コラム
菊をアザミウマから守れ!
公開日2023.04.07
更新日2023.04.07

菊をアザミウマから守れ!

アザミウマ類は花や葉の表面を削るようにして加害するため、菊の商品価値を低下させてしまいます。繁殖性の高さや薬剤抵抗性を備えやすいという性質があり、防除を実施する菊農家さんにとってはやっかいな害虫といえるでしょう。今回のコラムでは菊におけるアザミウマ類の被害と寄生を予防するための対策をご紹介したいと思います。コラムの後半ではアザミウマ類の防除に役立つツールもご紹介しています。最後までご覧いただければ幸いです。

アザミウマとは?

作物の葉・花・果実などを食害する昆虫です。アザミウマ目に属し、英名のスリップスと呼ばれることもあります。現在は5,000種ほどが確認されています。成虫の体長は1~2mm程度と微小で、花や葉に隠れているため発見が遅れがちです。1匹の成虫のメスが200~300個の卵を産み、2~3日で1齢幼虫となり、1~2日で2齢幼虫になり、3~4日で土の中で蛹になり、3~4日で成虫になるというサイクルを繰り返して芋ずる式に増加していきます。植物の加害された部分は白や褐色に変色し、葉・花・果実などが正常に育たなくなります。活動可能な温度は11~35℃、最適な温度は25~30℃となっており、3~11月の間に発生しやすくなります。

菊栽培におけるアザミウマの被害

口針で唾液を流し込んで作物の組織を破壊しながら汁を吸い取り食害します。菊類では新芽・新葉・花が食害され、食害された部分は白い斑点が生じます。新芽は吸汁されると生長点がつぶれ生育を阻害します。葉は奇形葉や萎縮葉となり、花は色が落ちたりシミがついたりするなど商品価値を著しく低下させる被害を受けます。「卵が作物の内部に産卵される」「幼虫は葉裏に潜んでいる」「蛹は土の中にいる」という特徴があり薬剤が効きにくい傾向があります。また吸汁する際にトマト黄化えそウイルス(TSWV)キク茎えそ病(CSNV)などの植物ウイルス病を媒介するというやっかいな害虫です。幼虫がウイルスを獲得し、成虫がウイルスを媒介すると考えられています。

一般に、菊を加害するアザミウマはクロゲハナアザミウマ・ネギアザミウマ・ヒラズハナアザミウマミカンキイロアザミウマミナミキイロアザミウマなどです。

菊栽培におけるアザミウマの防除方法

ネットやフィルムで被覆する(施設栽培のみ)

アザミウマ類は体長が1~2mm程度のため、侵入防止には目合い0.4~0.6mm程度の防虫ネットを被覆すると良いとされています。ただし、通風性が低下して夏場に施設内の温度が上がり、高温障害を発生させることがあるため温湿度対策が必要になります。虫は赤い色の波長を認識しにくい性質があると考えられており、赤色ネットのほうが防除効果が高いとの研究報告もあります。ネットは太陽の光で退色するため、赤色の効果を持続させるには定期的な張替え作業を実施する必要があります。次にフィルムですが、虫は紫外線領域の波長を感知する性質があり、太陽光からの紫外線をカットする紫外線カットフィルム(UVカットフィルム)を施設に被覆することで、アザミウマが反応しなくなり施設への侵入を防ぐことができます。ただし一度侵入してしまうと増殖を防ぐ効果はないため注意が必要です。

反射マルチを敷設する

圃場の周囲に幅1~2m程度の反射マルチを敷くと、圃場内への侵入を抑制する効果が期待できます。アザミウマの光の入射角に反応して飛翔するとされる性質を生かした防除方法です。

雑草や残渣を適切に除去する

アザミウマ類は、広い食性があるため雑草などにも生息し感染源となります。圃場周辺の雑草を処分したり、圃場内に残渣を残したりしないことが重要です。栽培が終了した後は土壌消毒により土の中に残っている蛹を死滅させると良いでしょう。

