コラム
農業IoTの活用法|スマート農業が実現する自動化や機械化とは?
公開日2019.04.16
更新日2022.03.24

農業IoTの活用法|スマート農業が実現する自動化や機械化とは?

近年、「農業 IoT」や「ICT農業」いうワードを皆さんも一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。IoTは近年、急速に社会に浸透しています。IoTとは直訳すると「モノのインターネット」、身のまわりにあるあらゆるモノがインターネット経由で通信する仕組みのことです。従来はパソコンやサーバー等のIT関連の機器同士が接続されていましたが、現在ではスマートフォンやタブレットはもちろん、スマートスピーカーといった機器が接続され生活に密着した存在になってきました。
農業は個人の知識と経験で成り立ってきた面があります。昨今、他業種から新しい考え方を持って新規参入される人も増えてきました。特に工業生産方式を経験された新規就労者の方は、あらゆる情報をデータ化することに慣れていて、得られるデータをもとに合理的に決定しようという思考に優れ、この方向で営農活動を行おうという方が増えてきています。
2018年末に放送された某テレビドラマではGPSの位置情報を利用し、トラクターやコンバインを自動運転する無人農業ロボットが登場し話題になりました。このようなロボット農機は既に市場に投入されていて、移動する際の誤差が数センチという正確性と悪天候でも昼夜を問わず稼働できるという特徴があり、農作業の大幅な省力化が期待されています。ドラマをきっかけとして、まだ農業を知らない一般の方にも農業IoTの取り組みや開発がここまで進歩していることを知るきっかけになりました。ここ数年はドローンの活用も盛んに行われています。このように従来の農業の手法とは異なり、IoTを活用して行う農業のことを「スマート農業(スマートアグリ)」と言います。今回はスマート農業(スマートアグリ)を支えるIoTについてご紹介していきたいと思います。

農業におけるIoT活用

●農業におけるIoT活用とは

「農業」といえば、重労働で経験値が必要であり、利益を出すのに苦労するなどというイメージをもつ方が多いのではないでしょうか。農業生産活動は、土を相手に、太陽と水をベースに植物にとって都合の良い環境を作り、生産していくことです。俗に自然相手というように、毎年違う条件の中で、作物を育ててきたため、この経験を測定し記録として残していくことが難しかったのですが、近年は工業生産現場での自動化が進み、あらゆる物の計測センサーが進化し、低コストに使えるようになり、農業分野でも、各種センサーで状態が計測できるようになり、時間の変化とともに蓄積されたデータと、現在のデータを比較することにより、将来が予測できるようになってきました。これらのデータは年数を経るにつれ蓄積量が上がることで、予測精度が向上することが期待できます。

IT技術の発達により、農業分野の働き方は現場の世代交代に伴い変化しつつあります。普段の生活でもスマートフォンやタブレットを使い、IoTの恩恵を受けている若い世代が現場の責任者となり違和感なくIoTを使い始めているからと言われています。

大手企業のドコモ・富士通・日立・クボタ等が参入していますが、最近ではベンチャー企業も数多く参入しており、毎回のように農業系の展示会では数社の新規参入企業が出展しているのを見かけます。とても魅力的なビジネス市場と言えるでしょう。

●農業におけるIoT活用の主な目的

農業IoTを活用する主な目的は、農業の生産現場で発生しているさまざまな問題の解決や、より効率的な生産活動を行うことです。就農者(後継者)の減少に伴う技術力の継承問題は大きな課題です。農業で利益を出すには人の勘や経験によって大きく左右される側面があります。そのような側面はこれから農業を始めたい方にとっては参入の足かせになり、安心して就農することができません。そこで人の勘や経験のような今までは標準化しにくかったノウハウをデータ収集し、生産管理システムとしてプラットフォーム化することで経験や技術を継承しやすくします。

