トマトの収穫に大きな影響を与える一因は“育苗”です。育苗がうまく行かなかった根張りの少ないヒョロヒョロの苗では定植後の初期生育でいきなり躓いてしまうことでしょう。今回のコラムでは、根張り強くガッシリした苗を作るポイントを紹介したいと思います。
トマトとは
トマトの原産地はペルーやエクアドルといわれ、インカ帝国時代にヨーロッパに持ち込まれたとされています。当時トマトは「悪魔の実」と呼ばれていたそうで、所以は所説あるようなので言及しませんが、真っ赤な果実に昔の人は何かを感じたのでしょう。日本でトマトの栽培が盛んになってきたのは明治時代からです。大正時代になると栽培技術も確立され本格的な栽培が始まったとされています。現代といえばオランダ式の栽培が各地で普及し、大型温室かつ多段取りが可能なため面積当たりの収穫量は、土耕で行う抑制/促成栽培などと比較してかなりの多収となっています。
近年は農業に異業種参入する企業がトマト栽培を選ぶことも多く、1ヘクタール以上の温室で環境抑制をしたオランダ式の栽培方法の採用が多くなっています。異業種にトマト栽培が選ばれる理由は、「面積当たりの収穫量が多く、産業化しやすい」ことではないでしょうか。大玉トマトだけではなく中玉トマトやミニトマトなど多様な品種を栽培していることが殆どで、さらに、水耕栽培であれば労働者の作業性やイメージも良いため雇用確保の確率も高まっているのだと思います。
トマトの育苗期間に発生する病害虫
トマトは比較的病害虫に侵されやすい植物です。なかには罹病したら治療できない病気や害虫に寄生されたら病気になって治療できなくなってしまうことさえもあります。
本章ではトマトの育苗期間に発生しやすい病害虫について紹介したいと思います。
病気
苗立枯病
苗立枯病はピシウム菌とリゾクトニア菌が原因で発生し、育苗期間に苗床温度が25~30℃になると発生が多くなります。育苗マットで発症すると灌水の水を伝って、育苗マット全体に被害が拡大します。罹病すると治療はできないので、発生しないように対策をするしかありません。
主な対策方法は、無菌の培地を使用することです。なおかつダコニールやオーサイドを灌注してしっかり対策をします。平時の水やりもなるべく株元に水がかからないようにして、水のやり過ぎにも注意します。
灰色かび病
灰色かび病は絶対寄生菌である糸状菌(カビ)が原因で発生し、低温多湿の時期に多発します。作型にもよりますが2月頃に播種をする作型の場合は育苗期間に発生が多くなります。発生が止まらないまま定植期までいってしまうと、灰色かび病菌はトマトの花を落としてしまうので必ず完治した苗を定植します。
主な対策方法は、加湿にならないように換気することです。農薬ではスミレックスやボトキラーなどを散布して予防をします。
害虫
ハモグリバエ
ハモグリバエの成虫がトマト葉に産卵します。産まれた幼虫がトマト苗の葉を食害し、育苗期では度々発生が顕著になります。通常露地では冬期の発生はありませんが、温度管理された暖かいハウスのなかでは年間を通じて発生します。育苗期間にトマト葉を損傷するとその後の生育が劣るため発生したら適宜駆除の対策を採ります。
主な対策方法は防虫ネットと農薬散布です。防虫ネットはアザミウマ対策にもなるので0.4mm目合いのネットを使用すると良いかもしれません。農薬はカスケードやオルトランなどが有効的です。
トマトサビダニ
トマトサビダニは葉、茎、果実など株全体を侵す吸汁性の害虫です。被害を受けると葉や茎は茶色っぽく褐変します。通常は高温乾燥期に発生が顕著です。苗から本圃に持ち込んで被害が発生する場合もあります。
主な対策方法は農薬散布でコロマイト、マイトコーネ、イオウフロアブルなどが効果的です。
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トマトの播種時期|作型による播種時期と定植時期の違い
トマトの播種時期は作型によって異なります。たとえば同じ果菜類でもイチゴ、メロン、スイカなどは栽培シーズンが凡そ決まっているので特定の時期にしか流通しません(近年は夏イチゴや保存技術の向上で少量は流通していますが)。しかしトマトは作型や産地リレーによって年間を通じて収穫されるため、スーパーマーケットやデパートに行けば消費者はどの時期でも購入できます。
下表では作型の違いによる播種期、育苗日数、定植期の凡そのタイミングについてまとめております。
播種期 | 育苗日数 | 定植期 | |
---|---|---|---|
露地栽培 | 2月中旬 | 70日 | 5月上旬 |
雨よけ栽培 | 2月中旬 | 50日 | 4月中旬 |
促成栽培(長期) | 8月上旬 | 60日 | 10月中旬 |
促成栽培(短期) | 8月上旬 | 40日 | 9月中旬 |
半促成栽培 | 9月中旬 | 30日 | 10月中旬 |
抑制栽培 | 5月下旬 | 30日 | 6月中旬 |
中玉トマト露地栽培 | 2月下旬 | 30日 | 3月下旬 |
中玉トマト抑制栽培 | 6月上旬 | 30日 | 7月上旬 |
トマトの育苗期間|健苗に仕上げるポイント
地温を保ち発芽適温の25℃~28℃で保温する(冬期育苗の場合)と4~5日で発芽します。10~12日後の本葉が1枚ほど展開したら育苗ポットに鉢上げ(移植)をします。鉢上げ後は葉が重ならないよう生長にあわせて株間(ポットとポットの間隔)をあけるようにするので、育苗の場所は十分広くとるようにします。播種から数えて上記の表のようにトマトの育苗期間は短いと30日ほど、長いと70日ほどにもなります。この間に病害虫に強くガッシリした苗を作るためにはいくつかのポイントがあります。
