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エチレンガスで野菜などの農産物が劣化する?エチレン分解・除去について解説
公開日2021.07.30
更新日2022.06.01

エチレンガスで野菜などの農産物が劣化する?エチレン分解・除去について解説

野菜や果実から発生するエチレンガスは熟成のために必要な植物ホルモンです。しかし放出され続けるエチレンガスの影響を受け続けると、熟成を通り越し老化や腐敗が始まってしまいます。鮮度の高い状態で青果物を長持ちさせるためには、冷蔵庫で保管するだけでなく湿度管理やエチレンガス対策なども大切になってきます。今回は青果物の鮮度保持を行い保管するための対策をお伝えしていきたいと思います。

エチレンガスとは

植物ホルモンであるエチレンガスは本来、果実や野菜の熟成を促す働きをするものです。作物を収穫した後に時間をおくと、青かったリンゴやバナナが色づいたり、固いキュウリや桃などが柔らかくそして甘くなったりするのは植物ホルモンの影響です。植物が実をつけるときや、実が生長する過程では多くのエチレンガスが放出されるといわれています。

エチレンガスを放出する理由は、植物が自分の種子を小動物に運んでもらい、植物自身の種を残すための作用だとも考えられています。果実の中には、食物繊維の一種であるペクチンという物質が存在しています。これは細胞壁と細胞壁の間を隙間なく密接に結びつけるセメントのような役割を担っており、外部から細菌が中に侵入しないようにブロックしています。エチレン反応により果実の中に酵素が生成され、ペクチンが不溶性から水溶性に変化すると細胞壁と細胞壁の間に隙間ができ果物が柔らかくなるため、内部から外部へ香りが漏れ出します。すると動物が引き寄せられ、果実も柔らかくなっているため食べやすく、小動物に実を運んでもらうことができるというわけです。

エチレンガスによる悪影響

完熟した後もエチレンガスの発生が続くと果実の熟成が進みすぎて、さらに果肉が柔らかくなり、ちょっとしたきっかけで傷を受けやすくなります。ここからカビ菌をはじめとした雑菌が入りやすくなり、侵入を許すことでカビ菌が発芽、劣化し腐敗に進んでいきます。またエチレンガスは、それを発生している果実だけでなく、周辺の果実や野菜などにも影響を与えます。エチレンガスをほとんど発生しない野菜でも感受性が高いものもあり、エチレンガスを多く発生させる作物を近くに置いておくと劣化が進むなどの悪い影響を受けます。

輸送や保管に関し、同じ場所に長い間複数の果物や野菜がある場合、換気や温度管理などを考慮せず一緒においてしまうと、思ってもみない追熟が起こり、市場に出すときに熟しすぎてしまうという事態が発生するかもしれません。

品目 エチレン感受性 エチレン生成量
アボカド 高い 極めて多い
イチゴ 低い 少ない
キウイフルーツ 高い 極めて少ない
タマネギ ふつう 極めて少ない
ナス 極めて少ない 少ない
マンゴー 高い 多い
モモ 高い 極めて多い
ピーマン ふつう 少ない
ブロッコリー 高い 多い
リンゴ 高い 極めて多い

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エチレンガスの好影響

植物の生育を制御・調整することができるエチレンガスは、特定農薬として認識され「調製用等資材」として使われています。有機農産物の日本農林規格(制定 平成12年11月20日農林水産省告示第59号、最終改定 平成29年3月27日農林水産省告示第443号)によれば、「バナナ、キウイフルーツ及びアボカドの追熟に使用する場合に限ること。」となっています。

海外(カナダ・EU等)では、ジャガイモ(ばれいしょ)への使用が認められているようです。「カナダにおけるエチレン登録の現状 PMRA(農薬管理規制局)による資料 2001年10月5日 申請規則決定書(案)PRDD2001-04)参照」

エチレンガスはフルーツの追熟に有効

バナナは未成熟のうちに収穫され、船便で日本にやってくるケースがほとんどです。成熟したバナナは柔らかくつぶれやすいため、輸送に時間がかかる船便には向きません。したがって身がしまっている未成熟の状態で収穫します。キウイフルーツは糖度を十分蓄えた状態で収穫時期を迎えても実が柔らかくなることはなく締まって硬いままで、これはこれで輸送するときは都合が良いです。

このようにバナナやキウイフルーツは硬い状態を保ち輸送され、最適な状態で市場に提供できるよう、追熟制御を保管倉庫で行っています。このように果実の追熟制御を利用し未成熟果実を輸送期間中に熟させることで輸送コストを抑える事が出来ます。なお、ほかの使用例ではトマトやカボチャなどの追熟でも利用されています。