作付前に圃場の土壌性質を把握しpH値・水分含有量・肥料成分比率などのデータがわかっていれば、耕し方やどの基肥を入れるかといった計画が立てやすくなります。作付後も温度・湿度・CO2・日照量・降雨量といった気象情報や、植物の色・茎丈などの作物情報をデータベース化できれば、追肥・消毒のタイミングがわかりやすくなり、収穫時期を決めやすくなります。

人手不足の問題も農薬散布・収穫作業・選果・箱詰のような農作業を自動化することで解消することができます。センサー技術やロボット技術、気象情報のようなビッグデータを活用することにより実現するスマート農業(スマートアグリ)は高品質と省力化を実現するための新たな農業の形と言えます。

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農業におけるIoTの市場規模と導入例

●IoTサービスの市場規模

IoTサービスは、農業分野だけでなく、あらゆる分野で期待されています。2010年台に入りインターネットを中心としたサービスは、情報交換技術だけでなく、ネットワーク上に蓄積された様々なデータが利用可能な環境になりました。個人が所有する家電機器もネットワークとつながり、あらゆるものが統計データ化され、将来を予測するためのデータ活用が可能になり、最適な制御により快適な将来を迎えることができるのではないかと期待されています。

農業分野でも、他産業とりわけ製造業で先進的な技術を導入した生産設備による成功事例を参考に、この概念を取り入れて革命を起こそうという試みがなされています。特に他分野からの新規農業参入する企業や、意欲的な若手が中心となった農業法人では積極的な活動が行われています。農村の通信環境は都市部に比べ、携帯電話の不感地帯が多かったり、光ケーブルの敷設が遅れていたりという事情もありましたが、現在無線LAN技術の進歩による低コストWi-Fi基地局などの開発で、地域インターネット網を比較的低コストで運用できるようになっています。

第4回農林水産戦略協議会では、農業従事者の減少による労働不足を、ICTやロボット技術を活用することで補い、さらには農業の効率化・省力化・高品質化を実現する「スマート農業(スマートアグリ)」を提唱し、この分野の市場規模が2020年までに700億円まで拡大すると指摘し、導入促進とシステム開発を後押ししています。

出典:第4回農林水産戦略協議会

●IoT事例

センサーで温度の急上昇・急低下を抑制
従来は人の目で状況を確認する必要があった圃場内の環境をセンサーで感知し管理することができます。気温・湿度・雨量データをリアルタイムで確認し、作物にとって快適な環境を守ります。状況確認にかかる時間が短縮化され、早期発見および早期対策が行えるようになり、農業従事者の作業負担を減らすことにも貢献します。

ドローンの活用
稲作地にドローンを飛ばし生育情報の記録を行い、環境対策を行います。広大な圃場の場合は、ドローンを使い上空から農薬を散布することもあるようです。

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農業のIoT活用でできること

ここからはもう少し具体的な活用方法をご紹介していきます。

●データの見える化

センサーやカメラを使用することで温度・湿度・日射量・土壌内の水分量・CO2濃度などのデータを収集することが可能です。収集した数値をデータ化し圃場環境を遠隔で制御することができます。また集約データはクラウドにアップロードすることも可能なので、パソコン・タブレット・スマートフォンなどを使ってリアルタイムに確認し分析することができます。外出先や旅行先でも通信環境さえあれば圃場の状況をモニタリングできるので非常に便利です。

●収穫量や生産品質の向上

作物の状態に応じてどのような対策を取れば良いか過去の栽培ノウハウをデータ化しておけば、センシング技術を活用して収穫量や生産品質の向上が期待できます。また農機の運転アシスト機能を使えば経験不足を補うことができます。このように経験の浅い労働者でも一定の収量および品質の作物を育てることができるようになります。

●病害の予測や生育の診断

過去の圃場の環境データや気象予報を自動解析し、農作物の病害の予測や生育の診断をすることができます。生産者は農作物の状態を知ることができるので、例えば病害の発生リスクが高まったことが分かれば、早期に農薬散布をする等の対策をすることが可能です。

