オゾン水とは?
オゾン(O₃)は、酸素分子にもう一つ余分な酸素元素(O)がくっついた不安定な構造をしており結合力がとても小さいため、すぐに酸素(O₂)と酸素元素(O)へ分かれようとする性質があります。オゾンの分解によって発生した酸素元素(O)の酸化力は非常に強く、脱臭や殺菌(除菌)に効果的であるとされています。オゾン水とは、このような作用を持つオゾンガスを特殊な技術を使い溶かした水溶液のことです。水に溶けたオゾンの一部が分解し発生する酸素元素(O)は、水(H₂O)の水素(H)とくっついてOHラジカルを形成します。このOHラジカルは、酸素分子に由来する反応性の高い活性酸素種であるため酸化力が非常に強くウイルスや菌を不活化したり、悪臭のもととなるアンモニアを分解したりするなどの特長を持っていると考えられています。
現在、オゾン水が農薬的に使用できない理由
オゾン水は未だ特定農薬に指定されていないことから、農薬の効果を期待して利用すると法律(農薬取締法)に抵触することになるため、現在のところ残念ながら圃場で野菜や果物に使用することができません。ただし、農業分野においては一切の使用ができないかというと、そうではありません。厚生労働省により食品添加物に指定されているため、調整作業において殺菌・除菌効果を期待してオゾン水を使うことは問題ないと考えることができます。また、圃場で使用する機械や器具を清潔に保つための衛生管理ツールとして使うことが可能です。
オゾン水と同じような酸化力の性質を持ち、殺菌効果や脱臭効果が期待できる次亜塩素酸水は、2013年農薬取締法により特定農薬(有機栽培で使用する農薬の代替品)に指定されたため、栽培中の作物に対して使用することができます。研究データが乏しいため、オゾン水の取り扱いは整理中として、現在のところ特定防除資材には認定されていないとのことですが、いち早く栽培中の作物にも施用できるような法改正が望まれます。
オゾン水を栽培中の植物に利用できたら?そのメリット
現在のところ、圃場での栽培中の植物への施用は、法律に抵触してしまい使用はNGです。もし安全性が確認され農林水産省から特定農薬として認可されたら、栽培中の作物に施用することが可能になり、病害虫の予防を手軽に行うことができ収量が増えるなど、多くのメリットが生まれるのではないでしょうか。仮に認可されたとしてのメリットをご紹介したいと思います(一部、現行法でも活用できるメリットもあります)。
病原菌やウイルスが原因となる病気を防ぐ(現行法では利用できない)
うどんこ病・炭疽病・根腐れ病・青枯れ病といった菌が原因で発症する病気や、ウイルスによって引き起こされるモザイク病・えそ斑点病などから作物を守る効果が期待できます。オゾン水による不活化は、従来の農薬のように菌の細胞を壊したり、菌の成長を阻害したりする性質ではないため、繰り返し使用しても耐性菌が出現しにくいとされています。
登録農薬がない場合にも活用できる(現行法では利用できない)
菌やウイルスに罹患して、病気になった作物に登録農薬がない場合でも、菌の細胞そのものを破壊したり、ウイルスが宿主の細胞に結合する役目を果たすエンベロープやカプシドを酸化分解したりするオゾンの作用は変わらないため、菌やウイルスの種類にかかわらず殺菌作用は有効であると考えることができます。
残留性がないためゴーグルや手袋などをつける必要がない(現行法では利用できない)
一般にオゾン水に比べて農薬は人体に対する毒性の度合いが高いと考えられています(毒性については濃度と暴露量により左右されますので、ここでは植物へ害をおよぼす菌やウイルスを除去する場合に使用されるオゾン水や農薬の量という仮定をします)。そのため、夏場に長袖・長ズボンなどの作業着やゴーグルなどで体を守る必要がありますが、オゾン水は酸化作用により殺菌を行ったあとは水と酸素に戻るので、人体を守るものを着用する必要はありません。
観光農園で活用できる(現行法では利用できない)
オゾン水においては、残留農薬が発生しないため、イチゴ狩りやブドウ狩りなどを経営されている観光農園においても安心して使用することができます。
有機JAS認証を受けやすくなる(かもしれない・・・)(現行法では利用できない)
有機JAS認証を受けた作物は、農薬や化学物質などに頼らないことを基本として自然界の力で生産された植物という定義です。オゾン水を化学物質とするかどうか判断が難しいところですね。次亜塩素酸水と同様にオゾン水が「特定農薬」として認証されてしまうと、有機JAS認証は受けられないということになるのでしょうか。特定農薬としてではなく、オゾン水の利用が認められれば、有機JAS認証を受けやすくなるかもしれませんね。
