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植物に対するモリブデンの働きとは?|欠乏障害と欠乏対策を解説!
公開日2022.06.17
更新日2022.06.17

植物に対するモリブデンの働きとは?|欠乏障害と欠乏対策を解説!

微量要素の一つに数えられるモリブデン。モリブデンは植物に必要な栄養素とされていますが、吸収量が最も少ない栄養素であることも知られています。しかし、吸収量が少ないからといって施用を怠る、或いは土壌化学性の管理を怠ると植物はモリブデン欠乏症になり生育障害という問題が発生してしまうことがあります。
今回のコラムは、植物に対するモリブデンの働きについて欠乏症やその対策について解説したいと思います。

必須元素におけるモリブデンとは

モリブデンは17の元素が存在する植物の必須元素のうち、8の要素が数えられる微量要素に分類されています。植物のモリブデン吸収量はごく僅かとされていますが、窒素の代謝に関わる重要な役割を果たしています。また、根粒菌の窒素固定にも関わっているとされ、マメ科植物とっては大事な栄養元素といえます。

植物の必須要素とは

農業や農学に精通する読者の皆さまは既にご存じかと思いますが、ここで一つ植物の必須要素について纏めておきたいと思います。
植物も私たち人間と同じように、たくさん吸収しなければならない栄養素と少しだけ吸収すればよい栄養素があります。植物がたくさん吸収しなければならない栄養素を「多量要素」といい9つの元素が存在します。植物が少しだけ吸収すればよい栄養素を「微量要素」といい8つの元素が存在します。
多量要素は窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)、酸素(O)、炭素(C)、水素(H)が挙げられます。微量要素は鉄(Fe)、ホウ素(B)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、塩素(Cl)、モリブデン(Mo)が挙げられます。それぞれの要素は植物に対する役割が異なっており、どの要素の吸収が欠乏や過剰に陥っても植物は生理障害として外的異常を発します。とりわけ窒素、リン酸、カリウムは肥料三要素といわれ、特に重要な栄養元素とされています。

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モリブデンと農業の関係

モリブデンは植物にとってなくてはならない元素ですが、その吸収量はごく僅かとされており17つ存在する必須元素のなかで最も少ないとされています。植物によって異なりますが、通常植物体内におけるモリブデン含量の平均値は0.9 mg/Lといわれています。モリブデンの土壌存在量はおよそ1.5mg/Lとされており、一見欠乏しない十分な含量値に思われますが、日本特有の気候が植物のモリブデン吸収に影響を与えていると考えられます(日本の土壌pHは酸性に傾きがち!)。モリブデン吸収については後述させていただきたいと思います。

植物に対するモリブデンの効果|欠乏症と過剰症

モリブデンは根粒菌の窒素固定の関与と窒素の代謝に関わる重要な役割を果たしています。
1930年に窒素固定菌が存在する培地に土壌の抽出液を添加すると窒素固定量が増加することで始めて植物に対するモリブデンの重要性が明らかになりました。
1939年にトマトの水耕栽培によってモリブデンの重要性が見いだされ、その後の研究によってモリブデンは窒素代謝に関与していることが示唆されました。

モリブデン欠乏症

一般的な植物のモリブデン欠乏症は葉が内側に巻き込み、黄色く変色します。始めは中位葉に発現して徐々に上位葉と下位葉に広まっていきます。モリブデン欠乏症はオーストラリアとニュージーランドで顕著に発生するといわれています。また、水耕栽培では養液のモリブデン濃度が0.00005mg/L以下になると欠乏症が発現するとされています。

モリブデン過剰症

一般的な植物のモリブデン過剰症は葉が黄金色~黄色あるいは黄緑色に近い色に変色します。葉に異常が発生する頃には生育にも影響が及び、著しく生育が減衰します。トマトにおける水耕栽培では10mg/L以上になると過剰症が発現するとされています。

