コラム
ケイ酸の特徴|肥料として期待できる効果を解説
公開日2022.02.16
更新日2022.06.08

ケイ酸の特徴|肥料として期待できる効果を解説

ケイ素はケイ酸(珪酸)を形づくっている元素のひとつで、地球の地殻中の質量濃度としては27.7%と、酸素の質量濃度46.6%に次いで濃度の高い元素であると考えられています。植物の種類によってケイ素含有率は0.1~10%と大きく異なりますが、植物は成長の過程では地殻から溶け出したケイ素を使い、生物的ストレスおよび非生物的ストレスの耐性を向上させているのではないかという研究が進められてきています。今回のコラムではこのような元素を持っているケイ酸について詳しくご紹介していきたいと思います。

ケイ酸とは

ケイ酸とは、ケイ素(Si)・酸素(O)・水素(H)の3つの元素が結合した化合物のことです。このうちのケイ素は地球の自然界で酸素の次に多い元素で、結晶化した無色透明のものがクリスタル(水晶)です。ケイ素を主成分とした珪砂(けいしゃ)は皆さんが日常生活でよく目にするガラスの原料でもあります。

一般的に、農業で「ケイ酸」というと二酸化ケイ素(SiO₂)のことを指しています。土壌中に存在している二酸化ケイ素は土壌質量の5割~7割を占めており、その一部が溶出し植物体がこれを吸収しています。ケイ酸の溶解度は低いため、土壌中溶解量は平均で30~40ppm程度で、作物が育つときにこのケイ酸を利用すると考えられています。

ケイ酸が不足する理由

土壌成分の半分はケイ酸であり、植物体にとって不足することはないという考えが以前は一般的でしたが、最近は少し違うようです。土壌中に多く存在しているはずのケイ酸が不足してしまうというのは、どういうことでしょうか。現在のところ可能性のある理由を以下に記載しました。どれも研究段階で定説ではないようですから参考程度にご一読ください。

土壌微生物の減少

微生物が土壌の有機物を分解して生じた腐植物質などによりケイ酸は土壌に溶けやすくなるとされていますが、化学肥料の過剰施肥により土壌微生物が減少し、腐植物質が生じにくくなっていることから、ケイ酸が土壌に溶けていかず、植物がケイ酸を吸収できないと考えられています。

作物が育つときに利用するため持出が多い

ケイ酸の吸収能力が特に高い稲においては、土壌に残存しているケイ酸量を集計した結果、圃場のケイ酸の割合が少なくなっているという報告もあり、連続してケイ酸吸収能力の高い作物を栽培するとケイ酸が不足すると考えられています。稲の収量が高いと、土壌中のケイ酸が少なくなり、稲を土壌に還元せず、堆肥を使わないとケイ酸が減少していくとされています。

アンモニア態のチッソ過多による根の生育不良

三大栄養素の一つであるチッソには、アンモニウム態と硝酸態があり、アンモニウム態のチッソは根の発育を阻害するという研究があります。チッソの過剰な施肥により根の生育が十分ではなくなり、土壌中にケイ酸が存在していても植物体が吸収できないという状態に陥る可能性が示唆されています。

ケイ酸が不足したときに発生する障害

光合成の機能が低下することで、作物が丈夫に育たずに環境の変化や病害虫に対する耐性が低下します。これにより病害虫の被害、生理障害などを誘発するリスクが高くなります。作物を加害する害虫はケイ酸の含有率の低い植物を好んで食べるという研究もあるようです。これは、窒素の過剰施肥や日照不足により植物に未消化窒素がたまると、窒素を求めて害虫が引き寄せられやすくなりますが、ケイ酸にはこの未消化窒素を吸収する作用があるということと関係があるのかもしれません。

ケイ酸により期待できる効果

作物の植物耐性が向上

特に大きな影響は、受光能力が向上し光合成が活性化することでしょう。植物は主に葉っぱが太陽の光を受けることで光合成を促進させます。葉の表面直下にある柵状組織には太陽の光がまっすぐ入りますが、柵状組織の下にある海綿状組織で光を乱反射させて光のエネルギーを最大限に活用しています。作物がケイ酸を吸収すると葉は分厚くなりますから、乱反射させる部分も厚くなり効率よく光エネルギーを活用できると考えられています。

受光能力が上がり葉や茎が丈夫に育つことで、生物的ストレス(雑草・病原菌・害虫)や非生物的ストレス(高温・低温・乾燥)への耐性が向上します。植物によってはケイ酸が茎や葉の表面に蓄積され硬くなり病原菌(ウイルス)や害虫が侵入しにくくなるようです。根への光合成産物の供給量も増加し、強い作物を育てることができます。このように作物自体が元気になり耐性能力が向上すれば、減農薬につながる可能性があり農業経営の負担を軽減することになります。

微量要素的効果が期待できる?

