農業を自動化するメリット・デメリット
●農業の自動化とは?
日本の農業分野にも自動化の波が押し寄せてきています。ベンチャー企業や農業機械メーカーは自動運転技術を実用化したGPS搭載トラクターや田植え機を続々と市場に投入。また圃場の気温・温度・湿度などの環境をモニタリングし、収集したデータを活かし農作物の環境対策を自動化する技術が広がり始めており、年々市場規模も拡大しています。このようにロボット技術やIoT(Internet of Things)などの先端技術を活かし、超省力化や高品質生産など可能にする農業を「スマート農業」「スマートアグリカルチャー」と呼びます。IT・ICT技術が仕事や暮らしを劇的に改善してきたように農業にも画期的な変化が期待されています。
●日本の農業の現状
現在の農業分野は農家の高齢化が進み新たな担い手も少なく深刻な労働不足に陥っています。休みが少なく、収穫が天候に左右されるといった不安定な要素の多い農業は、若者の人気が低く農業の就業人口は年々減少傾向にあります。そして土地・農機具・施設といった初期投資費用は数百万円単位になり新規参入の障壁となっています。そのため、国や自治体から出される補助金なしでは農業を始められないほどです。また作物を育てる技術的なノウハウはもちろん、育てた野菜を売るための販路を確保する経営的なノウハウも身に着けなければなりません。そのような課題をIoTを活用して解決していく新しい農業のスタイル(=スマート農業)には大変な期待が寄せられています。
●自動化するメリット・デメリット
メリット
農機ロボットやAIを組み合わせて使えば農薬散布・収穫作業・選果・箱詰のような農作業を自動化することができ、人間の負担を軽減してくれるというメリットがあります。真夏や真冬といった厳しい環境での作業や重たい農機をつかった重労働、精神的な負担が大きい長時間の単純作業をロボットが行ってくれます。
また農作物の状態に応じて行う対策も自動化することで農作業の効率化を図ることができます。日照・温湿度・炭酸ガス(CO2)・土壌・施肥などを様々な状況を計測し、状況毎の対策をデータとして蓄積。蓄積したデータを活かし制御システムを設定することができれば、農作物にとって可能な限り良好な環境を自動で保つことが可能です。今まで属人的であったノウハウを数値化し、生産管理システムをプラットフォーム化することができます。加えて収穫後の流通および売上に関するデータや、販売管理システムを一元管理することで、新たな生産計画の開発も行いやすく効果的な農業を行うことができます。
デメリット
一方で未だ解決しなければならない課題(デメリット)もあります。導入にはイニシャルコストが割高ということです。また従来の農業には不要だったコンピュータと機器の操作に関する知識や資格が必要になります。農機を操作する知識と経験に加え、パソコンやスマートフォンを効率良く使い、データ入力および分析をするスキルが求められます。例えばドローンによる農薬散布を行う場合には、ドローン操作士のような資格取得が必要になります。
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農業の自動化に向けた海外の取り組み
それでは海外での取り組みについても見ていきましょう。
●アメリカ
世界一の農業国と呼ばれているアメリカではドローンを有効活用し広大な農地を管理しています。農薬の散布だけでなくAIやセンサー技術の向上により害虫や病気の検出、作物の生育状況の監視も可能になってきており広大な農地をドローンによって管理しています。センサーが集めたデータを蓄積したデータと照らし合わせ対策を行うことにより、病害虫や生育不良による深刻な被害を事前に食い止めています。都市部ではビル内に完全人工光型の植物工場を設置し、輸送コストを削減するなど様々なIoTを活用した試みが行われています。
●オランダ
オランダは農業の自動化は1980年代からといち早く、当時よりロックウール栽培やコンピュータの導入が進められてきました。スマート農業という言葉が現れる前から自動化を取り入れて、短期間で急速に生産性を高めています。太陽光型の施設園芸が中心で多くの農家がガラスハウスによる自動制御システムを導入しています。経験と勘に依存せずデータにもとづいた判断を行い、日照・温度・湿度・炭酸ガス(CO2)・肥料をコントロールして、天候の影響を最小限に留め農作物を生産しています。
●中国
中国は人口問題と表裏一体の食糧確保の課題があり、農業が極めて重要な分野であると言われています。トラクターや農薬散布機などのロボット化実験が実施されていて、収穫量の増加や生産コストの低下が期待されています。一方で農業の自動化によって、多くの農業従事者が失業する可能性が問題視されています。
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自動化で変わる日本の農業
北海道ではヘクタール単位の広大な土地を活用して大学と連携してスマート農業の実証が行われているようです。スマート農業は日本農業が抱える課題を解決し成長していく試みです。技術革新により経験、技術を問わず活躍できる可能性が広がり農業界の発展が期待されています。農業の自動化が人を重労働から解放し、対策(ノウハウ)を「見える化」することで、経験やスキルのない人でもチャレンジしやすくスタートアップの障壁を下げることができることです。スマート農業を通して日本の農業が発展していくことを期待しましょう。
コラム著者
キンコンバッキーくん
菌根菌由来の妖精。神奈川県藤沢市出身、2023年9月6日生まれ。普段は土の中で生活している。植物の根と共生し仲間を増やすことを目論んでいる。特技は狭い土の隙間でも菌糸を伸ばせること。身長は5マイクロメートルと小柄だが、リン酸を吸収する力は絶大。座右の銘は「No共生 NoLife」。苦手なものはクロルピクリンとカチカチの土。