コラム
イチゴの害虫対策|3~4月の害虫対策を解説!
公開日2022.03.09
更新日2023.06.08

イチゴの害虫対策|3~4月の害虫対策を解説!

2022年の冬は全国的に気温が低く、積雪量も各地で平年以上になりました。イチゴ産地も例外なく低温にみまわれ、収穫量が例年の半分ほどの農園が続出しました。このような年はイチゴの盗難被害も多くなり、北関東地域のお客様からも悲鳴が聞こえてきました。
3月に入ると一転して、最高気温が平年以上の地域が増えてきました。寒さに負けず一生懸命に管理した農園では、今度はハウスが真っ白になってくる頃かと思います。花が咲く頃になると、病害虫が激増します。とくに害虫ではアザミウマは化学農薬に抵抗性を付けてきているので、近年は生物的防除を取り入れてスワルスキーカブリダニを導入する農家が増えてきましたが、スワルスキーカブリダニも例年3月以降になると、アザミウマの勢いに飲み込まれる報告をよく耳にします。
今回のコラムでは、春のイチゴ栽培において、物理的防除と生物的防除を中心にアザミウマとハダニの予防・防除する方法やコツを解説したいと思います。

冬と春のイチゴの違い

そもそも冬と春のイチゴは何が変わってくるのでしょうか。

基本的に促成栽培におけるイチゴは花芽分化、開花、果実の成熟、栄養生長のステージが同時に進行しています。このバランスは「温度」によって決定され制御されています。品種にも寄りますがそれぞれの生育ステージには最適温度があり、そこから外れてくると徐々に生育に影響が出始め、最終的にその温度に適合した生育ステージに移行します。このことにより、冬から春に季節が進むと、収穫に関連する生育ステージが最適温度に近づくため自ずと収穫量が増えてきます。とりわけ果実の肥大と成熟のスピードが上がるため果重は小さくなります。収穫の回転スピードが速くなるので、一日のなかでも箱詰め作業が大きな割合を占めてくる季節です。

 

イチゴの各生育ステージにおける最適気温の目安

  最低適合温度(℃) 最適温度(℃) 最高適合温度(℃)
光合成 25℃前後
開花 10℃ 15-20℃ 30℃
果実の肥大 0℃ 15-20℃
果実の成熟 20℃
栄養生長 5℃ 20℃前後 30℃

春に多発するイチゴの病気

春のイチゴ栽培は害虫との戦いの季節ですが、病気との戦いの季節でもあります。品種にも寄りますが、定植期の病害は萎黄病と炭疽病が主要です。春の病害はうどんこ病と灰色かび病が中心となり、気温と湿度の高まりで勢いを増してくるので侮れない難敵です。多発傾向ではありませんが、ワタアブラムシなどのアブラムシ類の排泄物が原因となった“すす病”もイチゴの葉を侵す春の病害です。
本章では、春に多発するイチゴの病気、うどんこ病と灰色かび病の病気対策について紹介したいと思います。

うどんこ病

うどんこ病は糸状菌(カビ)に分類され、胞子によってハウスに伝染するように拡散していきます。絶対寄生菌なので生きた植物にしか寄生できないのが特徴です。発生は葉、花弁、果実が主です。葉での発生初期の病斑は丸くて白い粉状になります。花弁に発生すると、いちごの白い花がピンク色に変色します。果実では白く粉状に発生し時間が経過すると乾燥したようにその部分だけカリカリになります。イチゴ株の様々な部位を侵し被害葉や被害果が増えてしまう時期ではありますが、適切な対処法を採れば枯死することは少ないです
胞子の発芽適温は20℃前後です。うどんこ病の発生条件は高温多湿とおっしゃる方がしばしば居られますが、うどんこ病は多湿でも乾燥でも発生します。春のイチゴハウス内は露地に比べると「ムワっ」とした空気が籠ったように感じるため高温多湿と表現される方が多いのかもしれません。
うどんこ病対策は定期的な農薬散布を行えばある程度予防できます。多くの農家は殺菌剤と殺虫剤を混合して散布するので7~10日の間隔でうどんこ病対策がされていることになります。たとえば殺虫殺菌剤として有効的なサンクリスタル乳剤がありますが、乳剤は多少薬剤の臭いが残ることがあるので注意が必要です。

