ぼかし肥料とは?
米ぬか・油かす・鶏糞・魚粉・骨粉などの有機物を、嫌気性の微生物(発酵菌)に分解・発酵させて作る肥料のことです。有機物をそのまま土に施用すると微生物の働きが過度に活発になり、窒素や酸素を使いすぎて酸素欠乏や窒素飢餓による生理障害を引き起こしたり、有機物分解の過程で発生するアンモニアガスや亜硝酸ガスによるガス障害を引き起こしたりするため、土などで肥効を弱めて使うことからぼかし肥料と呼ばれるようになったようです。有機物を「ぼかす」と有機物に含まれる易分解性有機物が少なくなり、微生物の働きがゆっくりとなるため障害が起こりにくくなるとされています。
そもそも「肥料」とは肥料の品質の確保等に関する法律において植物の栄養に供すること又は植物の栽培に資するため土壌に化学的変化をもたらすことを目的として土地に施される物及び植物の栄養に供することを目的として植物に施される物と定義され、普通肥料と特殊肥料に大別されていますが、「ぼかし肥料」という言葉は肥料取締法で決められた明確な定義は存在していません。製品名に「〇〇ぼかし肥料」「ぼかし〇〇肥料」など表示されているものがありますが、一般にこれらは特殊肥料として申請されているケースが多いようです。特殊肥料としての申請が行われていれば、主な主成分であるチッソ・リン酸・カリなどの含有量が表示が義務化されていません。
ぼかし肥料と堆肥の違いは?
堆肥とは、肥料取締法においては、わら・籾殻・樹皮・動物の排泄物その他動植物の有機物質(汚泥及び魚介類の臓器の除く)を堆積又は撹拌し腐熟させたものと定義されています。肥料の分類は普通肥料と特殊肥料に二分され、堆肥は特殊肥料に該当します。販売や譲渡を行う際には「特殊肥料の品質表示基準」に基づく品質表示が義務づけられ、都道府県知事などへの届け出が必要です。製造工程や肥効においては、堆肥はぼかし肥料と近しいものと考えて良いのではないでしょうか。法令上の違いを説明すると、堆肥として販売や譲渡を行う場合には肥料取締法に従い申請や品質表示が必要になるということになります。
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ぼかし肥料の定義があいまいなので明確に表現するのは難しいのですが、ぼかし肥料は農家さんや家庭菜園をされている方が自作で作っている肥料のことを指すケースが多いようです。自作している肥料は、自身の圃場に施肥する際には肥料の品質の確保等に関する法律に基づく登録や届け出は必要ありません。ぼかし肥料は、農家さんがご自身の経験値をもとに発酵作用を利用し製造していることがほとんどで、材料を変更したりすることが多くあります。このような肥料を肥料取締法で定義されている堆肥とは分けて「ぼかし肥料」と呼んでいるようです。簡単に表現すると農家さんが長年の経験を頼りにDIYで作る肥料というイメージでしょうか。ちなみに農家さん自身で生産された肥料でも販売したり、譲渡したりする場合には登録や届出が必要になります。
本コラムにおいて、ぼかし肥料という言葉の取扱いについては、有機物を原料として自作し自分自身の圃場に施肥する肥料という定義で話を進めたいと思います。
ぼかし肥料のメリット
速効性と持続性のバランスが良い
化学肥料ほどの速効性がなく、易分解性有機物が堆肥よりも多く残っていて、肥料の効果が表れやすいという特長があります(もちろん農家さんの作り方にもよりますが・・・)。有機物を分解する微生物の働きが適度に活性化するため土壌の物理性や化学性が向上する効果も期待できます。特殊肥料として販売されている堆肥よりは易分解性有機物が少し多いというイメージかもしれません。ちょうど化学肥料や有機肥料と堆肥の中間に位置するイメージでしょうか。
土壌の団粒構造化を促す
微生物の食べ物となる易分解性有機物が多く残っているということは、微生物の働きを活発にすることとなり、土の団粒構造化を促すことにつながります。つまり土壌の物理性や化学性が改善し土作りの一助になるというメリットが生まれます。
ぼかし肥料のデメリット
生育障害が発生するリスクがある
易分解性有機物が多くのこっていると、窒素や酸素を利用する微生物の活動が強くなりすぎて窒素飢餓や酸素不足がおこり、作物が生理障害を起こすリスクが高くなります。また、ものによっては肥効が強いため肥料焼けを引き起こす可能性があります。特に経験の浅い方は、最初は少なめに施肥しながら様子を見ると良いでしょう。
ガス障害が発生するリスクがある
有機物を分解する過程で、過度に微生物の働きが強くなりすぎると、アンモニアガスや亜硝酸ガスが発生しやすくなり、ガスが作物の気孔から内部へ侵入し、葉の白化・黒ずみ・萎凋が起こるなどガス障害が発生するリスクがあります。
害虫が集まりやすくなる
有機物の分解・発酵の程度が不十分な場合には、未熟堆肥に近い状態となり害虫が引き寄せられ土に産卵します。有機物は害虫の幼虫の餌にもなるため、ぼかし堆肥の腐熟程度には十分に留意して施肥する必要があります。
次世代への承継が難しい
ぼかし肥料の作り方は農家さんの経験と知恵に頼っている部分が多いため、次世代への承継が難しい場合があります。また、ぼかし肥料作りの経験が浅いと年により肥効成分が異なり、作物への作用が安定しないといったケースも生じているようです。
肥効を維持する土作りに役立つ|地力の素カナディアンフミン
肥料の効果を期待しつつ、かつ圃場の地力を維持させていくためには、やはり土作りが重要です。化学肥料や化成肥料は、速効性があり作物へ素早く栄養を与えたい際には有効ですが、微生物の食べ物が含まれていないことから土の物理性や化学性の改善にはつながらず、化学肥料に頼りすぎると団粒構造は失われて保水性や排水性が低下してしまいます。そこでおすすめしたい資材が腐植酸を含んだ土壌改良資、地力の素です。
地力の素に含まれる腐植物質は、微生物などの菌により土の中で時間をかけてゆっくりと分解されていくため、土の物理性や化学性が維持されるという効果が期待できます。このような圃場においては、土壌の団粒構造化により、肥料や水分が土に維持されつつ同時に排水性が優れていたり、根の伸長領域が広がったりするなどのメリットが生まれ、植物が健全に育ちやすい土壌環境を整えることが可能になります。
ぼかし肥料や堆肥を生かし地力が維持する圃場づくりを
化成肥料が広く普及する前は、糞尿や草木などの有機物を作物への養分補給や地力を維持する方法として活用されていました。このような肥料にも栄養の三要素とされるチッソ・リン酸・カリが含まれ日本の農業を支えてきました。ともすると現代においては化学的な肥料施用の割合が多すぎるのかもしれません。良い作物が長期的に収穫できるようにするためには、化学質肥料と有機質肥料とのバランスのとれた施用が求められています。今回のコラムをお役立ていただけましたら幸いです。
参考資料:
・たい肥と肥料取締法
(農林水産省)
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。