エチレンガスは長期貯蔵に有効

ジャガイモ(ばれいしょ)では、エチレンガスが萌芽を抑制(濃度4ppm程度)する作用があることから長期貯蔵に活用されています。ジャガイモの萌芽は見栄えが悪くなり商品価値が下がるだけでなく、でん粉含量の低下と還元糖の増加につながり品質が著しく低下します。また、ジャガイモ(ばれいしょ)は萌芽をすることで食中毒の原因であるソラニンやチャコニンが発生することがあります。輸送や保管が管理されたジャガイモ(ばれいしょ)では食中毒の報告はほとんどありませんが、家庭菜園や学校栽培実習などで収穫され保管状態が悪く発芽させてしまったもので中毒発生の報告があるそうです。

日本では、エチレンの利用範囲は食品保存のためと用途を限定されていましたが、2013年7月の食品安全委員会農薬専門調査会において安全評価がなされ利用範囲が広がる可能性があります。植物ホルモンとして利用するエチレンガス濃度程度では、人体に悪い影響を与えることがないと現在では考えられております。植物が作り出す量では全く問題はありません。

エチレンガスはC2H4(炭素原子2個、水素原子4個)から構成される可燃性のガスで、身近なところではポリエチレンの材料に使われています。医療分野では麻酔薬として使われていた時期もあるそうです。工業的に使用されているエチレンガスは高圧に耐えられるボンベに液体で保存されています。高圧ガス保安法で可燃性ガス及び毒性ガスに指定され取り扱いに注意するよう指示されています。

エチレンガスは追熟や萌芽の抑制などに活用することができますが、導入に際し大型な設備投資になる可能性が高く費用がかかります。高圧ガス保安法に指定され安全基準を満たした環境で、液化エチレンのガスボンベを利用し、施設内へ植物が必要とする濃度に空気と希釈して供給します。貯蔵庫内にエチレンガス濃度を一定の値で管理するため、濃度の監視制御が必要となり、設定した濃度を下回ったときにエチレンガスが供給される仕組みです。保存倉庫では閉鎖空間での構成が多いため、効果は得やすいと考えられます。

エチレンガスの分解・除去方法

エチレンガスを除去する

ゼオライトや活性炭のような多孔質の素材を使い、空気中からエチレンガスを除去します。エチレンガスを吸着しすぎると穴がふさがり吸着力が落ちていきますので交換が必要になります。多孔質素材を内蔵しエチレンガスを吸着する機能を備えた加湿器や輸送用の鮮度保持剤などがあります。

エチレンガスを分解する

オゾンによりエチレンガスを分解することができます。強い酸化力で除菌・脱臭などにも効果を発揮します。ただしオゾンは低濃度では人体への影響はありませんが、オゾン濃度が0.1ppmを超えると人体に悪い影響を与える危険性があり、濃度管理には十分な注意をもって進めなければなりません。基本的に高濃度のオゾンを発生させる装置は、無人の環境で使用する必要があります。エチレン分解装置内だけにオゾンを発生させる安全性の高いものもあります。オゾンはエチレンだけでなく、細菌・カビ・臭いの発生も防ぎます。エチレンを光触媒で分解し生鮮商品の鮮度を維持する方法もあるようです。

エチレンガスを分解し作物の鮮度を保つ|グリーンキーパー

グリーンキーパーはエチレンガスを分解し作物の鮮度を維持する冷蔵庫用加湿器です。鮮度維持にとって最適な湿度90%以上100%未満を維持しながら、植物の劣化を早めるエチレンガスを分解フィルターに吸着させます。エチレンガスを水と二酸化炭素に分解しデリケートな野菜・果実・生花などを過熟から守ります。湿度が100%を超えることがなく、結露が発生しにくいため冷蔵庫内のエアコンが傷んだりすることがありません。エチレン分解フィルターは2年程度を目安にお使いいただけます。

グリーンキーパー解説動画【特徴・使い方・メリット】
グリーンキーパー解説動画【稼働方法・操作方法】

エチレンガスをコントロールし青果物をフレッシュに保管

エチレンガスの特性を知り上手くコントロールできれば、追熟、長期保管、劣化防止など青果物の価値を高めて消費者に供給することが可能です。植物を新鮮な状態で管理するためには、温湿度やエチレンなどの管理を徹底することが大切ですね。食品ロスを減らすことは社会的な価値もありますので、今回のコラムを鮮度維持にお役立ていただければ幸いです。

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コラム著者

小島 英幹

2012年に日本大学大学院生物資源科学研究科修士課程を修了後、2年間農家でイチゴ栽培を経験。
2021年に民間企業数社を経てセイコーステラに入社。コラム執筆、HP作成、農家往訪など多岐に従事。
2016年から現在まで日本大学生物資源科学部の社会人研究員としても活動し、自然環境に配慮した農業の研究に取り組む。研究分野は電解機能水農法。近年はアーバスキュラー菌根菌を利用した野菜栽培の実践を始める。
検定、資格は土壌医検定2級、書道師範など。

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