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灰色かび病

灰色かび病は糸状菌(カビ)に分類され、胞子によってハウス内に拡散する絶対寄生菌で、主に果実を侵します。症状は薄茶色~褐色の菌糸が果実全体を覆うように発展していきます。見つけて除去する際も乱暴に扱うと胞子が飛びやすくなるので優しく扱わなければなりません。
春になって暖かくなるとイチゴ株は暴れ出すように生育が旺盛になります。葉や花芽の生長するスピードが速くなり果実の肥大や成熟も速くなります。この頃になると、収穫や農薬散布作業に追われて“葉かき”、“かんざし取り”、“ランナー取り”が追い付かなくなってきます。灰色かび病は、このような葉、かんざし、ランナーの下に隠れて生長・肥大・成熟した果実が腐敗の過程を辿る段階で発症します。要するに発見した時にはすでに遅すぎる場合が多く、この果実から放出される胞子は正常な果実にも被害を広げていきます。
先ほど正常な果実と表現しましたが、実は“正常に見える果実”の可能性があります。灰色かび病菌に侵された正常に見える果実は収穫後の流通段階において発病をします。灰色かび病は出荷中、スーパーマーケット、家庭においても発病するためクレームの対象になります。

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灰色かび病対策の有効的手段は“葉かき”、“かんざし取り”、“ランナー取り”をしっかり行うことです。これらの作業は後述する害虫対策にも共通した作業ですし、あるいは株の生育にも大きく影響しています。対処法としてあるいは、うどんこ病と同様に定期的な農薬散布が有効です。殺虫剤と殺菌剤を混合して散布することで7~10日の間隔で予防ができます。ただし、葉が繁茂しているとしっかりと葉裏まで薬剤がかかりません。液量を多くすれば病原菌にかかる可能性は高まりますが、散布者の体力の消耗が激しくなります。親株の植え付けなど育苗管理も始まってくるので、体力温存のためにも葉かき、かんざし取り、ランナー取りをしっかり行うことをおすすめします。

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春のイチゴ栽培で特に注意すべき害虫

日本全国ほとんどのイチゴ農家が口を揃えて挙げる、春のイチゴの害虫はアザミウマとハダニです。「2月までは何とか持ちこたえたけれど3月になったら止まらなくなってきた」という現状を毎年お話いただいております。それも的を射ていて、3月ごろになるとアザミウマやハダニのエサがイチゴハウスにはたくさん溢れかえってくるからです。つまり、“柔らかい葉”、“花粉”、“果実”が害虫のエサにあたります。加えて、農薬を避けるための隠れ家もたくさんあります。隠れ家とは、葉裏や花裏(花弁や萼の裏)です。花に集まったアザミウマを観察して、少し花を揺らそうものなら器用に動いて逃げ隠れます。
本章では、アザミウマとハダニの防除対策についてまとめましたので解説させていただきます。

アザミウマ類

イチゴ栽培で主要となるアザミウマの種類はミカンキイロアザミウマとヒラズハナアザミウマといわれています。ここ数年でイチゴ栽培における最大の難敵となってきました。難敵とされる最も大きな要因に、薬剤耐性をつけてきたことが挙げられます。農家によって異なるようですが、“切り札”としている農薬がいくつかあります。たとえばスピノエース顆粒水和剤やディアナSCなどを切り札にするイチゴ農家によると、「以前ほど効かなくなってきた」との感想を度々耳にします。
筆者がこれまで色々な農家さんにお話しを聞いた感想ですが、スワルスキーカブリダニとリモニカスカブリダニの効果を実感されている方が多いです。スワルスキーカブリダニとリモニカスカブリダニはアザミウマの1齢幼虫を捕食するため、アザミウマ類の増殖を防ぐ効果が期待できます。導入価格は高額で、小さくて居るのか居ないのかよくわからない不安がついて回りますが、アザミウマ被害が拡大して出荷停止になったり出荷を切り上げなければならなくなるよりはよっぽど良いのでしょう。また、ハウスの外からのアザミウマ成虫の侵入を防ぐために赤色の0.4mm防虫ネットを使用されている農家もいます。アザミウマ類はハウス周辺の雑草や近隣の農業ハウスなどから飛翔してきます。イチゴ以外のキュウリやナスなどの施設栽培野菜でも赤色防虫ネットを使用されている農家がたくさんいます。風の通りが悪くなってうどんこ病と灰色かび病のリスクが高まりますが、アザミウマの増殖がどうにもならない方は検討の余地があるかもしれません。

