コラム
リン酸肥料の効果とは|無駄にしない効果的な使い方
公開日2022.03.15
更新日2022.03.30

リン酸肥料の効果とは|無駄にしない効果的な使い方

農業において、リン酸ほど大切な肥料はありません。なにをもって大切かというと、日本はリン酸肥料のほぼ全てを輸入に依存しているからです。昨今の世界情勢から鑑みても、いつ輸入が滞ってしまうか、或いは価格の大幅上昇を予想できないということはないでしょう。リン酸は植物の根端や生長点などに影響する栄養素で、結果的に根量や開花・結実などに現れるため収量を大きく左右する重要な肥料成分です。
リン酸肥料が入手できないような状況を打開する術はあるのでしょうか。仮に一点を挙げるとすれば「無駄を無くす」ことです。温暖湿潤気候の日本は雨量が多いため土壌微生物が活発に活動します。好気呼吸をする土壌微生物は酸素(O2)を取り込み二酸化炭素(CO2)を排出します。二酸化炭素は土壌水分に溶け込み炭酸水になり、水のpHが酸性化します。つまり、土壌pHが酸性になるわけです。酸性土壌ではアルミニウムや鉄などが可溶化するのでリン酸肥料を多めに施用しなければ、植物はリン酸欠乏の状況に陥ってしまいます(このような場合は石灰を施用することでpH矯正ができます)。
このように日本はリン酸をたくさん使うことで適切な農業ができる土壌が多い国といえます。しかし、ある土壌改善を行うことでリン酸肥料を大事に運用することができます。今回のコラムは、植物へのリン酸肥料の効果を読み取りつつ、リン酸肥料を無駄にしない効果的な利用方法を紹介できればと思います。

リン酸肥料は何からできているのか

リン酸肥料の原料はなんでしょうか。結論からいうと、主に鉱石で、少量ですが動物の死骸や糞が原料のリン酸肥料もあります。

日本は南アフリカ、ヨルダン、中国などから輸入したリン酸鉱石を肥料化して製品にしています。この輸入量は膨大で全輸入量の73%にあたり170,000トン以上の数字です。ここからいわゆる普通肥料が大手7社によって製造されており、比率として50%ほどとなっています。動物の死骸や糞が原料となる肥料は特殊肥料に分類されます。特殊肥料とは「農林水産大臣が指定した、農家の五感によって識別できる肥料」をいい、魚粕や堆肥などが代表的です。グアノは輸入量の多い特殊肥料です。グアノはコウモリや海鳥の糞のことで、農業ではリン酸や窒素を求めて肥料として利用できます(生成の成り立ちでリン酸成分か窒素成分に偏りがあります)。元肥として圃場に施用する肥料資材で、特別珍しい肥料ではありません。

>>>リン酸肥料の輸入に関するコラムはこちらを参照

>>>「肥料を巡る状況と新たな肥料制度について」農林水産省 消費・安全局 農産安全管理課

リン酸肥料の実情

前章でも取り上げましたが、日本はリン酸供給を海外に頼り切っています。言い換えると、日本にはリン酸(鉱石)がほとんど無いのです。グアノ資材に関しては重量としてほんのわずかに数十トンが国内生産されていますが、リン酸肥料全体の量からみればほとんどゼロといえます。
そもそも肥料三要素と呼ばれる窒素・リン酸・カリウム(NPK)の多くを日本は輸入している実態があります。尿素としての窒素(N)は中国やマレーシアから、リン酸鉱石やリン安としてのリン酸(P)を中国やアメリカから、塩化カリウムとしてのカリウム(K)をカナダから輸入しています。これは肥料資源の産出場所の偏りによるもので、正直なところ、輸入に頼ることは「仕方のないこと」といえます。

少し話が反れますが、2022年の初め頃、「尿素水が足りない」という事態に日本は見舞われました。韓国の尿素水不測の影響によるもので、韓国は尿素水のほとんどを中国の輸入に頼っています。尿素水の不足している韓国が日本で買い付けた影響で、日本も一時尿素水不足になってしまい、流通業界は大きな打撃を受けました。米中摩擦の影響による中国での尿素不足が発端で、巡り巡って日本にも飛び火した結果です。
仔細は述べませんが、このままの状態だと韓国の尿素水のように日本のリン酸肥料も同じことが起こりうる心配があると思います。しかしながら、リン酸資源に乏しい日本、なお且つ産出場所に偏りがあるリン酸。これの不安を和らげるためにはやはり「無駄を無くす」ことではないでしょうか。

リン酸肥料の効果

リン酸肥料は植物の根や生長に関わる栄養素で、野菜や果樹などに対する養分供給のバランスとしては窒素肥料よりも少なくカリ肥料よりも多いとされ、栽培においては元肥だけではなく追肥としても非常に重要な肥料要素です。リン酸のみの単独で施肥することは余りありませんが、トマトやイチゴなど長期間に及んで栽培する野菜では追肥としての利用機会の方が多いといえます。リン酸肥料の欠乏による生育不良はそれほど頻発しませんが、土耕栽培の場合は土壌診断において適正にリン酸を施肥することが基本です。トマトなど花数の多くなる野菜の養液栽培の場合は、過剰施肥にならないよう適量を確認して施肥することが基本的です。富栄養の養液は水の腐りや病害発生の原因となります。養液栽培はモニタリングによる環境制御が普及してきており施肥基準が整備されてきたため、施肥の適正量や時期(タイミング)は土耕栽培よりもある程度簡単に施肥管理ができるといえます。

