コラム
アブラムシ対策の基礎知識|作物を害虫から守る予防・駆除方法
公開日2020.01.30
更新日2022.06.08

アブラムシ対策の基礎知識|作物を害虫から守る予防・駆除方法

植物にとっては自分の葉や実を餌として食べる虫や動物は外敵になります。このように攻撃してくる外敵に対して抵抗ができずに食べられては絶滅してしまいますので、植物は自分の身を守るために何らかの自衛手段を持っています。例えばサボテンのように棘をまとって捕食者を遠ざけたり、苦み成分を体内に蓄えかじられないようにしています。

植物の苦み成分は人にとっても口にするとエグミや渋味に感じるため食味が悪くなります。そこで人がおいしく食べることができるように改良し食味を良くするのですが、その結果、植物自身の防衛本能が弱まり様々な害虫の被害にさらされることとなります。今回は春夏野菜の代表的な害虫であるアブラムシ類の予防・駆除方法についてお伝えしていきたいと思います。

アブラムシ対策の基礎知識

アブラムシ類は春先から発生し短期間のうちに増える害虫です。厄介なところは生育を阻害するだけでなく、各種ウイルス病を媒介することです。ウイルス病の恐れがあるときは徹底した駆除が必要となります。

●アブラムシの生態

アブラムシは体長1~4mm程度の虫で、翅の有り無しで有翅型と無翅型に2種類に分けられます。生育密度が過密になると有翅型が発生し、別の植物へ移動を繰り返し、一気に被害が拡大します。植物の新芽に群がり口についている針(口針)を刺して師管液を吸います(吸汁(きゅうじゅう))。師管は植物の成長に必要な成分を根から吸い上げて全体に運ぶ役目をしている管です。アブラムシがウイルスを持っている場合、刺して吸うことによって植物にウイルスを感染させてしまいます。

一般的にアブラムシは新芽を出す時期に外部から飛来し、短期間のうちに子孫を残します。幼虫から成虫までは約10日間で成虫は毎日5個程度卵を産み付けます。寿命は1カ月程度だといわれています(実際は天敵に捕食されたりして1カ月もたたないうちに死ぬことが多いようです)。アブラムシの厄介なところは雌だけでも子孫が残せる単性生殖の害虫であるということです。その結果大量発生してしまうのです。

●アブラムシが発生しやすいと認識されている野菜

アブラムシの種類 発生しやすい野菜
モモアカアブラムシ サツマイモなど多くの野菜
ネギアブラムシ ネギ・ニンニク・ニラなど
ジャガイモヒゲナガアブラムシ ナス
ワタアブラムシ ナス
ダイコンアブラムシ ダイコン・キャベツといったアブラナ科
ソラマメヒゲナガアブラムシ ソラマメ類

●アブラムシによる具体的な被害

アブラムシによる大きな被害の一つは、成長に必要な師管液を吸い取られることにより作物の成長が阻害されることです。重度の場合は葉が枯れ株が弱ってしまいます。また排泄物の上にすす病菌(糸状菌というカビ)がつき植物の上で増殖することで、すす病が発症します。黒いすす状の物で葉がおおわれるため、光合成や葉の表面からの蒸散が妨げられます。そのため生長が遅れ最悪の場合には枯れてしまいます。

アブラムシはウイルスを媒介する厄介な虫でもあります。病気になった植物の師管液を吸う際、病原となるウイルスを体内に取り込み、他の健康な植物に移動して吸うことでウイルス病やモザイク病などの病原菌を媒介します。病斑が出た葉にアブラムシが付いていたら速やかに葉を切り取って退治するようにしましょう。

アブラムシの予防と対策方法

アブラムシの予防はアブラムシの習性をよく理解し、発生原因を特定し、活動しにくい環境に整えることが重要です。このように環境条件を適切にして被害を防ぐ方法を耕種的防除といいます。耕種的防除は発生初期には効果を発揮しますが、発生密度が高くなってしまうと効果が低くなるため農薬の使用が必要となります。

●アブラムシの発生を抑える予防方法

肥料を抑える
アブラムシは師管液に窒素成分が多く含まれている植物を好みます。窒素成分は植物の体を構成するアミノ酸の原料で重要な要素ではありますが、多すぎると背が大きくなるばかりで実が育たないともいわれます。圃場に残留窒素が多いと根から吸収される量が多くなる可能性があるので、このような圃場ではアブラムシが発生しやすくなります。肥料を控えることで対策ができます。

光を利用する
光を苦手とするため直射日光を避けて葉の裏に隠れる生態があります。アルミシートやアルミホイルで株元を覆い、日光を乱反射させ葉の裏を明るくすることでアブラムシを忌避する効果が期待できます。

