コラム
トマトの根っこを元気に育てる|定植時に注意すべきポイントとは?
公開日2022.02.25
更新日2022.02.25

トマトの根っこを元気に育てる|定植時に注意すべきポイントとは?

作物を育てていると、目に見えやすい葉っぱの色艶や株の樹勢に気をとられがちですが、土の中に埋まっている根っこの生長の状態も、作物が健康に生育するための要因の一つです。植物にとって根っこは、土壌からの栄養素・水分・酸素を吸収するための大切な器官ですから、根っこが不健康な状態に陥ると株が活動するための養分が不足し、生理障害が発生したり病害虫にやられやすくなってしまいます。今回のコラムではトマト栽培における定植時の根っこの作用にスポットを当ててお伝えしていきたいと思います。

トマトの根っこの特徴

トマトの原産地は南米のアンデス山脈の西側にあたる高原とされていて、この辺りは雨が少なく太陽の光がたくさん当たり、そして気温の年較差が小さく平均気温が24℃程度です。このような地域の出自であるトマトは、土壌表面が乾燥しやすい季節でも良く育つことができるように根を地中深くにまで伸ばす特長を持っています。横幅は2~3m程度、深さは1mほど伸びる場合があります。横に広がった根は地表近くの栄養素・水分・酸素などを吸収しますが、これだけだと夏場のように地表面が乾燥する季節に円滑な吸収が行えなくなるため、深く伸びた根を使い地中に残っている栄養素・水分・酸素を吸収します。

地表近くの茎から白いぶつぶつとした根のようなものが生えることがありますが、これは気根(不定根)と呼ばれていて、栄養や水分の不足、土壌の水分過多や空隙の不足による酸欠、天候不順による光合成の不足などが原因だと考えられ、トマトでは梅雨の時期に発生しやすい症状です。

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定植後に根っこが元気に育たないと・・・

トマトに限ったことではありませんが、根に元気がないと植物が健康に生長するために必要な栄養素・水分・酸素などを吸収できなくなります。ということは、植物の株自体が健康な状態ではなくなり、病害虫などから受ける生物的ストレスや、土壌の乾燥・過湿、高温や低温といった非生物的ストレスに対する耐性が低下します。そのため、環境の変化に弱い不健康な株となり、果実は品質が悪く収量も伸ばすことができません。発生後の対策がないといわれる根腐病などが発症するリスクが高くなり、この病気は圃場全体にダメージが広がるため手がつけられなくなってしまいます。

定植後のトマトの根っこの張り(根張り)を良くするには?

太陽の光や温湿度なども根の生長に大きくかかわりますが、本コラムでは土中の根の作用に関係する内容についてご紹介していきたいと思います。

団粒構造を心掛けた土作り

光エネルギー・水分・二酸化炭素を使って作り出された炭水化物は、植物体内を移動して土の中の根から分泌されます。これが土の中にある酸素と反応し根酸(こんさん)となります。根酸は土の中に存在している、リン(P)・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)といった多量要素や、鉄(Fe)・銅(Cu)・亜鉛(Zn)といった微量要素を根に吸収させやすい状態へ変化させます。ちなみにチッソやカリは、根酸の働きがなくても水溶性のため根が吸収しやすい要素です。根酸を作り出すために必要な酸素を土壌に残るようにするためには、土壌を団粒構造にしておくことが大切です。植え付け前に土壌を深く耕したり、化学肥料を過剰に施肥しないようにしたりするなど、土壌微生物が活動しやすい環境を整える必要があります。

>>>団粒構造についてはこちらのコラムをご参照ください。

潅水の管理

もともと乾燥には強い植物ですから、定植時はトマトの苗がしおれない限り、なるべく潅水は控えた方が良いとされています。土作りの際に水をたっぷりと含ませて土壌に水分をためておくという方法もあります。

寝かせ植え

地表近くの茎から気根(不定根)がでる特徴をいかして、トマトの苗を寝かせて定植する方法です。根が増えるため、より多くの栄養素・水分・酸素を吸収します。大玉トマト・中玉トマト・ミニトマトといった種類で使える方法ですが、根が水を吸い込む量が多くなるため潅水量に注意しましょう。特にミニトマトは裂果しやすくなります。中玉トマト・ミニトマトはわき芽かきを行うと、実に水分が集中しすぎて実が割れやすくなりますので、わき芽かきの作業はあまり行わなくて良いかもしれません。寝かせ植えを行うには接木苗は適当ではありません。茎が伸びて徒長した自根苗を使うようにしましょう。株元から本葉を3枚程度取って、その部分に土がかぶさるように埋めます。