ケイ酸を積極的に吸収する水稲などとは異なり、イチゴやトマトのようにケイ酸含有量がとても低い作物においては、影響のメカニズムは解明されていません。しかし栽培実験においてケイ酸濃度が果実の重さや病気の罹患率と関係がありそうな結果が出ていることから考察すると、必要量は微量であるにもかかわらず不足すると生長に影響を及ぼす微量要素*的な働きをしているのではないかと考えることができるのではないでしょうか。

*塩素(Cl)・鉄(Fe)・銅(Cu)・亜鉛(Zn)・マンガン(Mn)・ニッケル(Ni)・ホウ素(B)・モリブデン(Mo)など

微量要素についてはこちらのコラムをご参照ください。

ケイ酸を施肥する資材

ケイカル(ケイ酸カルシウム)

肥料取締法において、ケイ酸肥料としての成分の含有量が公定規格により設定されているものです。原料は鉱石から金属を精錬するときや、鉄鋼や合金に加工する際に不純物として発生するスラグ(鉄さい)です。一般的に可溶性ケイ酸が20%以上含有されている製品が多く、ケイ酸・石灰・苦土などの成分に加えて、微量要素である鉄・亜鉛・マンガン・ニッケル・モリブデンなども含まれています。安定した水稲栽培に役立つとして水田で利用されてきましたが、近年では微量要素的な働きとして畑での施用も効果が見込めるとして注目を集めています。

土壌中の微量要素は、作物が生長する際に吸収されたり、雨や潅水などにより石灰・苦土・カリなどの比率である塩基バランスがくずれたりすることにより、微量要素が失われていきますが、ケイカルはケイ酸に加えてこのような微量要素も含まれているため土壌改善の効果が期待できます。原則的にケイカルの施用は元肥ですが、追肥の効果も期待できます。特に幼穂形成期までに施用するのが効果的とされているようです。ケイカルは水溶性ではなく酸可溶の性質があるため、早めに施肥しても土壌に吸着し流出しにくいと考えられ、作業負担が少ない閑散期で施用しても効果が期待できるようです。

ケイ酸カリ

火力発電所で粉状に砕いた石炭をボイラーで燃焼させますが、その際の副産物として石炭の灰が発生します。ケイ酸カリとは、これらの灰(フライアッシュ)を集塵機で採取し加里と苦土などと組み合わせて作る肥料です。ホウ素・鉄など微量要素が含まれています。ケイ酸カリ肥料の成分は、植物の根が分泌する根酸(こんさん)によってゆるやかに溶けるため、根にやさしく効果がゆっくりと現れる緩効性肥料です。蓄積すると作物不良の原因となる硫酸イオンや塩素イオンが含まれていないため、連用しても濃度障害や連作障害が起こりにくいとされています。根酸によって溶けることから雨や潅水などで土壌流出してしまうことも少なく川や地下水への汚染の影響も低いと考えられています。

籾殻(生)・籾殻燻炭

稲は生長する過程で多くのケイ酸を吸収して育ちます。そして脱穀された後に残る籾殻には多量のケイ酸が含まれており、これを土壌に混用することで土壌改良やケイ酸の微量要素的な効果を期待することができます。稲はケイ酸を使いガラス質の結晶であるプラントオパールを作り、籾殻の内側にある脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラル・炭水化物などの栄養が害虫や病気によって被害を受けないように守っているため、籾殻は土壌に溶解しにくく、ケイカルに比べて分解に時間がかかるようになっています。生の籾殻が成熟していくためには窒素と石灰(アルカリ分)が必要です。そのため窒素肥料(硫安・尿素など)とアルカリ成分を多く含んだケイカルを同時に施用すると良いと考えられています。早めに施肥したほうが生の籾殻の成熟が進みやすく良いようです。

籾殻燻炭の詳しいコラムはこちらをご覧ください。

ケイ酸成分の有効活用が期待できる資材

モーターフォグは、手軽に葉面散布を行うことができる電動噴霧器です。特殊なノズルを備えているため、とても細かい粒子を散布でき葉面散布剤を葉の表面にうっすらとまんべんなく散布することが可能です。100Vタイプは大きめのスイカ1個分程度の重さで取り回しがしやすく動噴などにくらべて作業のわずらわしさを軽減することができます。ビニールハウス内においても湿度を上げれば置きっぱなしでハウス内全体に散布させることが可能です。散布する資材として特におすすめしたいのは、秋田県八木沢で産出されたモンモリナイト粘土(珪酸白土)である「リフレッシュ」の散布です。リフレッシュはおよそ70%のケイ酸成分に加えて、カルシウム・マグネシウム・鉄・ナトリウム・カリウムなどの多量要素や微量要素が含まれており、作物の生物的および非生物的ストレスの耐性向上が期待できます。また作物の未消化窒素の吸収を行い、病害虫の発生リスクを抑えます。

脱穀した後の籾殻の処分にお困りではないでしょうか。または近隣で処分方法に手を煩わせている水稲栽培農家さんはいらっしゃいませんか。籾殻にはたくさんのケイ酸が含まれているため、これを費用をかけて廃棄せずに活用してみてはいかがでしょう。スミちゃんは生の籾殻を450~550℃程度の高温で燃焼し自動的に炭化する装置です。炭化することで多孔質の構造となった籾殻は、微生物の住み家となり活動が活性化することで通気性や排水性に優れた土壌に変化していきます。養分も溶け出しやすくなり、生の籾殻に比べて土壌改善の効果が早く現れると考えられています。

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ケイ酸を活用し天候不良や病害虫に負けない作物を育てましょう

ケイ酸成分には、光合成を活性化させたりストレス耐性を向上させたりするなど、植物が健康に育っていくために必要な働きを助ける効果があるようです。ケイ酸を上手に活用して病害虫といった生物的ストレスや、天候不良といった非生物的ストレスに負けない作物を育てていきたいですね。今回のコラムが皆様の作物作りの一助になりましたら幸いです。

ケイ酸の特徴|肥料として期待できる効果を解説

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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