農業用ビニールハウスの耐用年数は何年?
農業用ビニールハウスの耐用年数というと、実際に営農用途に耐えられる期間と、税務署が償却資産として認め減価償却できる期間の2つがあります。前者は生産を続けられる期間になりますし、後者は資金繰りに影響を与える期間になります。
農業用ビニールハウスの耐用年数
農業用ビニールハウスの耐用年数を考えるとき、どのような材質で作られているかで判断できます。最も多くみられるビニールハウスは、骨格部分に鉄などの金属材料(パイプ状が多い)でかまぼこ型構造物を作り、透過性のシート(農ビや農PO)を張り付けたパイプハウスと呼ばれる単棟タイプです。これ以外にも連棟タイプや、柱が木材(間伐材等)を使ったもの、屋根が三角や傾斜タイプのものもあります。
これに対して国税庁が定めている減価償却資産として、ビニールハウスの耐用年数が決められています。確定申告の時、損金算入ができますので押さえておきましょう。減価償却資産としての耐用年数を法定耐用年数といいます。農業用ビニールハウスの法定耐用年数は構築物に当たるかどうかがポイントになります。
>>>構築物とは
- 地面に固定されている
- 簡単に移動や解体ができない
- 建物を除く(定期的に人が常駐しない設備:トンネル・橋・鉄塔・観覧車・ぶどう棚など)
ビニールハウスの多くは金属パイプ構造が多いと思います。金属パイプが直接刺さっている構造は構築物には該当しないようです。
耐用年数表 | 柱・梁等の構造材料による法定耐用年数(新規取得時) | ||
---|---|---|---|
構築物かどうか | 金属造 | 木造 | その他 |
構築物とみなす | 14年 | 5年 | 8年 |
ではない | 10年 | 5年 | 5年 |
構築物としてみなす対象かどうかにより、木造以外は異なる年数が適用されます。ビニールハウスの法定耐用年数が何年になるかは自己判断せず、取得するタイミングで担当税務署や税理士、メーカーなどへご確認ください。確定申告した後で税務署から指摘され修正申告することがあると、追徴課税が発生することがありますのでご注意ください。
法定耐用年数で減価償却を行いますが償却方法は、定額法と定率法があります。定額法は毎年同じ額償却します。定率法は残存額を同じ割合で償却します(初年度が最も多く償却し、同じ割合で償却額が小さくなります)。定率法を選択したい場合、初回の確定申告前に税務署と相談してください。何も手続きをしない場合、自動的に定額法を選択したことになりますので注意が必要です。
冒頭でも申し上げましたが、実際のビニールハウスの耐用年数は手入れ次第で、法定耐用年数より伸ばすこともできますし、思わぬ災害に遭って短くなってしまう場合もあります。法定耐用年数に届かないうちに、災害等に遭い廃棄しなければならないときは、減損処理や災害復興補助金が適用されるときがあります。そのようなことが発生したら個人で悩まず、まずは税務署や税理士などに相談してみましょう。
参考:ビニールハウスの耐用年数
⇒この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください(本文引用)。
参考:別表第一 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表
農業用ビニールハウスの減価償却方法
減価償却は、法定耐用年数から償却率が決まります。償却方法は定額法と定率法があります。定率法は残存価格に一定割合を乗じてその年の償却額を算出します。この処理方式を選択したい場合、事前に税務署と相談し承認してもらう必要があります。借入金を早く返済したいなど、早く償却額を圧縮したいなど特段の理由がない限り、個人事業主の場合は定額法で処理したほうが使い勝手が良いと思います。
2020年7月に、100万円で鉄パイプ式ビニールハウスを所有した場合、税務署からそのハウスは構築物ではないと確認を受け、定額法で処理を始めた場合
法定耐用年数 : 10年
定額率 : 0.1
処理開始2020年7月 最終年月2030年6月 最終残存価格 1円
処理年度(耐用年数10年) | 償却額 | 残存価格 |
---|---|---|
2020年(7月~12月) | 100万×0.1×6/12=5万 | 95万 |