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モリブデン欠乏症対策

仮に施肥をまったく行わないで毎年同じ圃場に同じ植物の作付けを行えば土壌の栄養元素の構成に偏りが発生します。植物が土壌から栄養分を吸収すると土壌の栄養分が少なくなってきます。少なくなると植物は健全な生育ができなくなるので所謂欠乏症として生育不良を主とした被害が表面化してきます。
農業の場合は土づくりの際に基肥として堆肥や肥料を与えて土壌の栄養分を追加してやります。基肥で足りない場合は追肥を行って適宜栄養分の補給をしてやります。これらの栄養分補給は多量要素の窒素・リン酸・カリウムなどに限ったことではなく、モリブデン並びに微量要素も同じです。ただし、ここに述べたことは慣行栽培で行われることで、とくに普通肥料を適宜施用することが特徴です。近年栽培面積が増えている有機栽培や自然栽培などの場合は、有機堆肥のみの施用あるいは地力のみで栽培することがあるので考え方が少し異なってきます。

土壌pHをアルカリ寄りにもっていく

植物が栄養分としている肥料元素は土壌pHによって溶解性が異なります。たとえば微量要素では銅、亜鉛、ホウ素、マンガン、鉄が酸性土壌で溶解性を増して、植物の根が吸収しやすいかたちになります。しかし、溶解性の高まりに注意が必要な元素にマンガンと鉄が挙げられます。マンガンは過剰症が起こりやすい元素で葉が茶色や褐色に変色するなどの症状が発生します。鉄はリン酸と結びつきやすい元素で、所謂難溶性リン酸と呼ばれるリン酸鉄になってしまい、リン酸欠乏症を引き起こす原因となります。微量要素ではありませんが、日本の黒ボク土に多く含まれているアルミニウム(植物に対して有害!)も酸性土壌で溶解しやすく難溶性リン酸増加の原因になっており、鉄とあわせて注意が必要です。
一方、モリブデンはアルカリ性で溶解性を増すことが知られており、他の肥料元素と相対する性質をもっています。pH7.0くらいを境に土壌が酸性に傾くとモリブデン欠乏症の注意が必要になります。欠乏症の症状は前章に記載させて頂いた通り、葉が変色する症状と生育の減衰です。モリブデン欠乏症に対する主な対策は、土壌pHをアルカリ性にもっていくことです。しかし他の肥料元素との兼ね合いもあるので症状が発生した際は判断が難しいですが、土壌pHを7.0くらいにすることでモリブデン欠乏症からの改善が期待できます。

モリブデン欠乏症対策に利用できる農業資材

ノルウェー産高品質海藻エキス粉末
海藻のエキス

海藻のエキスはアミノ酸、微量要素、ミネラルを含んだ海藻系の特殊肥料です。アルギニン、グルタミン酸、ロイシンなど17種類のアミノ酸。マンガン、亜鉛、モリブデンなど7種類の微量要素が含まれています。水に溶かして希釈し野菜や果樹などに対して葉面散布や灌水で使用することができます。非常に高い溶解性で短い時間で完全に水に溶解できます。農薬との混用が可能なので薬散時に施用できることが大きな魅力です。不足しがちな栄養成分を海藻のエキスで補給してみては如何でしょうか。

天然アミノ酸入り複合肥料
オルガミン

オルガミンはアミノ酸と微量要素を含んだ魚系の特殊肥料です。アルギニン、リシン、ヒスチジンなど18種類以上のアミノ酸。マンガン、ホウ素、亜鉛、モリブデンの4種類の微量要素が含まれています。水に溶かして希釈し主に果樹や野菜に対して葉面散布や灌水で使用することができます。一般的な魚系葉面散布剤よりも「臭いが和らいでいる」との使用感想、「葉が立つ」「葉が厚くなる」など葉への好影響を報告する農家さまが多くなっています。農薬との混用が可能なので薬散時に施用できることが大きな魅力です(但し、石灰硫黄合剤との混合はできません)。

▶オルガミンの説明動画はこちら

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モリブデンを微量要素と侮るなかれ

植物の吸収に必要なモリブデンの量は植物の生育に必要な肥料元素のなかで最も少ないとされていますが、土壌中のpHと他の微量要素との関係上、欠乏症が発生する可能性が低くありません。同じ圃場で同じ植物を何年も栽培する場合や栽培期間の長い植物では追肥で栄養補給をする必要性があり、速効性の高い葉面散布はおすすめの施用方法です。

今回のコラムが皆様のお役に立つならば幸いです。

本コラムは一部「化学と生物Vol.19,No.11(216号),モリブデンと植物」を参照に作成しました。

植物に対するモリブデンの働きとは?|欠乏障害と欠乏対策を解説!

コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の実践を始める。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

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