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ハダニ類

イチゴ栽培で発生する主要なハダニ類はナミハダニとカンザワハダニです。イチゴの栽培期間のどの時期にも発生しますが、最も顕著になるのは春です。若い葉や果実の表面を食害し、生育適温は25℃程度で乾燥が続くと発生が増えてきます。つまり、栄養生長に傾きかけてきて、暖かくなってくる3月頃からのイチゴハウスはハダニにとって他にない好都合な住処となっているわけです。
以前と比べて最近はハダニで頭を悩ましている農家は減ってきたように思います(ハダニよりもアザミウマが目立っているだけかもしれませんが)。その大きな理由に、天敵生物を導入する農家が増えてきたことが挙げられます。チリカブリやミヤコカブリダニが効果的で導入マニュアルに従って上手に運用している方が多いのだと感じます。しかし、3月以降になるとやはり少しずつ増加してくるようで、5月の収穫終期まで如何に逃げ切れるか、“切り札”の農薬とイチゴと相談する必要があります。

光を利用した害虫対策

一部の飛翔昆虫は特定の波長、すなわち色に誘引や忌避する習性があることが近年の研究で解ってきました。露天の街灯にガやチョウなどが集まってくる様子を観察できるのはこの習性によるところです。
誘引において一般的によく知られているのは、紫外線を放つ光源に昆虫が集まってくことです。誘蛾灯とし製品化された資材もあります。農業で最も普及している波長(色)を利用した誘引資材は黄色粘着シートと青色粘着シートです。黄色には主にハエ類、コナジラミ類やアザミウマ類が誘引され、青色には主にアザミウマ類が誘引されます。価格も安価でトラップとして適用できる非常に優秀な資材です。

農業害虫を誘引する光源資材があります。特定のコナジラミ類、アザミウマ類、ハエ類は紫外線LED光と緑色LED光に誘引されることが確認されています。誘引されたところを捕獲(捕殺)し、ハウス内の害虫密度を抑えます。
スマートキャッチャーは紫外線LED光と緑色LED光を利用した飛翔害虫捕獲器です。400~500m2に対して1台を目安に、農作物の生長点の高さに設置します。スマートキャッチャーに誘引されたアザミウマなどの飛翔害虫は、スマートキャッチャーのファンによって吸引され捕獲されます。

 

数百品目を超える植物に深刻な被害を与えるアザミウマ。殺虫剤の耐性を獲得して化学的防除が困難になってきました。虫ブロッカー赤アザミウマ対策ができる赤色LED防虫灯です。赤色LEDはアザミウマの抵抗性を発達させず密度を低下させることに貢献します。

虫ブロッカー赤の設置目安(1機あたり)の推奨ピッチは10m~20m(短いほど効果あり)。赤色LED(ピーク波長657nm)を日中に十数時間程度(日の出1時間前~日の入り1時間後までの点灯を推奨します)照射するとアザミウマの成虫は植物体の緑色の識別が困難になり、ハウスへの誘引を防止すると考えられています。その他、殺虫剤の散布回数減・散布労力減といった効果も期待できます。

虫ブロッカー赤の効果をより大きなものにするのは光拡散シートです。
てるてる」はシート状の光拡散シートで、光を乱反射的に照り返す機能を保有しています。虫ブロッカー赤は農作物の生長点から1mほど上に設置することで広範囲に赤色LED光を照射できますが、その反面、葉裏や株の影面には光が届きにくくなっています。「てるてる」を株元付近やハウスの側面(或いはハウスの垂直方向)などに設置することで、農作物の上からも下からも赤色LED光を照射することが可能です。

春のイチゴの害虫対策は複合的な防除が効果的

農薬だけに頼った害虫防除の時代は終焉を迎えました。おそらく農業を行っている農家さんが一番感じていることではないでしょうか。実際本文中でも述べたように、害虫に対する化学農薬の効き目が低くなってきています。また、環境保全意識の高まりによって企業、流通、消費者から低農薬の要求が増えてきています。
春のイチゴの害虫対策および害虫駆除において、できることはまだありませんか。従来のやり方でどうにもならない方は物理的防除や生物的防除など是非色々な方法を試してみることをおすすめします。ちょっとしたことが重要なポイントに繋がるかもしれません。
今回のコラムが皆様のお役に立ったならば幸いです。家庭菜園でプランターなどを使って露地栽培でイチゴを栽培している方も病害虫対策として本記事をご活用いただければと思います。

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コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の実践を始める。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

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