2021年(1月~12月) | 100万×0.1=10万 | 85万(2021年12月時点) |
2022年~2029年 | 100万×0.1=10万(8回) | 5万(2029年12月時点) |
2030年6月最終 | 49,999円 | 1円 |
個人事業主の方は、白色か青色の確定申告をされていると思います。添付する決算書の計算期間は通常1月1日か12月31日の1年間で計算します。年度途中から始まるとき月割りで計算します。この時最終年度も法定耐用年数に到達した月で完了し、法定耐用年数を超え使用しているときは、残存価格を残し記録を残しておきます。
ビニールハウスの被覆は経年変化で劣化し、透過性が悪化したり柔軟性が悪化し破れたりしますので、張り替えることになります。この時張り替える被覆の性能が従来の物に比べ大幅に向上することが認められれば、資産計上を行い、減価償却処理を行うことができます。同等の被覆に張り替えるときは修理費で計上します。
農業用ビニールハウスを長持ちさせるポイント
農業用ビニールハウスは、自立するための柱・梁を構成する構造材(鉄パイプや木材、小規模な物であれば樹脂パイプ)と、被覆材である透過性のシート(農ビや農PO)の要素で構成される場合が一般的です。通常のメンテナンスはもっぱら、被覆材の維持管理が中心となり、時々ハウスの構造を維持している柱や梁の接合部点検や、錆び腐蝕等の確認対応が必要になります。
用途に合わせてビニールの素材を決める
農業用ビニールハウスの被覆材は主に2種類あります。農業用塩化ビニールフィルム(農ビ)と農業用ポリオレフィン系特殊フィルム(農PO)といわれるものです。それぞれ特徴があり、使用目的に合わせ選択してください。
被覆材の一般的な特性 | 農業用塩化ビニルフィルム(農ビ) | 農業用ポリオレフィン系特殊フィルム (農PO) |
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面積単位の重さ (比重)(厚さ0.15mm・幅6m・長さ20m)の重さ(参考) |
やや重い 約1.4kg(0.15×6×20×1.4=約25Kg) ハウスに対する負担がある |
やや軽い 約0.98kg(0.15×6×20×0.98=約18Kg) 大型ハウスは有利 |
伸縮性 | 柔らかく伸びやすい 初心者でも扱いやすい |
伸びにくい 0.15㎜以上になるとごわごわする |
張り付きやすさ(換気方法のおすすめ) | 張り付きやすい たくし上げる方法で換気 |
張り付きにくい 巻き上げ方式で換気 |
寒さの特性 | 温度が低いと裂けやすい | 温度変化に比較的強い |
一般的な耐用年数 | 約1年~2年 | 約3年~5年 |
キズの広がり | 広がりやすい | 広がりにくい |
コスト | 低価格 | 若干高め |
このようなことから、比較的簡易で小規模なハウスの場合や、一時的に利用するハウスの被覆材としては「農ビ」は向いています。比較的大型のビニールハウスの場合、被覆で覆う面積もそれなりに大きくなるため、構造物への負荷を下げる意味と、通年で耕作を可能にするため「農PO」を選択する価値があると思います。ハウスで使用される被覆材は、2重3重に配置して保温性や断熱性を向上させたり、ビニール面に換気設備を取り付けて、換気のため内外の空気の流れを確保する窓としての機能を持たせたりと重要な部分です。この機能を維持することが耐用年数を長くし、法定耐用年数以上に持たせ、安定した栽培環境の維持につながる可能性が高くなります。
定期的にビニールを張り替える
ビニールは、太陽光に含まれる紫外線の影響を受けたり、気温の変化により柔軟性を失ったり、構造を維持することが難しくなっていきます。このことが経年変化として現れ、裂けやすくなり、透過性が劣化してきます。農POは農ビに比べ、この耐性が強くその分長持ちします。いずれを採用するにせよ計画性を持って張替えをすることをおすすめします。
張替えの目的はハウスとしての機能維持です。ついでに柱や梁をよく確認してパイプや金具の接合部の緩み、錆びを確認することが大切です。増し締めをしたり、錆びている部分がある場合は交換しましょう。柱や梁の強度が落ちていると、思わぬ外圧がかかったときに弱い部分から倒壊する可能性があります。
台風や積雪時には事前に対策を行う