●作業の安全性の確保

収穫物の積み下ろしや負担の大きい重労働を機械に任せられますので、空いた時間を他の重要な作業に費やすことができます。また農薬を使用した病害虫駆除や除草作業などをドローンなどで自動化にすれば、人体に有害な薬品を使用する作業を人が行う必要がなくなります。就農者の安全にもつながるので一石二鳥です。

●大規模生産の実現

農業機械の自動走行が可能になり、運転経験や農業経験が乏しい人でもトラクターやコンバインといった大型の農業機械を動かせるようになります。AIを活用した完全な自動運転で広大な土地を生産できるようになり生産量も大幅にアップします。

またドローンのセンシング技術を使用して農作物の生育状況を把握し、追肥や薬剤散布することによって大規模な田畑の管理ができるようなります。ドローンは購入しやすい価格になってきており、農業活用する生産者も増えてきています。

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農業へのIoT導入の課題

●導入コストが高額

IoTを導入し、効率化・省力化・高品質化を実現する「スマート農業(スマートアグリ)」を目指すためには、それなりの初期投資と維持費用が発生します。そのため、国や自治体の事業や補助金を活用して導入する場合が多いようです。なおデータ収集の段階から、外部のビックデータとの連携・解析予測・自動機器連携と、どこまでの分野をIoTにゆだねるのかによって、導入コストが大幅に変わってきます。

特に省力化を図るために自動耕運機や自動換気設備を導入しようとしても、コストが高いため経営規模によっては導入のハードルが高くなります。機器の設定は専門的知識が不可欠で、圃場環境に配慮した設定を行わなければなりません。そのため機器の設定費用や設定時間、そして試運転時間などもコストとして見ておく必要があります。導入後も、センサー類が正常に計測しているかの点検や、通信・電力等のランニングコストも発生します。

農林水産省では「経営体育成支援事業」を、行っています。地域の担い手の育成・確保を推進するため、農業用機械・施設の導入を支援してもらえ、3割補助(1経営体当たり300万円)の補助事業もありますので活用するのも良いかと思います。

●ビックデータを活用できる人材の不足

IoTシステムは計測を開始すると決められた手順でデータを収集し蓄積していきます。当然ですがデータを集めただけでは役に立たず、解析し分析したものを次の判断・行動に結びつけなければ役に立ちません。農業経営の組織の中にこの作業ができる人がいなければ、外部の協力者をお願いする必要があります。設備を導入した業者や、設定を行った業者の協力を仰ぎ解析できる人材を育成したり、地域の農家同士で協力し合い解析できるよう工夫をする必要があります。

●インフラ環境の整備不足

IoTシステムを構築しようとすると、データを集めたり制御したりするため各種装置(センサー・制御装置など)と、集計するための親装置や制御盤を通信環境でつなぐ必要があります。IoTではインターネット技術を利用して接続するケースが一般的ですが、インターネットの通信手順を行おうにも、通信回線(電話回線・光回線・無線回線等々)が繋がっていないと通信を行うことができません。

家までは、回線があるが圃場に行くとスマートホンが繋がらないというような場所で、IoTを実現しようとすると、自前でなんとかするか地域の農家と相談して環境を整える必要があります。

昔の有線電話を思い出します。田舎では黒電話のほかに農協の交換台を介して地域の電話交換を行っていた時期もありました。

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農業IoTを活用しスマート農業を実現しましょう

以前の農業は職人気質なところが多く、人のやり方をマネしたり、本や論文を読んだ知識をもとに成立していた時代でした。もちろんそれも大事なのですが、これからは農業IoTの時代がやってきます。近年、多くの企業やメーカーが参入し広がりを見せていますので、今後さらに研究され知見も増え、普及が進んでいくと考えられています。新規就農者は勘や経験に頼らない新しい農業のカタチにぜひトライすることができます。海外ではイスラエル、オランダ等の技術が高いですのでインターネットで調べてみると面白いかもしれません。今回のコラムが少しでもお役に立てれば幸いです。

農業IoTの活用法|スマート農業が実現する自動化や機械化とは?

コラム著者

キンコンバッキーくん

菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。

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