ハーブを混植する
ヨモギ、セージ、バジル、ミント、チャイブなどのハーブを混植することでハーブの持つ力を利用する方法もあります。ハーブの香りがアブラムシの忌避効果になったり、香りがアブラムシを寄せ付けたりします(この場合はハーブに寄せ付けておとりにして作物を守るおとり植物の用途です)。ハーブの種類によって忌避と誘因効果が変わりますのでインターネット等でよく調べてから利用しましょう。

唐辛子を漬けたアルコールを散布する
唐辛子を漬けたアルコールを水で薄め、植物に吹きかけます。アブラムシは唐辛子に含まれるカプサイシンを嫌うようです。焼酎の唐辛子漬けは薬草酒であり、日本蒸溜酒酒造組合HPでも紹介されているのでご存知の方も多いのではないでしょうか。農業用における作り方はインターネット上でいろいろなレシピが紹介されています。基本の作り方をご紹介します。

~作り方・使い方~
1.アルコール度数35度以上のお酒に唐辛子を1カ月程度漬け込みます。
2.約300倍水で希釈し、霧吹きに使うスプレーボトルに入れて散布します。
3.定期的に植物に吹きかけます。

※ 効果の強弱によって希釈濃度を調節してください。
※ 散布の際は風上から風下に向かって行ってください。
※ カプサイシンは刺激性が強く、直接皮膚に触れたり目に入れたりすることがないように注意してください。散布の際は保護メガネ、マスク、手袋を着用しましょう。また直接付着した場合は流水でよく流してください。
※ アブラムシがいない時でも散布しておくことで忌避効果があります。
※ アブラムシは10日前後で成虫になるので一週間に一度のペースでスプレーすると効果的です。

アリを駆除する
アブラムシとアリは共生関係にあります。アブラムシは肛門から甘い分泌物(甘露)を提供することで、アリはアブラムシの天敵を寄せ付けないように用心棒の役割をしているようです。おしりに甘露をつけたままにするとカビてしまうため、その対策としてアリに舐めてもらう種類や、甘露を後ろ足で蹴飛ばす種類もいるようです。アリへの依存度は種類によって異なりますが、アリを駆除することが間接的にアブラムシの発生予防につながります。

枝の選定や雑草の防除
枝が密集している場所は、剪定して風通しを良くしてあげることで植物にアブラムシがつきにくくなります。圃場周辺の雑草も隠れ場所になる可能性があるため周辺の雑草防除も重要です。防虫ネットを使用して作物に接触できないようにするという方法もおすすめです。

●アブラムシの対策方法

粘着テープ
発生密度がまばらな初期の場合は手で取ってしまうことも効果的です。粘着テープをアブラムシが付いた葉っぱ等に押し当て直接排除してしまえば、薬害の心配もなく短時間で簡単に駆除することが出来ます。ベランダでプランターを用いた家庭菜園やガーデニングなどの規模が小さい圃場におすすめの方法です。粘着テープの粘着力にもよりますが、葉が薄いものや小さな植物に使うと葉っぱを破ってしまいますので注意してください。また発生密度が比較的多い場合は先の柔らかい筆や歯ブラシでこすり落とすこともおすすめです。

黄色い粘着シート
アブラムシは黄色に寄ってくる生態があります。作物の周りや発生箇所の近くに黄色の粘着シートを設置することで捕虫できます。また黄色いバケツに捕殺液を入れておいて集まったアブラムシを溺れさせる方法もあるようです。

テントウムシ
テントウムシ1匹あたり10~100匹のアブラムシを食べるといわれていますので、薬剤を我慢してテントウムシに活躍してもらうのもおすすめです。背中に七つの黒模様を持つ赤色の「ナナホシテントウ」が有名です。

寄生バチ
寄生バチの成虫はアブラムシの体内に産卵し⇒体内で幼虫が育つ⇒マミー(寄生を受けたアブラムシ)から天敵が羽化というサイクルを繰り返すことでアブラムシの個体数を減らします。コレマンアブラバチなどが知られており、アブラムシの発生初期に使用することでアブラムシの密度を減らす効果があります。少し高価ですが購入を検討してみてはいかがでしょうか。

