コラム
家きんを鳥インフルエンザから守れ!疾病を発生させない対策とは?
公開日2023.03.07
更新日2023.03.07

家きんを鳥インフルエンザから守れ!疾病を発生させない対策とは?

鳥インフルエンザは日本各地において発生する可能性があり、農林水産省のホームページによれば、令和5年2月24日時点での高病原性鳥インフルエンザによる殺処分数は約1,478万羽と報告されています。国内だけでなくアメリカ・オーストラリア・イタリア・ベルギー・オランダ・ドイツ・香港・韓国・ベトナムといった海外でも発生しています。高病原性鳥インフルエンザは感染力や死亡率の高いやっかいな伝染病で、家きん農家さんにとっては対策を怠ることができません。今回のコラムでは鳥インフルエンザの特徴とその対策についてお伝えしていきたいと思います。

鳥インフルエンザとは?

インフルエンザA型ウイルスが原因で発症する鳥類の病気です。ウイルスをもっている鳥の排泄物や遺骸などに鶏・あひる・うずら・七面鳥といった家きん類が接触することにより感染します。体内にウイルスを持ちながら病を発症しない野鳥等は、ウイルスと共生していますが、鶏や七面鳥などの家きん類が感染すると毒性を示すことがあります。病原性の程度や変異の可能性により、高病原性鳥インフルエンザ・低病原性インフルエンザ・鳥インフルエンザの3つに大別されています。このうち高病原性鳥インフルエンザと低病原性鳥インフルエンザは家畜伝染病予防法において家畜伝染病に指定されている疾病です。

低病原性インフルエンザウイルスは症状が出ない場合もありますが、家きん間で感染を繰り返すなどが原因で強毒の高病原性インフルエンザウイルスに変異することがあります。変異すると強毒になるため、一気に感染が広がり多くの家きんが死亡します。症状としては、元気消失・食欲や飲水欲の減退・産卵率低下・下痢・肉冠や肉垂の腫れやチアノーゼ・脚部の皮下出血・神経症状・咳やくしゃみといった呼吸器症状などがあります。

鳥インフルエンザが発生した場合のデメリット

家畜伝染病の中でも高病原性インフルエンザや低高原性インフルエンザが発生した場合には、農場規模の大小にかかわらず飼養している家きん類を殺処分(処分後は焼却または埋却)し、消毒を実施しなければなりません。農場は閉鎖および消毒が実施され、人や車両の出入りは禁止されます。発生農場を中心とした半径30kmの地域では、およそ1カ月にわたり家きん・家きんの遺骸・生産物・排泄物などの移動が禁止されるといった防疫対策が実施されます。

罹患していた又は罹患していた可能性のある殺処分した家畜については、評価額の全額や死体や汚物物品の処理に要した費用の2分の1を補助するために、国や地方自治体から負担金や交付金が用意されていますが、テレビや新聞などのマスコミの報道が引き金となり消費が大幅に減退し、発生した地域に大打撃を与えます。また、地域が離れた場所の畜産物が売れなくなるなど、少なからず畜産業へ悪影響を及ぼすこともあります。

鳥インフルエンザに感染する原因

渡り鳥による感染

オオハクチョウ・コブハクチョウ・オジロワシ・マガモ・ノスリなど渡り鳥は日本に飛来しますが、これら野鳥が養鶏場に近づき糞や羽などを通して感染するとされています。鳥インフルエンザウイルスは、元々カナダやシベリアなどのツンドラ地帯で水鳥と共生していたウイルスです。人間が作った超密度の家きん場(養鶏場)という環境において、急速に感染を繰り返すうちに変異をするものが高病原性ウイルスになったと考えられています。

飛来する渡り鳥は、ため池・川・水路などに生息するため、このような環境が近くにある農場においては感染リスクが高くなるとされています。鳥インフルエンザが発生した農場の近くには野鳥や野生動物の生息に適した雑木林などがある事例が多いとの報告があります。渡り鳥が鶏舎に侵入することは、ほとんどないかと思いますが、渡り鳥(の羽や糞など)と接触する機会のある野生動物(または人間)を媒介してウイルスが鶏舎内へ持ち込まれると考えられています。