残留毒性がないため繰り返し使用できる(かもしれない・・・)(現行法では利用できない)
農薬取締法では残留農薬による人体への毒性に配慮し、安全性による使用回数が決められています。オゾン水は酸化作用後に水に戻るため残留毒性は確認されていません。「特定農薬」として農薬取締法にあてはめてしまうのが良いのかどうか難しいところです。上の項目と同じですが、特定農薬以外での認証が一番良いように思います(オゾン水の酸化力により葉が黄化し壊死するという報告もあるため、使用する濃度には注意が必要とのことです)。
圃場の衛生管理に活用できる
栽培トレイ・収穫コンテナ・トラックの荷台・道具類などを洗浄し、付着菌による感染拡大を防止する効果が期待できます。
水耕栽培の養液殺菌に利用できる(現行法では利用できない)
水耕栽培においては、培養液を循環させるためには殺菌作業が必要になります。オゾン水の施用により、高温環境で活性化し根腐れの症状を引き起こすピシウム菌や、萎凋病の原因となるフザリウム菌を殺菌できたとする研究報告があり、養液を媒介した感染拡大を防止する効果が期待できます。植物工場の衛生管理や感染予防に役立てることができます。
原料代が安くつく
オゾン水を生成する装置の導入には、イニシャルコストや装置の維持費がかかりますが、材料は水ですから、原料代については安くつきます。
鮮度維持効果が期待できる
収穫後の作物の洗浄など調整作業で使用すると、腐敗の原因とされる細菌やバクテリアを除去することで、菌の増加を防いで鮮度維持効果を期待することができます。
酸素が増えて植物の生長が促進される?(かもしれない)
オゾン水は容易に酸素に分解されるため、種子の発芽率や生長に影響を与えており、高濃度のオゾン水を育苗で利用したところ、生育促進効果があったという実験結果もあるようです。
オゾンのデメリットについて解説
オゾンガスについては高濃度だと生物に悪影響がある
日本産業衛生学会が発表している「許容濃度等の勧告(2022年度)」によれば、オゾン濃度の許容値は0.1ppm(0.2mg/m³)以下となっていますので、霧状に噴霧するときなどはオゾン濃度に注意する必要があろうかと思います。これ以上の濃度のオゾンガスにより暴露が続くと目に刺激や、頭痛や咳などの障害が起こり、最悪の場合には肺水腫や死亡などに至ることもあるとされています。オゾン水の利用においては、密閉空間での高濃度噴霧は注意が必要です。とはいえ、銀杏やジャガイモなどで知られているように、いろいろな物質には毒性があり、量や影響を受ける時間により人体に障害が発生するものですから、使用上の注意を守って使えば今のところ必要以上に危険視することはないと考えることができます。
植物の調整作業や圃場の衛生管理におすすめ|オゾン散水器
現行法では、栽培中の植物に使用することはできませんが、収穫後の調整作業や圃場の衛生管理におすすめなのがオゾン散水器です。市販のコネクタ付ホースを使い、本体を水道水とつなぐだけで、すぐにオゾン水を散水することができます。質量は約600gと軽量で取扱いしやすく作業者の負担を軽減します。1円玉サイズの水素分離型電解ユニットの開発成功により、従来の市場に出回っている製品に比べて相当コンパクトになりました。調整作業においてを作物の菌の増加を抑制し鮮度維持したり、収穫用のコンテナや機材を洗浄することで圃場での菌の付着による感染拡大を防止したりする効果が期待できます。
オゾン水を栽培中の植物へ利用できる法改正が待たれます
国や行政がいつも正しいというわけではありませんが、オゾン水については厚生労働省が添加物として認可しているため、安全性は高いと考えて良いのではないでしょうか。米国FDA(アメリカ食品医薬品局)においても2001年から食品添加物リストに記載されています。栽培中の作物への利用が認可されれば、収量増加に貢献する可能性のあるオゾン水の重要性はますます高くなります。オゾン水の安全な農業利用ができるように国会議員および農林水産省関係のお役人の皆様には、是非とも法改正について前向きな議論をしていただけますよう、お願いを申し上げたいと思います。
関連コラム:オゾン水で野菜洗浄や果物洗浄を行うメリットとは?
参考資料:
・電解オゾン水によるパンジーの生育促進効果
(大阪府立食とみどりの総合技術センター)
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。