リン酸吸収係数

リン酸は土壌の種類によって保持されやすさ(固定されやすさ)が異なります。「リン酸吸収係数」として数値化され、数値が大きいほど土壌にリン酸が保持されやすくなり、一般的に黒ボク土が最も高い数値として知られています。
黒ボク土の特徴は腐植が多いことです。腐植はリン酸(リン酸イオン、H2PO4)を保持しやすく、黒ボク土のように腐植が多い土壌はリン酸の潤沢さから農業に適した土壌とされています。逆に砂質土壌はリン酸を保持しにくいので農業には向かない土壌とされています。サハラ砂漠やゴビ砂漠では農業が振興していないことを例にすると解りやすいかもしれません(気候などの影響もありますが)。
黒ボク土に多く存在するアルミニウム、また、鉄やマンガンは土壌酸性化によってリン酸と結合しやすく、結合することで難溶性リン酸となります。難溶性リン酸は植物に取り込まれにくく、つまり土壌酸性化は、リン酸肥料を多く施用しなければ肥効を得られにくいという理解ができます。

>>>腐植に関するコラムはこちらを参照

リン酸肥料の種類

リン酸肥料といっても使い方や働きで様々な種類があります。肥料は普通肥料と特殊肥料に分けられ、普通肥料は化成肥料(複合肥料)、有機肥料、微量要素複合肥料などが該当し成分保証のための保証票が肥料袋に添付されています。特殊肥料はくん炭、アミノ酸かす、魚粕、グアノ、堆肥など農家の経験で効果を実感し使用される肥料のことで、農林水産大臣の指定および都道県知事への届出が必要となっています。
本章では普通肥料のなかから、過リン酸石灰、苦土重焼リン、熔成リン肥の説明をしたいと思います。

過リン酸石灰

速効性のある水溶性のリン酸肥料です。速効性のため植物が取り込みやすい性質がある反面、水に溶けやすい性質もあるため溶脱によって圃場外へ流出しやすい肥料ともいえます。前章で述べたように、腐植はリン酸(リン酸イオン、H2PO4)を保持しやすい性質があります。過リン酸石灰を施用する場合は腐植も同時に施用することで溶脱による流出を防ぐことができます。

苦土重焼リン

緩効的に溶けるため肥効が長く続く特徴があります。苦土重焼リンは水溶性でありく溶性(くようせい)の性質のある肥料です。く溶性とは、根や土壌微生物が分泌する有機酸に溶解することで、比較的緩効的に溶けるため長期間肥効が続くようになっています。苦土重焼リンの場合、最初に水溶性リン酸が植物に取り込まれ、次にく溶性リン酸が植物に取り込まれる特徴をもっています。

熔成リン肥(ようりん)

く溶性で苦土(マグネシウム)と石灰(カルシウム)が多く、アルカリ性を呈しています。これらに加えてケイ酸も含有しているため水田で効果を得やすくなっています。く溶性リン酸肥料で緩効的に肥料が効くため、速効性を求めることはできません。元肥として施用することが一般的ですが、過リン酸石灰と併用することで苦土やケイ酸を求めつつ長期間の肥効を得ることができます。

リン酸肥料を過剰に施用しないで効果的に使う方法

本章ではリン酸肥料を過剰に施用せず無駄遣いをしない方法を紹介します。その方法とは、有用土壌微生物アーバスキュラー菌根菌を利用することです。アーバスキュラー菌根菌は植物の根に共生して、植物のリン酸供給を促進する役割をもっています。ほとんどの土壌に生息しているといわれていますが、特に農地ではクロルピクリンなど化学農薬や化学肥料の使用の影響によってその密度が減少しているといわれています。

アーバスキュラー菌根菌はリン酸栄養の多い土壌では植物との共生関係を築くことができません。植物からアーバスキュラー菌根菌に対してシグナルが発せられて(分泌されて)共生関係を構築するためで、植物はこのシグナルを土壌リン酸が少ないときに発することが知られています。化学肥料が普及する以前、農作物は十分なリン酸肥料の要求を満たすことができておらず、農作物はアーバスキュラー菌根菌を頼りとした生育をしていたといわれています。さらには、アーバスキュラー菌根菌の共生が無いまま植物は生存できないとの考え方もあるようです。このことは、アーバスキュラー菌根菌が陸上植物の80%以上に共生することができる事実で説明ができるようで、近年のリン酸不安も相まって、いまアーバスキュラー菌根菌が大いにクローズアップされています。


アーバスキュラー菌根菌は資材化されており胞子タイプと生菌タイプがあります。それぞれにメリットとデメリットがありますが、従来の胞子タイプより近年開発された生菌タイプの方がメリットが大きいといわれています。生菌タイプの最も大きなメリットは共生確率が高く、共生までの時間が短いことです。胞子タイプでは共生時間が7日以上かかってしまい、そのため共生確率も低く抑えられてしまっていました。近年開発された生菌タイプは早ければ1日で共生が完了し、共生確率もかなり高まるとされています。一方生菌タイプのデメリットは、寿命が短いことです。胞子タイプは植物の根と共生できるタイミングまで胞子という殻にじっと閉じこもっています。生菌タイプはすぐ近くに植物の根が存在していないと共生できずに比較的短命で死んでしまいます。生菌タイプのデメリットを補うためには、植物の根が活発に動く育苗期に施用することが共生のポイントとして挙げられます。

貴重なリン酸肥料を無駄にせず、植物を健康に育てる

アーバスキュラー菌根菌は政令指定土壌改良資材に指定されていることからもわかるように、農業を行う上で大いに利用されるべき微生物資材です。ここ数年でフミン酸やフルボ酸を含有した腐植酸質資材の製品を展示会などでよく見かけるようになりました。牛糞や鶏糞などの堆肥を施用する機会の減少とともに、このような腐植資材がクローズアップされていると考えられますが、リン酸不安の現状からアーバスキュラー菌根菌が全国的に普及する日も遠くないと予測できます。
今回のコラムが皆様のお役に立つならば幸いです。

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