ウイルスを持っている野生動物による感染

養鶏場に出没するスズメ・ネズミ・カラスなどの野生動物は、ウイルスを媒介する可能性が高いため、渡り鳥が直接的に農場へ侵入しなくとも鳥インフルエンザが発生するリスクが高くなります。一部では、農場の敷地内や近隣地域で死亡したカラスから高病原性インフルエンザのウイルスが検出されています。渡り鳥が帰った後でも、スズメやカラスなどの野鳥に感染があった場合にはウイルス感染のリスクが残ることになります。鳥類だけでなくネコやイタチなどの小型野生動物がウイルスの拡散に影響する可能性もあるため、季節にかかわらず衛星管理は持続して実施する必要があります。

ウイルスが付着した飼養施設・道具・機材による感染

目に見えないウイルスは、空気中に浮遊していたりハエやネズミの接触があったりして、施設の壁や床、そして道具や機材類などに付着していることがあります。知らず知らずのうちに機材や道具を通してウイルスが拡散する可能性があります。

ウイルスが入った飼料や飲料水による感染

ハエ・ネズミといった衛生害虫(衛生害獣)や、スズメ・カラスなどの糞便(または糞便が混じったホコリ)を媒介し資料や飲料水にウイルスが入ってしまうことがあります。

畜舎における鳥インフルエンザ対策

渡り鳥の習性を変えることはできませんので、養鶏場側での衛生管理を徹底する必要があります。鳥は空を飛ぶため、あらゆる方向から農場へ侵入するという点が管理をより一層難しくしています。

鶏舎の消毒対策

鳥インフルエンザウイルスはエンベロープウイルスのため、逆性石鹸・塩素系・アルデヒド系・消石灰などの消毒薬が有効です。踏込消毒槽や手指用消毒器を設置して鶏舎へのウイルスの侵入を予防する必要があります。消毒槽は糞尿などの有機物が入ると消毒効果が減少するため、別の洗い用水槽にて汚れを十分に落としてから、消毒槽へ移動するようにしましょう。水槽の水は汚れたらすぐに交換作業することが重要です。また、天気の良い日に噴霧器などで消毒液を鶏舎全体に噴霧し消毒します。夏季は1カ月に2回、冬季は1カ月に1回程度が良いとされています。その際、家きんや道具類はすべて移動します。糞やホコリなどの有機物が残っていると消毒の効果が低下するため、水洗いなどでこれらを除去し十分に乾燥させてから消毒薬を散布するようにしましょう。

鶏舎への侵入防止対策

鶏舎には小型の鳥が侵入してこないように防鳥ネットの設置が推奨されています。スズメやカラスといった野鳥はあらゆる場所から侵入する可能性があります。鶏舎の屋根に設置されている入気口や天井裏など普段は目の行き届かない場所にも穴がないか確認し、穴があれば防鳥ネットを設置すると良いでしょう。スズメなどの小型の鳥は目合いが2cm以下だと侵入しにくくなると考えられています。ただし、縦糸と横糸の結節部がないネットは目合いが広がり、スズメなどの小型の鳥の侵入を防ぐことが難しいためおすすめできません。

ネズミは、子ネズミだと1~1.5cmの隙間さえあれば容易に侵入するとされています。ネズミは端っこを通る修正がありますので、隙間が埋められない場合には、必要な個所に毒餌・粘着シート・捕獲カゴの設置、また消石灰帯を作るなどの別の対策が必要です。

車両の消毒対策

噴霧器を使い農場に出入りする車のホコリや泥などを除去します。取り除いた汚れの二次感染を予防するためには側溝が整備されたコンクリート帯の設置が望ましいとされています。立地的またコスト的な側面から打設工事が難しい場合は、車両の長さの2倍ほどの消石灰帯を設置します。消石灰帯は雨(弱酸性)などの影響によりアルカリ性に傾いた状態を長時間維持することが難しいため定期的に散布する必要があります。

飲料水・餌・堆肥舎の衛生管理

鶏の飲水量は飼料摂取量のおよそ2倍必要といわれており、それだけに飲料水の衛生管理は大切です。長期間、給水器に貯留する場合は水の品質が劣化しやすく感染の原因となるため、清掃や塩素消毒の実施などの対策が必要になります。餌箱や堆肥舎(鶏糞処理施設)は、野生動物を呼び寄せやすい環境です。渡り鳥を媒介しウイルスを持った野生動物が侵入することで感染のリスクが高くなります。また、鳥インフルエンザが発生した畜舎のハエからウイルスの遺伝子が検出された事例があるように、ハエはウイルスを体の表面につけて運びます。そしてハエを餌とする小型の野鳥を引き寄せる原因となりますので、ハエを発生させない衛生管理が必要です。

