を埋めたりと、外と内を区別する技術も進んでいます。
出荷時期を調整できる
ビニールハウス内の環境を調整できれば、農作物の生産時期を調整することが可能となります。市場価格が高い時期を狙って、出荷が可能となれば収益が上がり経営が安定します。出荷時期を遅らせる栽培方法を抑制栽培、早める方法を促成栽培といいます。市場全体の供給量が少ない時期に出荷すれば、高値で売れることが期待できます。
機械化による効率化を図りやすい
ビニールハウスの外界との遮断機能を高めると、内部の環境管理がしやすくなります。最初に注目されるのは、加温制御による冬場の保温や、天窓制御による夏場の換気のような温度制御です。次に注目されるのは、植物の生産量をコントロールするために必要な要素である肥料・日照量・二酸化炭素濃度の制御です。このように、ビニールハウスを所有している農家の方は、営農方針や経営規模にそって様々な制御設備を導入しています。多くの農業機器・設備がありますので自分の環境にあったものを選択し、効率化を図っていくと良いでしょう。
このような制御機能がさらに進化したものに、いろいろなセンサーを組み合わせ、数値データを統計処理し農業支援できるシステムが存在します。施設内の温度・湿度・二酸化炭素量などをセンサーで測定し、環境に応じて自動換気や薬剤の自動噴射などを行うことができます。これらを積極的に取り込み、全自動営農を目指した設備に植物工場といわれるものがあります。機械化することで、労力を抑えながら安定生産が可能になり、このようにITなど先進技術を活用した農業は「スマートアグリ」「スマート農業」などと呼ばれています。
デメリット
導入や維持に費用がかかる
トンネルハウスは一回の種苗から収穫の期間使う簡易な設備で少しのコストで効果を狙うというものですが、ビニールハウスはそれを拡大発展させ、大量生産大量消費型を狙った生産方式のためイニシャルコストも高額になります。生産効率を高めるにはは生産設備の大型化が進むことになるためです。
ビニールハウスを複数年使用できるものにするため、適度に強度のある柱等を組み合わせ、ビニールを張っていきます。建設する作業やメンテナンス作業を業者に頼むことになると、それなりのコストを覚悟する必要があります。機械化により、効率化の期待はできますがそれを維持するためエネルギーの維持(電気・灯油など)も不可欠です。
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大型化に伴う分業制によるリスク
設備が大型化すると、手間と時間のかかる育苗を外注業者へ依頼するケースが増えてきます。生産効率を高めるために、苗つくりの育苗と、定植が分離する方法で、100%健康な苗を定植することができれば生産量が確保できますが、外注先の倒産や契約切れなどにより、生産ができなくなるリスクが発生します。
自然災害による倒壊リスク
ビニールハウスは、通常の建築物に比べたらはるかに風水害に弱く、ビニールハウス内に風の通り道ができ、台風や強風などで内外の圧力変化を受けビニールがはためく現象が起きます。また冬場の雪は、ビニールの張りが弱い場所(雨が降った後に水がたまる場所)などにたまっていきます。これらの力に耐えられなくなるとハウスは倒壊します。倒壊すると、再建費用もさることながら生産中の作物が集荷できなくなる恐れもあります。
台風対策に関してはこちら⇒ビニールハウスの台風・強風対策|作物を守る環境制御システムとは?
連作障害が起こりやすい
土耕で行う場合、同じ圃場で同じ作物を育て続けることになります。土壌内の栄養バランスや生物の多様性が損なわれ、連作障害を起こしやすくなります。病害虫を発生させてしまうと駆除が難しく、蔓延させてしまうこともあります。栽培環境を健全に保つのは大変です。
ビニールハウス栽培に役立つ設備
空動扇|全自動温度調節換気扇
ビニールハウスの温度や湿度を自動的に調節してくれる換気扇です。電気やバッテリーなどを使用せずに無電源で作動します。ビニールハウス内の温度が上昇し設定温度になると内部弁が自動的に開き、ビニールハウス上部の熱だまりが排出されます。設定温度以下になると内部弁が自動で閉じて、最適な環境を保つことができます。
電源を使用しないことからランニングコストがかかりません。また人の手で温湿度管理を行う必要がなくなり、余った時間を他の作業にあてることができます。POフィルムの張り替え後2年以内であれば、既設のビニールハウスに追加して設置することが可能です。新たに電気配線工事を行う必要もありません。
▶空動扇の説明動画はこちら
▶空動扇のコラムはこちら:ビニールハウス栽培におすすめの換気扇「空動扇」の特徴とメリット
実際に導入されたお客様の声はこちら:
・8℃下がった!?空動扇はハウス強度を落としません!|磯川さんのコーヒー農園
・ハウス内が涼しくなった!空動扇SOLARの効果を実感|苺絵
・夏場のハウス内温度が低下!湿度対策や耐久性向上にも効果を実感
ビニールハウスのメリット・デメリットを理解し有効活用を
ビニールハウスは上手に活用すれば、作物の収量を増やすことができます。ただし相応なイニシャルコストやランニングコストが発生することと、倒壊や連作障害などのリスクもありますので、導入には慎重に検討することが大切です。
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。