※大型のアブラムシ類には効果が得られないのでご注意ください。
※大量発生してからの使用は十分な効果が得られないのでご注意ください。

牛乳
ご家庭にある牛乳を散布することで簡単に退治することもできます。用意するものはスプレーボトル(100円ショップで売られているものでOK)・牛乳の原液・水です。牛乳の原液をスプレーボトルに入れてアブラムシの発生箇所に散布してください。アブラムシに牛乳がかかると牛乳が乾いた時に固まり気門(空気を取り入れる穴)を塞ぐため呼吸ができなくなって窒息死します。散布した牛乳を放置するとニオイや病気の原因になりますので、牛乳が乾燥した段階で水を散布して牛乳を洗い流しましょう。

木酢液
アブラムシはスモークフレーバーの香りが苦手と言われており木酢液が嫌いな性質がありますので、木酢液を散布することもおすすめです。木酢液は炭を作る過程で出来るため無農薬で安全です。木や竹を蒸し焼きしにして、炭焼き釜の煙突から出る気体を急に冷やすと木酢液ができます。最初は水蒸気を含んだ不純物ですので上澄みを使うようにしましょう。木酢液の原液はpH3位の強酸で濃度が高すぎると、植物の生育にダメージを与える可能性がありますので薄めて使用しましょう。

薬剤
アブラムシが大量発生したり、ウイルス病やモザイク病の兆候が見られた場合、薬剤を使用した駆除をお考えください。薬剤としては有機リン系・ピレスロイド系・ネオニコチノイド系が知られているようですが、有機リン系やピレスロイド系ではアブラムシの薬剤抵抗性が発達していることもあり、地域によっては使えないものもあるようです。JAや行政の営農指導機関等へ確認してから使用するようにしましょう。

浸透移行性の高い殺虫剤もあります。浸透移行性とは根・葉から吸収された殺虫成分が、植物内を移動することにより葉が殺虫効果を保持するため、その葉を加害した害虫を退治できる性質のことです。数週間の効果が持続するため害虫の駆除と予防ができます。

油石鹸水
食用油と洗剤を水に混ぜ、アブラムシが発生している部分に液体をスプレーします。作り方は、食用油1:食器用洗剤1:水50程度の比率で混ぜ、よく攪拌しスプレーボトル等でアブラムシが密集しているところに散布します。10分程度放置するとアブラムシが窒息して死滅します。油分や界面活性剤が付着しています。収穫して食べるときはよく洗ってください。

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アブラムシ対策の一助となるトライコーム(毛状突起)とは

今までは外部からのアブラムシの対策をお伝えしてきましたが、作物自身の力を高めてアブラムシに対抗する方法もお伝えしたいと思います。

作物自体が本来持っている性質を活かせるように環境を整える対策も検討してみてはいかがでしょうか。例えばトライコーム(毛状突起)といわれる葉面に生えている微細な毛です。これは表皮細胞が伸びたもので植物の種類によって役割が違いますが「強い光を防御する」「強風時に気孔から過剰に水分を失う事を防止する」「小さな害虫を近づきにくくする」といったストレス応答や防御機構に関して重要な役割を担っているといわれています。

例えばミントやバジルという植物はトライコームに虫の嫌がる物質を貯めこみ、その匂いを放つことで害虫を忌避しています。またトライコームから揮発した物質が害虫を食べる昆虫(天敵昆虫)を誘引する機能もあるといわれています。しかし、植物自体に元気がないとこのトライコームが効果を発揮しにくくなるため、樹勢を整えてあげる必要が出てきます。樹勢を良くして害虫を付きにくくするという考え方ですね。

そこで皆様へご紹介したい製品が風力で葉面散布剤を細霧状に噴霧する農業用噴霧器モーターフォグです。樹勢が思わしくないときに作物の葉面にうすく少なめに養液を散布することができ、養分の吸収しやすい環境を整えることで作物のうぶ毛(トライコーム)は多量になり、枝葉が起ち、葉・茎を固く引き締めるといわれています。特殊なノズルは雲粒と同程度の大きさである平均35μm(マイクロメートル)ほどの微粒子を作りだし、細霧状に噴霧するため養液を無駄なく使用することができます。粒子が微細で空気中に拡散しやすく、作物の葉面にうすく少なめに養液を散布することが可能です。ハウスを密閉空間にして湿度をあげておくことで、霧がハウスの中に広がり、ゆっくりと落下し作物の葉に均等に付着します。

>>詳しい使い方はこちら

様々なアブラムシ対策で作物を守りましょう

アブラムシは繁殖力が強く、家庭菜園・ガーデニング・露地栽培・施設栽培など幅広い分野で大量発生し、作物を弱らせる上にウイルスを媒介する厄介な害虫です。初期発生~大量発生で有効な駆除方法が異なりますので、今回のコラムのポイントを押さえてアブラムシを撃退し、大切な植物を守りましょう。

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コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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