地表近くに根がはるため温度の影響を受けやすく、着果数が増えて果実が大きくなり、収穫期間が長くなるというメリットがあります。一方、雨水や潅水の跳ね返りにより、葉や茎などから病気に罹患しやすくなったり、水分量が多くなるため糖度が落ち品質が低下しやすくなったりするなどのデメリットがあります。また株間を取る必要があり圃場のスペースが限られている場合はおすすめできません。樹勢の強い品種だと暴れてしまう可能性があるので、品種によっては寝かせ植えは向いていないことがあります。

根切り植え

定植前の苗の根を三分の一程度カットします。活着のスピードは少し遅れ気味になりますが、切り口から新しい根が生えて、活着後は根が土の中で旺盛に伸び、株の生長が活性化すると考えられています。これは根が切られたということが、植物にとっては緊急事態であるため根の再生を急ぐという性質が関係しているのではないでしょうか。根切りをした植物体は側根の数が多く生長が速いという実証結果から導きだされている考察で、植物ホルモンのオーキシンが何らかの作用をしているようです。

ポットごと植える

水分過多による糖度低下をさけるため、ポリポットのまま土壌に植える方法です。根の伸びる範囲が制限され糖度が高くなると考えられています。また定植する土壌と接触することが少ないため、病原菌に侵されにくくなるというメリットもあります。ただし、根の生長が制限されるため、茎や葉の伸長が遅れ着果数は少なくなるという点は留意しておく必要があるでしょう。水分不足になりしおれやすくなりますが、ポットの鉢底から根が伸長し活着すると落ち着きます。それまでは潅水の頻度に注意して枯死させないようにしましょう。

土壌微生物を利用する

土壌微生物と一言に行っても多種多様な微生物が存在しています。仮にトマト栽培を行うにあたり不都合な土壌微生物と好都合な微生物に分けてみます。不都合な土壌微生物は、トマトに病害をもたらす苗立枯病菌や青枯病菌があります。これらの土壌微生物はトマトに対して病原性をもっており一度罹病すると回復や治療はできません。
一方で好都合な土壌微生物は菌根菌がいます。菌根菌は総称で、例えばトマトに好影響をもたらす菌根菌はアーバスキュラー菌根菌が代表的です。アーバスキュラー菌根菌はトマトの根に共生して、リン酸吸収を助け、さらに耐乾燥性や根域拡大の作用も付加すると言われています。アーバスキュラー菌根菌は農業資材として市販されているので誰でもトライできるトマトの根張り対策です。

アーバスキュラー菌根菌資材「キンコンバッキー」!!

農業利用できる土壌微生物資材の代表格といえばアーバスキュラー菌根菌です。アーバスキュラー菌根菌は市販されており、セイコーエコロジアがおすすめするのは「キンコンバッキー」です。
キンコンバッキーは内容量あたりの菌根菌含有量が多く、植物に対して少量の施用でも共生率が高く維持されています。トマトの場合は、キンコンバッキーを水で2000倍希釈した溶液を株あたり100mlを施用します。大体40日前後で根への共生が成立して、共生後はトマトの根の伸長を促して、さらにリン酸吸収を助ける役割を果たします。アーバスキュラー菌根菌は若い植物の根に共生しやすく、本圃に定植した後にキンコンバッキーを施用するよりも育苗中に施用した方が共生する確率が高くなるので使い方のコツと言えます。

根っこの作用に留意したトマトづくりを

根は人に例えると食べ物を取り入れる口のようなものですね。根っこの環境を整えることは、栄養となる食べ物を取り入れやすくしてあげるということになります。栄養素・水分・酸素などを円滑に吸収できるようになると、株自体が元気になり病害虫にも強くなります。今回のコラムを皆様のトマトづくりにお役立ていただければ幸いです。

こちらのコラムも是非ご覧ください!

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コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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