近年、台風や積雪の回数は減っているという報告もありますが、ひとたび襲来すると思わぬ被害を局地的にもたらしていたり、停滞前線による長雨や豪雪、大型台風による風の被害が以前より大きくなっているように報道されていますね。天気予報でも注意報や警報が早めに出るようになり、情報がきめ細やかに発信されるようになってきました。ハウスは、外部からの力に対してはある程度耐えられるようになっていますが、強風が内部に吹込んだり荷重が一部に集中すると、バランスが崩れドミノ倒しのように破損することがあります。
台風の進路予測は、精度が上がっており比較的早い時点で発表があります。予測進路に入っている場合、ハウス周辺にある風に飛ばされそうなゴミや機器や器具などは事前に片づけたり固定しておきましょう。ビニール傘のようなものが飛ばされると、保護されていないガラス窓を突き破るくらい威力があるといわれています、農業用ハウスにぶつかれば穴が開くかもしれません。開口部から風が吹き込むと、内部から持ち上げる力や押し下げる力が働きます。また内部と外部の交互に影響を受けると、被膜がばたつきます。裂け目があるとどんどん広がり、最悪の場合は吹き飛ばされ、パイプがなぎ倒されることがあります。風が吹き込む場所になりそうな天窓や換気扇、出入り口は閉め切っておきましょう。しばらくの間作付の予定が無い場合や心配な時はビニールをはがし、パイプだけにしてしまうのも対策の一つです。
積雪に対しては少しの積雪であれば補強することで耐えることが出来ます。アーチパイプや中柱を追加することで補強しましょう。被覆にたるみがあると、そこに雪がたまりやすいので、ビニールをしっかりと張っておくことが重要です。雨が降った時に屋根に雨がたまる場所は、たるみが発生して風が吹くとはためく場所ですので日頃からハウスの状態を確認(点検)しましょう。
また自然災害の襲来時には買い物に出られないことを前提に、備品としてハウスの修理部材(金具・補強材・補修テープなど)を備蓄しておいてもよいかと思います。
ビニールハウスの倒壊防止に役立つ製品「空動扇」
そこで紹介したいのがセイコーエコロジアで扱っている無動力全自動換気扇「空動扇」です。無電源でオートマチックにハウス内の空気を外へ逃がします。ビニールハウスの上部に取付ける簡易なシステムで風力によりファンが自動で回転。ビニールハウス内の空気を素早く外へ放出します。
本来は高温になりがちなビニールハウスの設定温度をオートマチックに換気することで、農作物を温度障害から守るという目的の製品ですが、風を動力として動いていることから台風や強風時にも威力を発揮します。ビニールハウスの外側に突き出ているファンが強風時には最大で毎分1300回転し、ビニールハウス内の空気を素早く外へ放出します。その影響でビニールハウス内が負圧のような状態となり、ビニールとパイプが強く密着。浮き立ちを防止し裂傷・倒壊・破損といった被害を軽減します。空動扇を設置することでビニールハウスの本体が強くなるので、破損や倒壊といった際の“保険”になるイメージが分かりやすいかと思います。また台風による停電時にも駆動するのでとても安心です。安定的な農業経営におすすめの資材です。
設置数の目安は10坪~15坪あたりに1機ですから大変低コストで導入しやいシステムです。換気をするために現場にはりついている必要もありません。加えて通常時には農作物を高温から守ってくれます。
実際に導入されたお客様の声はこちら:
・8℃下がった!?空動扇はハウス強度を落としません!|磯川さんのコーヒー農園
・ハウス内が涼しくなった!空動扇SOLARの効果を実感|苺絵
・夏場のハウス内温度が低下!湿度対策や耐久性向上にも効果を実感
ビニールハウスを守って安定した農作物の生産を
ビニールハウスは施設園芸農家さんにとってはなくてはならない大切な設備です。十数年~数十年にわたって長く使用していきますので、長持ちさせるために日頃から点検と整備をし健康な状態を保っていきましょう。今回のコラムが安定した農作物の生産のヒントになれば幸いです。
関連するコラムはこちら
・施設園芸農業とは?メリット・デメリットと始めるときのポイント
・ビニールハウス栽培のメリット・デメリット│育てやすい作物は?
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。