道具や機材の管理

人が使うモノにウイルスが付着し感染が広がるケースがありますので、モノの移動は最小限に抑えることを心がけましょう。鶏舎を出入りするときは、鳥小屋専用の長靴を用意して履き替えるようにします。この際、長靴の履き替え前後で動線が交差しないようにルールを決めておきましょう。

ウインドウレス鶏舎(無窓鶏舎)の導入

窓がなく外部から遮断された環境のため野生動物の侵入を防ぎやすいとされています。ただし、鳥インフルエンザウイルスの媒介の原因は野生動物の直接的な侵入だけでなく、車両や人の出入りにより発生することもあります。風で舞い上がったウイルスが入気口から侵入する可能性も否定できません。ウインドウレス鶏舎は、鶏の活動時間が低下し健康問題を招くことから自然の光と新鮮な空気を取り入れられる開放型のほうが良いとの指摘もあります。

鶏舎や圃場周辺の環境管理

ウイルスを持っている野生動物は、鶏舎に侵入することがない場合でも、人の気が付かないうちに鶏舎のすぐ近くにやってきて糞をすることがあります。鶏舎周辺の雑草や木の伐採をしてネズミや野鳥の心地よい環境を減らすことが重要です。鶏の餌を捨てたり、餌となるような穀物類を放置したりしないように注意してください。

鶏舎周辺や農場の敷地周辺に2~3cm幅の消石灰帯を設置しておくと、鳥インフルエンザウイルスの消毒効果と同時に小動物の忌避効果も期待できるとされています。足跡が残りやすくどこから侵入しているか確認しやすくなるというメリットもあります。

鳥インフルエンザにおすすめの資材

オゾン散水器

強い酸化力によりウイルス細菌などの病原体を不活化する効果があるとされるオゾン水を手軽に導入することができる資材です。分解が早いオゾン水は、水と酸素に戻りやすい性質があり生体への安全性も高いとされています。また不活化の構造が消毒薬とは異なるため耐性菌や毒性の高いウイルスを発生させにくいと考えられています。オゾン散水器はハンディタイプで水道の蛇口につなぐだけでオゾン水を生成します。そのため、日常の手洗い感覚で使用することができ、衛生管理に取り組むハードルが低くなります。今までの水洗いの代わりにオゾン散水器を使うだけでも、ウイルス細菌の拡散を防止する効果の向上が期待できます。

バードネット

鶏舎内にはスズメやムクドリなどの小型の野鳥が侵入してきます。これらの侵入を防ぐためにおすすめの資材がバードネットです。ポリプロピレン製のバードネットは1㎡あたり15gと軽量のため設置作業の負担を軽減します。縦糸と横糸の交差点は延伸式で融着されているため、縦・横・斜めのどの方向に対しても強度を有しており破れにくくなっています。また目ズレやほつれが起こりません。引っ張りに対しての強度があるにもかかわらず、ハサミで簡単に切断できるため、鶏舎の小さな隙間や穴などを塞ぐ作業が行いやすくなります。

適切な衛生管理で鳥インフルエンザ対策の実施を

鳥インフルエンザが発生すると、社会的不安が起こり消費は低迷します。畜産農家さんにとっては農業経営に大打撃を与える脅威となります。目に見えず未知の部分が多いウイルスを防止するのは大変な労力がかかりますが、鳥インフルエンザの発生を防止するためには農場での衛生管理を持続的に実施することが求められます。今回のコラムをお役立ていただければ幸いです。

関連コラム:ウインドウレス鶏舎とは?メリット・デメリットを解説

参考資料:
超微細高密度オゾン水による殺ウイルス効果試験
(日本獣医公衆衛生学会)
高病原性鳥インフルエンザの発生を防止するために
(全国家畜畜産物衛生指導協会 )

家きんを鳥インフルエンザから守れ!疾病を発生させない対策とは?

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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