本章ではトマト苗を強く健康にするためのポイントを紹介します。
接ぎ木をする
接ぎ木はトマトに限らずナスやキュウリなどでも行われる技術で、主に病害対策として行われます。トマト台木には特定の土壌病害虫に抵抗性を持ったトマトを使用します。青枯病、萎凋病、半身萎凋病、褐色根腐病、根腐萎凋病、ネコブセンチュウに抵抗性を持った台木が主で、それぞれの病害虫に対する抵抗の強弱が台木によって異なります。穂木が持ち合わせていない抵抗性や圃場で発生しやすい病害虫に対する抵抗性を持った台木を選定します。
灌水量をある程度切る
水のやり過ぎは苗立枯病を誘発する恐れがあります。夏期の育苗では青枯病も問題になってきます。トマトの原産地は南米の高地乾燥地帯のため、品種改良がすすんだ現代でも乾燥に強い遺伝子が残っているようで苗の段階で多少乾燥気味でも生育します。水を切ると、茎が太くなりガッシリした苗になるので定植後の生育や苗の自立性も高まります。水のやり方を改善すれば徒長も防げるので抜かりなく行うようにしましょう。
土壌微生物資材を活用する
多くの農家は接ぎ木や農薬散布などある程度の育苗対策を行っているものです。それでも悪天候続きや低温など予測のできない事態が発生します。例えば定植後であれば、害虫対策ならば天敵導入やハウス入り口でのエアシャワー導入を、生育対策ならば補光ライトの設置などを行いますが育苗期間は通常そこまで手を掛けません。
土壌微生物を活用するのであれば、土壌に微生物資材を施すだけなので慣行の育苗と比較して殆ど手間もなく、土壌微生物の力を借りて根張りが改善されたり乾燥に強くなったりします。土壌微生物の活用は、土壌微生物が混入した培土あるいは選抜した土壌微生物が単体となった資材もあります。
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トマトの育苗で活躍する農業資材
キンコンバッキー
キンコンバッキーは有用土壌微生物アーバスキュラー菌根菌を含んでおり、当資材は水で希釈して使用できることが大きな魅力です。従来の菌根菌資材は土壌に混合するタイプのものが多く、共生率が高くならない一つの要因となっていました。キンコンバッキーを水で希釈して育苗時に灌水します。トマトの育苗に使用する場合は育苗期に2000倍希釈水を50ml程度灌水します。1か月ほどで根に共生し、共生後は発根が良くなり、さらに植物へのリン酸吸収を促します。土壌水分が少ない環境でもアーバスキュラー菌根菌が形成する菌糸の働きによって乾燥にも強くなり、暑さ対策にも期待ができます。
多収トマトを目指して|育苗で差をつける
トマトなどの果菜類はとくに育苗が重要です。弱々しく根量が少ない苗は定植しても活着が悪くなり初期生育で後れをとるため、初期収量が期待できません。また、徒長した弱い苗ほど病害虫に侵されるリスクが高まります。病害虫に侵された苗は本圃に持ち込まれ、病害虫にとって良好な環境になるとたちまちに悪さをはじめます。多収トマトを目指す第一歩は育苗であることを肝に銘じましょう。
今回のコラムが皆様の役に立つならば幸いです。
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…家庭菜園でのトマトの育て方…
トマトは家庭菜園でも人気で、経営栽培ではなかなかお目にかかれない品種もホームセンターや園芸店で販売されているので準備も少なく簡単に始められます。おすすめの品種は桃太郎、フルティカ、千果などが育てやすく初心者でも栽培しやすいです。家庭菜園の場合は種まきをせず、苗から栽培をスタートすることが普通です。畑がない場合はベランダでプランター、大型ポットに定植して支柱を立てます(トマト専用の培土もあるので堆肥、石灰(カルシウム)、化成肥料など元肥なしで培土袋に直接植えることもできます)。このとき、花芽の方向と支柱を立てる位置を180℃反対にします。反対にしないと、生長した花房が支柱にぶつかる状態になるので、しっかり確認しましょう。生長にあわせて支柱と主枝を紐で誘引しますが、トマトは本葉の3枚おきに花房が分化します。花房の下の部分を紐で誘引すると果房が揺れず安定した誘引にすることができます。肥料は化成肥料や液肥で適宜施用します。追肥は一度にやり過ぎると生育に影響が及び栽培を失敗します。とくに開花前後の花が落下して着果しないことがあるので注意します。家庭菜園ではあまり必要ないかもしれませんが、花房の下位果を摘果すると栄養分が他の果実に分配されるので、甘くなったり大果になることを期待できます。
トマトの家庭菜園は薬剤の使用をしない自然栽培を実践される方におすすめです。
コラム著者
小島 英幹
2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法など。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の研究に着手する。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。
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