なぜ果物を保存する必要があるのか
農作物は収穫したらすぐに出荷して消費者に届けることが理想的です。その代表事例に直売所や道の駅がありますが、この方法であれば「鮮度抜群」で消費者は野菜、果物や切り花を購入することができます。しかし、産地で栽培された殆どの農産物は通常大消費地である東京や大阪などに出荷されますが、このようにしなければ経営栽培を行うことができない構造であるといえます。産地から消費者までの流れは、収穫→出荷(流通)→消費者までの長い時間が発生してしまうデメリットがあり、この長い時間をどう乗り越えるかが課題になります。具体的な成功事例に“コールドチェーン”がありますが、端的に説明すれば、農産物の流通環境を低温にすることで、植物の呼吸量を抑制させて植物細胞の水分含量を維持し、尚且つエチレン生成量を抑制して老化を防ぐことで、鮮度の高い状態で消費者に届けることができる流通技術です。
農産物の流通のこと…
出荷までを担う多くの農家は流通過程(流通手段)にまでは通常直接の関与はありません(六次産業形態の農家は別ですが)。ところが、流通過程にある市場やスーパーマーケットおよび消費者の手に農産物が渡った段階で「腐り」「溶け」などが発生していた場合は、生産者である農家にクレームが戻ってくる仕組みが存在しています。筆者の所感ですが、農家は栽培する農作物の扱いに関しては誰よりもプロフェッショナルだと思います。出荷後に日数をかけて様々な流通過程と取扱業者が存在してきますが、農産物の取り扱いを全部が全部農家並みにできるとは思えません。とりわけ、それぞれの農産物に対して最適貯蔵温度管理を行うことはかなり困難です。
このようなことから、農家は収穫物が自分の手から離れるまでは、ただ保存するだけではなく、「腐り」「溶け」が発生しないような農産物保存方法を実行することが良いと思います。このような仕組みは食品トレーサビリティにも関与するため、自身(自社)を守る行動ともいえます。
果物によって保存方法が異なる!?
それぞれの農産物の保存方法は一律に同様ではありません。果物も例外ではなく、たとえばブドウの保管温度は数℃という低温に対して、パイナップルの保管温度は10℃前後が最適とされています。
本章では、果物のエチレン感受性とエチレン生成量について紹介させていただきます。
エチレン
エチレンは、植物が生成・分泌する植物ホルモンで、植物の成熟や老化に関与しています。野菜類での生成は少なく、果実や切り花で多く生成されます。エチレンは温度によって分泌される量が変わり、基本的には果物を常温保存すると発生が多くなり、冷蔵保存すると発生が抑制される傾向があります。
エチレンは分泌した個体のみで完結する植物ホルモンではありません。たとえば、シュガースポットと呼ばれる変色が発生しているバナナ(仮にバナナA)とシュガースポットが発生していないバナナ(仮にバナナB)を同じ空間に保管した場合、バナナAが放出したエチレンの暴露によってバナナBの成熟が早まり、バナナBのみで保管した場合よりも熟成が早まってしまいます。
つまり、農家が使用している大型冷蔵庫には極力一種類の農産物を保管することが理想的ですが、近年流行りの多品目生産の場合では一つの冷蔵庫にたくさんの果実が保管されていることが考えられます。この場合、エチレンの影響を考慮するとその果実にとって最良の保管環境ではなくなっているかもしれません。
関連するコラムはこちら
果物*のエチレン感受性
品目 | エチレン感受性 | エチレン生成量 |
---|---|---|
イチゴ | 低い | 少ない |
スイカ | 普通 | 少ない |
イチジク | 低い | 多い |
温州みかん | 普通 | 極めて少ない |
カキ | 高い | 多い |
キウイフルーツ | 高い | 極めて少ない |
ナシ | 低い | 極めて多い |
バナナ(黄熟) | 高い | 多い |
モモ | 高い | 極めて多い |
パイナップル | 低い | 極めて少ない |
ブドウ | 普通 | 極めて少ない |
リンゴ | 高い | 極めて多い |
レモン(黄熟) | 普通 | 極めて少ない |
*イチゴやスイカなどの果実的野菜も列記します
果物保存の新常識!?|果物の長期保存方法
ここまでで果実に対するエチレンの影響について紹介してきました。本章では果物保存の新常識と題して、加湿の重要性について解説したいと思います。
収穫された果物に発生するカビの多くは、最適温度(25℃位が多い)に起因した胞子拡散による空気伝染(この後水によって発芽します)と、水を通じて果実から果実への水伝染がほとんどで、保管環境が悪いとカビは保管庫全体に広がってしまいます。一方、収穫された果実の最適貯蔵温度は低温のものが多く、また、乾燥に弱いため最適保管湿度は90%前後を目安とされた果実が多くなっています。とりわけ保管湿度に関していえば、多湿は水滴(所謂果実の汗)を伴う危険性があり、多湿は果実貯蔵環境として避けるべきと考えられます。そして上手い具合に、多くの冷蔵庫は低温・低湿度によって乾燥しやすいような構造になっているのですが、ここに果実の長期保存の落し穴があるといえます。
最適保管湿度からいうと「果実は加湿して保管すべし」。ただし、水滴が発生しない、つまり飽和しない加湿が求められます。