散布剤(殺虫剤)を利用する

アザミウマの種類によって薬剤の効き方が異なるため、有効性について確認する必要があります。また、薬剤抵抗性が付きやすいといわれており、作用機構の異なる薬剤を交互に使用するローテーション散布が推奨されています。作用機構のチェックにはIRACコードを活用し確認するとよいでしょう。花弁や葉の隙間に生息しているため、薬剤散布は丁寧に行いましょう。幼虫は葉裏にいるため葉裏にも薬液がかかるように散布する必要があります。ノズルの形状によってかかり方も違いますので適当なノズルを選ぶと良いかもしれません。最近では、噴霧する薬液に静電気を帯電させて葉裏に薬液がかかりやすくなるような製品もあるようです。

粒剤を施用する

定植時や生育期に根から薬剤(殺虫剤)を吸収させて防除する方法です。

粘着シートを設置する

アザミウマが好むとされる黄色や青色の粘着シートで捕殺したり発生数をモニタリングしたりする方法です。飛翔する成虫を捕殺することにより次世代の発生を抑制します。またモニタリングの実施により薬液散布のタイミングを逃がしにくくなります。農薬の散布前後でよく観察すると農薬の効き目を確認することが可能です。

天敵昆虫を利用する

農薬登録されている天敵としてはタイリクヒメハナカメムシ・スワルフスキーカブリダニ・ククメリスカブリダニなどです。自然界に存在する土着天敵のハナカメムシ類は、景観植物であるスカエボラ・バーベナ・フレンチマリーゴールドなどに集まりますので、これらの植物を栽培し天敵採取装置で採取して利用する方法もあります。ただし、菊の生育適温は昼15~20℃、夜10~12℃とやや低めのため、高温で活動が盛んになるタイリクヒメカメムシは適当ではないかもしれません。

アザミウマの防除におすすめの資材

虫ブロッカー赤

アザミウマ類の行動を抑制する製品です。ピーク波長657nmの赤色LED光を昼間に植物に当てると、アザミウマ類は植物の緑色を認識できなくなります。その結果、葉への食害や交尾行動が妨げられるため被害や生息密度が減るというわけです。農薬だけに頼らないアザミウマ対策として注目されています。化学農薬の使用量やロス率を減少させる効果が期待できます。

 

静電噴口

散布する薬液を帯電させて、葉っぱに薬液が付着しやすくなります。農薬が作用を発揮しやすくなり、アザミウマ類の発生頻度を低下させたり、農薬散布回数や農薬使用量を軽減させたりする効果が期待できます。液体が帯電していることを知らせる帯電表示マークにより、帯電の有無を一目で確認することができます。ただし露地栽培では風の影響により付着効果が低下する可能性がありますので、ご留意ください。

 

スマートキャッチャーⅡ

LEDの光でアザミウマ類のような飛翔害虫をおびき寄せて、強力な吸引ファンで捕獲します。電源が取れる場所があればS字フックなどでひっかけるだけで簡単に設置することが可能です。独自のフレームレスモーターにより、虫の死骸が付着してしまうことによる回転不良も発生しにくくなっています。完全防水仕様ではありませんが、防滴型のため散水などでかかる多少の水では故障はおこりません。ただし露地栽培では雨などによる故障が起こりますので使用を避けてください。

適切な防除を実施し菊をアザミウマから守ろう

アザミウマは増殖が速く薬剤抵抗性が発達しやすいという特徴があり、薬剤(殺虫剤)だけによる防除が難しい害虫です。また薬剤の散布には回数制限があったり、農家さんの作業負担になったりするなどの側面があります。そのため、アザミウマ類の被害から菊を守るためには様々な防除方法を組み合わせた複合的な対応が必要になりますね。今回のコラムをお役立ていただけましたら幸いです。

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参考資料:
アザミウマ類の各種薬剤に対する感受性
(宮城県農業・園芸総合研究所)
キク類におけるアザミウマ類の総合的防除対策マニュアル
(沖縄県花き園芸協会

菊をアザミウマから守れ!

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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