果実*の最適貯蔵温度と湿度
品目 | 温度(℃) | 湿度(%) |
---|---|---|
イチゴ | 0 | 90~95 |
スイカ | 4.5~10 | 80~85 |
イチジク | 0 | 85~90 |
メロン | 2~5 | 85~90 |
温州みかん | 3~5 | 85~90 |
カキ | 0 | 90 |
キウイフルーツ | 1~3 | 90~95 |
ナシ | -1~0 | 90~95 |
バナナ(黄熟) | 13~14 | 90~95 |
モモ | 0 | 90~95 |
パイナップル | 8~12 | 85~90 |
ブドウ | -0.5~0 | 85 |
リンゴ | -1~0 | 90~95 |
レモン(黄熟) | 3~5 | 85~90 |
*イチゴやスイカなどの果実的野菜も列記します
関連するコラムはこちら
エチレン除去と加湿が最適保管方法の果実の種類
前章までに果実のエチレン感受性と生成量及び最適貯蔵温度と湿度を表に纏めました。この二つの表をもとにエチレン除去と加湿が最適保管方法の果実を紹介したいと思います。
リンゴ
リンゴはエチレン感受性が高くエチレン生成量も極めて多いとされています。尚且つ最適貯蔵温度も低いため通常の冷蔵保管ではエチレンと乾燥によって良好な長期保存は難しいでしょう。そのため、長期保存をするためにはエチレン除去と乾燥抑制が同時に必要となります。リンゴの場合、大型冷蔵庫設備としてCA貯蔵がありますが、小規模リンゴ農家(多品目栽培など)や六次産業形態農家ではなかなか導入は難しいと思われます。
このあとにご紹介する「グリーンキーパー」はエチレン除去と加湿を行うことができるためりんごの長期保存の悩みを解決します。
モモ
モモはリンゴと同様にエチレン感受性が高くエチレン生成量が極めて多いです。最適貯蔵温度は0℃、最適貯蔵湿度は90~95%のため凍結せず尚且つ結露しないギリギリの貯蔵環境が求められます。またモモの場合、柔らかいという物理性の面から重ねたり積んだりすることができないため、長期保存する際は出荷用段ボールに詰めて保管することがあると思います。つまり、モモの長期保存はエチレン除去、加湿、モモが段ボールに入っていることを解決した方法が求められます。
カキ
カキの最適保存条件はリンゴやモモと類似しており、エチレンの解決と最適貯蔵温度と湿度の管理の徹底が長期保存のカギとなります。カキ果実は成熟が早くエチレン感受性が高いためエチレンを除去することがとても重要です。また乾燥にも弱いので蒸散を抑制するために保管庫の湿度を90%程度に調整します。
カキの輸出先は香港、タイ、シンガポールなどの東南アジアです。遠くの国に鮮度の高い状態に保つには、収穫後から高レベルの鮮度保持が求められると思います。
ナシ
ナシのエチレン感受性は低いもののエチレン生成量が極めて多く、多品目への影響力が強い果実だといえます。最適貯蔵温度は-1~0℃と比較的低く、最適貯蔵湿度は90~95%と高くなっており、冷蔵保存をしつつ飽和するギリギリの加湿が求められます。ナシは果肉が水浸状になる、みつ症が発生しやすく収穫後は適切な保管が求められます。
梨農家は多品種を栽培しているケースが多く、ナシの品種はリレー方式で入れ替わります。品種によって最適保管条件や最長保存期間が異なるとされていますが、次章で紹介する「グリーンキーパー」によるエチレン除去と加湿機能を取り入れてみては如何でしょうか。
乾燥を防いでエチレンを除去する大型冷蔵庫向け機器
エチレンガス分解フィルター内臓 冷蔵庫用加湿器|グリーンキーパー
グリーンキーパーは、果物、野菜、切り花の鮮度保持を目的に製作された冷蔵庫用加湿器です。最大の特徴は「結露しない加湿」ができること。密閉冷蔵庫内において、多くの農産物の鮮度保持に最適な90%以上100%未満の加湿をすることができます。さらにグリーンキーパーにはエチレンガス分解フィルターが内蔵されているため、農産物が放出するエチレンを除去することが可能です。
果物をはじめとする農産物の長期鮮度保持に必須の二つの機能を備えたグリーンキーパーは、100V電源さえあれば設置工事不要で導入することができ、キャスターが付いているため移動も簡単にできます。冷蔵庫の好きな場所、そして好きな時期に導入できるためフレキシブルさが求められる農家におすすめの機器となっています。
鮮度の良いフルーツをお届けするために
今回のコラムでは農家における果物の鮮度保持について紹介させていただきました。近年は果物もただ作るだけではなく、いかに品質の高いものを生産するかが求められています。農家にとってはなかなか厳しい現実だと思いますが、栄枯盛衰、現代の農業が取り巻く状況に調和しなければ難しい立場に置かれてしまいます。
鮮度の高いおいしいフルーツを求められている農家さまはグリーンキーパーを早めに検討してみては如何でしょうか。
こちらのコラムも是非ご覧ください!
コラム著者
小島 英幹
2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の研究に着手する。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。